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*** 188 降伏調印式 ***

 


 テーバイとその傘下ポリスについて:


 6000年前に偶然の機会から銅鉱石とその精錬方法を発見した中堅ポリステーバイは、瞬く間に周辺の5つほどのポリスを制圧してその傘下とし、以降も銅剣銅槍で武装した兵により周辺ポリスに侵略を繰り返して来た。


 その際に、調略や降伏勧告に従ったポリスの王族にはその地位を安堵し、抵抗の激しかったポリスの王族は根絶やしにして勢力を広げて行った模様である。



(はは、自分たちからタケルポリスに攻め込んだ上に、軍が全滅してからの降伏申し入れだからな。

 奴らのメンタリティーからすれば、王族が皆殺しにされてもおかしくないわけだ。

 それで美食や女で釣ってなんとか寛大な措置を引き出そうってぇことか)



 このテーバイではアテナイほどの極端な近親婚政策は取られなかったために、王も王族も比較的まともな者が多い。

 ただ、テーバイの歴史が続くにつれ、王太子のスペアである第2王子以下の王子の子孫もまたネズミ算式に増えて行った。

 このため、王の崩御と交代の際には新王の弟5人を王族のまま確保し、それ以下の王族はすべて公爵に臣籍降下させている。

 その際には第6王子から第10王子までを上級公爵、第11王子から第20王子までは中級公爵、それ以降を下級公爵としていた。


 当初のテーバイ拡大期に武功のあった者たちは侯爵以下の貴族に叙し、王族を滅ぼしたポリスの王に据えるか、テーバイの周囲に新たなポリスを建設させてその王にしている。


(この大陸南部は砂岩や粘土が豊富であり、また地下水も豊富だったために新ポリス建設も比較的容易だった模様)


 テーバイの歴史が進むにつれ、本国の姫や下級公爵、後には中級公爵家の者も傘下のポリスに婿や嫁に出していたために、テーバイという家名を名乗る者は急拡大していった。


 そうした歴史を積み重ねた結果、テーバイ本国の周囲には親藩と呼ばれるポリスが85、その周囲は譜代と呼ばれる貴族家の支配するポリスが142、さらにその外廓には外様と呼ばれるポリスが280も存在するに至った。


 このうちの外様ポリスには、主に降伏したポリスの王族を転封して管理者に宛てている。



 尚、特筆すべきはそのポリスごとの階級構成である。


 中核国たるテーバイポリスの人口は16万、そのうち王族と呼ばれる者たちは僅かに50名ほどだが、それ以外に上級公爵家一族が実に10万もいる。

 残りの6万もほぼ全員が王族や公爵家の近衛兵、侍従侍女料理人であった。

 つまりテーバイ本国には召使を除くと平民がおらず、もちろん農民もいない。

 戦力も上級公爵家子弟である近衛兵2万のみである。


 テーバイ本国の周囲にある85か所ある親藩ポリスも状況は似ている。

 中級・下級公爵家出身者5万が支配層を形成し、それ以外には要人警護兵と侍従侍女や商人しかいない。


 142か所ある譜代ポリスの王族は元テーバイの貴族が多かったが、それもテーバイの公爵一族を婿や嫁として押し付けられるために、次第にテーバイという家名の者が増えて行った。

(婚姻後もテーバイ家出身の婿や嫁はテーバイ姓を名乗れ、またその子孫もテーバイ姓を名乗れるという制度だった模様。

 この点、婚姻政策によって封土を増やしていった地球のハプスブルク家と似ている)


 この譜代ポリスでも、平均すると貴族軍人約5万とその家族8万以外には侍従侍女しかいない。

 つまりこの譜代ポリスがテーバイグループの戦力の中核を担っており、彼らはそのほとんどが略奪軍を構成して毎年収穫期が終わると遠征を繰り返している模様。



 これが外様ポリスになると、降伏後に転封された少数の王族と近衛兵という名の衛兵と侍従侍女以外は全て農民となる。

 秋の収穫後から冬の間、農民たちはほぼ全員が外郭城壁上でのポリス防衛に参加していた。



 こうした階級構成の結果、テーバイポリスとその傘下ポリスグループでは、総人口約3720万の内、農民が僅かに1120万(約30%)しかいないという相当に歪な状態になっている。

 つまり総人口の70%が、王族貴族、近衛兵、侍従侍女、職業軍人などの非生産職になっているのである。


 当然のことながら農民に対する徴税率は85%から90%にも達していたが、大陸南部は温帯から亜熱帯の気候帯に属し、野生の米や麦、野菜の原種及び果物なども豊富なため、農民は辛うじて暮らせている模様。




「酷ぇなこのテーバイとかいう連中の政治体制。

 よくもまあ今まで崩壊もせずに残ってきたもんだ。

 まあ救済部門としてこれは潰すしかないだろうな」


『はい』


「ところでこのテーバイ支配層が外様ポリスに課している税率って正確にはどのぐらいなんだ?」


『どうやら正式には税という物自体が無いようです』


「なんだそれ?」


『テーバイの場合は、外様ポリスの農産物を譜代ポリスや親藩ポリス、本国ポリスが徴収する際には、『献上』と呼ばれる制度になっています』


「税でも上納でもなく献上か」


『はい、テーバイ傘下に入った戦の際に皆殺しにされなかったことに感謝するという意味での献上、またテーバイグループ傘下でいることによって他のポリスから攻め込まれる機会が激減したことに感謝する献上、及び万が一の際には譜代ポリス軍が救援に駆けつけることへの感謝の献上ですね』


「なんだよそれ……

 それで結果的に重税になってるわけかよ」


『はい』


「ところでこの星にも救済部門の先遣観測隊は派遣されてたんだよな」


『約1年前から派遣されていて、トリアージ部門に報告が為されていました』


「それじゃあ王族や貴族の生活はどうでもいいけど、この外様ポリスの民の生活を見せてくれ」


『畏まりました』




「なるほどなぁ、やっぱりこの外様ポリスの民はテーバイを相当に恨んでいるんだな。

 まあこれだけ収奪されてたら無理ないか。

 なあマリアーヌ、この農民たちの暮らし振りをテーバイへの不満というテーマでダイジェスト映像にしておいてくれ」


『特にどのような点を強調しましょうか』


「この小麦を税として持っていかれる前と、ワイン生産の様子、それから畑の施肥の様子だな。

 出来上がったら一応見せてくれるか」


『はい』




 テーバイポリスのタケルポリスへの降伏調印式当日。

 テーバイ本国の王宮前には王族たちと上級公爵家一同が勢ぞろいしていた。

 その全員が10歳から20歳ほどまでの姫を伴っている。

 すべての城門は開け放たれており、数年ぶりもしくは生まれて初めて城外に出た王族貴族たちは遥か彼方にタケルポリスの威容を目にしていた。


(な、なんという巨大な城だ……)

(敵はあのような巨城を動かすことの出来る魔法能力を有していたというのか……)

(あのような大ポリスが友好と交易を求めてきたというのに、我らは一方的に略奪を仕掛けてしまったのか……)



 国王が王子、王弟たちを振り返った。


「よ、よいかその方ら、今日は出来うる限り使者を立てて遜ることを忘れるでないぞ!

 その上で寛大なる降伏条件を引き出すのだ!」


「「「 畏まりました陛下 」」」


「残念ながら交渉前の昼餐会は断られてしまったが、それでも和平締結後に我らの最高のワインと料理を振舞ってやると言えば、使者も我らを滅ぼすことが如何に惜しいことかがよくわかることだろう。

 加えて今日は王族や上級公爵家の美姫たちを多数呼んである。

 その姫たちをいくらでも側室にしてやれば、蛮族の王とて喜ぶに違いあるまい」


「はは、酒と美食と女ですか。

 それは間違いなく蛮族共も喜びましょう」


「それにしてもタケルポリスの使者は、正午にはあの一風変わった紋章旗を持つ旗手と共にこの王宮前に来るということだったが……」



 そのとき王宮前広場上空10メートルほどに礼装軍服姿のタケルが転移してきた。


「「「 !!!!!! 」」」


 タケルの後ろには紋章旗を持ち、ヒト族に変化したニャイチローが続いている。


(で、伝説の空中浮遊魔法まで使えるのか!)



 タケルとニャイチローはゆっくりと着地し、王の前に歩いて来た。


『よう、あんたがテーバイの王か』


 王宮前広場には声にならないどよめきが広がった。


((( な、なんだ今頭の中に声が聞こえて来たぞっ! )))


『はは、これは念話の魔法だ。

 全員に聞こえるように今は念話で話しかけている』


((( なんと…… )))



 隅の方にいたテーバイ軍司令官たちはさらに仰け反っていた。


(こ、このような魔法まで存在するとは!)


(この魔法があれば軍全体の指揮が如何に容易になることか……)


(そうか、タケルポリス軍が異様に統制が取れていたのはこの魔法があったからか!)



 驚愕をねじ伏せたテーバイ王が膝下の上低頭した。

 周囲の王子、王弟、上級公爵家一同もすぐそれに倣っている。


「お初にお目にかかります。

 わたくしがテーバイ王、トーバイ・フォンタシアス・テーバイでございます」


『俺はタケルポリスの王であるタケル・ムシャだ』


「「「 !!!!! 」」」



(ま、まさか王本人が来るとは……)


(それもあんな子供の護衛をひとりだけ伴って……)


(そ、それだけ魔法力と戦闘力に自信があるということか……)



『まずは皆、面を上げて立ち上がってくれ。

 俺は過剰な礼は好まぬ』


「はっ!」


 国王が立ち上がるとその場の全員も倣った。



(そ、それにしても、このタケル王という男、なんという若さだ。

 この歳にしてあれだけの軍事力を持つ城の主とは……

 しかも見たこともないほどの強大な体躯であるの……

 これだけ若く頑健であれば、さぞかし健啖な上に美姫のハーレムも喜ぶことだろう……)



 王家、上級貴族家の姫たちも驚きに硬直していた。


(蛮族の使者と言うからにはどれだけ野蛮な男と思っていたのに……)

(獣の毛皮しか身に纏っていないような野蛮人と思っていたのに……)

(金色の髪に真っ青な目…… なんて素敵な殿方なの……)

(しかもこの若さで王だなんて……)

(しまったわ、絶対に目に留まらないように体中を覆うドレスを着て来てしまった……)

(次の機会にはもっと肌を出したドレスにしなければ!)


 もちろん皆目がハート形になっている。



 タケルとニャイチローはテーバイ国王に先導され、王城内の謁見の間に向かった。


「恐縮ですがあちらの玉座にお座りくださいませ……」


 タケルは2メートルほどの高さのある階上の玉座に指を向けた。

 玉座がふわふわと浮いて床に降りて来る。


「「「 !!!!! 」」」


「先ほども言ったが俺は過剰な礼は好まぬのでな」


 タケルは静かに玉座に座った。

 タケルの体が大きいために、その玉座は随分と小さく見える。

 やはりこの時代のヒト族は小柄な者が多いようだ。



 タケルの前に並んだ王、王子2名、王弟2名、上級公爵家当主60名が再び膝下低頭した。





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