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*** 189 司法権譲渡 ***

 


(マリアーヌ、一昨日こいつらが協議していた会議室の椅子をここに転移させてくれ)


『はい』


 その場に人数分の椅子が現れた。


「「「 !!!!! 」」」


「全員座れ」


「は……」


 国王が着席するとその場の全員がそれに倣った。


 タケルは天使威を抑えていた隠蔽魔法を半分ほど解除し、全員を見渡した。

 それだけでもう半数近い者が震え出している。


(こ、これが超強国の王の覇気か……)



「最初にタケルポリスの立場を明確にしておこう。

 我々はまずテーバイに対して友好と交易を求める親書を送ったが、これに対する返書は受け取っていない。

 さらに親書に書いてあった通り、交易の利便性を求めて城をテーバイ近郊に移動させたが、これに対してテーバイは400万の軍勢を集結させた。

 俺はそれでもまだ交渉の余地はあると考え、タケルポリスの門前に5人の連絡将校を配した。


 だが、テーバイは交渉どころか宣戦布告も攻撃理由の説明もなく、突如軍を我がポリス内に侵攻させて来たのだ。

 我がポリスが自衛のためにこれを排除したところ、次は正面に配されたテーバイ軍主力が総攻撃を仕掛けてきた。

 念のため言うが、我が軍はここまで敵対行動は一切取っていないにも関わらずだ」


「「「 ううっ…… 」」」


「ここに至って我が軍は正面のテーバイ軍を全て排除し、これ以上の攻撃を抑止するために城門と城壁の破壊を開始した。

 精鋭軍を失った上に4つの城門を全て失えばテーバイも敵対行動を停止するだろうと考えてのことだ。

 そして2つの城門を破壊したところでテーバイ軍総司令部よりの使者が現れ、降伏を前提とした停戦・和平協議を申し入れて来た。

 それが今ここに俺がいる理由である。

 それではテーバイ国王にその言い分を聞かせてもらおうか」


「は、はっ……」


 額に汗を浮かべた国王が立ち上がった。


「ま、まずは貴ポリスを新興の弱小ポリスと侮り、軍を差し向けて攻撃を命じたこと、誠に申し訳なく……」


「ちょっと待て、なぜ新興で弱小なポリスだと侮って攻撃するんだ?」


「は?」


「仮に新興でないペルシアやミケナイやエジプタがこのテーバイに迫り、友好と交易を求めた親書を送ってきたとしよう。

 そのときはどうするんだ」


「は、はぁ……

 たぶんその親書に沿った協議を始めたかと……」


「それではその3か国が連合軍を組んでいたならばどうした」


「そ、その場合は城門や城壁を固め、徹底抗戦をすると思われます……」


「相手が友好と交易を求めているのに何故徹底抗戦の必要があるんだ?」


「そ、それは……」


「つまりお前らは、たとえ友好と交易を求められたとしても、相手が弱ければ滅ぼして財を奪い、同等の相手であれば交渉し、強者であれば籠城して抗戦するというのだな」


「は、はい……」


「それは何故だ」


「は?」



 テーバイ譜代ポリス軍総司令官たちは内心で焦っていた。


(こ、このような問答は全く想定していなかった……)

(陛下が滅多なことを口走らねばよいが……)


「俺は何故だと聞いているんだ!

 答えよっ!」


「「「 あぅっ…… 」」」



 タケルから怒気が漏れた。

 その場の70人全員の背中に冷たい汗が伝わり、半数ほどの目玉が裏返っている。

 中には肛門括約筋や膀胱括約筋が緩んでしまった者もいた。


(ったく、生まれしか能の無ぇボンボンはジジイになってもボンボンのままかよ。

 仕方ねぇ、『クリーン』『エリアキュア』)


 それでも国王はあぅあぅ言っているだけだった。


「王族でも上級公爵家当主たちでも構わん。

 誰か答えよっ!」


 ほぼ全員が目を伏せている。



「譜代ポリス連合軍総司令官ハニバル・フォンターナ・テーバイ、並びにアレキサンダー副司令官、エリアデス副司令官、前へ!」


 国王の横に3脚の椅子が出てきた。


「そこに座って俺の問いに答えよ!」


(な、なぜ我らの名まで知っているというのだっ!)



 3人の軍首脳は内心狼狽しながらも前に出て椅子に座った。



「答弁を始めよ」


 ハニバル総司令官が口を開く。


「はっ、畏れながら、この地ではそれが常識になっていたからだと……」


「一見答えになっているようだが、それでは不十分極まりない。

 なぜ常識になっているのかを答えよ」


「そ、それは……」


「一昨日の対策会議の場で、お前たちはあの阿呆な王太子がこの謁見の間にて使者を人質にせよと命じたのを諫めただろう」


「「「 !!!!!!! 」」」


(な、なぜそのようなことまで知っているのだ!)


「この大陸北部にはアテナイというポリスがあったが知っているか」


「申し訳ありませぬ……」


「まあこの地より8000キロは離れているから知らなくても仕方ないか。

 そこでは傲慢な王太后の命令により、降伏交渉の際に実際に俺の拘束と暗殺が試みられた」


「「「 ………… 」」」


「おかげでそのポリスは今、城壁も王城も貴族街も完全に破壊されて更地になっている。

 王族と上位貴族は全員タケルポリスの牢の中だ」


「「「 !!!!! 」」」


「また、お前たちがこの降伏交渉の目的を3つに絞って献策したのは見事だった。

 まずは『テーバイ一族の族滅回避』、次に『王族と上位貴族の首を差し出してでも一族の子女の命乞いによるテーバイの血の存続』、そしてそれらが叶えられた際には出来れば『テーバイ王族と貴族の地位安堵』だったな」


「「「 !!!!!!!!! 」」」


(ほ、本当にあの会議の内容はタケルポリス側に素通しだったのか……)

(こ、こんな魔法まであったとは……)


「テーバイ国王、この賢き者たちに発言の自由を」


「そ、その方ら、自由な発言を許す……」



「なぜ弱きものは殺して奪い、強き者ならば大城壁内に籠って防衛戦に徹するなどということが常識になっているのか答えよ!」



 総司令官が顔を上げた。

 どうやら腹を括ったようだ。


「おそらくではありますが、まずはポリスの城壁の存在が大きいかと思いまする」


 タケルが口の端を上げた。


「続けろ」


「次に王族貴族の方々と軍人の数に比して農民の数が少なすぎるということがあると考えます」


「はは、さすがわかってるじゃねぇか。

 テーバイ国王、並びにこの場にいる王族と上位貴族一同、今の発言の意味がわかるか?」


 全員が目を逸らした。


「まあそのうちにわかることだろう。

 それで司令官、このテーバイグループ全人口に占める農民の比率はどれほどか」


「は、およそ3割かと……」


「その通りだ。

 それで戦の必要が無くなる比率は如何ほどだと思う?」


「は、7割まで増えれば戦の必要はかなり減少し、9割になれば皆無になると……」


「9割にすることは可能か」


「かなり難しいと思いまする。

 それでは他のポリスグループの侵攻を防げますまい」


「それではこの大陸南部全域の戦を無くすにはどうすればよいと思うか」


 司令官がタケルの目を見つめた。


「強大なポリスが現れ、この地の有力ポリスをことごとく屈服させれば可能でございましょう。

 古にはテーバイの地のポリスもお互いに激しい戦を重ねていたと聞きます。

 それがテーバイグループの傘下に入ったことにより、グループ内ポリス同士の戦が禁じられることによって、少なくとも近隣ポリス同士の戦は無くなりました。

 その上で農民比率をせめて8割にまで上げることが出来れば、戦無き地が作れると思いまする……」


「よし、見事な答申である。

 それに免じて教えてやろう。

 お前の部下400万人は全員生きている」


「「「 !!!!!!! 」」」


「大怪我を負っていた者も全員治療済みだしな」


「あ、あの、恐縮ですが、将兵たちにお伝え願えませんでしょうか。

 総司令部命令により、脱走のための反乱など考えることなく、そのまま大人しくしていろと……」


「はは、反乱共謀は無理だ。

 なにしろ全員を独房に入れて隔離してあるからな」


「な、なんと……

 そ、それで糧食は……」


「それも案ずるな。

 タケルポリスには膨大な量の食料備蓄がある」


「それほどまででしたか……」


「ただし、タケルポリスの法では、各人の罪に応じて入牢期間が決まる。

 その罪には戦争行為に加担したという殺人未遂、強盗未遂も含まれるだろう。

 故に軍歴の長い者ほど入牢期間は長くなる。

 まあそのうち家族との面会ぐらいは許可してやってもいいが。


 また、本来であれば軍に戦を命じた王家の罪も、武装強盗教唆として問われることになるだろう。

 我らの法では現行犯しか逮捕入牢させることが出来ない。

 だが、これより法に反してタケルポリスに捕縛された場合には、過去に遡って余罪を追及され、その分入牢期間が長くなるので留意しておくように」


「あの、質問をお許し頂けますでしょうか」


「許す」


「『法』とはなんでしょうか」


「まあお前たちの言葉で言えば『勅令集』のようなものだな」


「ありがとうございます……」



「テーバイ王」


「は、はい」


「テーバイグループ内での農民への税はいくらか」


「あ、あの、我がグループ内では税という制度はございませぬ」


「ならばお前たち王族貴族や軍人たちは何を食べて暮らしているというのだ」


「我ら王族貴族の指揮下にある軍により、外様ポリスの農民共は他のポリスに攻め込まれることなく暮らしております。

 その見返りとして作物の献上が行われているのでございます」


「その献上品をここ中央ポリスや親藩ポリス、譜代ポリスに運んでいるのは誰か」


「本来であれば外様ポリスの農民共が運び込むのでございましょうが、ポリス外には他ポリスの軍が潜んでいるやもしれぬため、親藩ポリスの近衛兵が集めて廻っております」


「税は無いという事、相違無いな」


「は、はい」



「それではこれよりタケルポリスから停戦、講和の条件を提示する。

 皆、心して聞け」


 さすがにその場の王族貴族全員が背筋を正した。


「講和が成った後には、タケルポリスは正式にテーバイ王族、貴族家の命と地位を安堵し、処刑などは一切行わない」


 控えめな歓声が広がった。


「ただし!」


 全員の顔が引き攣った。


「テーバイポリスは統治権、立法権、行政権は維持するものの、司法権はタケルポリスに譲渡するものとする。

 つまり、テーバイポリスグループ内では講和条約締結の後、タケルポリスの法が適用されるということだ」


 ほぼ全員の頭上に「?」マークが浮かんだ。


「だが安心しろ。

 タケルポリスの法はタケルポリス全体でも既に適用されている法であり、完全に常識の範囲内のものである。

 もちろんお前たちから見て馴染みが無いものもあるだろう。

 たとえば、タケルポリスの法では不敬罪というものは存在せず、不敬を理由に平民や農民を罰することは許されない。

 また、この法は勅令などの立法権に優越し、タケルポリス法に反する法を新たに発布することも出来ない。

 献上制度ではなく新たに税制度を作る場合でも、その上限は収穫の1割となる。


 テーバイ国王、この司法権譲渡が講和の条件だ。

 もしもこの条件が飲めないというのであれば、タケルポリスとテーバイの戦闘状態は続行され、このテーバイ本国とその親藩、譜代ポリスは完全に更地にされるだろう。

 返答や如何に!」


「か、寛大な条件を賜りまして、誠にありがとうございます。

 そ、その条件で講和をお願い申し上げます……」


「わかった。

 それでは講和条約を調印しよう」


 タケルが手を挙げると分厚いカバーに包まれた調印文書が2冊とペンが出てきた。

 タケルが2冊にさらさらとサインをする。


「ここに王がサインを記せば講和条約は成立だ」


 目に見えてほっとした国王がサインを終えた。


 さらにタケルが手を挙げるとその場に薄い法規集が1000冊ほど出てきた。


「これがタケルポリスの法を記した本になる。

 特に王族貴族はよく読んで法を犯さぬよう気をつけろ。

 また、すべてのポリスの王にこれを届け、熟読するよう命じろ」


「はい……」


「それから、ここにいるテーバイ譜代ポリス軍総司令官と副司令官の3名を、タケルポリスとの連絡担当官としたいが構わんか」


「も、もちろんでございます」


「ハニバル司令官、アレキサンダー副司令官、エリアデス副司令官も構わんか」


「もちろんでございます」

「光栄にございます」

「如何なることでもお申し付けください」


「俺に連絡の必要がある場合、または法などについて質問がある場合、口に出して『タケルポリス秘書官殿』と呼べ。

 俺の秘書官が返事をするだろう。

 マリアーヌ、挨拶を」


『みなさん初めまして。

 タケルポリスのタケル王秘書官マリアーヌと申します。

 よろしくお願いいたします』


「こ、こちらこそよろしくお願いいたします……」





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