*** 212 恐ろしい刑罰 ***
或る日の救済部門幹部会にて。
「ということで、奴隷制度を持つ未認定世界の対処方法はあんなもんでいいかな。
そこから派生して種族差別や人種差別の著しい世界にも手を伸ばすか」
「あにょ、諮問会議からのアドバイスにゃんですけど、奴隷制度のある世界には最初に全惑星一斉念話放送を行った方がいいのではということでした」
「なるほど。
それって天界からだって名乗るのか?」
「その後の新興宗教乱立や宗教間紛争を避けるためにも、敢えて名乗らにゃい方がいいにょではにゃいかと……」
「そうか、それなら、『この星全域に於いて全ての奴隷狩りと奴隷所持、売買は禁止されました。
現在捕らえられている奴隷は全て解放され、本人の希望により出身地や保護施設に移送されます』とでもアナウンスするか。
『それでも奴隷制を続ける国家や組織には各種懲罰が下されます』とも追加しよう」
『奴隷制度を続けようとする国家や組織に対する懲罰は、具体的に如何いたしましょうか』
「んーまあ、王族貴族なんかの支配階級や奴隷商、奴隷を使役していた農場主なんかには『変化』してもらおうか。
なにしろあいつらはちょっと外見が異なるだけで、すぐに差別して奴隷にしたがるからな。
外見だけで差別されて奴隷にまでされるのが、如何に理不尽なことか身をもって経験してもらおう。
そうだな、まずは全身をライトグリーンにして、それでも奴隷制を止めなかったら緑色をだんだん濃くしていくか。
それからショッキングピンクの水玉模様をつけてやるとかでいいだろう。
水玉も徐々に大きくして、最終的には夜でも光る蛍光ピンクにするとか」
((( お、恐ろしい刑罰だにゃ…… )))
ニャイチローたちは自分がそうなった姿を想像してしまった。
それだけで3人のしっぽが膨らんでしまっている。
ライトグリーンや水玉模様やピンク毛皮の猫もけっこう可愛いと思うが……
「それでも止めなかったらゴブリンやゴブリザードマンにしてやればいいな。
ついでに他国への侵略を企図した国の支配層にも同じ処置をしよう。
あれも一種の人種差別だからな」
(もし地球でも15世紀に同じことが出来てたら、欧米の王侯貴族なんかみんな水玉模様になってたかも。
20世紀初頭から半ばまでの日本も皇族貴族から政治家や軍幹部までみんなファンシーな水玉模様か。
それどんな社会になってたかなぁ。
どんな偉人とやらでも威厳もへったくれも無くなるだろうからな。
まあ実際には地球の歴史って、数万年も前からまんま戦と奴隷制の歴史だったもんな。
それにしても、なんでヒト族ってこんなに奴隷を欲しがるんだろうねぇ。
たぶん奴隷という階級を作ることで、マウントを取れる対象を得るっていう欲求の延長なんだろうけどさ。
もしくは、搾取されている平民階級に『下には下がいるんだぞ』って見せてやる宣撫工作か。
いずれにせよ、碌でもない動機だよなぁ。
まあ元々碌でもない種族だけど……)
「国王や貴族や大臣なんかにそうした刑罰を科す際には、その国の国民全員に念話放送でその旨教えてやってくれ。
王都や主要都市には大型スクリーンを展開させて映像付きにしてやるとか。
そうして国王が水玉模様にされるのを見せてやれば、そうした刑罰を隠蔽したまま国王交代とか貴族家当主交代とかしても無意味になるだろうからな。
その際には念話一斉放送で刑罰を与えられた理由も説明してやってくれ。
1日中そんな念話が聞こえても煩いだろうから、毎日正午から30分放送してやるとか。
本人への説諭も念入りにな。
それでも奴隷制や侵略を止めなかったら、空中裸踊り10日間の後に天界刑務所行きだ」
「「「 はい 」」」
「他に議題はあるか」
『あの惑星マーガンサーでの様子が配信された後、銀河各地の認定世界からオーク族の来訪依頼が殺到しております。
豚人族世界はもちろん、犬人や猫人の世界からも』
「そうか、AI娘たち同様に人気化したか。
それじゃあオーキー、オーク戦士たちとその家族に交代で銀河宇宙を廻らせてくれ」
「それでは長期休暇の際に派遣させていただきまする」
「いや、これは『広報』という公式任務だ。
休暇とは別に公式任務として派遣してくれ。
なにしろ俺たち救済部門の活動は、天界の意思以外にも銀河宇宙の支持にも支えられているからな」
「畏まりました」
「はは、それにしても、ニャイチローたちの里帰り並みに数千万の群衆が押し寄せてくるかもだな」
「はぁ……」
実際にオーク族が家族連れで銀河宇宙への表敬訪問を始めると、そのパレードを囲む群衆は億のオーダーに達することになる。
ついでに銀河全域で格闘術やボディビルディングが大流行することにもなった。
やはり高度文明世界でもその住民はけっこうミーハーだったのである……
また或る日の救済部門幹部会では。
「今日は『天界ヒューマノイド文明進化研究所』の研究成果について、中間報告をさせていただきますにゃ」
「おう、俺も連盟大学で恒星物理学の単位は取ったが、生活年齢では随分昔のことになるから素人にも分かりやすく頼むわ」
「畏まりましたですにゃ。
まずは銀河外縁の無生命恒星系の恒星の調査結果からにゃのですが、実際に恒星内部にプローブと呼ばれる小型転移装置を送り込んだために、今までは理論上の研究しか為されていにゃかった仮説が実証的観測で裏付けられ始めました。
一部新たな知見も得られています」
「それって実際にプローブを恒星内に転移させたんだよな」
「はいですにゃ」
「それ、前から気になってたんだけど、恒星の内部とか圧力がすごいだろ。
言い換えれば物質の密度も大きいわけだ。
そんなところにプローブを転移させると、原子融合や核融合とか起きてプローブが破壊されたりしないのか?」
「文明進化研究所の科学者たちにより、実際にプローブを恒星内部に送り込む際には、同時にプローブの体積分の内部物質を近傍重層次元に転移させる技術が開発されました。
空間を切り取ると同時に転移させますにょで、内部の物質には影響を受けません。
この技術を使用すれば原子同士の融合現象は起きませんにゃ」
「なるほど。
所謂『石の中にいる』ということは起きないわけだ」
「はい。
その後恒星内部にプローブを1マイクロ秒ほど留まらせて、周辺の物質を出口装置に転移させています」
「それって、出口装置からかなりの勢いで恒星内部物質が噴出してきていないか?」
「もちろんですにゃ。
ですから出口装置は、半径10万キロほどの宇宙空間をクラス100の遮蔽フィールドで囲んだ中に置いています。
そうした空間で噴出して来た物質の温度や圧力、構成物質の分析を行いました。
おかげでほとんどの理論的仮説が検証されたとして、恒星物理学者たちも喜んでいましたにゃ」
「そうした実証実験って、今までやってなかったのか?」
「銀河宇宙にはもちろんそうした転移装置を作る技術も、転移装置を転移させる技術もありましたけど、そうした実験機材を実験対象恒星近傍に持っていくには恒星間転移技術が必要だったのですにゃ。
実験に必要にゃ魔石エネルギーの必要量も大きかったですし」
「要は旧神界が恒星間転移技術を独占していたことの弊害か。
加えてコストの問題だったんだな」
「はいですにゃ。
ですが救済部門が機材も資源も資金も無制限に提供したために、急速に実験が進み始めています。
現在では無生命恒星系の恒星約800について、それぞれ万を超えるプローブが探査を行っております。
おかげで恒星進化モデルもかにゃりの精度で確立されて来ていますにゃ」
「それはよかったが、その実験で恒星の核融合反応に悪影響とかは出ていないよな」
「その影響も慎重に調査しましたが、悪影響は全く見られていません。
もともとプローブが採取する内部物質も、恒星質量に比べれば極微量ですし」
「なるほど」
「それで地球の属する太陽系太陽も詳しく調査してみたんですにゃ。
太陽系太陽は誕生から46億年を経た質量2.0×10の30乗キログラムの標準的恒星ですが、理想恒星と比べると10%ほどその質量が少にゃくにゃっています。
その中心核部分は太陽半径に比べて20%ほど、つまり体積ベースでは3.3%ほどですが、そこに太陽質量の約50%が集中しています。
まあそれだけの高重力高密度が、約1500万度の熱と2500億気圧の圧力を齎しているわけですにゃ。
水素核融合反応にはそうした超高温と超高圧が必要ににゃりますので、太陽内の核融合は全てこの中心核内のみで行われているのです」
「体積ベースでたった3.3%の中心核で、太陽の放射するエネルギーのほとんどを作り出しているのか」
「はいですにゃ。
そして、この中心核内では水素の質量が毎秒860万トンもエネルギーに転換されています。
また、太陽の表面温度は5770Kですが、その上空にはコロナと呼ばれる温度が100万Kを超えるような高層大気圏があります。
この温度ではもはや水素が電子とイオンに電離したプラズマ状態になっており、太陽の大重力と雖もこの大気を繋ぎとめておくことが出来ません。
そにょために毎秒200万トンもの荷電粒子が太陽系に放出されていて、これが太陽風と呼ばれていますにゃ」
「その太陽風が地球の磁場に衝突するとオーロラが出来るわけだ」
「その通りですにゃ」
「それにしても太陽表面の温度は5770Kだろ。
なんで表層上空のコロナガスがそんなに高温になってるんだ?」
「太陽は原則気体かプラズマで構成されていますので、固体部分がありません。
そにょために赤道部分での自転速度は地球時間で約24日ですが、極付近では28日という差動回転をしているために、常に磁場が歪んでいます。
この磁場の揺らぎがダイニャモ効果によって高層大気を超高温にしているのですにゃ」
「なるほど……」
(ダイニャモ効果……)




