*** 194 肥料 ***
【弩グロ注意!】
再度画面が切り替わった。
会場の貴顕たちも逃げ出せばいいものを、怖いもの見たさか全員がその場に留まっていた。
画面上では、鼻と口を布で覆った数人の男たちが村の共同便所から長い柄のついた柄杓で糞尿を掬い取っていた。
それを荷車の桶に慎重に入れている。
まもなく男たちは別の共同便所に移動して、そこでも糞尿を掬っていた。
5か所ほどの共同便所から糞尿を集めた男たちは、ポリスを囲む城壁の外側にやってきた。
そこには直径2メートル、深さ1メートルほどの穴が掘ってある。
男たちはその穴に糞尿を捨て、その上を麦藁で覆った。
ポリスが襲撃を受けた時には敵軍にとって最悪の落とし穴になり、また糞尿の発酵と熟成を進める一石二鳥の方策である。
その後、男たちは近くを流れる小川の下流に行って、桶と柄杓と自分たちの体を洗い始めていた。
『ふう、ようやく終わったか』
『必要なこととはいえ、嫌な仕事だのう……』
『まあ、その代わりに村長さんに離れでメシを喰わせてもらえるからな。
みんな特に手は藁束で擦ってよく洗えよ』
『『『 へぇーい 』』』
どうやら画面は別の日に切り替わったようだ。
村長と村人たちが城壁外にやってきている。
と、村長がおもむろに糞便を捨てた穴に手を入れた。
その中身を掌に乗せて鼻に近づけ、匂いを嗅いでいる。
「おえっ!」「おえっ!」「おえっ!」
びしゃびしゃびしゃ……
もうすっかり胃の中身を吐いてしまっている王族貴族たちが胃液を吐いている。
画面では村長が顔を上げた。
『この穴の分はもうよかろう。
畑に持っていくように』
『『『 へぇい 』』』
村長は続けて3つほどの穴から元糞便を掬っては匂いを嗅いでいた。
『これら3つの穴の分ももう大丈夫だ』
『『『 へぇい 』』』
村人たちはそれら4つの穴から元糞便を掘り出すと荷車に乗せ、畑に戻ってそれらを少しずつ撒き始めた。
すぐに別の農民たちがそれらを畑の土に漉き込んでいる。
その後は森から取ってきた腐葉土も混ぜ、灰を溶かした水を撒き、5日ほど放置してそれら肥料を馴染ませてからもう一度畑を耕して野菜の種を植える畝を作るのだろう。
上級公爵が錯乱した。
「あ、あの農民共は何をしているのだぁぁぁ―――っ!」
「見てわからんか?
ヒトの糞便は良い肥料になるからな。
アレを漉き込んだ畑ではお前たちが絶賛していた素晴らしい野菜が出来るのだ。
ついでに、『糞テーバイ野郎ども、俺たちの糞で育てた野菜でも喰らえっ!』とでも思っているんだろう」
「「「 おえぇぇぇぇぇぇぇ―――っ! 」」」
びしゃびしゃびしゃびしゃ……
(もっとも実際には1年半から2年近く発酵と熟成が必要だけどな。
しかも最初の半年は5日に1度はかき混ぜてやる作業が必要になるし。
そうして手間をかけてやると、発酵熱で雑菌や寄生虫の卵も死滅して無害になっていくわけだ。
その後の熟成でさらに優秀な肥料になるし)
「なんだお前たち、そんなことも知らなかったのか。
もちろん糞便肥料は小麦畑でも使われているし、そうやって育てた麦や野菜を喰わせてボアも育てているんだぞ」
「「「 おげぇぇぇぇぇぇ―――っ! 」」」
王族貴族たちは胃液も全て吐いてしまってもう何も出ないようだ。
もはや半数ほどは白目を剥いて自分たちのゲロの海に沈んでいる。
因みにだが……
蟯虫などヒトの腸内に寄生する寄生虫は、主にヒトが就寝中など安静にしていて体温が高いときにその尾をヒトの肛門から外に出し、肛門周辺に卵を産み付ける。
それがヒトの出した便に付着して拡散し、また新たな宿主を得て子孫を増やして行っているのである。
今から50年ほど前までは、日本のすべての小学校で『蟯虫検査』なるものが行われていた。
これは当初便を容器に入れて提出させる検査であったが、そのうちに透明なシールのようなものを肛門に張り付けさせ、それを顕微鏡で見ることで蟯虫卵の有無を調べるものに変化したそうだ。
そうして寄生虫卵が発見された児童生徒には、『虫下し入りチョコレート』が渡されて、家族一同が食べさせられていたそうである。
実際にはこの検査方法が極めて未熟だったために、当時の日本の児童生徒の50%近くは腸内に寄生虫がいたらしい。
これはもちろんその時期までには日本中で糞便肥料が使用されていたからである。
(当時までは日本中の農村に『肥溜め』というものがあったが、これはもちろん糞便発酵と熟成のための施設であった。
50年前まではたとえ都内の小中学校であってもトイレは汲み取り式だったそうなので、日本中に肥料の原材料は山ほどあったのだ)
十分な発酵と熟成を行わないまま、この糞便肥料を使用するとどうなるか。
もちろん畑で取れる作物のかなりの部分が寄生虫卵に汚染されてしまうのである。
それら野菜の内、加熱されずに生食される野菜には、この寄生虫卵が付着したまま食卓に供されることが多かったために、当時の日本人の半数近くは腹に寄生虫を飼っていたのである。
(昨年あのビル・ゲイツ氏が訪問して話題になった東京目黒の寄生虫博物館には、女子高生の尻から出てきた全長8.8メートルのサナダムシが展示されている)
因みにだが、過去1000年間、日本の武者の地ではこの有機質肥料の使用は厳禁されていた。
密かに銀河宇宙の安全な肥料が輸入されて使われていたのである。
よって、軍事力で他の地域に侵攻する必要はさらに無くなっていたし、他地方からの食料買い付けも行われていなかったのだ。
そして……
思い出してほしい。
ヒトの腸内にいる寄生虫は、ヒトが安静にしていて体温が高いときにヒトの肛門から尾を出して肛門周辺に卵を産み付けるのである。
当時、雑誌などに掲載されるヌード写真の撮影現場では、カメラマンが突如叫び出して半ば発狂状態になる事件が相次いでいたらしい。
これはもちろんダイエットに励んで生野菜ばかり食べていたモデルさんのお尻から、寄生虫くんがコンニチハして来たためだそうだ。
どうやら撮影用照明の熱で体温が上がり、撮影のために静止状態だったかららしい。
おかげで女性のお尻やヌードが深刻なトラウマになった写真家が相次いでいたそうである。
同じ被害は裸婦デッサンを行っていた美大生にも頻発していたとのことであった。
また、当時の香港などでは『成果保証! 超強力痩身薬』なるものが売られていたが、これはA剤、B剤と2剤に分かれており、まずA剤を服用し、十分にダイエットが達成されたならB剤を服用するというものだったのである。
これはもちろんA剤は寄生虫卵、B剤はその駆除薬だったそうだ。
安易なダイエット薬には気を付けよう。
もしそんなものを服用し、憧れのカレとエッチした後に、お尻からピロリンコした寄生虫くんを見られたら、カレが発狂するかもしらんぞ。
もちろん筆者も発狂する自信がある。
もしそれで発狂せず、むしろ興奮した奴がいたとしたら……
凄まじいばかりの特殊変態であることは間違いなかろう……
閑話休題。
テーバイの昼餐会会場では、辛うじて意識のあった王族が大声を出した。
「た、直ちに軍を派遣してあの農民共を不敬罪で全員縛り首にくれるわ!
王族貴族にあのような物を喰わせるとはっ!」
「いやそれは許されん」
「「「 え? 」」」
「忘れたのか?
お前たちは降伏条件としてタケルポリスに司法権を譲渡しただろう。
そしてタケルポリスの法では不敬罪は許されていないのだ。
もしお前が近衛兵に命じて農民を縛り首にさせたら、お前も近衛兵も縛り首だぞ?」
「「「 ひぃぃっ! 」」」
「そ、そんな……」
「まだ意識のある者はよく考えてみよ。
農民はお前たちに小便をかけた麦、水虫足で潰したブドウで造ったワイン、そして自分たちの糞便を肥料にして作った野菜、それらを喰わせて育てたボアの肉を献上しているわけだな。
(実際には糞便肥料を使っていることに悪意は無いけど)
それも糞王族貴族だの盗賊野郎だのと言ってお前たちを憎悪していただろう。
なぜ農民があれほどまでにお前らを憎んでいるんだと思う?」
「「「 ………… 」」」
「な、なぜなのでしょうか……」
「それがわからぬこと自体が最大の問題なのだ。
そして、これこそが俺がお前らの料理やワインを口にしなかった理由だ」
「「「 あうぅぅぅぅぅぅ―――っ! 」」」
(あの小麦の献上は昨年の秋だったはずだ……)
(タケル王陛下はそんな以前からテーバイを観察していたというのか……)
(あれほどの軍事力を持っていたとしても、驕らずに事前準備をしていたのだな……)
(テーバイが大敗したのも当然だったということか……)
「しかもお前たちは武威による強制も禁じられたからな。
もはや農民たちは誰もお前らに献上などはしないだろう。
つまりお前たちはションベン小麦や水虫ワインですら得られなくなるのだ」
「「「 !!!!!!! 」」」
「あ、あのっ!
こ、これから我らは何を食べて生きて行けばいいのでしょうか!」
「そんなこともわからんのか。
もちろん自分たちで麦も野菜もワインも作ればいいだけの話だ」
「「「 !!!!!!! 」」」
「だが安心しろ。
タケルポリスの教場では懇切丁寧に農業のやり方を教えてくれるぞ。
しかもこのテーバイの地のすべてのポリス近郊にはタケルポリスの支城を配備したし、ペルシアもエジプタもローマンもミケナイも、すべてのポリスの近郊にもタケルポリスを配備して攻撃して来た軍はすべて捕獲した」
「「「 !!!!!!!!!!! 」」」
「よってこれからは誰も攻めては来ないぞ。
もしも攻めてくるような阿呆がいても、直ちにタケルポリス軍が叩き潰すしな。
ということは、お前たちはもう城壁の必要が無くなったということだ。
おかげでこれからは城壁外の広大な土地で農業が出来るだろう。
早く教場で学んで農業を始めろ」
「「「 あうぅぅぅぅぅぅぅ―――っ! 」」」




