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*** 202 創世神教団神殿 ***

 


「ときに各々方、この場所より南の大森林方向、西の大森林方向、それにヒト族を隔離した壁沿いの農業予定地に向けて、道を作らせて頂いてもよろしいだろうか」


「それはもちろん構いませぬが……

 樹木も多く距離もあるので大変な作業になりますぞ」


「多くの民たちが集まり、その暮らしが落ち着いてから、我らが為せばよろしいのでは?」


「その樹木も薪に出来る上に、大森林内にいる種族の方々を集める助けにもなるだろう。

 よって最初の幹線道路造りは我らにお任せ願えないだろうか。

 むろんそれら道路の途中には、あの食料や水を供給する小型のほこらも用意させていただく。

 ただ、それは大森林内の樹木を伐採することになるので、貴殿らのご了解を頂きたいのだ」


「わしは了解するどころかむしろありがたいことだと思うがのう。

 皆は如何かの」


「評定にかけるまでもなく、皆も納得するお話だとは思いまするが」


 その場の族長たちや戦士たちの全員が頷いた。


「忝い。

 それでは早速始めさせていただく」



 オーキーがそう言った途端に、ここ中央広場から3方向の樹木が幅8メートルほどに渡って消失して行った。

 それら木々は葉を落とされた姿で中央広場上空に転移され、その場で薪に分解された上でしゅうしゅうと音を立てながら乾燥させられている。

 出来上がった薪は居住棟に併設された倉庫に次々に収まっていった。

 犬人や猫人たちの口が皆開いている。


「こ、これも『まほう』という力によるものなのですかの……」


「仰せの通り、我らの仲間たちが魔法により作業している」


「はぁ、凄まじいお力ですのう……」


「これならば如何に冬が寒くなろうとも、誰も凍えずに済むだろうのぅ……」



 これら道路の途中には30キロおきほどに小型や中型のほこらも建てられていた。

 そこからは穀物粥などの良い匂いが立ち上っていたために、食料を求めて移動していた多くの小集団を引き付けていくことになる。


 特に群れを作る習性のある犬人と違い、単独行動を取ることの多い猫人たちは、自然とこのほこらに集結して行くこととなった。

 もちろんそのままほこらに住み続ける者もいたが、多くはほこらからの勧めによって、中央街や壁沿いに作られる農業村に移住していくことになるだろう。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ドチョンボ王国創世神教団神殿にて。


 神殿の奥まった場所にある広大な執務室では、この神殿の最高責任者であるリピー大司教閣下が昼間からワインを飲んでいた。

 その周囲には極めて薄い布地で作られた修道服を着た若い修道女たちが8人も侍っている。

 彼女たちは単に薄物を纏うだけではなく、胸元をはだけておっぱいを半分近くも晒しているようだ。

 一度でも大司教閣下の閨でご寵愛を賜れば、上級修道女として一生喰いっぱぐれが無くなるためである。

 もしもその胤で孕むことが出来たならば、さらに奥神殿に邸が与えられてお局さまと成り、侍女まで与えられる栄耀栄華が待っている。

 もっとも高齢の大司教は、最近では生殖能力どころか勃起すら不能になっているのであるが……

 それでも半裸の美女を侍らせているのは、種族保存本能というよりは、やはり若い美女を侍らせてモテることを誇示したいというヒト族の永遠のマウント欲求なのであろう。


 その執務室の扉がノックされた。

 この部屋の扉をノック出来るのは大司教閣下直属の守護騎士のみである。

 最も歳若い修道女が大司教閣下に目を向けた。

 閣下が微かに頷かれると、修道女は開けていた胸元を元に戻して応対に出る。


 しばらくの問答の後、修道女は大司教の御前に戻って両膝をついた。


「何事だ」


「畏れながら、ハラグロー筆頭司教さまがリピー大司教閣下にご報告させていただきたいことがあるそうでございます」


「通せ」


「はい」



 この神殿に5人いる司教のうち、リピー大司教の最側近とされているハラグロー筆頭司教が部屋に入って来た。

 彼は大司教の不興を買わぬために半裸の修道女たちには目もくれず、大司教閣下の御前10メートルほどの位置で膝下低頭する。

 こんな場所で閣下の修道女に目を向けるより、自室に戻れば閣下から下賜されたやや年増の修道女が3人もいてくれるのである。



「リピー大司教閣下におかれましては誠にご健勝のご様子。

 このハラグロー、恐悦至極にございまする……」


「報告を聞こう」


「はっ」


 だがハラグローはちらりとだけ修道女たちに目をやった。

 つまりこれは定例報告などではなく、些か微妙な内容の報告であるということになる。


「お前たち、別室に下がっていなさい」


「「「 はぁ~い♪ 」」」



 リピー大司教閣下もハラグロー司教も、こうした阿吽の呼吸で行動出来るがために今の地位まで上がって来たのであろう。


 ハラグローは修道女たちが全員いなくなると低頭した。


「神聖騎士団からの報告によりますと、奴隷狩りのために大森林に出向いていた騎士団小隊が未だに帰還していないとのことであります」


「なんだと……

 小隊長は誰だ!」


「はっ、ゲリゲ・リピー小隊長であります」


「あの莫迦孫め、小隊すら満足に指揮出来んのか!

 帰還後には騎士見習いに身分を落とせっ!」


 実際の小隊は叩き上げの副隊長が指揮を取っているために、大司教の親族などが隊長になっていてもなんとかなっているらしい。


「はっ。

 それで如何いたしましょうか。

 10日後には宗教集会と奴隷オークションが開催予定であります」


「捜索隊は出したのか」


「5日前に3個小隊を派遣致しましたが、未だ連絡はございませぬ」


 それら小隊は、間もなく街道を封鎖する大城壁を目の当たりにして大驚愕し、すぐに門や隙間を探しての捜索活動を始めるだろう。



「いつものようにオークション参加者からの献金は受け取っているのだな」


「はい、昨今の不作により農地拡大の必要に迫られた貴族家が多く、45家もオークションに参加希望を表明しておりまする」


「むう、現在神殿に在庫の奴隷は何匹いるか」


「1匹もおりませぬ。

 すべて前回のオークションにて高値で売れてしまっております。

 よって、万が一オークション当日までに小隊が帰還せねば、些か困ったことに……」


「対応策を具申せよ」


「まずは近隣国の創世神神殿のうち、我らと同じコイトス枢機卿猊下の庇護下にある神殿の騎士団分屯地司令官と交渉し、余剰奴隷を借り受ける、もしくは購入することが考えられますが、これはあまりお勧め出来ませぬ」



 このドチョンボ王国は東西、南北共に200キロほどの広さを持つ小国であり、その南西側に犬人族や猫人族が住む南西大森林があった。

 よって国の中央付近にある神殿からは100キロほどの行程で大森林に至る。

 馬車を含む集団であっても、街道を通れば3日ほどの行程だった。


 ただ、この大陸上の2000ほどの国の内、犬人や猫人の居住地域に接した国は300ほどしかない。

 残りの1700の国にある約3500の神殿の騎士団は、中央神殿の指導によりこのドチョンボ王国神殿のように犬人猫人居住地域に接した国の神殿に間借りする形で分屯地を持っていた。

 彼らは同じ創世神教に属する集団ではあるが、それぞれの神殿の長である司教や大司教の出世争いのために、実質的には激しい敵対関係にある。

 もちろんその全ての分屯地に於いて奴隷狩り隊は未帰還であり、司令官たちは必死になって極秘捜索隊を派遣していた。



「当然だ。

 来年の人事異動に於いて下級枢機卿として中央神殿に返り咲くためにも、この不始末は何としてでも隠蔽せねばならぬ。

 次期下級枢機卿の地位を巡っては、如何に同じコイトス上級枢機卿閣下の庇護下にあるとはいえ、他の大司教共は敵だからな」


「となればやはり奴隷オークションを延期するしかなかろうかと」


「ふむ、オークションの参加料は如何するのだ」


「返金するよりは、次回開催のオークション参加料に充当すると通達すればよろしいかと愚考いたします」


「よし、万が一第1小隊が期日までに帰還しなかった場合には、宗教集会当日にオークションの延期を発表せよ」


「はっ」


「それで文句を言う者がいれば、教会の威光に逆らった罰金として金貨200枚の支払いを命じ、その上で今後10回のオークションへの参加を禁ずると申し渡せ。

 たとえ相手が王家の代理人であってもだ!」


「ははっ」


「もちろん中央神殿への上納金とコイトス猊下への献金は、神殿の機密費から出して届けるように。

 また、残る6個小隊の内2個を神殿の警護に残し、4個小隊を奴隷狩りのために派遣せよ。

 ノルマは小隊ごとに80匹だ。

 奴隷の高騰が続いているうちに金貨を貯め込まねばならん」


「畏まりました」



 こうして追加派遣された奴隷狩り隊も、もちろん大城壁に阻まれて驚愕することになる。

 だが、彼らにしてみても街道が封鎖されていたというだけの理由で帰還することは出来ず、その前に少なくとも壁の切れ目を探すために数日間の捜索は必要になるだろう。

 また、その際に道なき道を進むために馬車で水や食料を運ぶことは不可能であり、当然馬の背に荷を乗せての移動になる。

 各小隊は状況報告のための連絡騎士を神殿本部に返し、本隊は徒歩で壁の切れ目の捜索を続けていた。


 このように、惑星全域約5000の神殿にはそれぞれ突然巨大な壁が出現したという知らせが齎されていたが、もちろん彼らはその報告に驚愕しつつも奴隷集めが不能になっているという事実は厳重に隠匿されていたのである。


 



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