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*** 230 領兵隊壊滅 ***

 


 もちろん子爵家そのものには特に問題は無かった。

 だが、子爵領そのものには大変な問題が発生したのである。


 領内では1樽の魔物肉(≒20キロ相当)が卸値銀貨2枚(≒2万円相当)で取引されていた。(100グラムに付き100円相当)

 エールも同じく1樽(≒20リットル相当)が銀貨2枚である。

 つまり、同じ重量の魔物肉とエールはほぼ等価交換されていたのだ。

 如何に戦士村に魔物肉が豊富であり、塩とエールを必要としていたとはいえ、魔物肉5樽とエール1樽を交換していたとは、とんでもないボッタクリであることは明白である。

 しかも交換用のエールを水で薄めていたとは。


 そして、そのボッタクリの結果、子爵閣下の管理する賤民村からは1日40樽の肉、男爵閣下の管理する賤民村からは日に20樽の肉、つまり侯爵閣下麾下の子爵領の24の賤民村と男爵領24の賤民村からは、日に480樽もの魔物肉が供給されていたのである。

(=9600キログラム=9.6トン)

 これら膨大な量の魔物肉は、醸造所だけでなく、商業組合を通じて子爵領男爵領の民や伯爵領、侯爵領の農民平民にも供給されていた。

 この食肉供給が途絶えるとどうなるのか。

 おそらく侯爵閣下の差配する全域の民がたいへんなメに遭う事だろう。

 そして、その責任はすべて直接賤民村と取引をしている子爵家男爵家のものとなるのは明白である。



 だが、子爵男爵閣下方は、そのような些末なことは一切お考えにはならなかった。(考える能力が無かったとも言う)

 ただただ賤民共が僭越にも高貴なる自分に逆らったことに腹を立てられただけである。

 そのため、18家の子爵男爵閣下方は、直ちにその麾下にある全ての戦力を搔き集め、賤民村に対しての懲罰攻撃をお命じになられたのだ。


 もちろん彼らの戦力とは貴族家の見栄かせいぜい徴税用の脅し要員でしかないために、男爵家の総兵力は僅か120名、子爵家でも200名でしかない。

(タマス子爵軍だけは42名がちんちんとタマタマを失って苦痛に喘いでおり、如何に督励しても立つことすら出来なかったために、現有総戦力は160名ほどである。

 また、その他の領でも魔物肉-エール交換担当の分隊員が骨折して呻いているので、そうした負傷兵らは戦闘員に数えられていない)


 一方で独立を宣言した戦士村は48、総兵力は5万近い。

 しかも戦士全員が日々魔物との戦いに明け暮れている強者である。



 にもかかわらず、なぜ各貴族家当主閣下は懲罰攻撃などを命じられたのか。


 第1の理由には、そうした戦力比較を行えるだけの計算能力が無かったことが挙げられる。

 そう、貴族家ご当主閣下には、計算などの下賤な行為は必要無いのだ。


 第2の理由は、このまま賤民村の行為を放置しておけば、侯爵家や王家にこれを反乱として判断され、当主は打ち首、貴族家関係者は全員平民落ちとなる可能性があるという事であった。

 彼らも侯爵も王家も、独立と反乱の区別がつくような頭は持っていないのだ。


 そして第3の理由は、彼らも賤民たちが弓矢を持っていないことを知っていたことがある。

 よって弓兵隊にまず矢を射掛けさせれば十分な遠距離先制攻撃になるとも考えていた。

 さらに言えば、賤民兵が石斧と石槍しか持っていないにも関わらず、自軍には兵に行き渡るだけの青銅槍、加えて将校には鉄槍と青銅鎧も配備しているのである。


 そして最大の理由だが、それは、『高貴な貴族家当主である自分の命により全軍が侵攻すれば、平民どころか賤民である連中は直ちに恐懼して屈服するだろう』という思い込みがあったことだろう。

(100億年前に紛争世界の鎮圧を試みて大失敗した神々の勘違いと似ている)


 よって貴族家当主の全員は、軍が揃ったところを見せれば、一戦も交えずに賤民村に勝利出来るとも信じていたのである。




 血気に逸る或る男爵軍は直ちに交換所前に集結し、一応警戒しながらも戦士村との境界にある交換所の扉を開け放った。

 因みに貴族家縁者である領兵隊隊長と貴族家から派遣されている軍監だけは騎乗している。


 この軍監とは、軍の行動を監視して貴族家当主に報告するための役職である。

 その主な役割は、鹵獲や略奪した戦利品を兵たちが横領することを阻止するというものだった。

 そもそも領兵とは貴族家の所有物であり、領兵の所持する武器もすべて貴族家所有物である。

 よって、鹵獲品や略奪品も全て貴族家に所属するべきであり、これを横領することは貴族家からの窃盗行為となるために重罪が課せられることになっていた。

 また、貴族領軍がそもそも貴族家の所有物であるために、軍が為した軍功もまたすべて貴族家に帰するべきものである。

 また、兵の逃亡と武器の売り飛ばしを監視する意味もあった。


 ただ、著しい戦功を挙げた部隊の指揮官には、軍監の報告によって略奪品の分配が行われることも(稀ではあるが)あり、これも軍監の推薦により行われることになっている。

 つまり軍監とは、昇進と褒賞を望む指揮官たちからの賄賂を受け取り放題という、大変にオイシイ職種でもあったのである。


 

 この惑星では最近滅多に紛争も起きなくなっているために常設の役職ではなくなっているが、それでも軍が集団で行動を起こす時には臨時で選任されることが常識になっている。

 要は貴族家が如何にその配下を信用していないか、また兵たちのモラルが如何に低いかを象徴しているかのような職種であった。




 そして、交換所の扉を開けた領兵隊は……


「な、なんだこの壁は!」


 そう、目の前には高さ10メートルはあろうかという壁が立ちはだかっていたのである。

 その壁には【←戦士村連合国窓口】と書かれた看板もかかっていた。


 かろうじて字が読める小隊長が領兵隊隊長閣下に内容を伝えると、彼ら貴族軍は駆け足で窓口とやらに向かった。

 そこには壁に2メートル四方ほどの穴が開いており、やはり【戦士村連合国窓口】の看板がかかっていたのである。

 穴の向こうは直径50メートルほどの円形広場になっており、ここも高さ10メートルほどの壁で囲まれていた。

 ただ、壁の突き当りには4メートル四方ほどの扉もあったのである。



「ただちに壁を潜り、前方に展開せよっ!

 よいか! 警戒態勢を取りつつも整然と隊列を組み、我がスチャラカ男爵軍の武威と権威を賤民共に見せつけるのだっ!」


「「「 はっ! 」」」


「進軍開始―――っ!」


「「「 おおお―――っ! 」」」



 もちろん軍監は入り口を潜らず、外から領兵隊の行動を監察している。


 そしてスチャラカ男爵軍120名が整然と隊列を組むと、前方の扉の前に男が1名現れたのであった。


「だ、誰だキサマはっ!」


「なぁ、人に名前を聞くときは、まず自分から名乗れってママに教えてもらわなかったのか?」


「な、なんだとぉぉぉ―――っ!

 き、貴様賤民の分際で栄光あるスチャラカ男爵軍をなんと心得るかぁぁぁ―――っ!」


(また酷ぇ名前だなぁ……

 いったい俺の翻訳プロトコルどうなってんだよ……)


「なんだ、たかが男爵風情の弱兵軍かよ」


「き、ききき、貴様ぁっ!

 わ、我らは貴族軍ぞ! こともあろうに貴族家に属する軍を愚弄するかっ!」


「おう、もちろん愚弄してるぞ」


「!!!!!」


「ところでよ、俺は48の戦士村が集まって出来た戦士村連合国の顧問兼外務大臣タケルだ。

 俺たちの国に話があるんだとしても、領兵隊長ごときじゃあ相手になんねぇな。

 男爵本人を連れて来い。

 そうすれば話ぐれぇは聞いてやる」


「こ、この野郎ぉ―――っ!

 弓兵隊前に出よ!

 あの壁を越えて賤民共の村に矢を打ち込めっ!」


「わははは、弱民共の矢があの壁を越えられるとでも思ってるのかぁ?」


「な、なんだと……

 お前らの村に矢の雨が降るのだぞ!

 今なら賤民共の首謀者の首を差し出せば許してやる!」


「なあ、御託はいいから早く矢を射てみろよ」


「!!!!

 弓兵隊! ありったけの矢を射ろぉっ!」


「「「 はっ! 」」」


 だが、30人の弓兵隊の射た矢は、本当にその3分の2ほどが壁を越えられずに地面に落ちてしまっていた。

 その上、超えたと思った矢も何故か皆何か硬い物にでも当たったような音を立ててその場に落下して行ったのである。


(仮に遮蔽フィールドが無かったとしても、この場所から戦士村の住居群までは1キロ以上の距離があるので、矢が届く可能性はゼロである)



「わはははは!

 本当に壁を越えられねぇでやんの。

 お前ら弱民どころか極弱民だなぁ」


「ぬがががが!

 弓兵隊、目標変更!

 あの賤民を射殺せぇっ!」


「「「 はっ! 」」」


 矢がパラパラと飛んで行った。

 だが、そのほとんどはタケルから外れて行き、タケルの体に当たったかのように見えた矢は僅かに2本ほどだった。

 それもタケルには刺さるどころか傷もつけずに地面に落ちていっている。


「わはははは―――っ!

 お前ぇたちなんてド下手なんだよ。

 俺がせっかく的になってやってるんだから、せめて1本ぐれぇ刺してみろやぁ」


「き、弓兵隊前進っ!

 距離10メートルから矢を射ろっ!」


「「「 は、はい…… 」」」


「あははははは―――っ!

 まだ1本も刺さってねぇぞぉ!」


「き、距離5メートルだぁっ!」



 そのときタケルの姿が消えたように見えた。

 そして、瞬時に弓兵隊の後ろに回ったタケルは、キックとパンチで全員の上腕骨と肋骨数本ずつを粉砕して行ったのである。


「「「 ぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」



「おいおい、たかが腕の骨と肋骨数本折られたぐれぇで泣くなよ。

 あーあ、弱民兵は弱ぇとは聞いてたけど、まさかここまで弱ぇとはなぁ」


「や、槍兵部隊っ! 何をしておるっ!

 全員で一斉に攻撃してこ奴を刺し殺せぇっ!」


「「「 お、おう…… 」」」


 だがもちろん。


「「「 ぎぃやぁぁぁ―――っ! 」」」


 またしても槍歩兵全員85人が骨を折られてその場でのた打ち回り始めた。


「!!!!!

 ご、護衛兵、いったん後退して戦力を立て直すぞ……」


「「「 は、はい…… 」」」


「おいおい、お前ぇの戦力は全部地に転がって泣いてるじゃねぇかよ。

 その負傷兵を放っておいて逃げ出す指揮官が、何をどう立て直すって言うんだぁ?」


「や、喧しいっ!」


 隊長は馬首を返して逃げ出した。

 隊長護衛兵4人もその後を追って走り出している。


 そのとき隊長の馬が突然消えた。


「ぎゃぁぁぁ―――っ!」


 隊長は尻から落下して尾骶骨が砕かれ、行動不能になったようだ。


「「「 た、隊長殿っ! 」」」


「どこ見てんだよゴラ!」


「「「 ぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」



 そして、その護衛兵たちもタケルにボコられ、兵たちと同じ運命を辿ったのである……





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