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*** 191 タケルポリス支城 ***

 


『譜代ポリスの皆さんにお伝えします。

 タケルポリスはテーバイの軍人400万人を捕縛いたしましたが、彼らは全員生存していますし、負傷も治療済みですのでご安心ください。

 ただし、暴力行為の咎により現在は全員が牢に入れられています。

 準備が整いましたら、ご家族の方々との面会も出来るようになりますので、もう少々お待ちくださいませ。

 また、譜代ポリス内の皆さんの中で病気などでお困りの方がいらっしゃいましたら、最寄りのタケルポリス支城までお連れ下さい。

 治療院にて無料で治療を行って差し上げます』




『外様ポリスの皆さんにお伝えします。

 まず、病気や怪我でお困りの方は最寄りのタケルポリス支城まで連れて来てあげてください。

 治療院にて無料での治療が行われます。


 また、今後はタケルポリスの法が適用されるために、皆さんはもう『献上』を強要されることは無くなりました』


「「「 !!!!!!! 」」」


『もしテーバイの兵が献上を求めて来たとしても、断ることが出来ます。

 そのときに兵が暴力を匂わす脅迫等を行った場合は、タケルポリスがその兵を逮捕拘束致しますのでご安心ください』



「な、なんだと……

 それでは我ら外様ポリスの王族はどうやって生きて行けばいいというのだ……

 それに本国や親藩ポリスの王族や貴族が怒り狂うぞ!」



『さらに、タケルポリスでは皆さまの移住を歓迎しています。

 現在食料が無いなどお困りの方々は、タケルポリスへの移住をご検討されたら如何でしょうか。

 移住後には簡単な作業を斡旋させていただきますが、これに従事して頂けた場合には日に3回の食事と住居、衣服などが保証されますし、僅かながら銅貨も支払われます』


(ほ、ほんとかよおい……)

(日に3回のメシだってよ!)


『もちろん見学も歓迎していますので、一度タケルポリス支城を見学されて、軽作業の内容や待遇などを確認されたら如何でしょうか。

 尚、この見学の際にも食事は出ます』


(な、なあ行ってみるだけでメシ食わせてもらえるらしいぞ……)

(試しに行ってみっか……)




「門番のみなさんこんにちは」


「だ、誰だお前は!」


「わたくしはタケルポリスの法執行官です。

 今の念話放送でお伝えしました通り、これから農民の皆さんがタケルポリス支城の見学に来られると思いますので、ここの城門を開けてください」


「ふ、ふざけるなっ!

 城門を開けることなど出来るか!」


「やれやれ、念話放送を聞いていなかったのですか?

 テーバイはタケルポリスに降伏して司法権を譲り渡したのですよ」


「う、嘘をつけ!

 て、テーバイが負けるわけないだろう!」


「あー、ヒト族は自分の信じたいことだけを信じるというのは本当だったんですねぇ。

 仕方ありません、私が開けるとしますか」


 法執行官(もちろんAIのアバター)が指さすと、大きな城門の閂が外されて門が開き始めた。


「こ、こ奴を取り押さえろっ!」


「「「 はっ! 」」」


「私の行動を妨害すると『公務執行妨害罪』で逮捕されますよ?」


「や、やかましいっ!

 お前こそ近衛兵に対する不敬罪で打ち首にしてやるっ!」


「不敬罪も無くなりましたけど?」


「なにおうっ!」


 下級近衛兵たちが剣を抜いた。


「やれやれ……」


 途端に6人の兵が下履き一つの姿になり、宙に浮いた。


「「「 !!!!! 」」」


 もちろん遮音の魔法もかかっており、いくら喚こうとしても全く声は聞こえない。

 兵たちはそのまま移動させられて邪魔にならない場所に浮かべられていた。



「ふむ、門も2度と閉められないように開け放ったまま地面と融合させておきましょうか。

 そのうちタケルさまのご了解を頂戴して城門も城壁も消してしまいましょう」



 遠巻きに見ていた農民たちが近づいて来た。


「これはこれはみなさん、タケルポリスの見学でしょうか」


「な、なあ、あそこに浮いてるのって近衛兵か?」


「はいそうです、皆さんがタケルポリスの見学をするのを妨害しようとしましたので、魔法で排除しました」


「で、でもオラたちが帰ってきたときに別の兵が捕まえに来るかも……」


「それも大丈夫です。

 たとえ何百人の兵が来ても同じように吊るせますし、10日ほど吊るした後はタケルポリスの牢に入れますので」


「そ、そうか……」




 タケルポリス支城内にて。


「う、旨ぇ! 旨ぇよこの粥っ!」

「なんか服も体も綺麗にしてもらえたし……」


「あー、小麦が1斗銅貨5枚か……

「あの綺麗な服は銅貨3枚だってよ」

「でもおらたち銅貨なんか持ってないからなぁ」


「そういえばなんか仕事をすると銅貨がもらえるって言ってたな」

「どんな仕事があるか聞いてみっか」

「んだんだ」



「な、なあ、どんな仕事をするとどれぐらい銅貨をもらえるんだ?」


「まずは教場で読み書きを習うという仕事があります。

 寝ずに真面目に授業を受ければ昼食に加えて日に銅貨3枚が支払われます」


「銅貨3枚っていうと……」


「麦ならば6合買えますね」


「そんなに買えるんか!」

「それだけで家族4人が喰っていけるでねぇか!」


「子供さんを保育園というところに預けて奥さまも一緒に教場に行けば、麦は1斗と2合買えますね」


「す、すげぇ……」


「数日以内に川から農業用水路を引いてくる工事や井戸掘り工事が始まりますが、こちらの日当は銅貨8枚ですので、麦は1斗と6合買えます」


「「「 !!! 」」」


「それから今日は臨時の仕事もあります」


「ど、どんな仕事なんだ?」


「こちらの荷車を曳いてポリス内を巡回してください。

 そうして病人や怪我人がいたら、荷車に乗せてこのポリスの無料診療所まで連れて来てください。

 もちろんご家族の付き添いも一緒に。

 今日1日この仕事に従事していただければ銅貨8枚が支払われます」


「「「 !!!!! 」」」


「おらにやらせてくれろ!」

「おらもだ!」

「おらも!」「おらも!」


「それではよろしくお願いいたします。

 病人や怪我人を乗せているときは、彼らが苦しまないように荷車はゆっくり曳いてくださいね」



 もちろん彼らのほとんどは真面目であり、1日中ポリス内を探しまくってすべての病人や怪我人を診療所に運び入れていったのである。

 だが、中には少数ながら不届き者もいたのであった……


(へへ、馬鹿な奴らだ。

 俺みたいに荷車を隠して家で寝てればいいものを。

 あれだけの人数がいれば、俺がサボってることなんかわかるわけないからな……)



 その日の夕刻には、職業紹介所は臨時救急隊員らで大いに賑わっていた。

 皆、銅貨を手にすると大喜びで麦を買いに行っている。


「俺も1日働いたぞ、銅貨をよこせ」


「いえ、あなたは家に荷車を隠して1日中寝ていましたので賃金は支払われません」


「な、なんだと! 俺は5人の病人を運んだだろうに!」


「今のあなたの発言により、あなたは詐欺罪に問われ逮捕収監されます。

 今日の詐欺だけならば禁固3か月でしたが、あなたには35件もの余罪がありますので、牢に入れられる期間は5年になります」


「な、ななな、なんだとぉっ」


 詐欺男は逃げようとしたが、そのまま消えて行った。

 そうして他の男たちと同様に刑務所の独房に入れられたのだが、AI娘たちに念話で何度説明を受けてもなぜ他人を騙したせいでこうして隔離されるのかは理解出来ないようだった……




 翌日から、タケルポリス支城を訪れる農民はどんどん増えていった。

 麦の作付けなど忙しい期間を除いて、大勢が教場で読み書きを教わるようになっている。

 そのうちに家族と一緒に城内の無料宿泊所に泊り、風呂での入浴を楽しむものも増えていったのであった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「なあマリアーヌ、テーバイの昼餐会に持っていく手土産は何がいいかな」


『蒸留酒などは如何でしょうか』


「この惑星ではまだ蒸留酒は造られていないのか?」


『はい、醸造技術も未熟なせいでワインもアルコール度数は低いので強い酒は喜ばれると思われます』


「おー、それなら確かに喜ぶかもだ。

 あいつらのワインとか絶対に飲みたくないけど、手土産ぐらいは持って行ってやるか」


『ちょうど惑星ケンネル産の白ブドウで造った神域ブランデーの10年物が出荷時期を迎えておりますので、それで如何でしょうか』


「それって銀河宇宙ではいくらになってるんだ?」


『ブランデー格付け機関によれば星4つの評価で、通常ならば500ミリリットル200クレジットなのだそうですが、あのケンネル産であり、かつタケルブランドマークもついておりますので3000クレジット(≒30万円相当)になっています』


「すげぇな、15倍かよ」


『それでも銀河中の犬人族世界から購入希望が殺到しております。

 なにしろいくら高額でも、その収益は次の救済の原資になるのは皆さんご存じですし。

 それでどうやら大統領府主催の晩餐会などで小さなグラスに分けて振舞われるそうなのですが、みなさん原始犬人族社会の幸福を祈り、涙を流されながら味わっていらっしゃるようですね。

 もちろん犬人族の最高天使さまにも1ケース献上しておりますが、最高天使さまもご家族とご一緒に涙を流されながら味わってくださっています』


「そ、そうか、そんなものをあいつらに振舞うのももったいないけど、あれって実質的に原価はゼロだよな」


『はい』


「それじゃあ3樽ほど用意しておいてくれ」


『畏まりました』





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