*** 228 領兵隊への処罰 ***
「そ、それではどうやって死罪を逃れるか進言しろっ!」
「止むを得ません。
この際最後の手段しか残されていませんね」
「ど、どどど、どうするというのだっ!」
「明日日が昇ってしばらくした後、小隊の残り全員44名で賤民村に奇襲をかけます」
「だ、だがあ奴らの村には武装した戦士が千人以上いるのだぞ!」
「魔物は日が昇ってしばらくして森から出て来るそうです。
ですのでその時間帯は戦士がほぼ全員戦場に出向いていますので、村には女子供しか残っていないでしょう。
ですので数名を攫ってすぐに撤退します。
そうして、人質と銅槍や革鎧、加えてエールと塩の入手先情報を引き換えにします」
「な、なるほど!」
「念のために小隊長殿と副官であるわたし、4人の分隊長たちは鉄剣を持ち、青銅の鎧を纏った方がよろしいですね。
どうせ明日はエールと魔物肉の交換は行われませんので、第2分隊の交換所にあるエール2樽を手土産に持ち、わたしは武器保管分隊に行って密かに鉄剣と青銅鎧を借りてきます。
なに、借りるのは明日1日だけでしょうからなんとかなるでしょう」
「その攫って来た女たちはさんざん慰み者にした後娼館に売り飛ばせば、エールを買うカネもたっぷり得られるな!」
「それは絶対にお止めください」
「な、何故だっ!」
「彼らは自分たちの村人全員を家族と見做しているそうです。
そのようなことをすれば、怒り狂った武装戦士たち1000名がこの領を襲いに来るでしょう。
彼らにとっては高さ5メートルしかない壁など無いも同然です。
いえ、その場合には同じ領内の他の戦士村にも応援を依頼するでしょうから、襲ってくる戦士は3000名近くなります。
我ら領兵は真っ先に惨殺され、農民や平民も貴族家も含めて皆殺しにされるでしょうね」
「あひぃっ!」
「攫って来た者たちには一切手を出さず、武器と情報と引き換えに渡してください」
「そ、そうだ!
女たちを娼館に売り飛ばした後は、そのカネを持って逃げれば……」
「どこに逃げるというのですか。
あなたは賤民たちだけでなく貴族兵や王国兵からも反乱の元凶として付け狙われますよ。
どこに逃げてもよそ者はすぐに通報されるために、商店で買い物すら出来ません。
それとも盗賊にでもなって一生森の中で暮らしますか?
そうなればもうエールも飲めませんよ」
「あ、あう……」
(そうまでしてエールが飲みたいのかこの莫迦は……)
「さて、明日朝この場に集合するよう3つの交換所にいる分隊と交代要員の分隊に命令を出してください。
もちろん理由は極秘です。
そうですね、出来れば分隊長とその副官だけは今日中にここに集めて、作戦内容を説明しておいてください」
「よ、よし!
その方の進言、採用してやる!
ありがたく思え!
すぐにそのような命令を発し、お前は分隊長やその副官たちに作戦を説明した後武器保管庫に出向け!」
「はぁ……」
命令通り4人の分隊長と副官たちはエールの樽を2つずつ持って集まって来た。
小隊長副官が明日の作戦について説明し、その後副官は部下たちにエール樽を2つ持たせて武器保管庫に向かった。
「ようやく煩い奴もいなくなったか……
いいかその方ら、明日の作戦ではなるべく若い女を大勢攫って来るのだぞ。
ババァやガキは要らん!
若い女だけだ!」
「へへ、上手く行ったら俺たちにも味見をさせていただけるんですよね」
「ああ、俺の後ならどうしようと好きにしろ」
「こいつぁ楽しみだ。
ここにあるエール6樽は生のままですぜ。
あんまり水で薄めるとバレちまいますが、2割ぐれぇなら問題無ぇでしょう。
作戦成功を祝って、ひとつ前祝といきやしょうや!」
「よし、まずは飲むか!」
「「「 おおおおう! 」」」
「あー、薄めてねぇエールは美味ぇなぁ」
「さて、明後日からの交換に備えて水で薄めておきますかね」
小隊長が嫌らしくにったりと笑った。
「待て、俺に考えがある」
「どんな考えですかい?」
小隊長はズボンと下履きを降ろし、あろうことかそのままエールの樽に小便を始めたのである。
「「「 !!! 」」」
「エールを飲むと小便が近くなるよな。
ってぇこたぁ、俺の口から入ったエールが俺の体を通って小便として出て行くわけだ。
賤民共も高貴な領兵サマの体の中を通ったエールが飲めて、さぞかし嬉しいだようよ!」
「わはははは、こいつぁ傑作だ!
これからは水エールでなく、賤民共にションベンエールを飲ませてやろう!」
「「「 わはははは! 」」」
「よし、お前らも樽に小便をしろ」
「「「 へい! 」」」
「わはははは!
エールが泡立ってやがる!
まるでよく出来たエールみてぇだぜ!」
「おい」
「な、なんだお前ぇは!」
「俺はお前たちの分隊員8人をぶちのめした戦士村の組合長代行タケルだ」
「「「 !!!!! 」」」
「よくも俺たちにションベンエールを飲ませようとしたな……」
タケルが指さすと、小隊長がマッパにされて宙に浮いた。
両手もバンザイするかのように上に持ち上げられて固定されている。
「な、なにをするかぁっ!」
「ん?
これからお前たちは罰を与えられるのがわからんか?」
タケルは小隊長の陰茎と陰嚢を『念動』の魔法で前に引っ張り、そのままウインドカッターで切断した。
「うっぎゃあぁぁぁぁぁ――――――っ!」
ボト。
床に落ちた陰茎と陰嚢がふよふよと飛んでエールの樽に落ちた。
小隊長の股間からは盛大に血が噴き出していたが、タケルが軽いキュアの魔法をかけたために血の勢いが弱まった。
これなら失血死も免れるだろうが、痛みは取り除いていないために、これから数か月は激痛が続くだろう。
特に尿には塩分も含まれているために、小便をするたびに激痛に襲われることになる。
因みにだが、地球の旧清王国では同様に男性器を切り落とした宦官が皇宮で絶大な権力を握っていたが、男性器を切り離した後は尿道に中空の麦藁を差し込み、排尿時の激痛を緩和させていたそうである……
「さて、高貴な領兵サマの体を通ったエールは旨ぇとか言ってたな。
それじゃあ飲んでもらおうかい」
小隊長の体が宙に浮いたまま逆さ吊りになった。
そのまま移動して頭がエールの樽に突っ込まれる。
「ガ、ガボガボガボガボ……」
「どうだ旨ぇか?
俺ににゃあ旨そうには見えねぇけどな。
まあこれでお前ぇももう攫って来た女をどうこう出来なくなったわけだ」
ほとんど気を失っていた小隊長は、また元の位置に吊るされると痛みがぶり返したのか泣き喚き始めた。
「おいお前たち、そのションベンエールを全部飲め。
全部飲めたらチンポコとキンタマ切断は許してやる」
「「「 こ、この賤民めがぁぁぁ―――っ! 」」」
3人の男たちが青銅の槍を持って突きかかって来た。
だが、タケルの体が一瞬ブレたように見えると、全員の両腕上腕部とその先の肋骨が砕かれ、軍服の水月部分にも穴が開いている。
「「「 ぐぅげぇぇぇ―――っ! 」」」
残り9人の男たちは逃げ出そうとした。
「な、なんだ! と、扉が開かねぇっ!」
「ははは、お前ぇたちが逃げ出せねぇように、この小屋は魔法で封鎖してある」
「な、なんだと……」
「さて、お前ぇたちはエールを飲む気が無ぇようだな。
それじゃあ全員陰部切断の刑だ」
「「「 うわあぁぁぁ―――っ! 」」」
腕を折られて蹲る男たちを含めて12人の男たちがマッパにされて宙に浮かべられた。
そうして順番に陰茎と睾丸を『念動』で引っ張られ、『ウインドカッター』で切断されていったのである……
「「「 うぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」
「ちぃっと煩ぇな。『遮音』」
男たちの絶叫が口パクになった。
しばらくすると小隊長の副官が武器庫から戻って来たようだ。
「運搬ご苦労、今日はもう宿舎に戻って休め」
「「「 はっ! 」」」
部下たちに武器を倉庫に片付けさせて鍵をかけた副官は、小屋の扉を開けた。
「こ、これは……」
部屋の中ではマッパにされて陰部を切り取られた男たち13人が浮いていた。
口は絶叫を発しているように見えるが、何故か音は聞こえない。
(このエールと小便の匂い……
まさか水の代わりに小便でエールを薄めようとしたのか……)
「よう」
瞬時に副官が振り返ると、そこにはタケルが壁にもたれて立っていた。
(小屋の中には誰もいなかったはずだ……)
「まさか、あんたが戦士村の組合長代行か……」
「そうだ、タケルという。
ところでお前ぇがあの戦士村の女子供を攫って来るってぇ作戦を進言したんだよな」
「ああ……」
(そんなことまで知っているのか……)
「それじゃあ13人のお仲間と同じ姿になってもらおうかい」
小屋には副官の絶叫が響いたが、それもすぐに静かになった。
(マリアーヌ、後の処理は任せる)
『はい』
(明日の作戦も予定通りにな)
『畏まりました』
翌朝、対賤民村取引担当小隊の領兵たち28名は、命令通り第1分隊の交換所に集合していた。
「なんだよなんだよ。
朝イチで集合しろって言うから来てみれば、小隊長殿も分隊長殿も副官殿もいねぇじゃねぇか」
「お、なんか机の上に紙があるぞ」
「これ命令書だな。
なになに、扉を出て賤民村に潜入し、賤民戦士に見つからぬよう女子供を何人か攫って来いだとよ」
「かぁ――っ、小隊長や分隊長はヤベぇ任務を俺たちに押し付けてバックレやがったのかよ!」
「でもまあ賤民戦士共と戦えっていう命令じゃないしな」
「女子供を攫って来るだけでいいのかよ。
それならなんとかなりそうだな」
「へへ、なるべく若ぇ女だけ攫って来ようぜ」
「そうだな、小隊長たちが戻ってくる前に俺たちで味見させてもらおうか」
「「「 へへへへ…… 」」」




