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*** 41 土木部門と人事部門 ***

 


 翌日からエリザベートは神界各部門の本部を精力的に回った。


 神界土木部門本部にて。


「タオルーク・ゲオルギー上級神殿、突然の来訪済まぬな」


「いやエリザベート・リリアローラ上級神殿、わざわざご来訪頂いて恐縮だ。

 それで用件というのは新設の神界救済本部の活動についてのことかな」


「ふふ、相変わらず仕事一筋の御仁よな」


「まあ仕事以外一筋のヘタな神々よりも遥かにマシだろう」


「はは、それもそうだの。

 それで依頼事項というのは、救済部門の実行部隊長となるタケル初級神に神域を作ってやって欲しいのだ。

 それも銀河の救済のための機器を製造する現場にするために、些か大きめの神域をの」


「……どれほどの大きさが必要なのだ?」


「タケル自身は直径20光分の空間を欲しているようなのだがの、後々の事を考えて直径1光時ほどの空間を用意してやりたいのだ」


「かなりの大きさだな……」


「そして、その神域はあの3.500次元の天地創造空間と同じく、時間の流れを3.000次元の60倍にして欲しい」


「あの空間を創ったのは我々神界土木部だ。

 当時の銀河宇宙に発注した時間加速装置の設計図はまだ残っているだろう」


「もちろん時間加速装置の発注は救済部門が行うぞ。

 土木部門にはその設置と調整をお願いしたい」


「そうか……

 銀河宇宙のおかげで超莫大な資金を手にしたという噂は本当だったのだな。

 稼働に必要な神石は賄えるのか?」


「それはあのタケルが用意するだろう。

 そしてもう一つ依頼事項がある」


「聞かせてくれ」


「救済部門では多くの機器を自作する予定になっている。

 その材料資源を用意するために、直径100キロから2000キロクラスまでの小惑星を100個ほど神域に転移させておいて欲しいのだ」


「救済部門が自ら資源を用意し、それを自力で加工して必要な機器を作成するというのか」


「もちろんありきたりな機器は銀河宇宙に発注するが、銀河宇宙ですら製造経験の無い特殊な機器は自作する予定なのだ」


「自力で資源を用意して機器も自作する……

 鉱工業生産力を全く持たない神界の歴史が変わるのか……」


「そもそも救済部門が出来たことで神界の歴史が変わっておるからの」


「ははは、それもそうだ。

 それではなんとか人員を廻して、なるべく早く救済部門の要望に応えることにしよう。

 小惑星もかつて超新星爆発が相次いで重金属が豊富な宙域から転移させるとしようか」


「感謝する。

 そうそう、それではこれを受け取ってもらえるかの」


 エリザベートがテーブルにやや厚めのカードを置いた。



「なんだこれは……」


「銀河連盟銀行の救済部門口座から土木部門口座へ資金を移すことの出来る暗号キーだ」


「10憶クレジット(≒1000億円)だと……」


「そうだ」


「先ほどの依頼は神界土木部の本業に属することだぞ。

 しかも最高神さまからの通達によって、既存の部門は出来得る限り新興の救済部門を支援することになっておる。

 このようなカネは受け取れんな」


「はは、これは妾の依頼を受けてくれた後に出したものだ。

 いわば挨拶代わりでもある。

 遠慮なく受け取ってくれ」


「しかし……」


「そなたの土木部門も資金不足の悩みを抱えておろう。

 例えば優秀な天使見習いを初級天使に昇格させてやるための資金が不足しているとか」


「ああ、天使見習いの人件費は銀河宇宙の出身恒星系が負担するが、初級天使に昇格させれば人件費は神界各部門の負担になるからな」


「そのせいで神界全体で昇格人事が停滞しておろう。

 天使見習いたちのモチベーションを上げるためにも、このカネは昇格に使われたら如何だろうか」


「本当にいいのか?」


「もちろんだ」


「わかった、有効に使うことを約束する。

 これでようやくあいつらを天使に昇格させてやれるわ」


「それにの、そなたら土木部門はタケルーの死後、神界認定世界の自然災害救済を行ってくれておったろう。

 このカネは救済派筆頭である妾からの感謝の気持ちも含まれているのだ」


「だが我々がやってきたことは、土木やその元になる転移能力で解決出来ることしか無かったのだぞ。

 銀河住民の避難用恒星船を避難先に転移させてやるとか、海面上昇の際には海水を重層次元に転移させるとかだ。

 もちろん未認定世界は救えなかったしな」


「それでも5万年の間に数十万の世界を救ってくれていただろう。

 今までは何も礼が出来なかったが、救済部門はかなりの資金を手に入れられたのでな。

 このカネは今までのそなたらの功績への感謝の気持ちとして受け取ってくれ」


「わかった。

 そして救済部門が出来たということは、我らが助けられなかった災害も救済してやれるということなのだな」


「もちろんだ。

 いましばらく準備に時間はかかるが、救済部門の目標は、銀河宇宙から災害死や避難の労苦を無くすことだ。

 もちろん神界未認定世界も含めてな」


「未認定世界までをもか。

 それは楽しみだ。

 我らが出来ることならなんでも協力するので言ってくれ」


「ありがとうの……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 神界人事部門にて。


「アルジュラス・ルーセン上級神殿、面談の時間を取ってくれて感謝する」


「エリザベート・リリアローラ上級神、こちらこそわざわざのお運び恐縮である。

 神界救済部門発足作業は順調かね」


「今のところは順調だな。

 だがさらに準備を進めるために、天使見習い心得たちに募集をかけたいと考えているのだ」


「そうか、長きに渡り天使見習い心得たちを待機させていることは、神界人事部門としても忸怩たるものがあった。

 救済部門で新規の天使見習いを雇用して貰えるのであれば、実に好ましいことだ」


「それで、今心得たちは何人いるのかの」


「今朝の時点で10万1201人だ」


「はは、さすがだの」


「いや、人事部門の部門長としては当然のことだ」


「それでな、新たに発足した神界救済部門では、その天使見習い心得たちを全員採用したいと考えているのだよ」


「……本気か?……」


「もちろん本気だ。

 ついでに採用と同時に天使見習いに昇格する者たちの給与その他も全額救済部門が負担したい」


「天使見習いの給与その他は出身恒星系が負担することになっておるぞ」


「それがのう、救済部門の本部は3.500次元の時間加速空間に置こうと思っておるのだ」


「あの天地創造部門が使っているのと同様の空間か」


「そうだ。

 そうしてあの空間と同様に、時間の流れを3.000次元空間の60倍にしようと考えている。

 新に任命した天使見習いたちの給与は、実労働時間として3.500次元の時間軸を適用する。

 つまり、あの空間での1年間は、3.000次元では僅かに6日にしかならないのだ。

 よって、彼らの雇用に必要となる雇用コストは、3.000次元空間では60倍になってしまうのだよ」


「年間20万クレジットの条件が、3.000次元ではその60倍の1200万クレジットになってしまうというのか……」


「その通りだな。

 銀河の各恒星系政府にとっては60倍の天使見習いの雇用コストを負担するに等しいのだ」


「それは確かに負担だな……」


「故に彼らの雇用コストは神界救済部門が負担しようと考えている」


「ふむ、ムシャラフ恒星系とミランダ恒星系のおかげで、あのタケルーの生まれ変わりは超莫大な資金を手に入れたとの噂は本当だったのだな」


「もちろん本当だ。

 労働債務を担保するために、既に銀河連盟銀行には10万人の1万年分の雇用費用を別枠で確保している。

 むろん3.000次元時間でのことなので、3.500次元ベースでは60万年分になるが」


「……凄まじい財力だな……

 それでその他の雇用条件は?」


「活動拠点が時間加速空間となるために、雇用する人員の居住地は3.500次元空間に移して貰いたい。

 もちろん従業員にもその家族にも寿命延長の加護を与える」


「居住環境は?」


「とりあえず100万人収容可能なセミ・リゾート人工天体を購入する予定になっている」


「本当にカネに糸目はつけないのだな……」


「資金は充分にあるからな。

 そんなものより銀河の災害救済の方が遥かに重要だ」


「そうか……

 ところで今後の追加採用はどうするつもりなのだ?」


「現時点の計画では、最終的に職員を100万人にまで増やしたいと思っている」


「なんと……

 それでは銀河連盟大学の入試倍率が高騰するだろうな。

 卒業生の天使見習い心得応募も激増するか。

 あのタケルーは未だに銀河の超英雄と讃えられているからな。

 天使見習いになれるだけでなく、そのタケルーの生まれ変わりの配下にもなれるとすれば、文字通り銀河中の英才たちが殺到するだろう。

 我が神界人事部門もかなりの繁忙状態になるか……」


「そのことについては申し訳なく思っている」


「気にする必要は無い。

 天使見習いへの採用については我が神界人事部門の本業である。

 わかった、早速銀河連盟を通じて心得たちに連絡を取るとしよう」


「心より感謝する。

 それでの、その繁忙を少しでも軽減するために、こちらを用意させてもらった」


「なんだこれは。

 まさかカネか?

 10億クレジットだとぉっ!

 いくらなんでもこのような大金は受け取れん!」


「はは、さすがは公正無比の神界人事部だの」


「心得たちの天使見習いへの採用は神界人事部の本業だ。

 対価を受け取るのは筋が通らん」


「だが是非受け取ってくれ。

 さすれば人事部人員を増員させられて、既存の職員たちの無給超過労働を軽減させてやれるだろう」


「むぅ……」


「それにこれを出したのはそなたが心得たちへの採用連絡を了承した後なのだぞ」


「それはそうだが……」


「各部門が新興の救済部門を助けてくれるのならば、救済部門も出来る形でお返しするのも筋だろう。

 今の救済部門にはカネしかないからの。

 それにこのカネの提供には、最高神さまのご了解も頂戴しておる」


(…………)


「それに、人事部が無給労働を廃止して範を示せば、神界全体の労働環境も改善されていくのではないかの」


「そうか……

 それではありがたく使わせて頂こうか……」


「手間をかけさせて済まんの」


「いや、本業を為すことに謝罪は不要だ。

 それにしても、神界救済部門の今後が楽しみだ」


「ふふ、それは大いに期待してくれ」





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