*** 29 複利計算 ***
「タケルーさんは同意して構わないって」
「それは銀河連盟銀行も喜ぶわ。
5万年ぶりにタケルーさまが転生したって聞いて、同意して貰えなかったらどうしようって、総裁以下幹部が全員顔面蒼白になってるそうだから」
「ははは」
「でもそうか、取り敢えずの活動資金として日本円で1000兆円ほどムシャラフ恒星系銀行の個人口座に移しておきましょうか♪」
「いやミランダ恒星系銀行にも1000兆円分移して、どちらも任務に使って500兆円分以下になったら、自動的に連盟銀行口座から補填してまた1000兆円相当になるようにしておこう」
「げげげげ……」
「そうね、その方が楽でいいわ」
「あ、あのさ、そういえば当初は100万クレジットだったんだよね、それがなんでそんなトンデモな大金になってるのかな?」
「ふふ、確かに金利は僅か0.1%だったけど、でも複利で預けてたからそうなるのよ」
「…………」
「たとえばもし単利だったら、金利0.1%で5万年間として、100万クレジット×1/1000×50000になるから、金利分はたったの5000万クレジットにしかならないけどね。
でも年1複利だと、元本100万クレジットは、0.1%で5万年として、
100万クレジット×(1.001)^50000≒5×10^29クレジットでそうなるのよ」
「そんな大金になって、連盟銀行はそれまで大丈夫だったの?」
「ふふ、あなたに0.1%の金利を付与していても、そのおカネを他の恒星系に年利1%とか2%で貸し出していたから連盟銀行もけっこう儲かっていたはずよ。
この5万年間神界認定恒星系政府のデフォルトって無かったし、新興の恒星系には3%とかで貸していたようだし」
「そうだったんだ……」
「彼らは連盟銀行法で預金額の範囲内でしか貸し出しが出来なかったからね。
だから帳簿上の預金額が多ければ多いほど貸し出しが出来て儲かったでしょうね。
でも今はそこまで巨額になると、誰も借りてくれないから金利はすべて持ち出しになっちゃってるから困ってるのよ」
「あ、で、でもさ、俺がその年間引き出し限度額一杯のおカネ引き出して食料とか輸送宇宙船とかバンバン買って使っちゃったら、銀河連盟準備銀行が困らないかな。
限度額は預金額の0.01%っていうことは、毎年限度額分しか引き出さなくっても、1万年もすれば全額引き出しになっちゃうよね」
「それこそ全く心配いらないわ。
たとえばあなたが恒星間輸送船を100隻必要としたとすれば、それはムシャラフ政府やミランダ政府を通じて銀河宇宙の工業系惑星に発注することになるでしょ」
「う、うん」
「そうした工業系惑星は原材料や部品をまた周囲の下請け惑星に発注するわよね」
「そ、そうだね」
「そうすると、多くの惑星政府が儲かって、公共事業を拡大したり減税したりするわ。
それで星民所得が拡大して、みんな高級食料品や贅沢品なんかも買うようになるでしょ。
そうしてあなたが100兆クレジット使うと、銀河全体の所得が200兆クレジットぐらい増えるのよ」
「そ、それって確か乗数効果っていうんだよね」
「その通りよ。
これはあなたが農産物を買ってもおなじね。
それで儲かった農業系惑星が農業機械や肥料も買うでしょうし、所得が増えた農民がクルマを買ったり旅行に行ったりしておカネを使うでしょうから。
そうしたおカネの一部は巡り巡って銀河連盟準備銀行に戻るから、みんな喜ぶわ」
「な、なるほど」
「だから任務のためだったらバンバンおカネを使っちゃいなさいね♪」
「わ、わかった……」
(そうか、みんなが倹約だ貯蓄だって言ってカネ使わないと却って景気悪くなって所得が減るんだよな。
江戸幕府ってたびたび倹約令とか出してたから経済オンチの最たる阿呆政権って言われてたし。
まあ家禄が一切増えない武士が奢侈贅沢を繰り返す商人に嫉妬してたからなんだろうけど。
むしろ商人なんかにはもっともっとカネを使わせてた方が、日本は豊かになれてたんだろうな。
もちろん武士にもヘンなプライド捨てさせて家禄以外の収入を追求させてやればよかったんだろうに)
「そうか……
それにしても複利計算ってすごいんだね……」
「そうね、たとえば地球で西暦1年に複利5%で1円預けたとしましょうか。
付利単位は無限小として。
まあ今の地球の金利は軒並みゼロ金利になっちゃってるけど、過去2021年間の平均だと8%ぐらいになるわ。
それを少し少なめに見積もって複利5%で計算してみるわね。
今の金価格を1グラム1万円として、どれぐらいの大きさの金が買えるようになってると思う?
因みに金の比重はだいたい19.3だから、1立方センチの金は19.3グラムよ」
「金利は5%になったけど、預けてたのはたった2021年間だよね。
だったらクルマぐらいの大きさの金かな……」
「ふふふ、もっと大きな金が買えるわ」
「じ、じゃあこの家ぐらい、い、いや富士山ぐらいか」
「あのね、地球と同じ大きさの金塊を300億個分買えるのよ」
「えええええ―――っ!」
「そんなたくさんの金を買って一塊にしたら、地球が金塊の衛星になっちゃうわね♪
だいたい地球直径の2500倍の大きさの星になるわ。
あ、これ太陽より遥かに大きいわ♪
あはは、太陽もこの金塊の惑星になっちゃうのね」
「ま、まさかそんな……」
「複利ってそれほどまでに恐ろしいのよ。
複利5%ってだいたい14年で倍になるんだけど、だから2008年には半分の150億個しか買えてなかったの。
その14年前には75億個ね。
だから地球300億個分の金塊のうち、225億個分以上はここ28年で増えた分なのよ」
「そ、そそそ、そうか……」
「ということで、あなたは今や銀河宇宙最高レベルの資産家なんだから、資金の心配なんか要らないわ。
それよりも人命の方が遥かに大事なんだから、ご任務頑張ってね♡」
「あ、でもそれさ、利息にかかる税金ってどうなってるの?」
「口座名義はあくまでムシャラフとミランダっていう恒星系だからね。
恒星系政府の所得に税金なんかかけられないわよ」
「でも俺が活動のために使うようになったら莫大な贈与税が発生するとか」
「名義はあくまで恒星系政府ですからね。
両恒星系政府も特別立法で引き出し権限者はタケルーさまの生まれ変わりであるあなただけだって決めてるし」
「それにたぶん神界もすぐにお前を初級神には任命するだろうからな」
「えっ……」
「そうなれば例え口座名義をタケルに移したとしても、それは銀河宇宙から神界の神への『喜捨』という形になって、非課税になるだろうな」
「そうなんだ……」
「その辺りはムシャラフやミランダの恒星系政府と神界に任せておけばいいだろう。
なにしろ神界でお前の後見人になるのは上級神さまであり、上級神会議議長でもあるあのエリザベートさまだからな」
「わ、わかったよ。
ところでさ、将来俺が任務で必要とするものを購入するときのための窓口って作れるかな」
「それは全く問題ないな。
ムシャラフにもミランダにも王族企業グループがあるからいくらでも注文を受けられるぞ。
一恒星系では手に余るような注文でも、銀河宇宙に発注出来るからな。
まあ銀河宇宙のためには分散発注してやった方がいいだろうけど」
「ムシャラフ恒星系は工業恒星系と繋がりが深いし、ミランダは農業恒星系と関係が多いの。
だからどっちでも対処出来るわよ」
「それじゃあまだ先になる話なんだけど、窓口だけ用意しておいてもらえるかな」
「わかった」
「ふふ、両恒星系ともあなたの役に立てるんでものすごーく喜ぶわよ♪」
(あー、俺って超莫大な資産まで持ってたのかー。
地球の全ての国の国家予算合計の1兆年分のさらに1万6000倍だって。
また無努力スーパーチートが増えちまったよ……
なんか『もっと努力しなきゃ』っていう強迫観念がさらに強くなって来たわー……
それにしても、あらゆる救済のための資金は既にあったのか。
後は俺の能力と発想力と組織作りだけなんだな……)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
3.5次元空間に於いて休息中。
「あにょタケルさま、ボクたちタケルさまが学校に行ってらっしゃる間に、教えて頂いた『小説家ににゃろう』をAIにダウンロードしてもらって、3.5次元空間で1000作品ほど読んでみたんですにゃ。
今後のタケルさまのご任務に少しでも役に立つ部分があるかと思いまして」
(小説家ににゃろうだって……
それにしてもすげぇなこいつら……)
「それでいくつかわからにゃいことがありまして、もし御存じでしたら教えて頂きたいと……」
「もちろんいいぞ」
「まず、『小説家ににゃろう』では、どうしてこんにゃに途中で連載を止めてしまう作品が多いんでしょうか」
「あーそれな、それにはたぶん大きく分けて理由が3つぐらいあるんだ。
ひとつめは、30話ぐらい連載して突然連載を止める作品の投稿者って、既に書籍化された作品がある奴とかが多いんだよ」
「?」
「書籍化されるにはまずブクマやポイントを稼いで出版社の目に止まらなきゃならないだろ。
だから30話ぐらい書いてポイントが伸びてないと、すぐに止めて次の話を考え始めるんだ。
例えそういう理由で止めるにしても、せめて1話か2話ぐらい使って完結させてから止めればいいのにな」
「だからあんなに『あとがき』でブクマやポイントをお願いしてるんですね……」
「そうそう、【お願い!】とか【重要なお知らせ!】とかまで書いて必死でポイントをゲットしようとしてるだろ。
中には本文と同じぐらいの長さのあとがきまで書いて、ポイントをおねだりしてるし。
俺は『物乞いあとがき』って呼んでるんだけどさ」
「「「 ………… 」」」
「まあ、そういう奴らも最初は創作意欲の発露や自己実現欲求で投稿してたんだろうけどな。
でもいったん書籍化とかされて100万とか200万とかのハシタ金を手にすると、
『こ、これは夢の印税生活に入れるかも!』とか、
『そうすれば今の会社を辞められるかも!』とか夢を見ちゃうんだろうな。
そんな印税生活が出来てる作家なんか、漫画家を含めても日本に500人もいないのにさ。
そもそも最低でも30冊、出来れば100冊ぐらい書籍化されてないと印税なんか知れてるそうだし。
だからほとんどの商業作家は超ど田舎に住んで野菜と米は自作しながら細々と書いてるか、親の遺産で喰いつなぎながら書いてるそうだし。
ということで、そんな印税生活の夢を見てる連中が、本文面白くするより手っ取り早く『物乞いあとがき』に走るんだろう」
「だからあんにゃにあとがきで懇願してたんですにゃね……」
「そうそう。
それにそうした作家が本当に儲かるのは、その作品が映画化されたりキャラクターグッズが商品化されたときなんだと。
そんな夢を見るより、学生なら今の勉強頑張った方がよっぽど所得は増えるだろうに。
今の日本で最もリターンが大きく、コストパフォーマンスが優れている投資は受験勉強だからな。
ちょっと一生懸命勉強するだけで、生涯賃金は優に数千万円は違ってくるし。
中学高校と毎日6時間も真面目に自宅で勉強すれば、合計で1万3000時間強だろ。
それでAランやSラン大学にさえ入っちまえれば、仮にサラリーマンになったとしても一流企業の生涯賃金は最低でも3億円はあるからな。
運よく役員にでもなれれば定年後も子会社の社長になれるから生涯賃金は5億円超えるし。
つまり学生時代の勉強1時間の時給は2万2000円から3万8000円にもなるんだ。
学生時代はゲームばっかしやってて、いい大人になっても時給1000円のコンビニバイトやってる連中が聞いたら衝撃で立ち直れないかもだわ」
「そうだったんですにゃね……」
それにしても、最近物乞いあとがきが増えてウザいなぁ……




