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*** 193 小麦とワイン ***

 


 さすがは酒自慢たちだけあって、15名の賭け参加者たちもどうにかこうにかブランデーを飲み干したようだ。

 だが、これから腹の中でアルコールが急速に吸収されていくために、意識が保たれるのもあと5分ほどだろう。

 15人のうち半数近くは既に白目になりかけていた。



「それでは2杯目に移ろうか」


 ごきゅごきゅごきゅごきゅ……


 タケルは自身3杯目となるブランデーを飲み干していった。


「「「 おおおおぉぉぉぉ―――っ! 」」」


 ギャラリーたちから歓声が沸き起こっている。


 賭け参加者たちは給仕に渡されたブランデーを虚ろな目で見た。


 ごとん…… ごとん……


 3人ほどの王族と貴族が顔面から床に倒れて行った。

 それ以外の者たちも半分も飲まないうちに倒れて行っている。

 王太子はなんとか半分は飲み干したものの、すぐにブランデー噴水と化して轟沈した。


 15人全員は意識喪失と共に膀胱括約筋と肛門括約筋の機能も停止したために、辺りには凄まじい臭気も広がり始めている。


 もちろんタケルだけは自分を結界で覆い、新鮮な空気を転移させて呼吸していた。



「なんだよ、もう終わりかよ。

 根性の無ぇ奴らだな。

 酒ってぇのはこうやって飲むもんなんだぞ」


 タケルはそう言うと4杯めのグラスを干した。

 会場には盛大などよめきが起きている。


「テーバイ王、この勝負俺の勝ちでいいな」


 王は床に倒れてピクリとも動かない15人を見渡した。

 まさに死屍累々である。

 時折微かにピカピカと光っているのは『セミ・ゴッドキュア』が発動しているのだろう。

『セミ・ゴッドキュア』の場合は『ゴッドキュア』と異なり、HPや体の異常などは回復されないために、体内の過剰アルコールがすべて分解されるまでは100回ほどの発動が繰り返されると思われる。



「この勝負、タケル王陛下の勝ちと致します!」


 大歓声が沸き起こった。




 その後も酒勝負に参加しなかった謹慎王族貴族たちはタケルにウザ絡みを続けていた。

 どうやらブランデーに酔って気が大きくなっているようだ。


「このパンや菓子は最優秀な小麦を作る外様ポリスより献上された小麦を使ったもので、我が王家の料理人たちが丹精込めて焼いたものなのですぞ」


「その味も香りも最高のものなのですが、これも召し上がっていただけぬとは!」


「また、こちらのワインも同様です。

 我らを尊敬してやまない外様ポリスの農民共が心を込めて作ったものなのですよ。

 もっとも下賤な農民共の心など邪魔以外の何物でもありませんが、ははは!」


「こちらの料理も同じです。

 我ら王族貴族を崇拝する農民たちが懸命に育てた野菜、その野菜や最高の麦を喰わせて育てたボアの肉を使った最高の料理なのであります」


「どのようなご事情かは知りませぬが、これらを召し上がって頂けないとは実に残念なことですのぅ!」


「そうか……」


「なにしろ我らテーバイ本国の王族貴族は農民共にいたく尊崇されておりますからのう。

 その気持ちがこうして麦の味や香りに現れているのでしょう」



(やはりこいつら相当に思い上がっているな。

 それじゃあその幻想を破壊してやろうか……)



「お前たちは、自分たちは農民に尊崇されているからこうした農産物の献上を得ているというのだな」


「もちろんであります!」


「ならば聞こう、農民たちはなぜお前たちを尊崇しているんだ?」


「それは、下賤なる農民共にとっては、王族や上位公爵家の高貴な血は自然に尊崇の念を抱くものだからでございましょう!」


「その通りですな!」


「それから、お前たちは何故俺がこれらのワインや料理を口にしないか知りたいのだな」


「ええ、どうか教えていただきたいものです!」


「よしわかった。

 これから俺がこれらワインや料理を口にしない理由を見せてやろう」


「ははは、どんな理由か楽しみですな!」


「だが、これから見せる物はご令嬢やご婦人方には些か刺激が強い物になる。

 よって別室に移動しても悪くは取らぬ」


 王家の姫が前に進み出た。

 もちろんおっぱいぽろり状態のままである。


「大丈夫ですわタケル王陛下。

 陛下が見せて下さるものならば是非拝見させていただきたいと思います♪」


 すべてのご令嬢とご婦人方も頷いている。


「テーバイ王も構わんな」


「も、もちろんでございます」


「わかった」




(作者註:

 同じことは読者諸兄にも当て嵌まります。

 グロ耐性の低い方はここより先、しばらく読み飛ばされることを推奨させていただきますです)




 タケルが手を挙げるとパーティールームに8メートル×5メートルの巨大なスクリーンが出て来た。

 そのスクリーンに外様ポリスらしき俯瞰風景が映るとともに、部屋が少し暗くなる。


「な、なんだあれは……」

「絵が動いてるぞ……」


「はは、これは映像の魔法で記録を残したものだ」


((( ……そんな魔法まであるのか…… )))



『こちらは優良小麦の生産で知られる或る外様ポリスの昨秋の様子です』


 マリアーヌのナレーションが入った。

 それと共に画面はズームインして行き、農村の広場に大量の小麦袋が積み重なった山が見えて来ている。


 その場に7歳ほどに見える男の子が走ってきた。

 着ているものは麦藁を編んだ貫頭衣であり、足は裸足である。


『父ちゃ――ん!

 テーバイの盗賊共が盗んでいく麦の山はどれだっけ?』


「「「 !!! 」」」


『あそこの大きな山だ』


『わかった!

 おいらさっきからションベン漏れそうなんだ!』


 男の子は小麦袋の山を登っていくと、その上でおしっこをし始めた。


「「「 !!!!! 」」」


『テーバイの糞野郎ども!

 おいらのションベンでも喰らえぇっ!』


『はは、それじゃあ父ちゃんもションベンするかな』


 親子は2人並んで小麦の山に小便をかけはじめている。


『おーい、明後日には親藩ポリスの糞野郎どもが小麦を奪いに来るからな。

 麦に小便をかけるのは今日までじゃぞー』


『わかった、村長!』


『お、そうか、小便をかけられるのは今日までか』


 小麦の山には続々と村人たちが登り、次々に小便を始めている。

 よく見れば端の方では老婆や幼女までしゃがんで小便をしていた。


『ザマミロ糞テーバイ!』

『俺たちのションベンを喰らえぇっ!』


『皆の衆、あちらにある小さい山の麦には小便をするでないぞ。

 あれは我らが食べたり収穫祭のためにワインと交換するための麦だからの』


『もちろんだ!

 ションベン小麦を喰わせるのは盗賊テーバイ野郎どもだけで十分だぜ!』



『なあ父ちゃん、それにしてもさ、糞テーバイの王族野郎どもや貴族野郎どもって、みんなこんなションベン臭い小麦をよく食べられるよな』


『さあな、案外素晴らしい香りと味の麦だって言って、喜んで食べてるかもな』


『あははははは』



 タケルの声が聞こえて来た。


『どうだ糞テーバイの盗賊野郎ども諸君、農民のションベン小麦は香りも味も素晴らしいかな?』


「「「 おえぇぇぇぇぇぇ―――っ! 」」」

「「「 ゲロゲロゲロゲロゲロゲロ…… 」」」


 昼餐会場の床には大惨事が広がっている。




 場面はどうやら他の村に切り替わったようだ。


 そこでは大勢の村人が総出でブドウを収穫し、大きな背負い籠からブドウを麦藁筵の上に出しており、筵には既に大量のブドウの山が出来ている。

 一方で村の女たちがそのブドウの房から実を外しては大きな平たい桶の中に入れていた。


 村長らしき男が大きな声を出した。


『おーい、そろそろブドウの実を潰し始めるぞー。

 6歳から12歳までの女の子は、こっちの桶に集まってくれー。

 水虫持ちの女衆はあっちの桶だー』


『さあアイリ、ブドウを潰しに行くよ』


『あのねミリアお姉ちゃん、アイリ、お父ちゃんに水虫うつされちゃったの……』


『あーそうか、あれほど気を付けてたのに、やっぱりうつされたかー。

 それじゃああっちの桶だな』


『うん……』



『さて女の子たち、この中に水虫を持ってる者はおらんな。

 それでは足をよーく洗ってから桶に入ってブドウを潰し始めてくれ』


『『『 はぁーい♪ 』』』


 少女たちは手をつないだり肩を組んだりしながら足踏みをしてブドウの実を潰し始めた。

 ある程度潰れると男たちが潰れたブドウを大きな柄杓で掬って樽の中に入れ、また新たなブドウの実を桶に追加していっている。

 その樽は蓋を閉められて小さめの倉庫に転がされていった。

 1月ほど経つと、今度は布で濾されて別のワイン樽に移されてから半年ほどの熟成が行われる予定である。



 一方では5つの大桶で村の女たちがブドウの実を足で潰し始めていた。


『あーアイリちゃん、あんたもお父ちゃんに水虫うつされちゃったのかい?』


『うん、だからこっちの桶に来たの。

 あれ、足を洗うお水はどこ?』


『こっちの桶は糞テーバイの盗賊野郎どもが奪いにくるワイン用だからね。

 足なんか洗わなくっていいんだよ。

 どうせ後で布で濾すし』


『でもアイリの足、泥だらけだよ?』


『いいんだいいんだ、どうせ盗賊テーバイの奴らの腹に入るワインなんだから』


『うん』



「おえっ」「おえっ」「おえっ」


「げろげろ」「げろげろ」「げろげろ」


 さっきあれほど吐いたのに、昼餐会場ではもうえずきはじめている者がいる。



『ねえおばちゃん』


『なんだい?』


『ここの桶でブドウを潰してる女の人って、みんな水虫なの?』


『そうなんだよ。

 みんな父ちゃんやダンナに水虫をうつされちゃった女たちなのさ』


『ふーん、でも水虫って痒いよね』


『そうだねぇ、でもこうやってブドウを潰したりブドウの汁でよく足を洗うとしばらくは収まるからね。

 その椅子に座ってブドウでよく足を洗うんだよ』



「おえっ」「おえっ」「おえっ」


「げろげろ」「げろげろ」「げろげろ」



『うん。

 でもさ、テーバイの極悪盗賊たちって、お腹の中痒くならないのかな?』


『あははは、もし痒くなってたらザマァだね♪』


『うん、ザマァだね♪』



 またタケルの声がした。


『どうだねテーバイの極悪盗賊諸君、口の中や腹の中は痒くはないか?』



「「「 おえぇぇぇぇぇぇ―――っ! 」」」

「「「 ゲロゲロゲロゲロゲロゲロ…… 」」」


 もはや昼餐会場には酸っぱい匂いが立ち込めていた。

 ご令嬢やご婦人のドレスもデロデロである。





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