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*** 237 ヴェノム王国軍全滅 ***

 


 まもなく15分が経過し、連合国側の戦士が交代した。

 ニャジローくんとオクトパスくんの姿はニャイチローくんやオークランドくんとほとんど変わらなかったが、2人目の戦闘アバター、ヴァルキリール嬢(愛称リールちゃん)は、今度は青いビキニアーマーを纏っている。


 ま、まさか戦隊モノの影響か!

 5人が出終わった後は、よもや『けっこ〇仮面』のマネではないよな!

 それはそれで見てみたいが、このシーンは銀河連盟報道部によって全認定世界に流されて、よい子のみなさんも見ているのだぞ!

 画面の半分がモザイクで覆われるような映像を流してもいいのか!

 ミサリアちゃんが真似をしてもいいのか!


(実はまだミサリアちゃんは全身が猫の毛で覆われているために特に問題は無い。

 現に疲れているときにはヘソ天で足をおっぴろげて爆睡している。

 たまに寝返りを打とうとして隣に寝ていたセルジュくんのテンプルに『おっぴろ〇キック』が炸裂し、セルジュくんを泣かせてはいるが……

 まあジョセフィーヌ辺りは間違いなくあの伝説の『おっぴろ〇キック』の練習はすることだろう)



 さらに15分が経過し、連合国側は3組目の戦士たちが出て来た。

 今度の戦闘アバターは紫のヴァルキリーゼ嬢(愛称リーゼちゃん)である。


 このころになると戦線は膠着状態になっていた。

 いや戦力が拮抗しての膠着ではなく、ヴェノム王国側が逃げようとしてもスペースが無く、勝手に膠着しているだけである。

 3人の戦士たちは、その密集を削り取るように敵兵を戦闘不能にしていった。

 3人目の戦士オクトパスくんは、たまにジャンプしてヴェノム兵をボディプレスで潰して行っている。

 まるでロックコンサートに於けるダイブのようだった。


 全身鎧姿のヴェノム王国兵の人口密度は1平方メートルにつき3名近くになっている。

 戦闘可能な者は残り5000ほどに減っていた。

(あくまで可能というだけで戦意は全くない)



「そろそろ頃合いかな。

 もう2度と連合国を攻めて来させないために連中にトラウマを植え付けてやろうか。

 マリアーヌ、最終兵器を投入せよ」


『畏まりました』



 3人の連合国戦士が消えた後、その場に出て来たのは10メートルから15メートル級の魔物10体のホログラム映像だった。


「「 GAOOOOOO―――N! 」」

「「 KSYAAAAAAA―――! 」」

「「 GACHI GACHI GACHI! 」」


  熊魔物の咆哮、カマキリ魔物の威嚇の音、蜘蛛魔物がその顎を打ち合わせる音が大音量で響き渡る。

(もちろん録音である)


「「「 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 」」」


 前線から100メートル以内にいたヴェノム兵は瞬時に全員が気絶した。

 100メートル以上200メートル以内にいた兵は、半数が気絶して残り半数は発狂している。



 大壁の上にいた国軍情報部大佐も腰を抜かしていた。


(ま、魔物とは、こ、これほどまでに恐ろしいものだったのか……

 このような魔物と日々戦っている超強戦士数万を相手に、我が国は懲罰遠征などを仕掛けてしまったというのか……)



 200メートル以遠にいたヴェノム兵たちは、巨大な魔物たちから逃れようとさらに出口を目指して動き始め、人口密度は1平方メートルにつき6人になった。

 あちこちで鎧が軋み潰される音が聞こえている。

 哀れ地に這っていた第1王子殿下は、護衛である国軍兵たちに踏み潰されて圧死した。

『セミ・エンゼルキュア』の効果で生き返っても、殿下のお体の上には12人もの全身鎧がのしかかっていることに変わりは無く、すぐにまた圧死して連続して光っていた。

 つまり圧死する苦しみをずっと味わっているのである。


「「 GAOOOOOO―――N! 」」

「「 KSYAAAAAAA―――! 」」

「「 GACHI GACHI GACHI! 」」


 魔物たちのたてる声や音が徐々に近づいて来た。

 ここに至ってヴェノム兵は上にも積み重なりながら、全員が発狂して行ったのである……



 すぐにAI娘たちによって戦闘不能者たちが転移されていったが、もはやヴェノム軍には戦闘続行可能な者は一人もいなかった。

 ヴェノム兵たちの体の中身が散らばっていた戦場も、すぐにクリーンの魔法で綺麗にされ、戦場を塞いでいた壁も撤去された。

 もちろん魔物映像もすぐに消え失せ、壁上に避難させていた非戦闘員も壁の下に転移させてもらったのである。



『タケルさま、至急前線司令部までお戻り願えませんでしょうか』


「どうした!」


『出番の無かった4人目と5人目のオーク戦士さんたちが号泣されています』


「あー、わかったすぐ行く」



 近傍重層次元の前線本部では、オクザキとオクラが手足を床につけて慟哭していた。


「こ、今回は思ってたより遥かに早く片が付いたし、あの魔物映像も戦略上必要だと思ったんだよ。

 次の戦闘機会には必ず真っ先に2人を呼ぶから許してくれ」


 2人はどうやらそれで納得してくれたようだ。


(ところでオクラって、山上憶良から来たのかな、それとも野菜かな?)



 ニャイチローたちはすっきりした顔をしていた。

 AI娘たちは電子的にアバターの経験を共有出来るし、本来アバターには自我が無いので特に問題は無いそうだ。




「ニャサブロー」


「はいですにゃ」


「このヴェノム王国の王族貴族に対する懲罰素案を作ったんだけどさ。

 これまでの映像記録と共に救済部門本部の法律分科会に諮って意見を聞いておいてくれ。

 あっちはこの星の60倍の時間の流れだから結構詳細な検討をしてくれるだろう」


「はい」




 因みに銀河宇宙では女性たちの間で色とりどりのビキニアーマーが大流行を始めたらしい。


 ニャイチローたちの可愛らしい隈取りフィギュアは、銀河宇宙で1京個以上も売れているそうである。

 また暗黒歴史を作ってしまったニャイチローたちは、羞恥に悶絶しているそうだ。

 だが彼らの個人口座には莫大な肖像権使用料が振り込まれて来たのでまあいいだろう。


 彼らはその大半を故郷に仕送りしたために、ニャイチローらの出身村は各恒星系で最も裕福な村と言われているそうだ。

 村から国に寄贈された資金によって、3人の名前を冠した幼稚園から大学までの巨大教育機関も建てられることになっている。

 3人の誕生日にはお祭りが開催され、子供たちが顔に隈取りペイントをして街を闊歩しているらしい。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




『賤民懲罰軍1万7000全滅』


 この衝撃的な一報はすぐに国軍情報部によって王宮に届けられた。

 しかも全軍の死傷者は転移の魔法とみられるものによって全員消失し、1万7000人分の鉄槍、青銅鎧、そして1万7000頭もの馬が敵軍に鹵獲されてしまったという。


 情報部の大佐は、疲れた体をおして翌朝王宮に出向き、国王陛下に直接報告をすることになった。


 国王執務室には、国王の他に宰相、第2王子、護衛の近衛師団長とその副官3名、侍従長とその補佐がいる。


「軍監ご苦労、それで本当に我が軍1万7000は全滅した後に消失していったのか……」


「はい、残念ながら……」


「それで敵軍の兵力は」


「途中で交代した形跡はございますが、戦闘正面は常に3人でございました……」


「虚言を申すなぁっ!」


 第2王子が吠えた。


「いくら何でもそのような寡兵で我が軍に勝てるはずは無いっ!」


 大佐は眉も動かさずに第2王子に向き直った。


「それが今回の大敗の原因でございます」


「な、なにっ……」


「どうも我らは自軍の力を大幅に過大評価し、敵軍の力を驚くほど過小評価していたようでございます。

 その結果がこの度の大敗でございましょう。

 なにしろ我が軍は敵兵に傷すら負わせることなく、1万7000の兵を全滅させられてしまったのですから」


「ま、まだ言うかぁっ!」


「控えよ」


「しかし陛下っ!」


「そなたの下らぬプライドで時間を浪費する気は無い」


「!!!!!」


「これ以上余の邪魔をするようであれば廃嫡の上王族籍を剥奪するぞ」


「!!!!!!!!!!!」


「情報部大佐、報告を続けよ。

 最初から詳細にな」


「はっ」



 大佐は遠征軍本陣が侯爵邸を出発したところからの説明を始めた。

 それ以前については既に情報部より詳細な報告が為されている。

 一切の主観を交えない報告が淡々と続けられて行ったが、国王から特に大壁についての質問が多々入ったために、報告は長引いた。

 ようやく戦闘が終わって大佐が大壁から降ろされ、すぐに帰還したところまでで報告は終わったが、それまでに2時間もの時間を要している。


 語られる自軍のあまりの醜態に、第2王子の顔は怒りの赤を通り越して蒼白になっていた。

 もちろん自分がその場にいてもなんの打開策も思いつけなかったからである。



「侍従長、一旦休息する」


「は」


 侍従長補佐は執務室の外にいる侍従に声をかけ、すぐに人数分の茶と軽食が用意された。


 一息ついた国王は、再び大佐に質問を始めている。


「それでそなたは彼らの魔法についてどのように思ったか。

 そなたの印象、主観で構わん」


「まずはあの大壁でございますが、あれは超高度な土魔法と見受けました。

 まるで建国王陛下による『一夜砦』を何万倍にも拡大したような」


「やはりそう思うか……」


「また、敵兵のあの動き、あれは間違いなく『身体強化』でございましょう。

 他にも『防御』の魔法も使われていたやもしれませぬ」


「そうか……」


「さらには攻撃した対象物の重量を減らす魔法も使われていたかもしれませぬ。

 如何に大きな力で敵を蹴ったとしても、普通は敵兵の体が切断されるか爆散するだけで、20メートルも飛んで壁に当たるなどということは有り得ませぬ」


「重量を減らす魔法か……」


「また、わたくしを含む非戦闘員を壁上に移動させた魔法、それから戦闘不能になった兵を消失させた魔法、あれらは皆高度な転移魔法だったと考えます」


「建国王陛下も転移魔法を使えたとの伝承があるが、それはご自分の視野の範囲内でしかもご自分のみの転移だったそうだが」


「その魔法を突き詰めていけば、どのような遠距離でも、また他の人物や物も転移させられるようになるのではないでしょうか」


「むう……」





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