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*** 195 テーバイの変化 ***



 皆さまご安心ください。

 弩グロパートは終了しております……




 


 その日タケルが家に帰ってリビングに入ると、エリザベートが仁王立ちになり床に蹲って頭を下げているジョセフィーヌと子供たちに説教をしていた。

 長いしっぽがゆらゆら揺れながら少し膨らんでいる。


「だからあれほどソファで爪とぎをしてはいかんと言っておったろうに!

 ジョセがついていながらなんということだ!

 このソファは先祖代々ファブリックを張り替えながら使って来たもので、お前たちがズタズタにしてしまった布地は妾の母上が張り替えてくださったものなのだぞっ!」


 見ればソファの座面の布地がボロボロになっており、中身が周囲に散乱していた。

 ジョセフィーヌも子供たちも耳がペッタンコになってプルプル震えながら頭を下げている。

 やはり怒ったエリザベートは怖いらしい。



(なあマリアーヌ、これ何があったんだ?)


(どうやらエリザベートさまが外出されている間にジョセフィーヌさまとお子さま方でタケルさまの映像を見ていたらしいのですが……

 100人近いヒト族の姫たちがタケルさまに媚びを売っている姿を見て、ジョセフィーヌさまがバーサーカーになりかけたようです)


(あー、昼餐会のことは言ってあったけどやっぱりそうなったか……)


(それで巨大猫になりかけたジョセフィーヌさまがその爪でバリバリとソファを引っ搔いているのを見たお子さまたちが、大喜びで真似をされてしまったようですね。

 幸いにも姉のマリリーヌがジョセフィーヌさまに鎮静剤を転移させたためにリビングの壊滅は免れたようですが……)


(……なんてキケンなヨメなんだ……)



 エリザベートのお説教は続いていた。


「そなたたちは罰として5日間のちゅ〇る禁止だっ!」


「「「 き゛に゛やぁぁぁぁ―――っ! 」」」


(それほどまでに厳しい罰なんかい……

 それにしてもジョセフィーヌの悲鳴も子供たちと同じなのか……

 まだまだ子供なのかな?)



『なあマリリーヌ』


『はいタケルーさま』


『確かエリザが子猫のころ、同じようにソファで爪とぎして母親に怒られたことがあったらしいな』


『はい』


『その時の映像って残ってるか?』


『はいございます』


『それプリントアウトしてくれ』


『畏まりました』



 タケルの前にB4サイズほどの写真が2枚出てきた。

 1枚目にはやや背が低く小太りの猫人女性の背中が映っており、その前には今のミサリアちゃんより少し大きな子猫が蹲って頭を下げている。

 後ろのソファはやはり座面がズタズタにされていた。


(へー、これがエリザさまが子猫のころの写真かぁ。

 さすがミサリアとそっくりだなぁ。

 ん?)


 2枚目の写真は頭を下げて謝っているエリザベートの姿をローアングルで横から撮ったものだった。

 その子猫エリザベートは舌を大きく出してべーをしている。


(……さすがといえばさすがなエリザさま……

 栴檀は双葉より芳し、三つ子の魂百までも……)



 タケルはミサリアちゃんを横から見て、舌を出していなかったことに安心した。

 そうして無言で子供たちの横に立ち、その2枚の写真をエリザベートに向けたのである。


「ん?」


 びーん! ぼぼぼーん!


 写真を見たエリザベートのしっぽが盛大に膨らみ、耳も見事なイカ耳になった。

 額からはダラダラと汗が噴き出て来ている。


(うわー、エリザさまのイカ耳初めて見たわー。

 けっこう可愛いな♪)



「た、タケルのとりなしだ!

 ちゅ〇る禁止は明日1日のみとする!」


「「「 にゃぁぁぁ―――ん! 」」」


 ジョセフィーヌと子供たちがタケルに飛びついてきた。

 3人はぺろぺろぺろぺろとタケルの顔を舐め回している。


(そこまで嬉しいんかい……)



 その夜のジョセフィーヌとエリザベートのサービスは殊の外濃厚だったそうだ。


 ジョセフィーヌは感謝の気持ちから、エリザベートは口止め料のつもりらしい。


 タケルのキンタマはまたレベルが3も上がったそうだ……



 翌日、ジョセフィーヌと子供たちはフラストレーションからリビングを1日中うろうろ歩き回っていたらしい。

 まるで動物園の檻の中の虎状態だったとのことである……



 また、それ以降、タケルがいるときにはジョセフィーヌがいつもトップレスでいるようになった。

 タケルもその美しいおっぱいをついチラ見してしまうのだが、そうするとジョセフィーヌがたいへんに喜ぶのである。

 それを見たエリザベートも対抗してトップレス姿になったため、せっかく離乳して普通食も食べるようになっていた子供たちがまた母乳に戻ってしまっていた。


 さらに侍女たちがジョセフィーヌになぜ服を着ないのかと聞いた際に、『この格好だとタケルさまが喜ばれるから♡』と答えたため、侍女たちも全員トップレスになってしまったのである。

(猫人族はその種族特性として性的羞恥心が極めて低い)


 夕食のときにその侍女たちを見たタケルは吹いた。

 そうして必死でお願いして、侍女さんたちには元通り服を着てもらったそうである。

 万が一にも反応してしまうと、またジョセフィーヌがバーサーカーになってしまうかもしれないと危惧したためであった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 テーバイの民の暮らしは劇的に改善していった。


 まず外様ポリスの農民たちは、麦の作付けが終わると大挙してタケルポリスに通うようになり、読み書き計算を習いながら毎日旨い食事を腹いっぱい食べられるようになった。

 灌漑用水路造りも井戸掘りも急速に進み始めている。


 秋の収穫後には、それでも親藩ポリスの近衛兵らが献上という名の収奪に来たが、もちろんことごとく逮捕・収監され、親藩ポリスの戦力はほとんどいなくなってしまった。



 また、テーバイ本国や親藩ポリスの侍女侍従らには扶持麦が支払われなかっただけでなく、日々の食事も支給されずに飢え始めていた。

 だが、或る日念話放送によってタケルポリスへの移住が推奨されたために、王城や貴族街からはごっそりと侍女侍従がいなくなっていったのである。

 これを阻止しようとした王族貴族はむろんすぐに捕らえられて収監されていた。


 王族貴族たちは侍従や侍女が自分たちに仕えているのは、高貴な血に対する尊敬のためだと信じていたため、彼らが単に食料を求めて移住してしまうことが理解出来なかったらしい。

 自分を見限ることすなわち自分を尊敬しなくなったのだと思い込んで皆激怒しているそうだ。



 そして、『タケルポリスに行けば食事が与えられる』と知った王族貴族もタケルポリスを訪れるようになったのだが……


「な、なんだと!

 この学校とやらには王族専用の部屋が無いと申すか!」


『はいありません。

 侍女や侍従の方々と同じ教室で学んでください』


「ぶ、無礼者めっ!

 よ、余は帰る!」


『どうぞ』



「こ、ここはどこだ……」


『あなたは教室での授業中に寝ていたので、タケルポリスより放逐されました』


「こ、この無礼者めがぁっ!」


『無礼なのはあなたの方ですよ?』


「!!!」


『この放逐を3回繰り返すと、あなたはタケルポリス出入り禁止になります。

 そうなればもちろんタケルポリスの食事も与えられませんのでご承知おきください』


「!!!!!!!」



 この惑星ダタレルも、当面旧支配層は厳しい暮らしを強いられるだろうが、今後は農民たち中心に平和な世界が築かれていくことであろう。


 また、救済もこの段階になると、マリアーヌの娘たちや救済部門職員たちにとってはもはや慣れた作業であり、タケルが関与することはほとんど無くなっていったのである……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ある日の救済部門幹部会にて。


「あにょ、タケルさまに御報告させて頂きたいことがありまして……」


「なんだニャサブロー」


「危機ランクB程度だった識別名マーガンサーという惑星が最近ランクAに上がって来ました。

 それでも緊急介入の必要性は小さいにょですが、紛争の内容にゃいようがやや特殊でして、

 タケルさまのご判断を頂戴したいと思いました」


「どんな紛争危機なんだ?」


「その世界はヒト族と犬人族と猫人族が混在する比較的珍しい世界にゃんです。

 それで農耕を主産業とするヒト族は平野部に、狩猟や採集を主産業とする犬人族と猫人族は森林や低山地帯と住み分けも出来ていたにょですが……

 100年ほど前からその惑星の属する太陽が不安定になってきまして、どうやらその惑星が小氷期に入ってしまったようにゃんです」


「あー、やっぱり元々の恒星表面温度が低かったのかな」


「はい、平常時も5300Kほどで、最近では5100Kほどににゃって来ています」


「ということは、そんな恒星系にテラフォーミングした惑星を配した旧神界の責任でもあるということだな」


「はい。

 それで農地を巡るヒト族国家同士の争いも急増して来たんですけど、なにより多数派を占めるヒト族が犬人族や猫人族を捕らえて農業奴隷とするようになってしまいまして……」


「な ん だ と……」


「特にそれまで群雄割拠していた各宗教の中で、ヒト族至上主義を唱える創世神教という新興宗教が急速に信者を増やして来ました。

 その教義は、創世神はまずヒト族をお創りににゃられ、その奴隷とにゃるべく犬人や猫人を与えて下さったというもにょにゃのです。

 それが寒冷化による農業生産低下に悩む各国支配層に受け入れられた模様です」


「ったく、新興宗教ってぇのはどの世界でもマジしょーもねぇな」


「それで最近では犬人族を中心にヒト族との対立が深まって来ていますので、このままでは大規模な武力衝突が発生するかもしれません」


「ニャサブロー、よく知らせてくれた。

 その宗教団体は二度と同じことを試みる奴が出てこないように徹底的に叩き潰そう。

 それに、そんな奴らを放置していたら、銀河宇宙の犬人族と猫人族が激怒するだろう」


「はい……」


「マリアーヌ、それで奴隷市場は常設なのか」


『いえ、惑星全域2000ほどの国家の主要都市に5000ほどの神殿があるのですが、3か月に1度ここで宗教集会が開かれます。

 その後に神聖騎士団と名乗る武装集団が捕らえてきた奴隷のオークションが開催されていますが、どうやら教義により奴隷狩りはこの集団が独占しているようですね。

 そのオークションへの参加費は非常に高額なのですが、その費用を払った者のみがオークションに参加出来る制度になっているようです』


「各地の国は奴隷狩りを行っていないのか?」


「かつては奴隷狩りを独占する創世神教に反発して、独自に奴隷狩りを行おうとする国もあったようなのですが……

 中央神殿がその国を教義に反する神敵と認定し、周囲2000ほどの神殿から100名ずつ計20万の軍勢を出してその国を滅ぼしました。

 王族は全員を殺害し、貴族家当主も全員縛り首にしてその骸を晒して貴族家係累者は全員奴隷落ちにしたそうです。

 そうした行為が5回ほど繰り返されると、どの国でも国王が欲に駆られて奴隷狩りを命じようとすると、クーデターが起きて国王交代が行われるようになったようです」


「ったく腐りきった宗教だな……

 まあ地球でも宗教絡みの戦争ほど残虐になってたからな。

 普段は『神の愛』とかほざいてるくせにさ」


「「「 ………… 」」」





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