*** 40 資源確保 ***
『あの、ところでもうひとつ質問させていただけますか』
「いいぞマリアーヌ、なんでも聞いてくれ」
『タケルさまは、ご自身の鍛錬相手としてあのオーキーという神造生命体をお創りになられたのですよね』
「そうだ」
『それではあの300人ものオーク族やその子供たちは、なんのためにお創りになられたのでしょうか』
「あーそれはだな、俺の心積もりでは銀河の自然災害世界救済は早めに体制を整えたいんだよ。
それで出来れば天使たちや天使見習いたちに任せようと思っているんだ。
そうして体制が整ったら、俺自身は銀河の紛争世界救済に手を付けたいんだ。
オーク族は命の加護や防御の魔法をかけてやった上で、その時の兵隊になってもらいたいんだ。
総合レベルが300を上回ってるような奴らの部隊なら、局地戦ではほぼ無敵だろうからな」
『なるほど……
そこまでお考えでいらっしゃいましたか……』
「そうだな、そのためにもセミ・リゾート天体の用意が出来たら、オーク族もそっちに住んでもらおうか。
畑や鍛錬場には転移装置で通えばいいだろうし。
ついでに人数ももう少し増やしておこう」
『はい』
「そうそう、神域に作る俺の神殿は小さくてもいいな。
だが、救済部門の司令部も作りたいから大きめのスペースが欲しい。
その設計も含めて神界土木部に提出する要望書も用意しておいてくれ」
『畏まりました』
「それに加えて銀河宇宙に各種資材も発注する必要があるな。
特に超大型転移結界装置用の資源とか。
その発注書も用意してくれるか」
『あの、その資源なのですが、コストを抑えるためにもタケルさまご自身が資源を確保されたら如何でしょうか』
「俺が資源を用意するのか?」
『はい』
「どうやって?」
『タケルさまは『抽出』の神法をお使いになれるはずです。
ですから神界より生命の居住していない岩石型小惑星を賜り、土木ドローンにそれを粉砕させた上で各種元素を抽出してください。
たいへんな時間がかかりますが、ドローンを多数用意すればそれなりの資源を得られるでしょう。
なにしろ『抽出』であれば、精錬効率は100%ですので』
「なるほど」
『特に必要なのは鉄資源と各種レアメタルです。
そうした原料資源があれば、タケルさまは『融合』の神法を使って合金を作れますので、わたくしがそれを『錬成』の魔法で加工して大型転移結界装置の構造材に出来ます』
「そういう資源って銀河宇宙では用意出来ないのかな?」
『最初の神界認定世界が誕生してから約103億年、銀河連盟が発足してからも約102億年が経過しています。
ですから銀河文明は自らの恒星系だけでなく、近隣恒星系の資源も採掘し尽くしつつあるのです。
中には母惑星の総質量に影響を与えるほどの資源を得て、その質量増加分に見合うだけの質量を近傍重層次元に投棄している文明もあるほどですので』
「そうか、たった100光年の移動にも何か月もかかっているせいで、資源採掘も追いついていないんだな。
それじゃあ資源価格も高騰しているのか?」
『仰る通りです。
地球の資源価格に比べて、平均で10倍近くになっています。
そのため農業系惑星などでは避難用の人工天体などを購入する際に、そのコスト負担が重荷になりつつあるのです』
「ということはだ、『神界救済部門』があまり大量の発注をすると、銀河宇宙の資源不足に拍車をかけることになるんだな」
『はい』
「それじゃあ俺が資源を用意することにしようか。
あ、それさ、少し多めに資源を用意すれば、余剰分は銀河宇宙に売ってもいいのかな」
『神界が現業部門をお持ちになるということですね』
「そうだ、俺たちには莫大な資金があるが、それを食い潰しているだけだといつかは限界が来るだろう。
活動継続のための資金作りにもなるし、なにより銀河の資源価格を引き下げて文明発展を後押ししてやれることにもなるだろう」
『はい』
「そのためには何が必要だ?」
『まずはタケルさまの神域をお作りになられた上で、神界のご了承を得て生命の発生していない恒星系からいくつかの小惑星を頂戴してご神域に転移させればよろしいでしょう』
「それも神界土木部に依頼すればいいのかな」
『はい』
「それって、俺が土木部門に出向く必要があるのか」
『いえ、エリザベートさまにご了承を頂戴した上で、土木部門への依頼もお願いされたら如何でしょうか』
「なるほど、新参の俺なんかより部門長のエリザさまからの依頼の方がいいっていうことか」
『エリザベートさまの秘書AIにわたくしからお願いしておきましょうか』
「他にもお願いしたいことがあるからちょっと待っててくれ」
『はい』
「なあニャジロー、そういう小惑星から元素を『抽出』させるときって、予め細かく砕いてた方が楽なんだよな」
「はいですにゃ。
岩石を細かくするほど必要神力が少にゃくにゃりますにゃ。
ですから例えば銀河宇宙から鉱石採掘用ドローンなどを多数購入されて、彼らに小惑星を削らせていけばよろしいでしょうね」
「うーん、でもその方法だと結構な時間がかかるよな。
タケルーさん」
『なんだ』
「タケルーさんは5万年前に惑星ムシャラフを救ったときに、惑星の衛星軌道を廻っていた小惑星の破片を砕いたんですよね。
その一部を転移させた溶岩プリュームの代わりとして地殻とマントルの間に転移させるために。
それ、どうやって砕いたんですか?
どうもわたしの使える魔法や神法の一覧リストには載ってないんですよ」
『あー、あれかー。
それにしてもお前ぇ、よくそんなこと覚えていたな。
実はあれ、禁呪に指定されてた神法なんだわ。
俺の魂が5万年も眠らされてたのは、その禁呪を神界の許可なく使ったってぇ罪も含まれてたらしいんだ」
「そうだったんですか。
それでどんな禁呪だったんですか?」
『まずはな、その小惑星をクラス30ぐらいの遮蔽フィールドで覆ったのよ。
表裏を反対にしてフィールドが内側を向くようにな。
それで素粒子に働く5つの力の内『電磁気相互作用』だけを遮断したんだわ』
「「「 !!! 」」」
『お前ぇ、原子を連結して分子や金属結晶を作る結合作用って知ってるか』
「ええ、イオン結合と共有結合と金属結合ですよね」
『相変わらず記憶力はすげぇな』
「あそうか、分子の結合や金属の結合って全部電子を媒介にして行われてるのか。
だから電磁気相互作用を遮断して原子核と電子を切り放してやれば、すべての結合も切り放されて原子核がバラバラになっちゃうんですね」
『はは、さすがだな。
その通りだ。
もっとも電磁気力相互作用を復活させれば、すぐに電子を取り込んでまた分子や金属結合に戻っちまうけどな。
だがその時点でも相当に細かく砕かれた状態になってたぞ』
「でもそうか、電磁気力を遮断した後にはほとんど原子核と自由電子っていう超微細なものに分解されてるんですね。
だから電磁気力相互作用を復活させて、すぐに『抽出』の魔法を使えば鉄原子なんかを集めるのも楽でしょうね」
『そうだ。
それにこの神法が如何に危険かもわかるだろ』
「ええ、どんな物質でも一瞬で原子核と自由電子に分解出来ちゃうんですもんね」
『それに加えて今まで電磁気力で結合してたもんが解き放たれるんで、結構な勢いで原子核と自由電子が飛び散っていくのよ。
まるで大爆発したみたいにな。
だから分解したい物質を遮蔽フィールドで覆うときには、かなり余裕を見た大きさで覆う方がいいぞ』
「教えて下さってありがとうございます。
そうか、だから神法の中でも禁呪に指定されてるんだ」
『だがお前ぇももう神格を持ってるだろう。
一応エリザに了解を貰えば、お前ぇの神域の中なら使用許可は出ると思うぞ』
「なるほど。
でもそういうことなら俺が直接エリザさまのところに伺った方がよさそうですね」
『その方がいいだろうな』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
タケルがエリザベートの神殿を訪れた翌朝。
顔も含めて全身がキスマークだらけになっているタケルは、応接室でエリザベートと向き合って座っていた。
もちろん内出血の一種であるキスマークなど『治癒』の魔法で瞬時に治せるが、それをするとエリザベートが一瞬顔を顰めた後にすぐにキスマークを付け直し始めるために、敢えて放置せざるを得なくなっている。
どうやらあのマークは文字通り所有や縄張りを主張するマーキングらしい。
もちろんタケルのキンタマのレベルも12に到達していた。
エリザベートは『銀河救済計画書Ver1.0』を見た時とは打って変わって機嫌よさげにVer1.1を読んでおり、テーブルの上にはやや厚めのカードのようなものが置いてある。
エリザベートが笑顔のまま顔を上げた。
「わかった、すべて了承したぞ」
「あの、最後に書いてあるお願いもよろしかったでしょうか」
「当然だ。
それにしてもこのような大金を『神界救済部門』本部に提供するというのか」
「ええ、今後何で資金が必要になるかわかりませんので、僭越ながら神界救済部門本部名で銀河連盟銀行の支払い準備預金口座を作らせて頂きました。
資金の引き出しや送金はエリザさまかその秘書AIが行うことが出来ます。
ご自由にお使いください」
「それにしても本部資金として10兆クレジット(≒1000兆円)も用意するとは。
これは神界の総予算の10年分に匹敵するのだぞ」
「ええっ! 神界の予算ってそんなに少ないんですかぁっ!」
「ふふ、神界が如何に何もしてこなかったかがよくわかろう。
その予算もほとんどが人件費と施設維持費に費やされているだけだからの。
まあ銀河宇宙から浄財を集める以外に資金調達手段を持たぬこともあるが。
ところで、救済部門の活動に必要な機器は、銀河宇宙に発注するだけでなく自力でも作ろうというのだな。
そのための資源を得るために無生物小惑星も欲しいと」
「はい」
「そして永続的に活動を続けるために、余った資源を銀河宇宙に売却しようとも考えておるのか」
「はい」
「ははは、そなたは本当に神界の体制に風穴を開けてくれるのだの。
既に知っておろうが、神界には浄財以外の財源も工業力も無かったのだぞ」
「それも神界の怠慢の一つでしょうね。
神力という能力がありながら、何もしなくていい言い訳だけに終始していたわけですから」
「その通りだな。
わかった、これももちろん了承しよう。
そなたの神域に無生物小惑星を転移させるのは神界土木部の仕事になるが、追加の必要があれば秘書AIを通じて彼らに発注するがよい」
「ありがとうございます」
「そうそう、そのために土木部などにいくらか運営費を寄付することにするが構わんな」
「もちろんです。
わたしは神界の流儀には疎いですので全てお任せします」




