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*** 46 タケルさまのおいなりさん ***

 


 そしてこの日も、タケルはいつものように最後の1滴までスープを飲んで丼を置いた。


「今日も実に美味しかったです源治さん」


『あー、やっぱこれ旨ぇなぁ……』


「ははぁっ!」


「ところで実は源治さんにお願いがありましてね」


「な、何なりとお申しつけくださいませっ!」


「ご存じのように、わたしは新設された神界救済部門の実行部隊を率いることになりました。

 それで銀河宇宙の天使見習い心得たちを10万人ほど雇うことになったのですけどね。

 彼らにもこの武者ラーメンを食べさせてやりたいと思ったのですよ」


 源治が硬直した。


「それで、誠に申し訳ないのですが、今度一緒にミランダ恒星系に行って、麺やスープやタレの作り方をミランダの調理ドローンたちに指導してやって頂けませんでしょうか。

 もちろんわたしの神域で売れる度に代金はお支払いさせていただきます」


 源治はもちろん金銭の受け取りを拒んだが、タケルも必死で説得した。

 そして、如何なる神も銀河人から無償の飲食接待など饗応を受けてはならないとの神界法まで持ち出して、1杯当り300円のノウハウ使用料を払うことを源治に納得させたのである。


「それからですね、実は『ちゅ〇る』という私の配下の猫人たちに大人気の猫用おやつがあるんです。

 それで源治さんのラーメン道から外れることを危惧しつつも、彼らのために『ちゅ〇るラーメン』を開発してやって頂けませんでしょうか……」


「か、畏まりましたぁっ!」


 そう……

 このときこそが、銀河の猫人たち6京人の歴史を変えたとまで言われる『ちゅ〇るラーメン』誕生の瞬間だったのである……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 タケルは源治に時間停止機能付きのアイテムボックスを渡し、1週間後に武者ラーメン100食と『ちゅ〇るラーメン』の試作品100食を受け取りに来ることを約束して源治邸を辞去した。

 そして、その足で実家に隣接する武者神社に向かったのである。

(この神社の神主ももちろんムシャラフ人だった。

 因みにこの神社の隠れご神体はタケルーが愛用していた剣である)


 その武者神社の参道入り口には『和菓子の店武者』がある。

 12代目店主の武者寿三郎は、タケルの顔を見るとすぐに奥の客間に案内して床の間を背負わせて座らせた。

 そうして知る人ぞ知る『武者神社のおいなりさん』を持って来たのである。


 このおいなりさんは和菓子屋の作ったものだけあって、おあげも中の酢飯も甘めの味付けだった。

 さらに酢飯にはおなじく甘く煮た生姜を細かく刻んだものが入っている。

 このおいなりさんもタケルの大好物であり、小学校6年生のときに夢中で12個も食べてしまっていた思い出の逸品でもあった。


『あー、久しぶりだ。

 これも旨ぇなぁ……』


(タケルーさんにも気に入って頂けてうれしいです)



 タケルはやはり寿三郎に時間停止アイテムボックスを渡した。


「寿三郎さん、突然で申し訳ないんですけど、1週間後に取りに来ますんでおいなりさんを100人分用意しておいていただけませんでしょうか」


「はっ、タケルさまっ!」


 そう……

 やはりこのときこそが、銀河の狐人3000兆人を熱狂させた『タケルさまのおいなりさん』導入の瞬間だったのである……




 タケルが3.500次元の時間加速鍛錬施設に戻って来ると、すぐにニャイチローたち3人も帰って来た。


「お帰り、里帰りはどうだった」


「あにょ、まずは大統領府に寄って、担当の方に初級天使昇格をご報告申し上げたんですにゃ……

 そうしたらやっぱり大騒ぎににゃって……」


「ボクの母惑星でもおにゃじように大騒ぎににゃって……

 すぐに大統領応接室に通されて、惑星政府の重鎮さんたちが続々と集まって来て……」


「それで……

 その場で大統領宮殿前広場にボクの銅像が建立されることが決まってしまったんですにゃ……

 それも15メートルもあるもにょが……」


「みんな銅像が造られることになったのか?」


「「「 はいですにゃ…… 」」」


「そ、そうか、ま、まあよかったな」


「「「 でも恥ずかしいですにゃ…… 」」」



 その日の夜遅く……


「なぁマリアーヌ、銀河宇宙の銅像って確か色も付いてて相当に写実的なものなんだろ」


『はい』


「それからマリアーヌは俺たちの映像記録も撮っているんだよな」


『はい』


「その記録を加工して、今から言うような立体ホログラム写真を作っておいてくれないか?」


『どのような加工写真でございましょうか……』


「ま、まあちょっとしたイタズラなんだけどさ、……っていう写真と……っていう写真と……っていう写真を合成しておいてくれるか」


『畏まりました?』



 翌朝。


「なあニャイチロー、ニャジロー、ニャサブロー、お前たちの母惑星に造られる銅像ってどんな姿のものなんだ?」


「たぶんボクが普通に立ってる姿ににゃりますにゃ」


「ボクらの星もそうですにゃ」


「それさ、ただ立ってる姿じゃあ面白くないから、俺と一緒に写ってるホログラム写真を送ってそれを銅像にしてもらったらどうかな」


「「「 !!! 」」」


「よ、よろしいんですかにゃ……」


「もちろん」


「「「 あ、ありがとうございますにゃ…… 」」」


「それでマリアーヌに頼んで合成ホログラム写真を作ってもらったんだよ。

 だからこの写真をお前たちの母惑星に送ってみたらどうだ」


「「「 重ねてありがとうございますにゃ 」」」


「それじゃあまずはニャイチローの写真だな」



「に゛やぁぁぁぁ―――っ!」


 ぼんっ!


 ニャイチローのしっぽが直径15センチほどに膨らんだ。

 そのまま白目になって泡を吹いて気絶している。


 そう……

 そこに現れた立体ホログラム写真は……


 腕を切られて血塗れになり、その場に倒れたタケルの上に足を乗せてドヤ顔になっているニャイチローの写真だったのである。

 右手にはやはり血塗れの剣をもち、左手にはぶった切られたタケルの腕を持っていた。



「次はニャジローの写真な」


「う゛に゛やぁぁぁぁ―――っ!」


 ぼん!


 ニャジローのしっぽも直径15センチになった。

 やはり白目になって泡を吹き、そのまま気絶している。


 その写真とは……

 左側にはドヤ顔でファイアーボールを放ったニャイチロー、右側にはそのファイアーボールが直撃して火だるまになったタケルの写真であった。


「さて……」


 タケルがニャサブローを振り返ると、ニャサブローは既にイカ耳になって大警戒していた。

 しっぽももう直径15センチになっている。


「ニャサブローの写真はこれだな」


「ぎに゛やぁぁぁぁ―――っ!」


 その写真は、教科書や参考書が山のように積まれた机にかじりついて勉強しているタケルの写真だった。

 その横には牙を剝き出した鬼顔のニャサブローが立っていて、タケルをムチで叩いている。



 タケルはホログラム写真を消してもらい、3人にグランドキュアをかけた。

 みんな意識を取り戻したものの、しっぽはまだ盛大に膨らんでいる。


「いやすまんすまん、単なるジョーク写真だ。

 それで実際にはこんな写真はどうかな」


 その場に出て来たのは、翼を広げて立つタケルの肩にニャイチローたちが座り、笑顔でタケルと固い握手を交わしている3組の写真であった。


「この写真ならお前たちの母惑星の連中も喜んでくれるんじゃないか」


「「「 は、ははは、はいですにゃ…… 」」」


「それで銀河宇宙では合成写真には合成であるというマークをつけなきゃなんないんだろ。

 だからこれから実際にこの姿の写真を撮って、お前たちの星に送ろうか」


「「「 あ、ありがとうございますにゃ…… 」」」


 そして……

 その実写写真では、3人のしっぽが直径15センチのままだったのである。

 このことは大いなる謎とされていたが、誰も本当の理由はわからなかったそうだ……



 それから60日ほど経った或る日(3次元時間では約1日)。


「あにょ、タケルさま。

 ボクたちの星の大統領官邸から、本当にあの写真のようなお姿の銅像を建ててもいいのかと確認の連絡が来たにょですが……」


「もちろん構わんぞ。

 マリアーヌ、俺の名前でぜひ使ってやってくれと連絡してくれ」


『畏まりました』


「お前たちよかったな、あの写真の姿の銅像ならみんな喜ぶだろう」


「そ、それがですにゃ……」


「建立予定の銅像の大きさが……」


「当初予定では高さ15メートルほどのものだったのが、50メートルになってしまったんですにゃ……」


「!!!」





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