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*** 197 創世神教神聖騎士団 ***

 


 或る大きな森林の外縁部では、50人ほどの創世神教神聖騎士団がキャンプを張っていた。

 その中心部には檻馬車が10ほどもあり、内部には犬人族と猫人族が詰め込まれている。

 そのほとんどが子供と怪我人だった。



「奴隷共は何匹になったか」


「はっ、全部で92匹となっております」


「そうか、これで今月のノルマは達成だな。

 次の奴隷市までには十分な余裕があるが、明日出立して神殿に帰投するので準備せよ」


「はっ!」



 そのとき森の中からオークリーが1人出てきた。

 彼はその場を見渡すと、自らの血が沸騰するような感覚を覚え、怒りのあまり手も震え出している。


 あの檻の中に押し込められているのは、犬人と猫人ばかりではないか!

 大人はほぼ全員が傷ついていて血を流し、子供たちは声を押し殺して泣いている。

 これが奴隷狩りだというのか!

 いったい何の理由があってこのヒト族どもはこのような非道なことを為しているのだ!


 オークリーは立ち止まって深呼吸をした。

 怒りに任せて戦ってはならぬと常日頃からオーキー族長に指導されている。

 我らが戦うのは、それがタケル神さまが定められた任務であり、ひいては銀河宇宙が期待している任務であるからであって、決して敵を憎んだからではないのだ。


 だが、そのときオークリーの視界に1人の猫人の子が入ってしまった。

 その1歳ほどに見える黒毛皮の子は、怪我をした脚を伸ばしたまま蹲っている。

 大きな青い目からは涙がぽろぽろと零れていた。


(タケルさまの御曹司殿にそっくりな子ではないか!)


 そのことが却ってオークリーを冷静にした。


(万が一にもタケルさまがここにいらっしゃったら……

 ヒト族の領域に直径100キロ級のメテオが数万数十万と落ち、この惑星のヒト族が絶滅するやもしれぬ!

 こ、これは急いでこ奴らを始末して猫人犬人たちを救出せねば!)




「な、なんだお前は!」


「外道に名乗る名は無い……」


「な、なんだと!

 我らを創世神教神聖騎士団と知っての暴言かっ!」


「はは、クズほどもっともらしい名を名乗りたがるのだな」


「な、なんだとおっ!」



 1人だけ豪華な鎧を纏ったぶよぶよの小男が声を出した。


「見かけぬ種族であるな……

 お前は何族だ」


「お前たちのような者に名乗ると我が種族が穢れる」


「き、きさま小隊長殿に向かって無礼な口を利くかっ!」


「まあよい、こ奴も打ち倒して捕縛せよ。

 これほどの体躯ならばさぞかし良い値で売れるだろう。

 後でたっぷりと獣の身の程を教えてやる」


「「「 ははっ! 」」」



(AI殿、申し訳ございませぬが、重力魔法の発動をお任せしてもよろしいでしょうか。

 某、まだ発動タイミングに習熟しておりませんので)


(もちろんお任せくださいませ)


(ありがとうございます……)



 騎士たちが槍を構えた。

 その騎士たちに向かってオークリーがずんずんと進んでいく。


「お前たち、リピー小隊長殿のご指示を聞いたな、殺さぬよう痛めつけるのみにせよ」


「「「 はっ! 」」」


 騎士たちは槍を突きの形ではなく、上に向けて構え直した。

 上から叩いて相手を昏倒させようというのだろう。


 敵がじりじりと包囲を狭めて来ているのを見て、オークリーは手近な騎士へ一気に距離を詰めるとその腹を蹴り上げた。


 どがっ!


「げうっ!」


 同時にサポートのAI娘が騎士にかかる重力を遮断する。


「ぐわあぁぁぁ―――っ!」


 騎士は15メートルほどにも蹴り上げられ、上空でくるくると回っていた。


 あまりのことに騎士たちは全員が呆然として空中を見ている。


「どこを見ている」


 どがっ! どがっ! どがっ! 


「うわあぁぁぁ―――っ!」

「ぐわぁぁぁ―――っ!」

「あぎゃぁぁぁ―――っ!」


 ぼとぼとぼと……


 地面に叩きつけられたヒト族たちは手足があらぬ方向に曲がり、そのまま沈黙した。


 呆然としていた騎士たちは、ようやく前を向いて敵の姿を探し始めたようだ。


「て、敵はどこだ……」


 どごん!


 騎士たちの後ろに回っていたオークリーが騎士の尻を蹴り上げた。


「ぐわぁぁぁ―――!」


 どごん! どごん! どごん! どごん! …………


「「「 ぐわぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」


 また5人ほどが上空でくるくると回った後に地面に叩きつけられた。

 頭から落ちた数人は微かにぴかぴかと光っている。


「ええい!

 たった1人相手に何をしているかぁっ!

 取り囲んで叩きのめせぇっ!」


「「「 は、はっ! 」」」


 オークリーは腕を組んでその場に佇んでいた。

 もちろんレベル410の身体強化に加えてクラス10の個人用遮蔽フィールドも展開している。


 どがどがどが……


「「「 !!!!! 」」」


 オーククリーは微笑みを浮かべたまま5本ほどの槍を奪い取り、その槍を振り回してヒト族たちをカチ上げた。


「「「 ぎぃやぁぁぁ―――っ! 」」」


 槍を当てる際には下方から上方にかけて胴を薙いでいたために、またしても騎士たちが斜め上方に吹き上げられて行っている。


「こ、殺しても構わんっ!

 や、槍で突けぇっ!」


「「「 は、はっ 」」」



 騎士たちは槍を水平に並べて突進して来た。

 オークリーは槍を投げ捨て、フロント・ダブルバイセップスのポージングを行っている。

 太さ30センチを超える鋼のような上腕二頭筋や山脈のような腹筋と腹斜筋が槍を全て受け止めたが、体には傷ひとつついていない。


「「「 !!!!!! 」」」



 オークリーは蹴りと打突で再び騎士たちを上空にカチ上げていった。


 さらに20人ほどが宙に舞い、地面に激突して白目を剥いている。


「き、貴様らそれでも神聖騎士かぁぁぁ―――っ!

 10人でそ奴を抑え込み、残りが槍で突き殺せぇぇぇ―――っ!」


 そのとき、デブ指揮官が踏み台を使って馬に乗り、あろうことかその場を逃げ出したのである。


 オークリーは自分を抑え込みに来た10人ほどを廻し蹴り1発で吹き飛ばした。


「「「 ぐぁぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」


 ついで両腕を横に広げ、槍を構えた男たちをラリアットで弾き飛ばしていく。


「「「 うわぁぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」



 指揮官は後ろも見ずに馬に鞭を当てて走らせていた。

 部下を囮にして自分は逃げようというのだろう。


「よう」


 オークリーは指揮官に追いつくとその肩を叩いた。

 小柄な馬に乗った同じく小柄な指揮官は、隣を走るオークリーよりも顔が下にある。


「あひぃぃぃ―――っ!」


 リピー小隊長は前から後ろから体の中身を吹き出し始めた。

 馬が迷惑そうな顔をしている。



「お前指揮官だろ。

 せめて部下と一緒に死ねや」


 オークリーは馬と並走したまま指揮官の首根っこを掴んだ。

 そのまま地面に放り投げる。


「げぶぅぅぅ―――っ!」


 オークリーはその臭い指揮官にクリーンの魔法をかけ、両足首を片手で掴んで引き摺りながら元の場所に戻り始めた。

 馬はそのまま走って行ってしまったが、AI殿が後で回収するだろう。


「ま、ままま、待てっ!

 お、俺はドチョンボ王国の神殿を任されたリピー大司教閣下の孫であるぞっ!

 そ、その俺にこのような真似をしてタダで済むとでも思っているのかっ!」


「思っている」


「な……」


「それにしてもお前、そんな大司教の親族なのに、こんな弱い騎士団の小隊長にしか成れなかったのか。

 よっぽど能が無かったんだな」


「な、なんだと!

 我が神聖騎士団300名が報復に来るぞ!」


「ははは、あのように弱い連中なら俺一人でも潰してやれるな」


「な、なななな……」



(オークリーさん)


(AI殿、なんでしょうか)


(すみませんが、もう少しこの連中を痛めつけていただけませんでしょうか。

 まもなくオーキー族長さんが犬人族や猫人族の長たちの説得を始めますので)


(喜んで)



「よ、よし!

 お、俺を解放すればお前は助けてやろう!

 それどころか金貨も恵んでやるぞ!」


「寝言は寝て言え」



 50人の騎士たちのうちの半数は『セミ・ゴッドキュア』の効果もあって、呻きながらも起き上がりつつあった。


 そこに隊長を引きずったオークリーが戻って来る。

 いつのまにか奴隷を満載した檻馬車が倒れた男たちを囲むように配置されていた。


 ぶんっ!

 どごん!


「「「 うぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」


 オークリーは隊長の足を掴んだまま振り回して騎士たちに叩きつけた。


 どごん! 「「「 あぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」


 どごん! 「「「 ひぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」


 そのままハエ叩きで叩くかのように男たちを潰し始めている。

 隊長は豪華な鎧ごとボコボコになっていった。

 手足は既にあらぬ方向に折れ曲っている。

 檻馬車に捕らえられていた犬人や猫人たちは盛大に硬直してそんな光景を眺めていた。



(ありがとうございますオークリーさん。

『錬成』で柔らかくしておきましたので、檻を広げて犬人と猫人を解放してください。

 ベッドや椅子も出しますのでそこに運んであげてくださいね)


(はいっ)



 オークリーは檻の金属を両手で掴み、左右に広げ始めた。

 太い青銅製の檻が軋みながら広がっていく。

 犬人と猫人たちはそれでもまだ檻の中で硬直していた。


 オークリーはすべての檻を広げると、すぐに最初の檻に戻って黒毛皮の子猫に手を差し伸べた。


「もう大丈夫だ」


 子猫はオークリーに抱き着き、声を出して泣き始めた。


「ヒト族の外道共は全員退治したからな。

 一緒に村に帰ろう」


「またママに会えるの?」


「もちろん会えるとも!」


「おじちゃんありがとう……」


(やはりおじちゃんか……

 俺は創造していただいてから生活時間でまだ8年しか経っていないのだがな……)



 おそらく銀河宇宙で最もフケていて厳つい8歳児たちである。

 なにしろ戦闘レベルが400の大台に乗っただけでなく、身長も平均2メートル5センチ、体重130キロ、体脂肪率4%の体躯なのだ……





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