表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
248/248

*** 248 最終話 銀河系銀河総督 ***

 


 天族の説明は続く。


『それに、たとえば『彫刻室座ドワーフ銀河』は常物質バリオンが極めて少ないまま銀河生成に至ったために、恒星内のs過程も超新星爆発のr過程もほとんど起きず、そのために炭素以上の原子量を持つ原子がこの銀河系銀河の4%しか無いのだ。

 よってもちろん生命もほとんど発生出来ていない。

 これは大いなる資源の無駄であろう。

 故に貴殿にはこの銀河に炭素以上の原子を散布するか、もしくは炭素未満の原子の採掘場として活用してもらいたいとも思っている。

 例えばあの白色矮星衝突実験をこの彫刻室座銀河で行ってもいいだろう』



(註:『ドワーフ』とは、単に『小さい』という意味になり、この『矮小銀河(dwarf galaxy)』も、数十億個以下の恒星からなる小さな銀河の意である。

(数十億個も恒星があるとんでもなく大きな宙域ではあるが)

 日本語では他にも例えば『red dwarf』を赤色矮星と記すように、多くの場合dwarfには『矮』という文字が宛てられるようだ。

 このとき、このdwarfにはその対象を蔑む、もしくは劣ったものと見做すニュアンスは全くないのである。

 一方で、例えば『矮小な人間』という表現には多く蔑みの意が込められているために、『矮小銀河』と聞けば小さくて劣った銀河と勘違いする人も多かろう。

 すべては江戸末期から明治初期にかけての翻訳者たちの能力不足によるものである。

 彼らはそれまでの日本語に無かった英語概念に対応する日本語を創作する能力が低かったのだ。

 それを未だに使っているのも如何なものと思うが……


(例:President → 大統領  

「日米和親条約」では「合衆國主」とされていたものの、「日米修好通商条約」では「亞米利加合衆國大統領」として用いられた。

 なんだよ『統領』って……

 国家元首を首領サマって呼んでるあの国と変わんないじゃん……)


 閑話休題。




 天族シェパードも発言した。


『そのために必要な太陽直径の10万倍ほどまでの恒星を銀河間転移出来る魔法手段も、その能力を魔道具化出来るノウハウも供与させてもらいたい。

 もちろん転移後の恒星の軌道を設定出来る技術も含めてだ』


(!!!!!

 理想恒星を工場宙域で創って必要な場所に転移させられるのかよ……)



『また、竜座ドワーフ銀河では、当初の銀河形成時に大量のダークマターが含まれてしまった。

 このために恒星の核融合反応が必要以上に阻害されているせいで、惑星に降り注ぐ赤外線も非常に少ない。

 この銀河の生命も何とかして助けてやりたいのだ』


(…………)


『貴殿らの組織には資金的、資源的な援助はほとんど必要ないだろうが、それでも必要ならば申し出て欲しい。

 まだ通貨の交換レートは確立されていないが、たぶん10の40乗クレジット相当ほどの予算はつけられるだろう』


(すげぇな……)



『もちろんタケルさんの権限は、階梯宇宙連絡協議会が認めた公式なものになるわ。

 つまり天族が任命した銀河系銀河とその伴銀河の総督という地位になるわね』


 銀河連盟評議会議長と執行部門長が盛大に仰け反っている。



 因みに、このタケルの総督就任が報道されると、銀河認定世界では10日間の祝祭が開催された。

(ムシャラフ恒星系とミランダ恒星系は1か月!)




「あの、わたしのような未開宇宙の住人にそのような重大な地位を与えてもいいのですか」


 天族たちが微笑んだ。


『タケルさんもご理解頂けるでしょうけど、階梯宇宙ほどまでに文明や技術が発達すると、後は知的好奇心を満たす行為、平たく言えば良質な娯楽に飢えるようになるのよ。

 そのせいもあって、あの銀河連盟報道部の『天界救済部門』という配信は、それこそ階梯宇宙の全域で熱烈に視聴されていたの。

 なにしろ未開世界で自然災害や人災に苦しんでいた住民たちに、あれほど多くの笑顔をもたらしたんですからね。

 フィクションならともかくノンフィクションで涙を流すなんて、そうそう出来る経験ではありませんし。

 そうした中で、階梯宇宙連絡協議会の出した結論は、

『あの救済はまさに現地の者でなければ出来ない稀有なことであり、我々天族の発想では到底不可能な素晴らしい結果であった』

『故に、今後も我らはかの者を全面的に援助するのみで、方針と行動には一切口を挟まない』というものだったの』


『もちろん『他者を批判し、貶めることでしか自分の存在意義を示せない』という歪んだヒューマノイド文明が少数ながら貴殿への全権委任に反対したがな。

 だが圧倒的多数の文明によって徹底的にボコられたので、連中も今後1000億年ほどは大人しくしているだろう』


(どんな風にボコったのか聞いてみたいけど……) 


 シェパードは、最近覚えたタケルの母国の言い回しである『ボコる』が使えたので内心ドヤ顔になっている。



 タケルはエリザベートを見た。

 エリザベートは静かに微笑みながら頷いている。



「わかりました。

 微力ながら力を尽くさせていただきます」


(まあ最近はこの銀河系銀河救済の目途も立って、人員も資材も資源も余り気味になってたからな。

 家族との暮らしは楽しいが、俺自身の任務では少々ヒマを持て余していたし)


『ありがとう!』

『貴殿に大いなる感謝を!』

『さすがの決断力だの!』


「ただ、ひとつお願いもございまして」


『是非聞かせてくださいな』


「わたしはまだ天族の方々の倫理観や行動規範を知りません。

 ですので今後の活動の中で、みなさまの法や倫理に触れてしまうことが無いとも限りません。

 それを避けるためにも、何らかの形で我々に助言を頂戴出来ませんでしょうか」


 天族たちが微笑んだ。


『あの連盟報道部配信をどれだけ分析しても、大いなる賞賛は有りこそすれ、倫理や法に触れる部分は全く無かったの。

 だから心配はしていないのだけど、もしよろしかったら我々3人をアドバイザーとしてこの天域に常駐させて頂けないかしら』


「それは願ってもないことです。

 どうぞ今後ともよろしくお願いいたします」


『『 こちらこそよろしく 』』



『それでね、この銀河系銀河宇宙とその25の伴銀河の救済にある程度の目途が立ったあとは、タケルさんにこの銀河を含む『乙女座銀河団』の総督と救済も任せたいの』


「!!!!!」


(ち、直径6000万光年……

 に、2000億の銀河……)


『それが終わったら『乙女座超銀河団』も』


「!!!!!!!!」


(直径2億5000万光年!

 120の銀河群と銀河団!)



『なにしろ、居住している宇宙が熱的死を迎えつつあって、移住先を検討している文明は億を超えるほどありますし、最近ではそのほとんどがこのチャイルド・ユニバースの銀河系銀河周辺をを候補として希望していますからね。

 最低でもそれぐらいの宙域が無いと』


「…………」


『そのためにも、貴君への銀河間転移能力付与に加えて、口径100メートル級の銀河間転移装置をエネルギーユニット付きで3億組ほど供与させて頂きたい』


「!!!!!」



『それから……』


 天族の代表がやや躊躇いを見せている。


『わたしたち3人から個人的なお願いがあるの……』


「お聞かせください」


『どうかタケルさんたちの仔どもさん方に会わせていただけないかしら』


「???」



『なにしろセルジュくんやミサリアちゃんたちは、10の12乗個もある階梯宇宙全域で大人気のアイドルなんですもの♪

 実際にお会いして握手してもらえたら最高だわ♪』


(銀河宇宙だけでなく天族もけっこうミーハー……)



『セルジュくんやミサリアちゃんやその弟妹さんたちの人形や映像も、ものすごくたくさん売れているんですよ♪

 その肖像権料もちゃんとプールしてありますので後でお渡ししますね♪

 およそ10の30乗クレジット相当になると思いますけど』


「そ、そんなに……」


(俺の総資産に匹敵するんか……)




 こうして天族の3人はタケルの私邸を訪れることになったのである。


 セルジュくんとミサリアちゃんは、52人の弟妹とおやつをたべていた。

 その後は弟妹を引き連れて飛行訓練に出かける予定になっている。

(最近では弟妹が大人数になったので邸の庭だけでは足りず、邸が面している湖上空も訓練の場になっている)


 尚、ミサリアちゃんとセルジュくんは、もうだいぶ大きく成長しており、猫3に対してヒト1ほどの姿になっていた。

 そのため、ミサリアちゃんは赤、セルジュくんは水色のオーバーオールを買ってもらって得意げに着ている。

 キリューくんらを初めとする年長の弟妹たちもそれぞれの色のお洋服を着ており、年少の仔たちにとって、そうしたお洋服姿は憧れだった。

(よくこっそりお姉ちゃんたちの服を着てみているが、半ズボンでも足先がようやく出るだけなので、かなりコミカルな姿になっている)


 ミサリアちゃんを初めとする年長の女の子たちの最近の流行は、ようやく生えそろって来たヒト族型の頭髪をさまざまな髪形にすることだった。

 三つ編みやポニテはもちろん編み込みやハーフアップまで、毎日侍女さんたちに整えてもらっている。

 もちろんそうした大きいお姉ちゃんたちの髪型は小さな妹たちにとっては憧れであり、多くの仔猫たちは周囲を囲んでため息をついていた。


(種族は違っても、この仔たちもやっぱり女の子なんだなぁ……)


 タケルは娘たちを微笑まし気に見ていた。


 尚、タケル邸の侍女さんは大人気の職種であり、今では100人もいるので人手には困らない。

 また、年長の男の子たちの頭髪はタケルの真似をしてほとんどがソフトモヒカンである。

 中にはまだ小さくて猫の体毛しかない仔までおねだりしてモヒカンにしてもらっていた。



 そんな中で、或る日ミサリアちゃんが、パパの母惑星の髪型カタログの中で見つけた日本古来の伝統的女性髪型である大垂髪おすべらかしにチャレンジしてみたのである。


大垂髪おすべらかし:横に張り出し、頭頂部に髻を作った元結掛け垂髪を型やかもじなどを入れてボリュームアップしたものを「おすべらかし」と呼ぶ。

 女性皇族が伝統的な儀式に参列する際に十二単と共に礼装とするほか、一般女性でも結婚式の際にやはり十二単と共にこの髪型にすることがある)



 これを見たキリューくんが感嘆の声を上げた。


「うわー、ミサリア姉ちゃんカッコいいーっ!」


「そ、そうかにゃ……」


「それにすっごい迫力!」


(迫力?)


「あれ?

 頭の後ろに模様が無いよ?」


(模様???)


「だってそれって地球の動物図鑑に載ってた『怒ったキングコブラ』の真似だよね?」


「シャ―――ッ!」


 ガブッ!


「うわあぁぁ―――ん!

 姉ちゃんが噛んだぁぁぁ―――っ!

 ぐすんぐすん……

 ま、まさか姉ちゃんのキバから毒出てないよね?」


「シャシャシャ―――ッ!」


 ガブガブガブッ!


「ぎにゃぁぁぁ―――っ!」


(後でキリューくんに『雉も鳴かずば撃たれまい』という諺を教えてあげよう……)

 タケルはそう思っていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 タケルと天族たち一行は、直通の転移装置を通って総司令部から私邸に移動し、リビングに入った。

 尚、このリビングは800平方メートルもあるのだが、仔どもたちが54人もいるために大分手狭に感じるようになってきている。



 天族たちが数歩前に出た。


『まあ!』 『『 おお! 』』


『ほ、本物のセルジュくんとミサリアちゃんだわ!』


『それにキリューくんとフレディくんも!』


『エミリちゃんとベラちゃんもいる!』


「「「 ?????? 」」」



「あれ?

 お姉さんは大人ににゃっても猫の姿のままにゃの?」


『そうなのよ、これがわたしたちの種族特性なの』


「へー、そーなんだー」


 天族のミヌエットがミサリアちゃんの前に膝をついた。

(ミサリアちゃんの身長はまだ1メートルほどである)


『あの、ミサリアちゃん、握手させていただけないかしら……』


「??? もちろんいいにゃよ?」


『ありがとう! 感激だわ!』



 天族の3人は相好を崩しながら年長の仔どもたちとも握手をし、その後3人はソファに座り、その周りに54人の仔どもたちがたかって記念写真も撮っていた。

 大勢の小さな仔たちが((( 撫でて撫でて♪ ))と言って纏わりついて来たので、天族たちは感激しながら仔猫たちを撫で廻している。

 ミヌエットさんは涙目になっていた。



「あにょ、これから私たち弟たちや妹たちを連れて飛行訓練をするんですけど、よかったらお姉さんやお兄さんたちも一緒に如何ですか?」


『まあ!』 『『 おお! 』』


 こうして天族たちは仔どもたちと一緒に飛行訓練をすることになったのである。



 タケル邸の庭から仔どもたちが飛び立った。

(生まれたばかりの仔はお兄ちゃんお姉ちゃんの背中に乗っている → これも相当にコミカルで可愛らしい)


 子供たちの編隊がタケル邸前の湖に差し掛かると、湖畔リゾートにいた休暇中の救済部門職員やその家族から大歓声が上がった。

 その職員や家族たちも続々と飛び立って、仔どもたちの編隊の後ろにつく。

 彼らは毎日この時間になるとタケルさまの仔どもたちが飛行訓練をすることを知っており、いつもこれにジョインするのである。

 今日も万に近い数の人々が綺麗な編隊を組んでいた。


 もちろん全員が身体防御の魔法をかけているが、湖面には万が一に備えて念動魔法も使えるイルカ型やマーメイド型の救助ドローン1個中隊が遊弋している。




 タケルとエリザベートは邸のバルコニーからこの光景を眺めていた。


「はは、これで仔らが大人になっても各銀河系の総督代行という仕事に就かせてやれるの。

 もちろん銀河の学問を修了し、意欲をもって希望する者だけだが」


「でも世襲制には少々抵抗もあるんですけど……」


「なに、妾と同じように報告だけを受けて、その中で深刻なもののみをそなたに丸投げするだけの役割にすれば問題も無かろう。

 それに、そのような形にすれば、救済部門の職員たちが総督代行の地位を求めて無理な出世競争を試みることもあるまい」


「なるほど」


「はは、我らの仔らは将来数億光年の宇宙に広がって救済を為すのだな。

 そして、大きな問題があれば、そなたの率いる大艦隊が銀河団を渡っていくわけだ♪」


「はい……」


(セルジュやミサリアが総督代行を務める宙域……

 なんかますます天族に人気化しそうだな。

 移住地の代価を他より高額に出来たりして……)



「だがもちろん、仔らとその家族には、銀河間転移装置を使って毎日この邸に戻り、家族全員で夕食を取ってもらいたいがの」


「それでしたら、もう少し大きなダイニングやリビングのある邸も作っておきましょうか」


「よろしくの♪」





 タケルとエリザベートは、静かに微笑みながら仔どもたち率いる大編隊の飛行訓練をずっと見守っていたのであった……





                        <異世(星)界救済> 了








長らくのご愛読ありがとうございました……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ