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*** 187 族滅回避 ***

 


「それでは実際に今後の降伏停戦協議について考えたいと思います。

 その場合、まず第一の目的は我がテーバイ一族の族滅を回避し、その血を残すことであります」


「ぞ、族滅だと……」


「い、一族の血を残すだと……」


「はい。

 もっと平易に言えば、皆さまと皆さまのご子孫を斬首などの処刑から逃れさせることです」


「「「 ……ひっ…… 」」」


「この目的を達成するためにはあらゆる犠牲をお覚悟ください」


「ぎ、犠牲とはなにか……」


「まずは『国王とその王弟、王子、上級公爵家当主、嫡男の首を差し出すので、未成人の一族の命を安堵してほしい』と申し出ることですね」


「「「 ひひぃっ!…… 」」」


「その代償となるのは、むろん金銀を含む膨大な量の財と共に、人質という名目でのご令嬢方の提供などでしょう」


「な、ななな、なんだと!」


「王子殿下、それでテーバイ一族の血統が残るのならば、安いものだと思われませんか?」


「ま、待てっ!

 交渉の日時と場所は我らが申し入れるのだな!」


「はい」


「加えて交渉の相手もそれなりの地位の者が来るのであろうっ!」


「おそらくは……」


「そ、それでは交渉の場はこの王城の謁見室と言えっ!

 あそこならば多くの武者隠しがある故、近衛兵200名を隠し置き、その使者を人質に取ってかの野蛮人共に撤退を命じよ!」


「その試みは絶対にお止めください」


「な、なんだと……」


「お忘れですか?

 かの国の兵は転移魔法を使えるのですよ。

 何をどうしようとも捕縛は不可能であります」


「「「 !!!! 」」」


「加えて一兵卒ですら結界の魔法らしきもので守られているのです。

 剣や槍をもって脅迫しても、まったく傷つけることは出来ないのですから、脅迫にもなりませぬ。

 むしろ激怒したタケルポリスの王の命により、テーバイ本国の王家も貴族家もその日のうちに皆殺しにされるでしょう」


「「「 うひぃっ! 」」」


「ということで、一族のお子様方の助命嘆願の際には、代わりに国王陛下、王弟殿下5名、王子殿下5名、上級公爵家120家のご当主閣下の首を差し出せと要求されれば、従容として従ってください」


「「「 あひぃぃぃっ! 」」」


「さすればテーバイの血は残りますので」


「そ、そのようなことまで必要になると申すか……」


「先ほど今回の交渉はテーバイ中枢部の皆さまにとっての総力戦になると申し上げました。

 総力戦ならば命を差し出すお覚悟もお持ちいただけませんでしょうか。

 あなた方が総力戦をお求めになられた軍部400万人は既に全員が殺されている可能性があるのですよ?

 あなた方はご自分の命は惜しいのに、400万もの兵を死地に送り込んだのですぞ。

 そのうちの100万はテーバイの家名を持つ者でしたのに。

 その家族一族800万は、テーバイ本国の王族上級貴族家に対して本気で怨嗟の念を抱いておるのです」


「「「 あわわわわ…… 」」」



「もちろん、今般の交渉に於ける第2の目標は、このテーバイ上層部の方々のお命安堵であります。

 その場合には当然のことながら、皆さまのみならず一族全員の平民落ちか奴隷落ちを求められるかもしれませぬ」


「「「 !!!!!! 」」」


「これもテーバイが傘下ポリスを拡大して来た際に行って来たことですので」


「「「 あぅあぅあぅ…… 」」」


「そして交渉に於ける第3の目的は皆さまの地位安堵になりまする。

 もしもこれが許されるならば、このテーバイ本国と親藩ポリス全てに蓄えたすべての財の提供も当然でしょうね」


((( ………… )))


「万が一にも財を隠していた場合には、そのご一族だけ斬首刑になるかもしれません」


「「「 !!!!!! 」」」



「さて、皆さまお覚悟は決まりましたでしょうか。

 それでは次に具体的な降伏条件交渉のご提案に移りたいと考えます。

 まずは日時ですが、あまり時間を置きますと叛意有と見做されかねませんので、遅くとも明後日正午にしなければなりませぬ。

 また、王城を明け渡すという意も込めて、場所は王城の謁見室でよろしいでしょう」


((( ……………… )))


「たぶん使者は転移の魔法により王城前広場に現れることと思われます。

 その際には城門をすべて解放しておくのみならず、王族の皆さまには城正面前にて、公爵家ご当主の方々に於かれましては、王城前広場周囲にご待機ください。

 もちろん最高礼装の上、あらゆる武器を持たずにです」


「「「 !!!!! 」」」


「そして、使者が現れました際には臣下の礼、具体的には膝下低頭にて出迎えてくださいませ」


「な、なんだとぉっ!」


「き、貴様我が大テーバイの王族に膝下低頭せよと申すかぁっ!」


「な、なぜ蛮族ごとき相手に我らが臣下の礼など取らねばならぬのだぁっ!」



 テーバイ軍最高司令官は無言の国王に向き直った。


「陛下にお願いがございます」


「申せ……」


「タケルポリスの使者を相手に臣下の礼を取れないと仰る方々に、御起立をお求め願えませんでしょうか」


「うむ、臣下の礼を為せぬ者は起立せよ」


 王弟3名、王子3名、上位公爵家当主が60名ほど立ち上がった。

 全員が司令官を睨みつけている。


「陛下、誠に恐縮ですが、今ご起立下さっている方々に、この会議室よりご退去の上、明日より当面の間譜代ポリスにての蟄居をお命じ頂けませんでしょうか」


「「「 !!!!!!! 」」」


「うむ、今立っている者は直ちに王城より退去し、明日中に譜代ポリスの縁者の邸に移動した上で当面の間蟄居謹慎を命じる。

 この勅令に反した者は、たとえ王太子であろうと平民落ちとする」


「「「 !!!!!!!!!!!!! 」」」


「へ、陛下……

 な、なぜにそのような……」


「まだわからぬのか。

 この者が先ほど申した通り、この交渉は我がテーバイ首脳部による総力戦なのだ。

 戦いに参加する意思が無い者共を排除するのは当然であろう」


「し、しかし……」


「貴様は王である余が膝下低頭している横で、何もせずに立っているというのか?」


「あぅっ!」


「しかも貴様らならば功に逸って使者を害しようとするやもしれぬ。

 そのような莫迦者一人のせいで、我がテーバイ一族が全員処刑されてテーバイの血が途切れたらなんとする!」


「「「 はぅぁっ! 」」」


「貴様らはそれほどまでに愚かだということだ。

 そのような愚か者をテーバイの命運を賭した交渉の場から排除するのは当然である!

 場合によってはそのまま下級貴族への降爵もあると心得よ!」


「「「 !!!!!!!!!! 」」」


「近衛兵!

 この者共をこの場より叩き出せ!」


「「「 はっ! 」」」



「それでは陛下、続けさせて頂いてもよろしいでしょうか」


「うむ」


「タケルポリスに交渉の日時と場所を伝えます際には、同時にまず昼餐会への招待を申し入れたいと考えます」


「それは彼らの目的が我がテーバイの食を初めとする文化かもしれぬからということだな」


「はい、ですが残念ながらこの招待には応じてもらえぬ可能性が高いと思われます」


「それは何故だ?」


「その段階では未だ降伏文書の調印も講和も為されておりませぬ。

 つまり彼らはまだ作戦行動中であり、その際に口にする糧食や飲料は自軍が用意したものに限るという軍規が常識だからでありまする」


「なるほど、敵の兵糧や水瓶には毒が仕込まれているやもしれぬからか」


「仰せの通りでございます。

 その際には降伏受諾の後に昼餐会に招待すべきかと」


「何故に晩餐会ではなく昼餐会なのだ?」


「晩餐会では如何に火を焚き、蝋燭を立てたとしても、光が足りずに料理の見栄えが悪くなるからです。

 その点昼餐会でしたら窓より入る光によって料理や酒の見栄えは最高になることでしょう」


「なるほど、実に有益な助言であるな」


「畏れ入りまする。

 また、その昼餐会の際、もしくは王城前にて使者を出迎える際には、王族はもちろん参加される上級公爵家の方々に若いご令嬢を伴って頂きたいと思いまする」


「なるほど、旨い酒に素晴らしき料理、それに加えて妾妃候補の美姫も宛うということか。

 はは、酒に食事に女か。

 男子ならばさぞや惹かれることだろうの」


「タケルポリスの使者と相対されるのは陛下になられます。

 これよりその想定問答を作成いたしますので、あらゆる交渉に備えていただけますでしょうか」


「あい分かった」


「それでは早速想定問答集を作り始めるとともに、我らはタケルポリスに降伏交渉は明後日の正午よりここ王城謁見室でとの返答を伝えてまいります」


「う、うむ、良きに計らえ」


「はっ」





「俺を酒と飯と女で篭絡しようとしてるわけか……

 まあ救済部門長代理の俺が、救済先の惑星で女作ったとなったらそれこそスーパースキャンダルになるからそんなことするわけないけどな。

 あ、でもそんな女たちを見たらジョセフィーヌがまたバーサーカーになっちゃうかもだ。

 なあマリアーヌ、この令嬢紹介シーン、カット出来ないか?」


『あの、タケルさま、変に隠し立てして疑われた時の方がマズイのでは……

 ですから事前に説明されていた方がよろしいのではないでしょうか……』


「それもそうか……

 まあもし交渉前に昼餐会を提案してきたら、あの司令官が言ってた通りに作戦行動中のため自軍の糧食しか食べることを許されていないと断ってくれ」


『降伏条件受諾後の昼餐会はどうしますか?』


「んーそれはまあ仕方ないか」


『それで、もちろん使者として娘たちの男性型アバターを派遣してもよろしいのですが、娘たちの経験もまだ十分ではありませんし、テーバイ傘下ポリス3700万の民のこともあります。

 ご面倒をおかけして誠に恐縮ですが、タケルさまに御動座願えないかと……』


「わかった。

 もちろん俺が出よう」


『ありがとうございます』


「ニャサブロー」


「はいですにゃ!」


「俺はこいつらへの降伏条件として、テーバイの司法権をよこせということにしようと思う。

 もちろん変な立法を試みても司法権を優越させて却下出来るっていう方向で。

 それで、今後の他の紛争世界でも使えるだろうから、『タケル王国もしくはタケルポリスの法律集』って作っておいてくれるか。

 お前も神域に戻れば結構な時間も取れるだろうから、マリアーヌと相談しながらな」


「はい、特に重点を置く法はありますか?」


「『他人を攻撃すること、及び攻撃するという脅迫をもって他人を従わせようとする行為は禁止する。もしこうした行為を行った場合、及び部下などにこれを命じた場合には牢に入れられる』っていう法を特に強調してくれ。

 もちろん不敬罪も禁止だな。

 後は常識的な法を羅列しておくだけでいいわ」


「既存の法に反する立法を違法として却下出来る権限者はタケルさまでよろしいですか」


「俺に加えてマリアーヌとニャサブローもだな。

 この3人は既に銀河宇宙の裁判官資格も取ってるし」


「か、畏まりましたですにゃ……」


「それまでは神域に戻ってテーバイグループの資料を見させてもらおうか」


『はい』





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