*** 22 魔力枯渇 ***
「それじゃあ俺も好きなラノベを読み返して、鍛錬相手の設定に関してはもう少し考えてみるよ。
今からは魔力枯渇鍛錬をしようか」
「あにょ、それは攻撃魔法などでMPを枯渇されるということなんでしょうか」
「ん? それが一番時間効率がいいんじゃないか?」
「もし攻撃魔法を使われるのでしたにゃら、ここではにゃく3.5001次元に魔法鍛錬場を造りますにょで、そちらでお願いいたします。
この惑星で鍛錬されると居住棟や厨房や宿舎はもちろん、惑星環境も破壊されてしまいますにょで」
「そ、そうか……」
「もはやタケルさまの攻撃魔法はそれほどのレベルになっておりますのですにゃよ。
それよりも魔力の外部貯蔵は如何ですかにゃ」
「なんだそれ?」
「魔法上級者たちが創る特殊な空間にゃんですけど、そこにタケルさまの魔力を貯めておくことが出来るんですにゃ。
最初は透明な球体に見えるんですが、魔力を込めていくとだんだん色がついていって一杯になると真っ黒ににゃって石のようになりますにゃ。
我々は魔石って呼んでおります。
この魔石はさまざまにゃ魔道具の燃料ににゃったりするのでとても便利にゃんです。
たぶん神力生命体の食料ににゃったりもしますにゃ」
「そうなんだ……」
「魔臓を持つヒューマノイドの世界では、みんにゃ副業で魔石への魔力注入を行っておりますにゃ。
それが魔道具と共に魔臓を持たないヒューマノイドの世界に輸出されたりしてるんですにゃよ。
ボクも小さい頃は街で安く売ってる空の魔石を買ってもらって、よく魔石に魔力注入していましたにゃ。
そうして、それを売ったおカネでお菓子を買ってママや弟妹たちと食べてたんです。
それに村の小さな子達にもお菓子を買ってあげられるように頑張ってたら、魔力がすっごく上がって銀河連盟大学付属中学への入試推薦が貰えたんですにゃ」
「そうだったのか……
そういえばその魔力注入した魔石って、俺専用の重層次元倉庫に入れといたら、実戦で魔力が枯渇しそうになったときに使えるのか?」
「はいですにゃ。
ですがご本人が充填した魔力でも、実際に取り出せる魔力は約90%ですにゃ。
他人が充填したものでしたら70%程度ですが」
「そうか、それでもなるべくたくさん充填して保存してた方がよさそうだな」
「はい」
「そういえばさ、タケルーさんは魔石に魔力溜めてなかったのかな。
十分な魔力を溜めておけば死ななくても済んだかもしれないのに……」
「当時のタケルーさまは特大級の魔石8万個を溜めておられました……
これは標準的な銀河の惑星の100年分の電力に匹敵するエネルギーを取り出せる量ににゃります。
ですからあの超大魔法を発動されたときも、魔力そのものは足りていたと言われているんですにゃ……」
「それじゃあなんで衰弱死しちゃったんだ?」
「魔法操作力を酷使され過ぎたせいですにゃ……」
「魔法操作力?」
「魔法を使う際には、エネルギーは周辺空間の魔素や貯蔵していた魔石を使い、必要な物質は重層次元空間の資源を使うのですにゃ。
ですがもちろんそれだけではなく、コンピュータのCPUと同じように作業内容を命じて魔法を操作する力も必要になるのですにゃよ。
これを司るのが体内にある魔臓にゃんです。
当時のタケルーさまの体内には大きな魔臓が8か所もありました。
ですがあの超大魔法を発動されたあとは、これらの魔臓が全て焼き切れていたそうです……」
「そうだったのか……
CPUを酷使しすぎて焼き切れちゃったんだ……
ところで、その魔臓の能力って鍛錬で伸びるのか?」
「はいですにゃ」
「ということは、魔法をバンバン使ってMPゼロにして気絶すれば、全体の魔力アップと同時に魔臓の処理能力も上がって行くんだな」
「その通りですにゃ」
「それじゃあとにかく気絶しまくってMPも魔力も魔臓の魔法操作力も上げるしかないな。
あ、その魔石製造って俺にも出来るのか?」
「それはもちろんですにゃ。
だいたいMP100以上ににゃると創れるようににゃるんですけど、タケルさまはもうレベル400を超えてらっしゃいますので」
「そうか、それじゃあまずその魔石の作り方を教えてくれ」
「はい」
「おー、出来た出来た。
ふーん、空の魔石って本当に透明で少し柔らかいんだな。
それじゃあ魔力枯渇訓練用にたくさん作っておくか……」
(あにょ、タケルさま……
普通の魔石の規格は直径1センチと3センチと5センチにゃんですけど……
特大級でも10センチにゃんですけど……
お作りににゃられたその魔石、15センチはありますよね。
ま、まあ魔力枯渇練習用ですので問題は無いですが……
ああー、にゃんでそんな20センチもある魔石を!
あああー、こ、今度は30センチも! 50センチまでも!
そ、それもし満タンに出来たら、中規模都市のエネルギー1年分に!)
「ニャジロー、こんなもんでいいかな?」
「も、もちろんですけど……
それ、満タンにするのは相当にたいへんですにゃよ。
にゃにしろ気体のように周囲に存在する魔素を個体になるまで圧縮するんですから」
「でも1回で満タンにするんじゃなくって、休みながら何回も繰り返して魔力を充填して行けば、そのうち満タンになるんだろ」
「はい……」
「それじゃあまずこの小さいのに魔力を充填してみるか」
「あにょ、その際にはご自分に詳細鑑定をかけ続けてMPの減り方を観察してみてくださいにゃ」
「そうか、それじゃあまず『詳細鑑定』
お、MPは410.51だってさ」
『なあタケル……』
(あ、タケルーさん)
『魔力枯渇で気持ち悪くなったり激痛が来たりしたときに、ポーションとかかけてもらうと少しは楽になるがな、でもその分MPの増加が抑えられるようだから、ニャジローたちに言っといた方がいいぞ』
(ありがとうございますタケルーさん)
「なあニャジローたち、タケルーさんの記憶さんが言うには、俺が魔力枯渇で苦しんでるときにポーションとかかけてもらうと、その分MPの増加が抑制されるそうなんだ。
だからなにもしないでくれな」
「は、はいですにゃ……」
「それじゃあ始めるぞ。
『魔力充填』……
ぷしゅ~
「おおー、みるみるMPが減って行くわー。
あ、そろそろMPがゼロになるぞ……
ん? うぎゃあぁぁぁ―――っ!
オロロロロロ―――っ!」
『し、しまったあぁぁぁ―――っ!
タケルが気持ち悪くなると、俺も気持ち悪くなるんだった―――っ!
オロロロロロ―――っ!』
(た、タケルーさんっ!
ひ、ひとの頭の中で吐かないでください――っ!
オロロロロロ―――っ!)
『実際に吐いてるわけじゃあねぇんだからいいだろうがあぁぁぁ―――っ!
オロロロロロ―――っ!』
「い、痛い痛い痛い―――っ!
オロロロロロ―――っ!」
『痛ぇ痛ぇ痛ぇ―――っ!
オロロロロロ―――っ!』
・
・
・
1時間近くも苦しんだタケルとタケルーはようやく気絶した。
手に上級ポーションを握りしめてはらはらしていたニャジローも、ようやく肩の力を抜いている。
「に、にゃあニャジロー、タケルさま大丈夫にゃのか?」
「どうやら大丈夫にゃ。
脳があまりの苦しさにようやく自らシャットダウンしたにゃ。
脈拍は200超えてるけど、他のバイタルは安定してるにゃよ」
「それにしても、ヒト族って魔力が枯渇するとあんなに苦しむんだにゃ……」
「これで魔法訓練がトラウマににゃらにゃいといいんだけど……」
「まあタケルーさまともご相談されたあとだから、大丈夫だと信じたいにゃ……」
「「 うん…… 」」
タケルが意識を取り戻したのは3日後だった。
「ご気分は如何ですかにゃタケルさま」
「あー、最悪の気分だわ。
タケルーさんは如何ですか」
『お、おう、そういえば魔力枯渇はあんなに気持ち悪くて痛かったんだな……
最初に魔力枯渇したのは、魂の休眠期間を除いても3000年前だから忘れてたわ……
お前は大丈夫か?』
「ようやく痛みも吐き気も治まっています。
あ、MPが411.62になってる!」
「やはりMP枯渇の効果はありましたにゃ。
加えて魔力充填で魔力を使われたこともあって、MPが増えたのでしょう」
「そうか。
ところで、魔石を見せてくれるか」
「はいですにゃ」
「なんだ、少し灰色になってるだけか……」
「仕方ありませんにゃ。
ボクでもその大きさの魔石を真っ黒にするには、MP枯渇ぎりぎりまで充填するのを100回近く繰り返す必要がありますにょで」
「そうか、それじゃあメシ喰ったらさっそく2回目の魔力枯渇を始めるか」
「!!!」
『お、おいおいタケル!
普通は魔力充填は1回気絶してから1か月は間を空けるんだぞ!』
「でもタケルーさん、どうせ苦しむ回数が同じなら間を空けても空けなくても同じですよね」
『そ、そうは言ってもよ!
そうだ! そしたらポーション使わねぇか!』
「えー、そんなことしたら魔力の増え方が減って、苦しむ回数が増えるじゃないですかー」
『ううううううっ……』
「だからこのまま頑張りましょうよー」
『あうぅぅぅぅぅ……』




