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*** 243 パパってしゅごい♪ ***

 


「どうだ、見た目がそっくりなキリューとフレディでは区別がつかないであろう」


 我が仔がどちらかわからなくなってしまったジョセフィーヌは少し顔が蒼褪めている。


「お、お母さま、なぜ突然区別がつかなくなってしまったのでしょうか……」


「それはの、そなたたちはいつも仔どもらを識別する時には無意識に匂いで区別していたからなのだよ。

 猫の嗅覚はヒト族の数万倍から10万倍もあるからの。

 そなたらは、帰宅したタケルの匂いを嗅げば、タケルが昼食に何を食べたかすぐにわかるであろう」


 3人がこくこくと頷いている。


「それに対し、動体視力はともかく猫の静体視力はヒト族の10分の1ほどでしかないからの。

 ジョセの体はもうほとんどヒト族のそれに近いが、それでも嗅覚はヒト族の千倍はあろう。

 つまり、そなたたちは視覚と嗅覚のうち、得意な嗅覚を使って相手を識別していたのだ。

 だからこうして遮蔽フィールドで隔てられていると、仔らの区別がつかなくなってしまうのだな」


「なるほど……」

「「 にゃるほど…… 」」


「つまり、我らが仔どもらを容易に識別出来るのに対し、タケルが出来ないのはタケルがヒト族であるから、つまり種族の違いということになるのだ。

 もちろんヒト族であれば、見た目がそっくりなキリューとフレディやエミリとベラの区別は誰も出来ないであろうの。

 種族特性によって出来る出来ないを考えても意味は無いぞ。

 そういう種族特性の違いを理解することこそが、銀河連盟のような多種族共同体の根幹だからの」


「「「 はい…… 」」」



「もうひとつ試してみようか。

 のうマリリーヌ、妾が生後2週間のころ、ジョセが生後2週間のころ、ミサリアが生後2週間のころの写真をプリントアウトして出してくれるかの。

 ああ、縮尺も揃えてな」


『はい』


 エリザベートはその3枚の写真をシャッフルして3人の前に並べた。


「どうだそなたたち、区別はつくか?」


「「「 ………… 」」」


「やはり匂いが無ければわからぬであろう。

 だが見てすぐわかる通りに今の妾とジョセではこのように容姿も大きく異なっておる。

 つまり成長するにしたがって見た目での区別がつくようになっていくのだ。

 故にあと1年もすればタケルも仔らの区別がつくようになっていくだろう。

 だからジョセよ、タケルが自分の仔を見分けられなかったからといって、あまり一喜一憂するでないぞ。

 タケルが仔の名前を間違えた際に、そなたが肩を落としているのを見てタケルは実に申し訳なさそうにしておるからの」


「はい……」


「だがこの名前当ては面白いの。

 家族で出来る遊びとしてこれからも続けていこうではないか♡」


「「「 はい♪ 」」」



 因みにだが……

 このエリザベートとジョセフィーヌとミサリアちゃんの生後2週間ごろの写真を見たタケルは、『このヤンチャで生意気そうなのがエリザ、次にヤンチャそうなのがミサリア、一番優しそうなのがジョセフィーヌ』と完璧に当てて見せたのだが、決して口にはしなかったそうだ……



 こうしてリリアローラ家では、毎日夕食後に楽しい家族ゲームが続いていったのである。

(タケルが子供らの名前を間違えても、ジョセフィーヌが特に気にしないようになっていたのでタケルも安心していた)


 そんな或る日、名前当てゲームの途中でキリューラスくんが念話で発言したのである。


(それにしてもパパってしゅごいね♪)


 すかさずミサリアお姉ちゃんが突っ込んだ。


「キリューくんはパパのどんにゃところがしゅごいと思ったにょかな?」


(だって、パパが僕とフレディくんやエミリちゃんとベラちゃんの名前を当てようとするとき、1人目を当てられるのは半々ぐらいだけど、2人目の名前は必ず当ててるからしゅごいと思ったにょ)


 キリューくん以外の全員がジト目でキリューくんを見た。

 キリューくんは不思議そうに首を傾げたあとにペロペロと前足の肉球を舐め、その前足で顔を撫でて毛繕いを始めている。


(こいつは将来大物になるかもしれないな……)

 タケルの親バカが炸裂していた……



 こうした家族の団欒というかゲームが1か月ほども続くと、キリューくんたちも随分と大きくなってきた。

 もうお腹を床につけたままではなく、4本の足で立って歩けるようにもなっている。

 このころになると成長の差もあるようで、タケルもどうにか子供たちを見分けられるようになってきた。


(キリューくんの方がフレディくんより少しだけ体が大きくてふっくらしているな。

 エミリちゃんのしっぽはベラちゃんより少しだけ長いし……)


 こうしてタケルの名前当てもかなり正解率が上がって来たのである。

(もっとも2人並んでいれば分かるが、1人ずつ前に座られると途端に怪しくなる)



 そうした或る日、タケルの前には3人の白仔猫が並んだのである。


(なにこれ……)


「ははは、タケルよ、その3人はもちろんミサリアとエミリとベラだ。

 もっともミサリアに頼まれて、『変化へんげ』の魔法で体の大きさを皆同じにしてあるが。

 さあ、誰が誰だか当ててみてくれ♪」


(げげっ!)


 タケルの額に汗が浮かんだ。


(し、仕方ない……

 精一杯頑張って見分けてみよう……)


 タケルは3人を見渡した。

 左側の仔は前足を舐めて毛繕いをしている。

 真ん中の仔はいたずらっぽい表情でタケルの目を見返して来た。


(表情豊かな仔猫って可愛いな……

 間違いなくこの仔がミサリアだろう)


 タケルは仔猫たちの後ろに回ってしっぽを見た。

 やはり真ん中の仔のしっぽがいちばん太くて長い。


 右側の仔はくわーっと口を開いてあくびをしている。

 そのしっぽは左側の仔に比べて少し長かった。


「わかった、この仔がベラちゃんで、キミがミサリア、そしてこの仔がエミリちゃんだ!」


「うにゅぅ―――! せ、正解にゃ……」


 タケルは男の仔たちの名前もなんとか当てることが出来たようだ。




 そして次の日。


 タケルの前には『変化へんげ』の魔法で白と黒の市松模様になった同じ大きさの仔猫たちが6人並んでいた。

 彼らは兄弟姉妹が皆同じ模様になっているので大興奮しており、組んず解れつの取っ組み合いをしている。


(も、もう許して……)



 もちろんタケルはすぐには正解出来なかったものの、普段から子供たちを撫で廻して体の特徴を把握しようと努力していたために、3週間も経つとなんとか当てられるようになっていった。

(仔どもたちはパパに毛繕い(=撫で廻し)をしてもらって大喜びである)



 次にタケルは白黒のシマウマ柄になった仔どもたちの識別も出来るようになっていた。


(みんな見た目は似てるけど、骨格はけっこう違うもんだな……)




 そして数日後。

 タケルの前にはミサリアちゃんが座っていた。


「それではパパしゃん、いよいよ最終決戦を行にゃいます」


(俺はいったい何と戦わされているんだろうか……)


「準備がありますにょでパパしゃんは隣のお部屋に行っていてくだしゃい。

 準備が終わったら念話で伝えますにょで、このリビングのソファに転移して来てくだしゃい♪」


「お、おう……」




(それでは準備が終わりましたにょで、リビングのソファに転移してきてくださいにゃ♪)


 言われた通りにタケルはソファに転移し、その場で大硬直した。


「!!!!!!!!!!!!!」


 そう、ソファの前に端然と座っていたのは、しっぽを除いても体長が1メートル半はありそうな巨大な白い2人の猫だったのである。



「もちろんこの2人は『変化へんげ』の魔法で白猫ににゃったエリザママとジョセママにゃ。

 さあ!

 どっちがエリザママでどっちがジョセママか当てて下さいにゃ♪」


 タケルの額に大粒の汗が浮かんだ。


「もちろんパパにも、ママたちを間違えたら大変にゃことににゃるのは分かるでしょうにゃ♠」


 ミサリアちゃんが不敵に微笑んでいる。


(み、見た目では全く区別がつかん……

 でも確かに間違えたら激ヤバだ……)


「あ、あの、撫でてもいいのかな?」


「お触り禁止にゃ」


(お触りて…… 行ったことないけどキャバクラじゃないんだから……

 ん? 待てよ……)



 タケルはしゃがんで右側の巨大白猫に顔を近づけてみた。

 白猫は嫣然と微笑んでいる。


(たぶんこっちがエリザだな。

 それにしても、美人は猫に変化へんげしても美猫だ。

 でも念のため……)



 タケルは左側の巨大白猫にも顔を近づけてみる。


 ンゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……


 途端に大白猫はびっくりするほど大きな音で喉を鳴らし始めた。

 フェロモンらしき甘い香りも盛大に漂って来ている。

 毎晩嗅いでいる香りのせいか、これはタケルにも識別が出来たようだ。


「わかった!

 こっちがジョセフィーヌで、こっちがエリザベートだ!」


「うにゅにゅにゅにゅにゅにゅ……

 ジョセママ!

 いくらパパが好きすぎでも、そこまで喉を鳴らしたらすぐにバレちゃうにゃ!」


「ご、ごめんなさい……

 喉を鳴らすなんて仔猫のとき以来なんで止め方がわからなくって……」


「た、たしかにあれは不随意運動だったにゃ……」



 エリザベート猫がタケルに向かって微笑んだ。


「のうタケルや、こうして妾たちも猫の姿になった上に仔らもおる。

 そなたも猫に変化へんげしてみてはくれんかの♪」


「えっ……」


 こうしてタケルは人生初の猫姿になったのであった。




「失礼いたします。

 お飲み物をお持ちしました」


 リビングのドアを開けて入って来た侍女さんたちは盛大な悲鳴を上げた。


 目の前にはしっぽを除いても体長が2メートル近い巨大黒猫が寝そべり、その左右に黒猫ほどではないにせよ、やはり大きな白猫が2人ぴったりとくっついて寝ている。

(何故か黒大猫は口を開けて放心したような表情をしていた)


 その上にはまるでごま塩をふりかけたように、6人の黒仔猫と白仔猫がうにゃうにゃとまとわりついていたのであった……



(ま、まあこれで毎晩の戦いやら試練とやらからは解放されたかな……)





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