*** 240 その後の組合連合国 ***
国軍の大佐が国王に向き直った。
「わたくしもこの方に質問してよろしいでしょうか」
「許す……」
「タケル殿、もしよろしければ教えていただきたい。
貴殿直属の強兵は何人おられるのか」
「今は星々の間に散らばってそれぞれの星を助けているがな。
全員集めれば8億だ」
「「「 !!!!!!!!! 」」」
王子だけは8億という数字の意味が分からないようだ。
「なぁ大佐、この阿呆王子に教えてやってくれ。
この国の今の最大動員兵力は何人だ」
「そうですな、近衛騎士団500、国軍の残り2個師団2000、公爵家子弟軍をさらに集めて3万弱、貴族家領兵団を集めて5万弱、併せて8万と少々でしょうか」
やはり他国との戦がほぼ無い世界だけあって、戦力も大分少ないようだ。
「どうだ畏れ入ったか!
我が国には8万もの戦力があるのだぞ!
キサマのような蛮族にはわからぬだろうから余が教えてやるが、8万とは8人の1万倍だ!
お前はそれだけの国力を持つ我が国の王族に先ほどから不敬を重ねているのだ!」
阿呆王子がドヤっている。
国王と宰相が撫で肩になった。
「なあそこの残念王子、8億ってぇのはな、お前ぇの国の現有総兵力の1万倍なんだよ」
「!!!!!!!!!!!!!」
「阿呆にモノを分からせるには、こうした兵力比較の方が分かりやすいだろう。
お前ぇはそれだけの軍事力を持つ俺を無礼者と罵ったんだぜ」
「はぅあ―――っ!」
「さて、お前ぇたちの軍相手に遊んでるうちに、部下たちに任せていた戦士村の統合も大分進んだようだ。
既に約1600ある戦士村のうち、1200近くが戦士村連合に加盟している。
だからこの国を囲む大城壁も約75%が建造を終えている。
このままいけば、あと5日ほどで国の周囲を囲む大城壁も完成するだろう。
その後は他の80の国々でも同様な救済作戦を行い、最終的には西部大森林を全て城壁で封鎖する。
その後は魔物大型化の原因になっている森林地帯の魔素の噴出を徐々に減らし、10万年後には魔物が出なくなるようにする計画だ」
「その遠大な計画を誰が推進していくのだ……」
「俺が属する天界は強大な魔法力を持っていてな。
俺の寿命は3000万年ほどにしてもらっているので俺が推進する」
「「「 !!!!!!!!!!!!! 」」」
「天界とやらにはそこまでの力があるのか……」
「もちろんだ。
だからこそ俺たちがこうして星を渡って来られたわけだからな」
「「「 ………………… 」」」
「それではこの国の支配層の罪と罰について通告する。
まず辺境貴族家の兵たちは、俺が自分たちに敬意を払わなかったというだけの理由で俺を害しようとした。
そこの阿呆王子と同じだ」
「はぅ……」
「これは貴族層の責任であり罪であると認定する。
次に貴族家の領兵は、俺が戦利品として取り上げた銅槍を取り返すために、何の罪もない戦士村の女子供を拉致しようとした。
これも貴族家の責任であり罪である。
その犯罪行為を俺に潰されてさらに武器を失った貴族家18家は、その全兵力に命じて戦士村を襲撃した。
もちろんすべて返り討ちに遭ったが。
これも貴族家の責任であり罪である」
「「「 ……………… 」」」
「さらにこの報告を受けた国王は、第1王子に命じて戦士村討伐軍を組織した。
しかもその目的は、もし勝利したとすれば独立を宣した戦士村を討伐出来るのでそれでよし。
戦に負けても無能な第1王子を廃嫡出来る上に、公爵家子弟を大勢殺すことが出来るという独善的なものだった。
国王自身は屈強な対魔物戦士を相手にまず勝てる可能性は無いと考えていたようだがな」
(やはりあの会話も聞かれていたのか……)
第2王子が驚いた顔で国王を見たが、国王は一顧だにしなかった。
宰相の額には玉の汗が浮いている。
「要は貴族年金を減らして国の支出を減らすため、つまりは自分の使えるカネを確保するために、討伐の名目で公爵家子弟や戦士村の戦士に殺し合いをさせようとしたわけだ。
これは非道な計画殺人と見做されて重罪とされる。
つまりお前ぇは自身の統治能力の無さをヒトの命で補填しようとしたわけだ。
しかもそのような理不尽な理由で殺される戦士村の一般人のことは一切考慮していない。
これも大量殺人計画として罪に加算される」
「「「 ……………………… 」」」
「いいか、お前たちが高貴だなんだと言って何も生産せずに生きて来られたのは、戦士村の戦士が命を張って襲い来る魔物を退治していたからだ。
にも拘わらず、お前ぇらはワザと戦争を起こして戦士たちや己の配下である貴族を大勢殺し、己の失政をチャラにしようとした。
我々星々の法律専門家によれば、これは終身刑、即ち死ぬまで牢に入れるという刑罰に値するとのことだ。
残念ながら星々の法は死罪を認めていないからな。
よって俺の判断で、お前ら王族と貴族を潰す」
「「「 !!!!! 」」」
「どうやって我らを殺さずに潰すというのだ……」
「簡単なことだ。
まずこれより王と名乗る者、王として即位しようとする者は自動的に我ら救済部門の牢に転移させる。
今後未来永劫にだ」
「「「 !!!!!!!!!!! 」」」
「もちろん一連の処置が終わった後には、大量殺人計画の首謀者として今の国王と宰相も牢に入れる」
「「「 ……………………… 」」」
「また、この国の中央部にある旧王族領貴族領を全て大城壁で封鎖する」
「「「 !!!!!!!!! 」」」
「そうすればお前ぇたちは例え再度貴族だと名乗っても、もう二度と民を脅して税を強奪することは出来なくなるだろう。
もちろん辺境貴族たちもその領軍を含めてその城壁内に転移させる。
数少ない中央貴族領域にいる平民や農民は、その希望により領域内に留まるか外側の平民領域に移住するか選択させる。
また、多少の魔物は城壁内の狩場に転移させてやろう。
お前たちはその邸にそれぞれ広大な庭を持っているだろうから、これからは祖先と同じく、狩場で魔物を狩って庭で農業をして暮らせ。
つまり実質的な平民落ちだな。
ただしお前たちが課していた悪辣な税は無いから、真面目に魔物を狩って農業を行えば暮らしは随分と楽なものになるだろう」
「わ、我ら王族に賤民や農民と同じ暮らしをせよと言うのか……」
「それこそがお前ぇの偉い偉い御先祖サマが連綿と行って来た暮らしなんだよ王子。
尊敬するご先祖と同じ暮らしが出来るんだ。
がんばれよ」
「あぅぅぅぅ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日、ヴェノムの地に住む全ての民に対して、例の念話一斉放送が行われた。
特に強調されたのは、王族と貴族は平民になったこと、よってもはや貴族や王族に税を払う必要は無くなったこと、他者を武力で脅して財物を略取したり、そうした行為を行うよう命令すると、まずは10日間、次に30日間、その次は90日間宙に吊るされ、それでも行いを改めないと裁判の後に牢に入れられることである。
タケルとAIたちは順調に連合に加盟する戦士村を増やしていっていたが、もちろん比較的出現魔物が小さく少なかった村では、『てやんでぇ! 俺っちの村は俺っちが守るっ!』と言って大壁建設に反対する村もあった。
だが、救済部門が首輪とリードをつけて時間停止倉庫で飼っている15メートル級の熊魔物(愛称:くまりんちゃん)をその場に出して見せてあげると、戦士全員がハナミズを垂らしながら首を縦にコクコクと振るそうだ。
それでも『てやんでぇ! 吐いたツバ飲めるかよぉっ!』とイキる組合長もいたらしいが、組合員全員に袋叩きにされて沈黙したそうである。
尚、それでもダメだったなら30メートル級のT-レックス(愛称:レッちゃん)を見せてあげる予定になっているのだが、まだレッちゃんの出番は一度も無い。
また或る日、タケルの前には旧ヴェノム王国戦士村750から来た組合長たちがいた。
「なぁタケルよ。
お前ぇさん、俺っちの組合連合国の総組合長になってくれねぇか」
「いやバルモス、知っての通り俺はこれからもこの星400の国を廻って大壁を作る作業を進めていかにゃあなんねぇ。
それが終われば他の星も助けに行くだろう。
だから総組合長はバルモスにやって欲しいんだ」
「そんならよ、『きゅうさいぶもん』ってぇとこにもお前ぇさんの上司である『ぶもんちょう』ってぇのがいて、普段はなんも口を出さずに報告だけ受けてるんだろ。
んでもってお前ぇさんは、その『ぶもんちょう』代行として『ぶもん』を仕切ってるんだろ。
だからよ、お前ぇさんにゃあやっぱり総組合長になってもらいてぇのよ。
ゆくゆくはこの星全域の組合大連合も出来るだろうけど、その総長にも。
俺ぁあんたと同じ総組合長代行でどうだ?」
見渡せば組合長全員が頷いている。
「わかった。
それじゃあ報告だけ受ける総組合長を引き受けさせてもらうわ。
それでなんかみんなが困ることがあったらまた助けに来るからよ」
こうして、この惑星ダンジョーンには在任期間3000万年の驚異の組合総長が誕生することになったのである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1年後。
ヴェノム王国中央部封鎖地帯では、かつて360万人もいた旧王族貴族の人口が僅か2万人になってしまっていた。
やはり彼らは他者の生産物を奪うことでしか生きていけなかったのだ。
ほとんどの旧王族貴族は強盗未遂、もしくは強盗教唆の罪で天界刑務所に服役している。
残った2万人の大半は旧王城に住み着き、王城は香港の旧九龍城砦のようになっているそうだ。
このため元王族貴族が暮らす城壁内の面積は大分縮小されていた。
平民・農民領域では元領兵たちを中心に逮捕者が続出してやはり人口は急減していたが、豊富な食料生産と犯罪を試みた者が直ちに宙に吊るされる治安の良さから、人口は急速に増え始めている。
あのちんちん切り取られ領兵たちは、惑星ダンジョーン初となるおかまバーを経営し始めているらしい。(←ウソ)
今や戦士村連合の加盟戦士村は20か国で8000を超えており、くまりんちゃんは比較的魔物が少なく大壁建設と連合加盟に消極的だった戦士村を200か所以上も連合に加盟させている。
その功績を称えてAI娘たちがイケメン雄熊を捕獲してきて交尾をさせてあげた。
すぐに可愛らしい子熊も2頭生まれている。
(愛称:くまぽんちゃん、くまぴーくん)
親子3匹はブルガ村に作られた魔物動物園でのんびり暮らしていた。
(熊は番を作ることは稀で、子熊は通常母熊と暮らす)
くまぽんちゃんとくまぴーくんは、よくじゃれあって遊んでいるが、もちろんくまりんお母さんは美味しい果物をむしゃむしゃ食べていて見向きもしない。
だが、くまぽんちゃんもくまぴーくんも体長は5メートルを超えるのだ。
初めて動物園を訪れたまだ体が小さい幼稚園児たちにとっては、ほとんど怪獣大決戦である。
しかも熊さんたちは檻ではなく透明な遮蔽フィールドの中にいるのだ。
そのため、幼児のほとんどは立ったまま白目になってじゃーじゃーとおしっこを漏らしているが、小さいうちから魔物の恐ろしさを教えるという教育的観点から動物園への遠足は組合によって推奨されている。
今後はくまりんちゃん一家だけでなく、うさぎ魔物や狼魔物の展示も予定されていた。
ただ、15メートル級の蜘蛛魔物やカマキリ魔物、20メートル級の蛇魔物、30メートル級のレッちゃんなどは、大の大人でもじゃーじゃーになってしまうために、展示中止が検討されている。
この魔物たちの様子を至近距離から3Dホログラム映像によって紹介した銀河連盟報道部の配信回では、銀河全域のお茶の間もじゃーじゃーになってしまう大惨事が広がってしまっていた。
特にうっかり映像縮尺を『実物大』にしていたお茶の間では、発狂者も出るほどの騒ぎとなっている。
部屋の中では実物大レッちゃんが現れても足しか見えないが、それでも十分に恐ろしいらしい。
まるで迫って来た大怪獣の足が屋根をブチ抜いたように見えるそうだ。
(もちろん発狂しても銀河技術ですぐに治る。
尚、この実物大映像をひとごみで再生した者は騒乱罪でタイホされるそうだ。
小箱を開けると突然この映像が再生されるびっくり箱も、『発狂びっくり箱』と呼ばれてすぐに製造・販売が禁止されている)
その配信回のディレクターが、首から『ごめんなさい、もうしません』と書かれた板を下げ、正座させられている映像も紹介されていた。
どうやら銀河連盟評議員の半数がじゃーじゃーになり、残り半数は発狂していたらしい。
高度文明社会では野生肉食獣の驚異など有りえないが、惑星ダンジョーンでは壁1枚隔てた森の中にこんな化け物がうようよいるのである。
そんな暮らしを想像しただけで、発狂トリガーには十分らしい。
ブルガ戦士村ではガキンチョたちが物陰に潜み、ミニスカート(救済部門の売店で購入)のお姉さんが通りかかると、『乾燥機魔法』を当てて宙に吹き上げるイタズラが流行しているが、見事に着地をキメたお姉さんたちが棍棒を持ってガキンチョを追いかけ回すために、良い足腰の鍛錬になっている。
ただ、加入間もない他の国の戦士村からの視察団は、この光景を目も口もかっ広げて見ているそうだ。
現在戦士村連合会に参加している20の国の間には連絡用の大壁通路が建造されており、各地の特産物交易を促進する一方で、スタンピード防衛の役割を果たしている。
大陸の沿岸10か所には、海と海岸を直径10キロほどの大壁で囲んだ製塩村が作られ、大壁通路を通じて各国に塩が供給されるようになった。
かつて命懸けで海岸で塩を作り、これも命懸けで魔物の森を通って塩行商をしていた戦士集団は、全員がこの仕事に就いてのんびり荷馬車を運航しているそうだ。
彼らはたいへんな高給取りなので、大壁通路のところどころに作られた宿場街で大いに散財して喜ばれている。
旧国軍情報部の者たちはその多くが救済部門に雇われ、惑星各地に散って貸与された通信の魔道具で各地の様子を報告しているそうだ。
そして千年後。
惑星戦士村大連合の本部が置かれた旧ブルガ村、現首都ブルガの中央政庁に隣接する博物館には、あの初代連合総長タケルさまが使用されていた石斧が保存の魔法をかけられた上で宝物として収蔵されている。
(尚、現在でも総長なのでずっと初代のままである)
その石斧は『神斧タケルカリバー』と呼ばれ、惑星最高星宝とされていた。
今日は100年に一度総長タケルさまがご来訪下さる日であり、惑星全域から大陸縦貫・横断高速鉄道を使って、また富裕層は運航が始まったばかりの飛行船を使って、大変な数の人々が惑星首都ブルガに集まりつつあった。
そして、首都郊外に建造された20万人収容の巨大コロシアムにて、タケルさまが『神斧タケルカリバー』を素振りしてくださるエキジビションが開催されるのである。
あの神斧は毎年予選を勝ち抜いた強者たち3人が振ることを許されている。
惑星最高の強者たちでもかろうじて『ふーん』という風切り音しか出せないが、タケルさまはこれを軽々と振って『びゅごぉっ!』という信じられない音を出されるのである。
さらにその斧の先端からは音速突破の衝撃波により白い霧も発生するのだ。
20万人の観客たちは熱狂していた。
その後のタケルさまと救済部門戦士長オーキー殿との戦闘訓練では、興奮のあまり鼻血を出す者が続出する。
なにしろ2人とも腕を蹴り折られた後でも平気で相手に殴り掛かっていくのである。
(もちろん痛覚低減レベル1500のスキルがあるため、ほとんど痛くは無い)
星民のほとんどが対魔物戦士の末裔であるため、この惑星は将来銀河有数の脳筋惑星として名を馳せることだろう。
パレードの後の歓迎晩餐会では、地方行政区の代表50人がタケルさまが一口飲んだエールのカップを拝領し、次々にタケルの舎弟になっていった。
やはり感激のあまり泣いている者も多い。
彼らも多くの部下や若者たちに一口飲んだエールのカップを渡し、次々に又舎弟が増えて行っている。
タケルの舎弟は、こうした又舎弟や又々舎弟などを含めると、この一千年間でのべ一千億人に到達したとのことである。
タケルのパレードを見た観衆たちは、この惑星唯一の魔物動物園を訪れたり、星宝として保存されている旧ブルガ村の遺跡を見学に行く。
そこには一千年前にタケルさまが宿泊されていた石造りの宿舎や、タケルさまが破壊されてしまった監視塔、タケルさまが最初に舎弟を持たれた時に使われた土器のエールカップなども展示されているのであった。
尚、動物園の魔物展示場所横には『クリーン』の魔法を使える職員が常駐し(お1人様1回銅貨1枚)、売店では念のため替えパンツも売られているそうである……




