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*** 198 南西大森林 ***

 


 その場に犬人と猫人のアバターが20人ほども現れて、檻の中にいた者たちに『キュア』と『クリーン』の魔法をかけていき、それでもまだ動けない者たちを抱き上げては救出していった。


「助けに来たぞ」「もう大丈夫だ」


「き、傷が塞がっている……」

「折れた足が元通りに……」



 アバターたちは全員に水の入ったコップと肉料理の乗った皿も渡していった。

 添え物として猫人族にはちゅ〇る、犬人族にはカリカリもついている。


「水も食事も大量にあるからな。

 慌てずゆっくり食べてくれ」


「ね、猫人のお兄ちゃんありがとう……」

「犬人のお姉ちゃんも……」



 捕らえられていた犬人と猫人の全員が食事を始めると、アバターたちはヒト族の自称騎士たちを檻に放り込み始めた。


「ぎゃあ」

「い、痛いよう……」


 1つの檻に5、6人ほど詰め込むと、曲がっていた檻もすぐに元通り真っすぐになっている。

 小隊長だけは1人で檻に入れられていた。



「どうだお前たち、そうして檻に入れられる気分は」


「な、なんだと……」


「す、すぐに300名の騎士団がお前たちを全滅させに来るぞ!」


「あはははは、お前たちのような弱者がたとえ何万来ようとも、俺1人で全員退治してやる」


「そ、そのようなこと!

 創世神さまがお許しになられるとでも思っているのかっ!」


「実際には創世神さまではなく創世天使さま方だがな」


「な、なに……」


「俺たちはその創世天使さまの命を受けて行動している。

 俺はその創世天使さまに直接創造して頂いた身だしな」


「えっ……」


「創世天使さまはお怒りである。

 なにしろ創世天使さまは、我らヒューマノイドに対して奴隷制度を固く禁じておられるからな」


「「「 !!! 」」」


「それを創世天使さまの名を騙って、己の権力とカネのためにこのような奴隷狩りまで行うとは……

 故に俺と仲間たちは、お前たち思い上がったヒト族を罰するために天使さまから遣わされたのだ」


「な、なんだって……」



 オークリーは犬人たちと猫人たちを振り返った。

 ほとんどの者たちが檻に入れられたヒト族を見て安心して食事をしている。

 あの黒毛皮の子は、泣き疲れたのか女性猫人型アバターの腕に抱かれてすやすやと寝ていた。


「アバター殿方、私は次の奴隷狩り隊を殲滅しに行こうと思うが、この場をお任せしてもよろしいだろうか」


「もちろんです。

 この後はすべてお任せください」


「忝い。

 それではAI殿、我を次の戦場に転移させてくだされ」


『はい』


 オークリーが消えた。


 こうしてオーク戦士100名は、10日ほどで3つの大陸全土の奴隷狩り部隊2000を撲滅、捕縛していったのである。



 一方で救援が間に合わず、奴隷狩りの騎士団が檻馬車に奴隷を満載して帰途についてしまったケースもあった。


 だが……

 彼らの前方には高さ20メートルにも及ぶ壁が立ちはだかっていたのである。

 それも見渡す限り左右に広がって。


「な、なんだあの壁は!

 なぜ街道を塞ぐ形であのような巨大な壁が出来ているのだ!」


「来た時には何もなかったですが……」


「ええい!

 ただちに斥候隊を出せ!

 迂回路を調査させよ!」


「はっ!」


 彼らは馬を走らせて左右方向を半日ほど探索したが、もちろん壁は途切れてはいなかった。

 それどころか、木に登って偵察しても壁は続いていたのである。



「な、なんだと!

 壁に切れ目は無かったと申すか!」


「はっ、2時間ほど馬を走らせ、最寄りの木にも登って確認しましたが、壁は延々と続いておりまして……」


「か、川はあったか……」


「川の上にも壁はございました……」


「川の水の中を潜って反対側に抜けられんのか!」


「それが水中に無数の杭がございまして、くぐるのは到底無理でございます……」


「な、なんということだ……

 これでは神殿の宗教集会や奴隷市に間に合わんではないか!」


「それどころか獣共の戦士たちが追いついてくるやもしれませぬ……」


「よ、よし!

 これより全部隊で川に向けて移動する。

 そこで野営した後は周囲を警戒しながら一方向に向かって進むぞ!

 何としてでも壁の切れ目を探すのだ!」


「はっ!」



 そして彼らが移動を始めようとしたとき。



「た、大変です小隊長殿!」


「どうした!」


「檻馬車が空ですっ!

 獣奴隷共がいませんっ!」


「な、ななな、なんだとぉっ!

 見張りは何をしていたっ!」


「そ、それが襲撃どころか物音もしませんでしたので……」


「!!!

 と、とにかくまずは川に移動するぞ!

 そこで檻馬車を並べて防御を固めるのだ!」


「はっ!」


 奴隷狩り部隊は川べりに進んで水を確保し、そこで最高警戒態勢を取りながら野営した。


 そして翌朝。


「そ、その方ら、20名で森に入ってまた獣共を捕らえて来いっ!」


「それでノルマ分の奴隷を確保しても、どうやって神殿まで帰るのでしょうか……」


「そ、それでは10名は森に奴隷を捕らえに行け!

 あと10名は壁沿いに進んで切れ目を捜索せよ!」


「あの、残りの30名は何をすれば……」


「そんなもの、俺の護衛に決まっておるだろうっ!

 獣の戦士たちが襲ってきたらなんとするっ!」


「「「 ………… 」」」


 だが奴隷狩り部隊も壁の切れ目捜索部隊も帰って来なかったのであった……



「な、なぜ誰も帰って来ないのだ!」


 もちろん既にAI娘たちによって重層次元の留置場に転移させられてしまっているからである。


 そして……


「あ、あの、小隊長殿、食料が消え失せました……」


「な、なんだと!

 ど、どこへ行ったというのだっ!」


「不明です……」


「うぬぬぬぬ……

 そ、それでは5名で森に入って食料を手に入れて来い!」


「は……」


 もちろん食料捜索隊も帰還せず、翌朝にはとうとう小隊長以外の全員が消え失せてしまったのであった。


 小隊長殿は、襲撃される恐怖と空腹と焦りで錯乱したまま放置されていたそうだ……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 犬人や猫人たちの支配領域である南西部大森林内にある直径数キロに及ぶ広大な広場中央には、2人の犬系人と1人の猫系人が並んで座っていた。

 中央に座るのは土佐犬族の長、その右には狼人族の長が座っており、左側には獅子人族の長がいる。

 いずれも見事な体躯を持ち、一見して強者とわかる者たちだった。


 この星の犬系人と猫系人は、指も直立2足歩行も獲得していたが、体表の多くはまだ毛皮に覆われている。



 相対しているのはオーキー族長と2人のオーク戦士であった。


 その周囲には各種犬人と猫人の部族長たちが100人ほども蝟集していた。

 ドーベルマン族、グレートデーン族、チベタンマスティフ族、シェパード族、虎人族、豹人族、マヌル族。

 それ以外にも見たことの無い種族の強者たちが、オーキー族長と大森林の代表たちを取り囲んでいる。


 さらにその周囲は5000名ほどの戦士たちが集結し、その後ろには万を超える女性や子供、老人などの非戦闘員がいた。



 しばらく前からオーキー族長による説明と依頼が為されていたが、それも一区切りついたようだ。

 どうやら銀河技術を用いてその音声は全員に届けられている上に、オーキーたちの上空には巨大なスクリーンが8枚も展開されていてその場の全員に説明や依頼の様子を見せている。



 しばしの沈黙の後、この大森林を代表する種族の大族長たちが口を開いた。


「それで貴殿らオーク族はその『きゅうさいぶもん』という組織の命を受けて、この『ほし』にやってきたというのだな」


「如何にも」


「そして、その目的はヒト族共に囚われて奴隷とされている犬人や猫人の解放と、ヒト族共に今後2度と奴隷狩りなどさせぬよう仕置きを与えるためだというのか」


「もちろんそれが主な目的だが、それだけではない。

 今現在ヒト族の国には2000万もの犬人や猫人が囚われているが、彼らを解放した後に同胞として受け入れて頂けるようお願いもしに来た」


 2000万の奴隷と聞いて、多くの族長たちのしっぽが怒りに膨らんでいる。


「そのために、その者たちと我らの食料をも負担するというのか……」


「そうだ。

 貴殿らの許可を頂ければ、ここのような大森林の内部に無数のほこらを造り、そこで食料を配布するとともに寝床も提供する」


 またしても族長たちはしばし沈黙した。


(このオーク族という男、なんという強者であろうことか……

 たぶん我ら3人の大族長全員でかかっても敵わぬに違いない……)


(その超強者が驕って命令することなく、我ら全員に誠意を尽くして説明と依頼を行っているのか……)



「我らはそもそも一族で暮らしており、他の一族とは交易程度の付き合いしか無かった。

 ヒト族の外道共はその隙をついて我らの民を拐し、奴隷として使役しているという。

 これに対抗してヒト族共を叩きのめし、2度とそのようなことが出来ぬよう滅ぼすためにこうして強者が集結しておる」


「このように多くの戦士が同じ目的で集まるのはおそらく初めてのことだろう。

 貴殿らはそうした我らにヒト族との戦を止めろというのか」


「然り。

 戦ともなれば、如何に強者である貴殿らも傷つき、命を落とすやもしれぬ。

 また、ヒト族側の被害も甚大なものになろう。

 それがさらなる怨恨を生み、この星が種族間戦乱に明け暮れるようになってしまう可能性もある。

 そうなれば民たちも満足に食料を得られず困窮するかもしらん。

 そうした戦の拡大を防ぐためにも、ヒト族の暴虐抑止と懲罰は我らにお任せ願えないだろうか」


「それが貴殿ら天界『きゅうさいぶもん』の任務だというのか……」


「そうだ」


「ひとつ教えてほしい。

 その『きゅうさいぶもん』や天界はすべて貴殿らのようなオーク族で構成されているのか」


「いや、救済部門の長は猫人族である」


 猫人たち中心にどよめきが広がった。


「また、天界には救済部門以外にも多くの部門があるが、それら部門を束ねる当代の最高天使さまは犬人族であり、前最高天使さまは猫人族であった」


 どよめきが大きくなった。


「さらに我らの直属の上司たる救済部門実行部隊長はヒト族だしな」


「そのように多くの種族が参加している組織だというのか……」


「その天界には戦は無いし奴隷もいないのか?」


「無い。

 もちろん諍いはあるが、いずれも暴力以外の手段で解決されている」


「『にんていせかい』というものの中でも戦は無いのか」


「それも無い。

 また、まだ認定世界に至っていない世界も9000万ほどあり、そのうちの7000万世界では犬人や猫人だけでなく多くの種族が暮らしているが、そこでの諍いはほとんどの場合ボス同士の個人戦で決着が為されているために、遺恨が残らない。

 貴殿らの社会のようにな。

 逆にヒト族世界2000万では戦ばかりだ。

 加えてヒト族は同じヒト族を奴隷にしているしな」


「ヒト族世界では戦ばかりなのか……」


「ヒト族は同胞である同じヒト族をも奴隷にしているというのか……」


「そうだ。

 よって我らとその仲間たちで手分けして、そのうち特に戦の激しいヒト族800万世界は強制的に戦を停止させてきた。

 主に戦を命じる指導者たちを捕らえて牢に入れるという手段でな」


「そのヒト族世界には犬人や猫人はいないのか」


「実はこの星のように犬人、猫人とヒト族が共存している世界はかなり珍しいのだ。

 その種族同士の戦を防ぐために我らが派遣されて来た」


「そうか……」





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