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*** 199 死合い ***

 


 オーキーと南西大森林の大長たちとの問答は続いていた。


「それで貴殿らオーク族はこの星に何名派遣されてきたのだ」


「およそ400名だ」


「たったそれだけでヒト族共の奴隷狩りを止められるのか?」


「派遣されてきた戦闘要員のオーク族は400名だが、魔法を使ってその手助けをしてくれるAI族は(アバターを含めて)300万人ほどいる」


「なんと……」


「実はここしばらくの間、我らはヒト族2000ほどの奴隷狩り部隊を退治して来た。

 よろしければその様子の一部ご覧いただけないだろうか」


「是非見せて頂きたい」



 8面ある巨大なスクリーンに奴隷狩り部隊が映し出された。

 周囲には檻馬車に入れられた犬人や猫人たちがいる。


 その光景を見て、多くの戦士たちが牙を剥き低い唸り声を出し始めている。

 外周の女性や子供たちからはすすり泣きの声も聞こえてきていた。


 そこにオークリーが単身登場した。

 50人もの武装したヒト族に向かってゆっくりと歩いて行く。

 その後の戦闘場面では、オークリーがヒト族を叩きのめすたびに歓声が上がり始めた。

 その声はヒト族が倒れ伏すたびに大きくなってゆく。


 逃げ出した隊長が捕らえられ、他のヒト族に叩きつけられて沈黙すると、大歓声が沸き起こった。

 さらにオークリーが檻を広げて犬人や猫人を救出し、白い光が彼らの怪我を癒すとその場の全員が手足やしっぽで地面を叩いて喜びを表し、ヒト族たちが代わりに檻に入れられると、怒涛のような大歓声が沸き起った。



(武装した50人ものヒト族をたった1人で打ち倒したか……)


(同じことが出来るとすれば我ら3人の大族長ぐらいなものだろう。

 だが、あのオーク族の戦士のようにまったくの無傷というわけにはいくまい……)


(このような無敵の戦士が400人もいるのか……)



 画面上では別のオーク戦士が奴隷狩り部隊を壊滅させている映像が続いていた。

 ここでもそれぞれ100人近い猫人や犬人が助けられており、広場を囲む群衆は熱狂している。



 オーキーが大族長たちに向かって声を出した。


「それでもこの大地は広い。

 いくら我らオーク隊が努力したとしても、すべてのヒト族奴隷狩り隊を殲滅するには長い時間がかかるだろう。

 そこで我らの仲間がヒト族の国を覆う壁を建設した」



 画面が切り替わった。

 そこでは高さ20メートルに及ぶ壁を前にして立ち竦むヒト族の奴隷狩り部隊の姿があった。


 その場の檻馬車からは傷ついた猫人や犬人たちが次々と消え失せ、別の広大な場所にて手当を受けながら食事を振舞われている様子も映し出されている。

 ヒト族たちはしばらくの間壁の切れ目を探して右往左往していたが、そのうちに全員が消え失せていった。

 切り替わった画面には、ヒト族各人がそれぞれマッパにされ、牢に入れられて項垂れている姿も見えている。



「あの壁を貴殿らのお仲間が造られたと申されるか……」


「然り」


「あの壁はどこまで続いているのだろうか……」


「この星には約2000のヒト族の国があるが、その国の周囲はすべてあのような壁で囲った」


「そんなことが可能なのか……」


「我らの仲間は強大な魔法が使えるのでな」


「そうか……」


 因みに壁の総延長は400万キロメートル、この惑星100周分もある。



「だが壁の下に穴を掘ったり壁沿いに斜路を造ったりして壁を乗り越えて来ようとするヒト族もいるのではないか」


「そのような大工事を行おうとしても、我らの仲間がすべての壁を監視していてすぐに穴を塞ぎ、斜路も崩してくれるだろう。

 壁の建設に比べれば容易なことだ」


「そ、そうか……」


「ということは、貴殿らはヒト族共を完全に隔離してしまったということなのだな……」


「その通りだ」


「それではもはやヒト族共は我らの森に侵入出来ぬだろう。

 同時に我らもヒト族の国に攻め込めぬ。

 貴殿は先程ヒト族への懲罰は『きゅうさいぶもん』に任せ、我らに攻め込むことを断念するように言われたが、既に貴殿らによってヒト族も我らの軍も封じられてしまっているではないか。

 にもかかわらず、なぜこのような依頼に来たのだ」


「貴公の仰る通り、ヒト族の国を封鎖したということは、貴公らの森をも封鎖してしまったことになる。

 如何に捕らえられた犬人や猫人を救うため、またヒト族に二度と奴隷狩りなどさせぬためとはいえ、貴公らの森を勝手に隔離してしまったことは事実である。

 我らがこうして説明に出向いて来たのはその謝罪のためでもあるのだ」


「むう……」



 しばしの沈黙の後、狼人族の大族長が口を開いた。


「それで先ほど助けられた犬人や猫人以外にも、ヒト族の国に多く捕らえられている同族たちも我らの地に戻して下さるというだな」


「そうだ。

 もちろんその際には、彼らの分も含めて全員に行き渡るだけの食料も負担させて欲しい」


「その食料は誰のものか」


「多くは銀河3000万の認定世界の民たちからの寄贈分になる」


(まあ実際には喜捨によって購入した分だが、同じようなものだろう)



「そのように多くの民たちが我らを援助してくださるというのか」


「そうだ」


「見返りは?」


「無い。

 ただ、先ほど助けられた猫人や犬人の姿を見て、この場の方々も涙を流して皆喜んでおられたろう。

 その3000万世界の民たちも、同じ映像を見て涙を流して喜んでくださるだろうの」


「そうか……」



「だがいつまでもそうした他者の善意に頼るわけにもいくまい」

「この森の恵みも年々減って来ておるからの」


「故に貴殿らには農業を始めてもらいたいのだ」


「『のうぎょう』とは、あのヒト族共が行っているように大地で草の実や芋を育てるということか」


「そうだ。

 加えてその作物を使って動物を育てれば、もっと多くの肉も食えるようになるぞ」


 どよめきが起きた。



「我らの地は森や山ばかりだ。

 ヒト族の地のような平原は少ないぞ」


「先ほどの映像にあった通り、ヒト族を隔離した壁と貴殿らの森の間には広大な平原もある。

 貴殿らの内多くの方々には森の外に出てあの平原にて農業を始めてもらいたいのだ」


「そのようなことが我らに出来るのだろうか」


「問題ない。

 我らオーク族もその仲間たちも農業を得意としている。

 これより貴殿らにその方法を伝授させて頂きたい」


(この男のような大強者でも獲物と戦ってその肉を得るのではなく、『のうぎょう』を行って戦わずに食料を得ているというのか……)



「そうした援助の見返りに、我らにヒト族に対する遺恨を捨てろというのだな」


「そうだ。

 貴殿らが攻め込めば、多くのヒト族の国も滅ぶだろう。

 だが、それでヒト族が多くの戦士を失えば、貴殿らと同じように子や孫や番相手を失った者たちが大いなる遺恨を抱えることになる。

 そうなればヒト族も、すぐには無理としても力を蓄え、戦士も増やした上でこの地に攻め込んでくることは間違いない。

 我らはそうした遺恨の連鎖を断ち切りたいのだ」


「「「 ………… 」」」



「さらには我らの長がヒト族を罰することだろう。

 その様子もこの場のようなスクリーンで貴殿らに見て頂ける。

 それでどうか遺恨を収めてもらえないだろうか。

 伏してお願いする」


 オーキーとオーク戦士2名が地に着くほどまでに頭を下げた。



 3人の大族長たちも、その後ろにいる多くの長たちも腕を組んで沈黙している。


(もう2度と部族の民を拐かされることは無くなるのか……)


(加えて今までに失った者たちも帰って来るのだな)


(確かにこの者たちの言い分を容れれば我ら全ての部族の暮らしは楽になろう。

 最近では夏にも気温が上がらず森の実りも少なくなって来てしまっているからの)


(加えてヒト族への遺恨もこの男たちが晴らしてくれるというのか)


(我らに必要なのは今現在の怒りを抑えることのみか)


((( だが…… )))



(この提案を呑むにはやはり異論もあるだろう。

 特に森の外周部に暮らし、多くの民を拐かされた部族の恨みは大きいだろうからの。

 ならばやはり新たなボスを決める戦いは必要となろう)


(たとえその戦いで我が敗北して死したとしても、我が部族には多くの後継者候補が育っておる。

 そしてこの御仁が勝利してこの大森林全体の大長となれば、民たちの暮らしも劇的に良くなっていくだろうの……)


 吹っ切れた表情の土佐犬族大族長が口を開いた。


「貴殿の申されたことはすべて理解した。

 だが、この大森林の種族全ての総意としてこれを受け入れるためには、どうしてもこの大森林全体の大長を決める戦いが必要になる。

 我らも部族の者たちも強者にしか従わぬからの」


「…………」


「また、それぞれの部族の中で次代の長を決める戦いであれば、『死合い』ではなく相手の命までは取らぬ『力比べ』のようなものになる。

 だが、この戦いは我ら全ての民の未来が懸かった重要なものであり、よって全ての禁じ手が許された『死合い』が必要になるのだ」


「委細承知した」



 土佐犬族の大長が微笑みながら立ち上がった。


(現時点の大森林を束ねる大長として、死する覚悟を決められたか……

 さすがの御覚悟であらせられるな……)



 獅子人族の大長と狼人族の大長も立ち上がった。


「土佐犬族大族長殿、獅子人族の長である我も参加せねば猫人種族は納得せんぞ」


「狼人族もだ」


「貴殿ら……」


 獅子人族の大長と狼人族の大長が不敵に微笑んでいる。


(この大族長2人も死する覚悟を決められたか……

 なるほど、大族長という地位に問われるのはいつでも民のために死せる覚悟なのだな。

 そういえばあのエリザベートさまも、部門長の覚悟とはいつでも責を負って辞任することだと仰られていたの。

 はは、民の犠牲の上に王であり続けようとするヒト族の王とはえらい違いだわい……)



「オーク族族長殿、1対1の死合いを3回ということでよろしいだろうか」


「承知した。

 ただひとつ申し上げておく。

 この場には我が仲間が『ゴッドキュア』という魔法をかけた。

 故に今この時点のこの場でだけ、死してもすぐに生き返るだろう。

 また大怪我をしてもすぐに癒える」


「なんと……

 魔法とはそのようなことまで出来るのか」





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