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*** 238 タケル登場 ***

 


「それからあの巨大魔物が現れた現象。

 あれには2つの可能性がございます。

 1つ目は、あの巨大魔物が実際に魔物の森に生息していて、それを転移魔法で連れて来たというもの。

 2つ目は遠方にある物を、すぐ近くにいるように見せる『遠視の魔法』だったという可能性でございます」


「ということは、実際には小さな魔物を大きく見せかけていた可能性もあるということか」


「いえ、お言葉ですがそれは無いでしょう」


「なぜそう思う」


「動物は、体が大きくなるほどそれを支える脚が太くなります。

 あの熊の魔物もカマキリの魔物も蜘蛛の魔物も、頭部や体に比して脚部が異様なまでに太くなっていました。

 もし実際は小型の魔物であれば、もっと脚は細かったものと思われます」


「そうか、体高15メートルなどという本物の化け物が魔の森にいるのか……

 そんな化け物と戦える戦士たちに我らは戦を仕掛けてしまったのだな……」


「はい……」



(まさかこれほどまでの大敗を喫しようとは思ってもみなかったが……

 それでもあの阿呆な第1王子と無能な公爵家縁者1万7000を減らすことが出来たか。

 遠征軍派遣目的の半分は達成出来たということだな。

 これで口減らしと同時に惨敗の咎をもって、公爵家貴族年金を半額にすることも出来ようの)



 そのとき、王宮の周囲が俄かに騒がしくなった。

 あちこちで大声や悲鳴が響き始めたのである。

 第2王子は賤民軍が攻めよせて来たのかと思って腰を抜かした。


「近衛騎士団長、部下を派遣して状況を把握せよ」


「はっ!」


 騎士団長の副官が直ちに退出したが、間もなく戻って来た。


「申し上げます!

 王宮周辺の庭園に裸にされた男たち1万数千名が突如現れました。

 どうやら大敗した遠征軍の貴族将兵と見られ、その中には第1王子殿下のお姿もございました。

 現在医務官が手当を始めたところでございます!」


「死傷者の数は」


「死者はおりませぬ。

 ですが全員が重大な負傷を被っているか、わけのわからぬことを口走りながら逃げようとしております。

 どうやら初陣病にて発狂しているものと……」


「そうか……」


(口減らしも出来なんだか……

 これで目標達成率は4分の1だの……)



「さらに大きな看板も現れておりまして、その看板には、

『不要な弱兵は全員返却させていただきます。 戦士村連合国』と書いてございました」


「「「 ………… 」」」



 そのとき、またもや場内が騒がしくなった。

 しかもその大声や悲鳴が徐々に国王執務室に近づいて来ているように聞こえる。

 近衛騎士団の騎士が再度状況を確認しに出て行った。


 だが、すぐに執務室の外で大きな音がし、扉と共にその騎士が執務室に吹き飛ばされて来たのである。

 その後には見事な軍服姿の大男が続いていた。


「よう、ここが国王執務室であんたがこの国の国王だな」


「誰だキサマはっ!」


 近衛騎士団長の誰何の声が飛ぶ。


「俺は戦士村連合国の組合長代行兼外務大臣のタケルだ」


「「「 !!!!!!! 」」」


「それにしてもお前らの兵は弱ぇな。

 城の入り口からここまで200人ばかりの兵がいたが、全員俺に倒されて廊下で寝てるぞ」


「ええい、この慮外者を成敗せよっ!」


 騎士団長の命令と共に近衛騎士2名が大きな鉄剣を抜いて切りかかって来た。

 だがタケルはその刀身を難なく両手で掴む。

 同時に『身体強化レベル700』によって3000トンになっている握力で刀身を砕いた。


「「「 !!!! 」」」


「あのなぁ、剣で人を切るときにゃあ、腕じゃぁなくって腰で切るんだよ腰で。

 お前ぇら腰が入ぇってねぇぞ腰が」


 その言葉と同時にタケルの蹴りが2人の近衛騎士の腰に入った。

 鎧と共に内臓を粉砕されて2人が跳ね飛ばされる。


「「 ぐぅげぇぇぇ―――っ! 」」


「あー、ちぃっと強く蹴り過ぎたか。

 このままだとすぐ死んじまうな。

『セミ・エンゼルキュア』」


 血反吐を吐いて転がりまわっていた2人が白い光に包まれた。

 白い光が収まると、騎士たちは呻きながらもその場に倒れているだけになっている。


「で、伝説の治療魔法……」


「よう、あんたが情報部の大佐だな。

 さっきの報告は見事だったぞ。

 きちんと主観と客観を分けて報告するのはなかなか出来ることじゃあねぇ」


「ま、まさかずっと聞いていたのか……」


「ん? 遠視の魔法があるなら遠聴の魔法もあって当然だろ?」


「…………」


(この王城内の様子も会話もすべて敵軍に筒抜けだったということか……)



「ところで近衛騎士団長サマよ。

 あんた部下にだけ戦わさせて、自分じゃあ戦わねぇつもりか?

 お前ぇ、どんだけ根性無しなんだぁ?」


「い、言わせておけばこの賤民めぇっ!

 死ねぇぇぇ―――いっ!」


 騎士団長は大剣を抜くとタケルに突きかかって来た。

 だがタケルはその剣先を掌で難なく止め、そのまま握り込んだ。


「「「 !!!!! 」」」


「まず突いて来たのはいい判断だと褒めてやる。

 最も避けにくい初動攻撃は突きだからな。

 だがどうせ突くなら槍にしろ。

 武器にはまずリーチが必要だ」


 騎士団長は必死に剣を引こうとしているが、微動だにしていない。


「や、槍など下級貴族や平民の雑兵が使うものだ!

 高貴な公爵家の嫡男である余が使えるかぁっ!」


「そうかいそうかい」


 タケルは剣先を押さえる一方で、もう片方の手で柄に近い刀身を掴んだ。

 そのまま錬成と柔化の魔法を使い、刀身をくるくると丸めて行く。


「「「 !!!!! 」」」


 タケルくんお得意のオチョクリ技、剣ダンゴである。


「か、家宝の宝剣がぁぁぁ―――っ!」


 タケルが手を離してやると、騎士団長はけん玉のように丸められた宝剣を呆然と見ていた。

(これがホントの『剣玉』♪ ププッ)



「そんな偉ぇお貴族さまが使うんならよ、そんなヤワな安い剣じゃあなくってもっといい剣を使えや。

 それにな、突きを選択したのはまだいいが、脚が全くついて行ってねぇ。

 突きってぇもんは脚で突くんだ脚で」


 タケルのローキックが騎士団長の太腿に炸裂した。


 ぼぎっ! 「ぎゃぁぁぁ―――っ」


 尚、タケルと騎士団長の身長差が40センチ以上あるために、普通のローキックが太腿に入ってしまったようである。


「たかが脚の骨が折れたぐれぇでいちいち悲鳴上げてんじゃねぇぞ。

 それでも武人かよお前ぇ」


「ぎゃぁぁぁ―――!」


「あー煩ぇ、『遮音』」


 騎士団長が口パクになった。



 タケルが指を鳴らすとその場に巨大で豪奢な椅子とサイドテーブルが出て来た。

 テーブルの上にはジノリのカップに入った香り高いコーヒーも出て来ている。

 タケルは椅子にどっかりと座って脚を組むと、カップに口をつけた。



 第2王子がイキった。


「こ、この無礼者めぇっ!

 陛下や王族である余の前で許しも無く着席するとは何事だぁぁぁ―――っ!」



(突然現れた椅子や飲み物は気にもせず、王族である自分の前で勝手に座ったことのみを問題にするか……

 この第2王子も第1王子と同じレベルの阿呆よの)


 情報部大佐はやや肩を落とした。

 よく見れば国王の肩も少し下がっている。



「なあ、王子殿下サマとやらよ。

 なんで王族の前で勝手に座ると問題なのか教えてくれやぁ」


「そんなことも分からんのかこの賤民めがっ!

 国王陛下や王族に敬意を払うのは当然であろうっ!

 無礼打ちに致すぞっ!」


「それで、誰が俺を無礼打ちに出来るんだぁ?」


「!!!!!」


「お前ぇの頼みにする近衛騎士団とやらは、全員俺にぶっ倒されて惨めに床に転がってるだろうがよぉ。

 それともお前ぇが俺を切んのか?

 面白ぇ、相手になってやんよ」


 タケルの手に光り輝く大剣が出て来た。


「「「 !!!!! 」」」


「お、王族に剣を向けるとはぁっ!」


 威勢のいい言葉とは裏腹に第2王子の股間が濡れ出している。


「ははっ、この剣はこんなことも出来るんだぜ」


 タケルの持つ剣の先から眩い光が輝いた。

 光条そのものは見えないが、出力1200TWh、日本全国の総発電量に匹敵するエネルギーを誇る赤外線レーザーが瞬時に城の外壁をブチ抜く。

(ヤシマくんも真っ青♪)


 タケルが剣先を動かすと壁の穴が丸く大きくなっていき、穴の切断面ではしゅうしゅうと微かな音を立てて岩石が蒸発している。


 タケルはレーザーを止め、剣も消した。


 執務室内にいた男たちは、王城の壁にぽっかりと開いた穴をまじまじと見つめている。



 宰相が掠れた声を出した。


「ひとつ教えていただきたい……

 なぜこの力を使って我がヴェノム王国の兵を皆殺しにしなかったのだ……」


「タマス領の領兵は、俺が公正な比率での肉とエールの取引を宣告した途端に俺を殺そうとした。

 チンボラーゾ侯爵麾下の辺境貴族家は、俺たちが独立を宣言しただけで俺たちを殺そうとして兵を攻め込ませた。

 そしてヴェノム王国も、賤民と蔑む我らが独立するのは不敬だとして軍に俺たちを殺させようとした。

 そういえば、そこにいる阿呆王子などは俺が勝手に座っただけで俺を殺させようとした。

 お前たちはなにか気に入らないことがあると、すぐに相手を殺そうとする。

 それは完全に蛮族の所業だな。

 俺たちは文明人なのでそのようなことはしない」


「そうか……」


「お前ぇらの祖王も同じだったんだろう。

 あの王は俺の前で断りも無く勝手に座った。だから殺す。

 あの王は俺のところに貢物を持って挨拶に来なかった。だから殺す。

 あの王は俺が国を寄越せと言ったのに拒絶した。だから殺す。

 お前ぇらが祖王から受け継いだ血があるとすれば、そうして気に入らない奴をすぐに殺そうとする蛮族の血だろう」


 王子がまたイキった。


「そのような言動こそが王族に対し不敬だといっているのだぁっ!」


 王子は国王と宰相が残念そうな顔をしているのに気づいていない。





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