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*** 201 受入れ体制 ***

 


 オクムラとオクデラが立ち上がって担架の前後を持った。


「この担架に怪我人や病人を乗せて救護所に運び込んでやって下され。

 もし要救護者が大きく重ければ4人で担架を持たれればよろしいだろう。

 戦士の皆さんはこの担架を持って民の皆さんの間を廻って頂けぬだろうか」


「「「 おう! 」」」


 5000人近い戦士たちが一斉に動き出している。



「オーキー殿、あの救護所では先ほどの我らのような大怪我も癒せるのかのう……」


「生きている限りは全ての怪我を治せるだろう」


 土佐犬人族族長が後ろを振り返った。


「リョーマー叔父貴、その救護所とやらで癒してもらったらいかがかの」


 土佐犬人族の中からリョーマル族長に劣らぬ巨体の主が返答した。


「いや、わしは最後でよい。

 民の治癒がすべて終わってからお願いするとしよう」


(さすがだの……)


「それでは僭越ながら約定通りに貴殿らに食事を振舞わせてもらいたい」


 オーキーの言葉と共に辺り一帯に100を超えるほこらが出現した。

 そのほこらの前には多くのテーブルと穀物粥の入った寸胴や食器などが出てきている。

 ほこらの前面には大きく猫か犬のシルエットが描いてあり、その前には大勢の犬人型、猫人型の世話役アバターも出てきていた。

 オークたちのすぐ傍らにも大きなほこらが2つ出てきている。


「さてみなさん、ほこらに並んで粥を受け取ってくださるか。

 粥の上には犬人用と猫人用の食料も乗っておるので、それぞれのほこらで受け取っていただきたい」


 乳飲み子を抱えた母親には、仔犬用ミルク、仔猫用ミルクが入った哺乳瓶も配られている。


 アバターたちが粥をよそい始めると民や戦士たちが順番に椀を受け取っていった。

 大族長たちの前にもアバターが盆に乗った粥と水の入った器を持って行っている。

 だが、誰も食事に手をつけようとしていない。


「あー、なにしろこれだけの人数がおられるからの。

 全員に行き渡るのを待っていればせっかくの温かい粥が冷めてしまう。

 どうか椀を受け取った方々から食べ始めてくださらんか」


「だがそれでは、食料が足りなかった際には食べられぬ者が出てしまうのではないか?」


「その心配はいらない。

 食料はここにおられる方々が死ぬまで好きなだけ召し上がられても尽きぬだけの量がある」


「なんと……」


「もちろんお代わりも好きなだけどうぞ」


「そうか……

 それでは頂くとしようか」


 大族長たちが粥を口にした。

 もちろん犬人族系の者には粥の上にドッグフードが乗っており、猫人系の者の椀にはキャットフードも乗っている。


 びーん! びーん! びーん!


 粥を口にした大族長たちのしっぽが盛大に膨らんだ。


「旨い……」


「このように旨いものを食べたのは初めてだ……」


「こんな旨いものを好きなだけ食べてよいと仰せか」


「もちろんだ。

 これより毎日好きなだけ食べてくだされ」


 大族長たちが食べ始めると次は族長たち、その次は戦士たち、さらには民たちも次々に食べ始めている。


 びーん! びーん! びーん!

 びーん! びーん! びーん!

 びーん! びーん! びーん!


 広場中で盛大にしっぽが膨らみ始めていた……



 そうこうしているうちにも、救護所の前に出来ていた長い担架の列がどんどんと短くなっていったようだ。

 専用出口から出てきた犬人や猫人は、そこで粥を勧められて夢中で食べている。


「どうやら民の治療も終わりつつあるようだ。

 怪我や病を持つ戦士の方々も救護所に向かわれたらいかがだろうか」


 土佐犬人族の中から大きな犬人が立ち上がった。

 だがその右足は膝から下が失われており、傷跡には麻らしき粗末な布が巻き付けてある。


「うむ、それでは厄介になるとするかの……」


 すかさず土佐犬人の若者が4人進み出て担架を持ち、リョーマーの叔父貴と呼ばれた男を担架に乗せて運んで行った。



「あのリョーマー叔父貴は先代の族長だったのだがの。

 この大森林の外縁部にいる犬人をヒト族共の手から守るために出陣しておったのだ。

 その際に50人ほどのヒト族奴隷狩り隊を全滅させたのだが、その際に不覚にも足を切りつけられてしまっての。

 その傷が運悪く腐り始めたためにヒト族共の剣で切り落としていたのだよ。

 そのために族長は引退し、後継を争う戦いの末にわしが族長に就いたというわけだ」


「そうだったのか……」



 リョーマー前大族長以外にも多くの戦士たちが担架に乗せられて運ばれていっている。



「さて、それでは引き続き貴殿らの住処を作らせていただこうか」


 オーキーの声と共に広場の周辺に無数のほこらが現れた。

 小型とされる500人用のほこらから中型とされる1万人用のほこらまで、それぞれが100ほども出現している。


 犬人と猫人の口が大きく開き、しっぽも再び膨らんでいた。


「あのほこらの中には貴殿らの寝場所が用意してある。

 また、建物全体が暖かくなるので真冬でも凍えることはないだろう。

 1階部分には大きな風呂もあるので是非利用して下され」


「ふろ?」


「湯で体を洗い、また湯の中に浸かって寛ぐための施設だ」


「そのような贅沢な……」


「いや、そうして体を清潔に保てば病気にも罹りにくくなるし、ノミやダニも落とすことが出来るのだ」


「そうか……」



「ところでオーキー殿、いくつかお尋ねしたいことがあるのだが……」


「もちろん何でも聞いて下され」


「あの住処と言われた建物なのだがの。

 我らの人数に比べて些か多すぎはしまいか?」


「先ほどの映像にあったように、ヒト族に捕らえられていた犬人や猫人、加えて既にヒト族の国に連れ去られてしまっている民を取り返し、この地に戻してやりたいのだ。

 多めに作った住処は彼らのためのものだな」


「なるほど」


「それからの、あの食事を振舞ってくれるほこらや住処の建物には、なにやら不思議な文様が描かれておるだろう。

 あれはどういう意味なのだ?」


「これも先ほど申し上げたように、銀河宇宙には多くの星々があり、その全てに組織や会社と呼ばれる集団が大量にある」


「それは我ら南西大森林連合のようなものか?」


「そうだ。

 あの文様はそれらの組織の内、食料を援助してくださった組織のシンボルマークだの」


「それはありがたいことだ。

 今ですら森の恵みが減って来ている一方で、ヒト族の地に捕らえられている同胞を喰わせてやるためには、多くの食料が要るだろうからの」


「その方々にはどのように御礼を申し上げればよろしいだろうか」


「そうだの、これより貴殿らが部族の皆さんと一緒に食事をされる際などに、感謝の意を示すためにあの文様に向かって礼を為されたら如何だろうか。

 その様子を我らが映像として彼らに届けよう」


「それはありがたい。

 いつかは直接お会いして御礼申し上げたいものよの」


「彼らの多くも犬人や猫人なので、ヒト族に捕らえられていた同胞が救われた上に腹いっぱい食べている姿を見れば大いに喜ばれることだろう」


「なるほど。

 農業とやらを教わって、我らもいつかは遠い地の同胞に食料を援助出来るようになりたいものよのう……」


「すぐには無理かもしらんが、貴殿らの子や孫やさらにその子孫らが成し遂げるかもしらんの」


「そうか……

 これより我らが受ける御恩を、いつかは別の同胞にお返しするよう子らによく伝えておくとしよう」



 どどどど……


 ん?


 どどどどどど…… 「わはははは―――っ!」


 救護所の方角から大柄な土佐犬人が突進して来た。

 どうやら脚を元通りに生やしてもらった前大族長リョーマーが駆け寄って来ているらしい。


 オーキーと対峙して座っていたリョーマル現族長がやれやれといった体で立ち上がり、脚を前後に開いて低い姿勢になった。


 どどどぉぉぉ―――んっ!


 その胸に前族長が激突する。


 現族長の肋骨は何本か逝ってしまい、脚も3メートルほど滑って後退したが、それでも現族長は倒れずに踏ん張っていた。


「見よリョーマル!

 ほこら殿がわしの脚を元通りにしてくだされたぞっ!」


「誠におめでとうございまする……」


「かくなる上はお前に挑戦し、族長に返り咲くかの!」


「……謹んでお受けさせて頂きまする……」


 前族長リョーマーはその場に座って大胡坐をかいた。


「冗談じゃ。

 たぶん今のお主とわしが戦えばほとんど互角の戦いとなろう。

 だがの……

 わしはお主には到底及ばぬのよ」


「…………」


 前族長は周囲を見渡した。


「見よこの大勢の犬人と猫人を。

 お主はヒト族の手から犬人と猫人を守るため、多くの一族を結集してこのように大きな部族集団を作り上げた。

 これは単に強者であるだけでは到底成し遂げることは出来ぬであろう偉業よ。

 これからはオーキー殿や『きゅうさいぶもん』とやらのご指導の下、我ら犬人と猫人の新たなる暮らしが始まる。

 その集団を率いるのはお主のような統率力を持つ者が相応しかろう」


「…………」


 前大族長はオークたちに向き直り、地に頭をつけた。


「我が脚を元通りにして下さり、心より御礼申し上げる」


 いつの間にか診療所から戻って来ていた犬人や猫人の戦士たちも、前大族長の後ろに並んで深々と頭を下げている。


「皆さんどうか頭を上げて下され。

 これらは皆天より賜った我らの任務なのだ」


「そのご任務なのだがの。

 貴殿らはこれよりこの南西大森林だけでなく、南の大森林や西の大森林の部族連合にも向かわれるのであろう」


「その予定だが……」


 前大族長が微笑んだ。


「そのご任務には、是非我を伴ってはいただけぬだろうか。

 なに、去年怪我のためにリョーマルに大族長の座を譲り渡す前には、わしも10年の長きに渡り大族長の地位にあった。

 その間南や西の大森林の長たちとも知遇を得る機会は多かったのだ。

 故にわしが説得すれば各地の大族長や族長たちも聞く耳を持ってくれるだろう」


 年配の狼人族も声を上げた。


「同じことはわしのような老頭児にも言える。

 わしが各地の狼人族の長たちを説得すれば、聞くだけは聞いてもらえるだろう」


 高齢の獅子人族も言った。


「各地の森林を廻って説得するために、オークの方々は300人もおられるとのことだ。

 その方々お1人と我ら長老衆に族長衆を5人ばかりつけて、各地の犬人部族や猫人部族を廻られたら如何であろうか」


 後方の戦士席からも声が上がった。


「いや長老殿、我ら一族の者たちもオーキー殿らのおかげをもって腹いっぱい喰えるようになった。

 故に我ら戦士ももはや必死になって狩りを行い、食料を集める必要も薄れたと思う。

 この上は戦士全員でオーキー殿らの手助けをさせていただいてはどうだろうか」


「そうだの、この地にまったく戦士がいないのも民が不安になるやもしれぬので、ここには500人ほどを残し、残りの4500名でオーク族の方々に随伴させていただくのは如何だろう」


「大きな部族集団相手には長老殿方にお願いし、部族相手には族長や戦士長、小さな村相手には戦士たちが随伴させていただければよかろうな」


 リョーマー前大族長がオーキーに向き直った。


「ということで、我らにもお手伝いさせていただけますかの」


「貴殿らのお申し出はたいへんにありがたい。

 犬人族や猫人族への説得が早く進めば進むほど飢える者が減るだろう」


 多くの戦士たちが頷いている。


「ただ、先ほど解放した方々や、これより解放するヒト族の地に捕らえられている方々を受け入れて頂く仕事もお願いしたいのだが」


「それこそ我らの仕事であるのう」


「食料さえ十分にあれば、ここに参集した皆が受け入れるのは間違いないだろう」


 周囲を取り囲む民たち全員が頷いている。


「誠に忝い。

 今後ともよろしくお願い申す」



 こうしてまずは南西大森林の部族連合を中心にした勧誘、受入れ体制が整っていったのである。




 余談だが……

 この南西大森林コロニーに、タケルの代理でニャイチローが視察に訪れた際、たまたま現地にいたオーク族の戦士たち10人に乞われていつもの鍛錬を行うことになった。

 因みにニャイチローも成長しており、身長は150センチ、体重も46キロになっている。


 そのニャイチローが10人の巨漢オーク族たちと対峙した。

 コロニーの住民たち数万人がはらはらしながらこれを見守っている。


 だがもちろん、あの大強者たるオークたち10人がいつものようにニャイチローにボコボコにされていったのである。

 大長たちと戦士たちと住民たちの目も口もかっ広げられていた。


 そして鍛錬が終わり、キュアの魔法で復活したオークたちが師範であるニャイチローに感謝の礼をした後……

 目をハート形にしてフェロモンを吹き出しながら、お年頃の猫人女性1万人がニャイチローに殺到して来たのである。


 ニャイチローも目と口をかっ広げ、全身の毛が逆立っていた。



 このときの表情があまりにも面白かったので、タケルはその姿を実物大写実銅像にして救済部門総司令部の玄関前に飾った。

 その銅像の前では全く同じ姿になってフリーズしたニャイチローが目撃され、総司令部の人員たちの笑いが止まらずにその日の仕事は大幅に停滞したそうである……



 この銅像ももちろん銀河連盟報道部によって配信されたのだが、幸いにもあまりにも変顔だったため、ニャイチローの故郷惑星のママや弟妹たちには気づかれなかったそうだ……




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