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*** 211 これからの暮らし ***

 


 一方で元近衛騎士団長ドスコイと下級兵たちは。


「さて諸君、今までの職務誠に大儀であった。

 護衛隊はここで解散としよう。


「騎士団長閣下、我らに最後の訓示を頂けませんでしょうか!」


「ふむ、そうだの……

 わたしは貴族家当主としてこのような姿にされてしまったが、それでも今後の暮らしはそれほど困難な物にはならないのではないかと思っているのだ」


「そ、そうなのですか?」


「犬人にされる前の私と犬人にされてしまったわたしとで、外見以外の違いはあるか?」


「いえ、以前も今も聡明で公明正大なお方であります」


「私も自分自身は外見以外に変わってはいないと感じているのだ。

 そして、諸君らは、他人を害そうとしたり盗みを働こうとしたりしなければ、ずっとヒト族のままでいられるだろう。

 なにしろ、先ほど見た通り自分を害しようとした者に備えて武装する必要すら無くなったのだからの」


「なるほど……」


 30名の平民兵たちは神妙に訓示を聞いている。


「だが、私が思うに犬人や猫人にされてしまっても、そこまで悲観することはないのではないかな。

 まあ体が小さくなったことで、力仕事は少々困難にはなっただろうが。


 天界とやらの目的は、まず第1にヒト族が犬人族と猫人族を奴隷として使役することを不能にすることだったのだろう。

 そのために創世神教団を崩壊させたのだしの。

 もちろん王族や貴族を犬人猫人にしてしまったのも、犬人猫人を奴隷としていた者たちに反省を促すためだろう」


 元近衛騎士団長は宙に浮かされた元国王を見た。


「まあ、反省出来る知能を持つ者は少ないだろうが。

 だが、それ以外にもヒト族国家の王族や貴族をこうして無力化し、支配層がおらずに争いも無い社会を作ることもまた目的のひとつだったのではなかろうか」


「「「 ………… 」」」


「考えてもみたまえ。

 以前諸君らが見た犬人奴隷も猫人奴隷も、ここまで体は小さくなかっただろう。

 ヒト族と同じような体躯だったはずだ」


「な、なるほど……」


「現状ではこうした小柄な犬人や猫人にされてしまったのは、ほとんどが王族や貴族などの支配層だ。

 そして今後は暴力や脅しによって他人を支配しようとする者が、続々と犬人猫人にされていくことだろう。

 しかも犯罪を為せば宙に浮かべられ、それを繰り返せばこの地から消えて天界の牢にいれられてしまうのだ。

 つまり、あと1年も経てば、この国に残されているのは温厚なヒト族と同じく温厚な犬人族と猫人族だけになるだろう。

 もちろんその人数は今の1割ほどになっているだろうが」


「「「 ………… 」」」


「そして、仮に暴力を重ねて天界の牢に入れられてしまったとしてもだ。

 その者とこの国に残る者との差はさほどではないのではなかろうか。

 何しろ牢は全て個室だそうだ。

 つまり、もはや誰にも害されず命令されず脅されることも無い。

 しかも牢での食事もあの粥を始めとする非常に上質なものになるそうだからの」


「なるほど……」


「違いがあるとすればだ。

 牢がすべて独房であるために、その牢に入れられた者はもう子孫が残せないということだけだろう」


「「「 !!!! 」」」


「あと数年もすれば、この地にいるのは温厚なヒト族と犬人族と猫人族だけになる。

 もはや戦も出来ないし暴力による支配も出来なくなったのだから。

 そしてさらに50年も経てば罪人は死に絶え、その暴力と支配を受け継ぐ子孫もいない。

 要は天界が目指したものは、暴力と支配を当然と思う9割のヒト族を排除し、残り1割の戦も争いもしない温厚なヒト族と犬人族と猫人族の社会にしてしまうという事だったのではなかろうか。

 我らはその中で、争いの無くなったこの国に住んで子孫を残すか、牢で腹いっぱい食べながら子孫がいなくなることを選択するだけなのだろうの」


「「「 ………… 」」」


「私自身はもう誰も害さず、愛する家族と共に平和に暮らしていきたいと思っている。

 そのためにも、まずは初等学校に行って読み書き計算を学び直すことが必要だろう。

 その後は出来れば中等学校や職業訓練校などに行って手に職をつけることを目指したい。

 さあ、これからは諸君らも誰にも害されることなく、命令されることもなく、自分の生き方を自分で選べる時代になったのだ。

 お互いよりよい選択をして行きたいものだな」


「「「 ご教授ありがとうございました! 」」」




 ドスコイ元伯爵は元護衛兵たちと別れて王都内にある自宅に帰った。

 その自宅周辺には大勢の猫人や犬人が宙に吊るされている。

 貴族が皆犬人や猫人にされてしまったために、略奪を行おうとした平民たちの成れの果てなのだろう。


 だが、自宅の門の内側には、以前からドスコイ伯爵家に仕える領兵たちがヒト族姿のままで立っていたのである。

(通常衛兵は門の外側に立つが、無用な闘争を避けるためにも門の内側に立たせたと思われる)


「わたしはオスモー・ドスコイだ、妻のヤンデレーナを呼んでくれ」


「はっ!」


 すぐにヤンデレーナが邸から走り出てきた。

 その姿は真っ白な毛皮の犬人になっている。


 ヤンデレーナは門越しにオスモーを一瞬だけ見た後、すぐに衛兵に言った。


「このお方は間違いなくオスモーさまです。

 すぐに門を開けてください」


「ははっ!」


「お帰りなさいあなたさま……」


 さすがはヤンデレを極めたヤンデレーナである。

 すぐにこの犬人が愛する夫であると気が付いたようだ。

 そうして門が開けられると、涙をぽろぽろ零しながらオスモーに抱き着いて来たのであった。



 オスモーはリビングで侍女から茶をもらって落ち着いた。

 ヤンデレーナは寝室から愛する娘ツンデレーナを連れて来ている。


「11日前に君が突如犬人にされてしまった後、ツンデレーナは泣いたりしなかったか?」


「それが、そのときはツンデレーナに乳をあげていたのですか、ちょっとだけ目を見開いて驚いたあとは、そのまま乳を飲み続けていました。

 きっと乳の味が変わっていなかったので安心したのでしょう」


「はは、そうかそうか」



 聞けばあの天使の声が頭の中に聞こえたあと、先代から仕える家宰のセバスとヤンデレーナはすぐに協議を行って邸の門を閉じたらしい。

 そうして貴族街が大混乱に陥っても、先祖代々誠実で公明正大なドスコイ伯爵家に仕える侍従や侍女たちは、旦那さまがお戻りになるまではと、全員一丸となってヤンデレーナと娘を守ってくれていたそうである。



 その晩。

 娘が寝た後、潤んだ眼をしたヤンデレーナがオスモーに抱き着いてきた。

 いつもの妻の香りに加えてやや異なった蠱惑的な香りもしている(たぶん犬人のフェロモンと思われる)。


 もちろんすぐにオスモーは妻と愛し合ったのだが、犬人の本能なのか、つい結婚以来初めて後背位でコトに及んだのであった。

 四つん這いになって尻を差し出すヤンデレーナも、最初は恥ずかしがったもののその体位が思いの外よかったらしく、その夜は3回もおねだりしていたそうだ。

 オスモーも、いつもより激しく感じているヤンデレーナの嬌声に興奮して激しく交わっていたらしい。


 またすぐに第2子も生まれることだろう……



 このオスモー元伯爵は生来の頭脳を存分に生かした上で努力を重ね、天界の作った初等学校から高等学校までを首席で卒業した。

 そしてスカタン国初の代官に任命されて50の村々を統治することになるのだが、オスモーの右腕として代官補佐になったのはあの元平民護衛隊長だったそうだ……





 この惑星マーガンサーでは、ヒト族の総人口1億5000万人の内、宗教集会当日にゴブリザードマンや犬人猫人にされてしまった者は、支配層である300万ほどに過ぎなかった。


 だが日を追うにしたがって犬人化、猫人化して宙に吊るされ、さらにその罪を重ねて行ったために、半年も過ぎる頃になると、惑星上のヒト族人口は僅か500万に減ってしまっていたのである。


 だが、おかげで温厚なヒト族500万と、罪と罰を認識出来る知能を持つ犬人化猫人化した者たち500万は、今後力を合わせて穏健な社会を構築していくことになるだろう。


 いつものように、タケルはマウント至上主義者を再教育するのではなく、まともな民から隔離することで健全な社会を作ろうとしたのであった。

 あと300世代も経過すれば、AI駐留部隊によって大城壁は取り払われ、多くのヒト族と犬人族、猫人族が共存する平和な社会が築かれていくことになると思われる……





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