*** 35 10万人雇用計画 ***
「そういえば、お前たちが故郷に帰省するときって、どうやって移動してたんだ?」
「あにょときはまずジョセさまのご神域から神界にある中央転移ポートに移動して、そこからボクたちの母惑星を管轄する宙域管理初級神さまの転移ポートに転移します。
そこからは母惑星の転移ポートまで短距離転移装置を使っての転移ですにゃね」
「そうか、けっこう面倒なんだな」
「でも時間はほとんどかかりませんにゃ」
「それから、ボクからは申し上げにくいんですけど……
神界が銀河世界に恒星間超長距離転移装置という神道具を提供しにゃいのには、もう一つ理由があると言われているんですにゃよ」
「どんな理由なんだ?」
「一つ目は未だに原理派の神々が多いことですね。
上級神会議のメンバーは大半が入れ替わって救済派の神々ににゃられましたけど、各部門を率いる上級神さまには原理派の神々がまだまだ多いんです。
特に転移部門長のワイラス上級神さまはコチコチの原理主義者ですにゃ」
「まだそんなしょーもない奴が部門長とかやってるのかよ。
しかもその原理主義って、原初の天族が命じた天界の役目に真っ向から反しているじゃねぇか。
そこんとこあいつらどう思ってるんだ?」
「あにょ、多分ですけど、もう天族の方々もいらっしゃいませんし、『銀河宇宙を救おうとする行為は、却って銀河宇宙に混乱を齎す』という言い訳を元に、自分たちの能力や知識が足りないことを隠して地位や権威を守ろうとしていると思われます」
「やっぱりそうか。
能無しでも言い訳だけは得意なんだな」
((( ………… )))
「それから、これはさらに言いにくいことにゃんですけど……
神々の中には非常にプライドの高い方がいらっしゃいます。
その方々は自分たちだけが神力による超長距離転移装置を独占している状況を維持されたいのですにゃ」
「そんな特権階級意識野郎までいるのか。
いつかそいつらも潰すかな」
『おいタケル、そいつらの神殿にまた溶岩でも転移させるか♪』
「「「 !!! 」」」
「で、でもそうするとまたタケルさまが……」
「まあそうした過激な手段は最後に取っておきましょうか」
((( ほっ…… )))
「ということは、原理派の神々がそうした原理主義に拘っているのは、100億年近くも救済を行っていなかったせいで、もはや神々には救済を全う出来る能力が無いことを隠そうとしているわけだな。
要は出来ないから試みたくない、試みたくないから試みずに済むイイワケだけを繰り返しているのか」
「はい、たぶん……」
「まさにガキのイイワケだな」
「「「 ………… 」」」
「つまり超新星爆発被害抑止に関しては神界は何もしていないということか」
「はいですにゃ……」
「それでよく銀河世界が文句言わずにいるよなぁ」
「あにょ、遥かな昔からそうでしたし、銀河連盟も神界にそうした能力も意思も無いのはよくわかっていますにょで……」
「そうか……
ところで、3次元空間と近傍重層次元を繋げる転移装置だけど、装置の大きさに理論的な制限ってあるのかな。
例えば直径100メートルが限界とか」
「たぶん限界は無いはずですにゃ。
その代わりに展開するのに魔道具の面積に比例して大量の魔力が必要ににゃるはずです」
「その魔力を供給させる魔石って、俺がいつも作ってるアレでいいんだよな」
「はい」
「そうか……
恒星系内転移や近傍重層次元への転移なら、通常の魔石を使う転移装置で可能なのか」
「そうですにゃ。
ですから、全ての近距離転移装置や近傍重層次元空間への転移には、1センチ級から5センチ級の魔石が予備も含めて複数使われているはずです」
「あの転移装置の形態って、円盤状でなきゃならないのか?」
「円盤状である必要はありません。
あまり複雑な形は無理でしょうが、球形にゃらば簡単でしょう。
タケルさまは転移装置の応用として『絶対防御』の結界を張れるようになっていらっしゃいますが、あれも球形ですにゃ」
「そういえばそうだったか。
それじゃあ今度、試しにこの鍛錬場近くの宇宙空間でどのぐらいの大きさの絶対防御結界が張れるかどうか試してみようか」
「あにょ、にゃにをご計画されていらっしゃるのでしょうか……」
「ん? 超新星爆発の際に発生するガンマ線って、被害惑星を通過するのは長くてもせいぜい3日だろ」
「はいですにゃ」
「だからその間、惑星全体を転移装置の形をした絶対防御結界で覆ってやればいいんじゃないかな」
「「「 !! 」」」
「転移装置の放出側は3.600次元とかに『ガンマ線放出専用次元』とか用意してやればいいだろうし。
そうすれば、その惑星上の生命がすべて助かるぞ」
「「「 !!! 」」」
「そうだな、その3.600次元に置くガンマ線放出用転移装置も球形にしておけば、その次元内でのガンマ線もすぐに拡散して無害になっていくだろう」
「「「 ………… 」」」
「それが可能なら、惑星住民は移住も避難もしなくて済むし、ガンマ線が通過したらすぐにでも普通の生活に戻れるし、神界認定世界じゃない世界も助けてやれるだろ」
「あ、あにょ!
絶対防御結界の内側には外部の光も電波も届きませんにゃ。
ですから非認定世界の住民に絶対防御結界があることを気づかれてしまうのでは……」
「そんなもん、ガンマ線発生源になる超新星と要救助惑星の間に結界を置けばいいだろ」
「「「 !!!! 」」」
「その惑星から5光年も離れたところに置けば、何が起こってるのか絶対に気づかれないぞ。
まあ夜空の一点が突然黒く塗りつぶされたって大騒ぎになるかもしれんけど、期間はせいぜい3日だし、原因なんかわかりっこないだろうからな」
「「「 ………… 」」」
「それにだ、地球の直径って1万3000キロ弱だけど、全球を覆う最小の絶対防御結界装置なら地球の中心部に置かなきゃなんないだろ。
もし地表部分に置くとしたら、倍の直径2万6000キロの結界が必要になるよな。
だからやっぱり結界は地球から数光年は離れたところに置けばいいと思うんだ」
「「「 ……………… 」」」
「そうそう、太陽系に地球以外に生命のいる星ってあるのかな」
「木星の衛星エウロパと土星の衛星エンケラドゥスの表層氷の下の海には、非常に原始的な単細胞生物や多細胞生物がいますにゃ」
「そうか、それなら大きな転移結界発生装置をたくさん作っておけば、そいつらも助けてやれるな」
「「「 !!! 」」」
「その装置の配置はそれこそ神界の恒星間神力転移装置で行えばいいだろう。
位置の微調整のためにスラスターも必要になるか。
重層次元通信装置を搭載しておけば、結界発生装置は遠隔操縦出来るだろうし」
「「「 ………… 」」」
「ところでさ、こんな簡単な方法をなんで今まで誰も実行に移してなかったんだ?」
「あにょ……
惑星を覆うほどの絶対防御結界の大きさでは、通常の魔石では無理にゃのかもしれません。
深い重層次元や1光年を超えるような超長距離転移装置は全て神力を用いた強力なものである必要がありますにょで」
「そして、神界には『一般銀河世界には神力を使用した神道具は使用させず』という不文律がありますのにゃ」
「そんなもん、その不文律をぶっ壊せばいいだけの話だろうに」
「「「 !!!! 」」」
「それに、その神道具を使うのが神界の組織であれば、道具も神石も銀河世界には流出しないだろ」
「そ、それはそうにゃんでしょうけど……」
「あ、あにょ、素晴らしいアイデアだと思うんですが、なにしろ大量の魔力や神力が必要ににゃると……」
「それなんだけど、神石に神力を充填するのって俺でも出来るんだよな」
「はいですにゃ……」
「それで直径2万キロ級の転移結界を3日間展開し続けるのには、どのぐらいの神石が必要になるかな」
「ざっと暗算したところでは10センチ級の神石が丸々1つ必要ににゃると思われます」
「ということは、余裕を見て15センチ級神石があればいいということか」
「それでしたら充分だと思われますにゃ」
「あ、それ重層次元に置く対になる転移装置にも神石が必要になるのか?」
「いえ、転移結界であれば通常の転移は一方通行ににゃります。
それにゃらば、受信側は神石ではにゃく通常の10センチ級魔石で十分ですにゃ」
「因みに俺が神石に神力を充填するのって、俺の神力が枯渇するとやっぱり苦しいのか?」
「はい……」
「それさ、例えば神力が枯渇しそうになったら、魔石から魔力を補充して神力に変えるって出来るのかな」
「出来ますにゃ。
ですが、通常3センチ級の神石を満タンにするにょには、3センチ級の魔石が100個必要と言われておりますのにゃよ」
「それほどまでに神石のエネルギーは強力だっていうことなんだな」
「はい……」
「それで100個の魔石から魔力を吸って、神力に変えて1個の神石を作る際には、俺の体内魔力ってかなり消費するのか?」
「いえ、その変換に使うエネルギーは魔石の魔力が使えます」
「それもそうか」
「ですから体内魔力はほとんど消費しにゃいはずですにゃ。
その代わりに魔臓を酷使することににゃりますにょで、強靭な魔臓の処理能力が必要ににゃります」
「今の俺に大量の魔石が与えられたとして、15センチ級の神石を満タンにするのにはどのぐらいの時間がかかると思う?」
「今でしたら半年でしょう」
「魔法能力がレベル600を越えたら?」
「それでしたら1時間程度でしょうね」
「そうか、それなら俺ももっと魔法レベルを上げにゃあならんな」
「あにょ……
魔石を充填するにょもたいへんですにゃよ……」
「そのことなんだけどな、今銀河宇宙にいる天使見習い心得たちを全員雇いたいと思っているんだよ」
「「「 !!! 」」」
「そいつらを全員天使見習いにさせてやって鍛錬させて、全員魔法力をレベル300以上、出来ればレベル500以上にしてもらいたいんだ。
ヒト族の連中は無理しなくてもいいけど。
その魔法鍛錬でレベルを上げているうちに、けっこうな量の魔石も溜まるだろうし。
そうそう、そいつらの給料は全部俺が払うぞ」
「あ、あにょあにょ!
ボクたち天使見習いの給与は神界法で年間10万クレジットと規定されているんですにゃ!
それに加えて雇用主は社会保険料や医療保険料、年金の負担もありますにょで、雇用コストは1人当たり年間20万クレジット近くになってしまいますにゃ!」
「1人あたり20万クレジットで10万人か。
それって雇用コストは年間20億クレジット(≒2000億円)だな」
「は、はい……」
「でもここみたいな時間加速空間で働いてもらうから、3次元時間では1年当り60倍の1200億クレジット(≒12兆円)になるか」
「「「 !!! 」」」
「これから1万年間の雇用コストをプールしておくとして、1京2000兆クレジット(≒120京円)か。
それ念のため銀河連盟準備銀行の別枠口座にプールしておこう。
タケルーさん、いいですか?」
『おう、もちろんいいぞ♪』
「「「 !!!! 」」」
「そ、そそそ、そんにゃ大金ご用意出来るんですかにゃぁぁぁっ!」
『ははは、このタケルの口座には5×10の29乗クレジットが眠ってるんだぜ♪
つまりは1兆クレジットの1兆倍の50万倍だ』
「「「 !!!!! 」」」
『まあ連盟銀行から泣きが入ったんで、そこから引き落とせるのは毎年5×10の25乗クレジットだけどな』
((( 銀河連盟銀行を泣かせたって…… )))
『10万人を1万年雇っても、そのコストは年間予算の0.000000005%だ。
なんの問題も無ぇな』
((( ……(あんぐり)…… )))




