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*** 185 テーバイポリス ***

 


 救済部門総司令部の定例会合にて。


『タケルさま、ご報告がございます』


「なんだマリアーヌ」


『惑星ダタレル全土の主要ポリス300の近傍にタケルポリスを配備して同様な鎮圧を行っていたのですが……

 第1大陸南部の支配ポリスであるテーバイが、傘下507ポリスより約400万の兵を集めて隣接したタケルポリスに攻め込んで来ました。

 もちろんその軍は撃退して、敵兵はすべて重層次元倉庫に収容した上で、4つある城門の内、最外郭と第3の城門をオーク部隊が破壊いたしました』


「すげぇな400万の軍勢かよ」


『数は多くとも烏合の衆で戦略も何もありませんでしたので、兵の捕獲や城壁破壊自体は容易でしたが、それだけの軍及び城壁を2つも失ったテーバイポリス軍総司令部が一時停戦を申し入れて来ました。

 テーバイ城の王族らと協議し、降伏に向けた方向で支配層を説得する時間的猶予を得て我々と講和交渉を持ちたいそうです』


「国王あてに友好と交易を求める親書は送ってあったんだろ?」


『はい』


「それで一方的に攻めて来て、いざ大敗したら一時停戦の上降伏協議かよ。

 これはちぃっと教育が必要だな」


『どうやら戦争開始のきっかけは、偉大なるテーバイポリスに対し、新興のポリスが貢物も送らずに対等な交易を求めたことに王族が激怒したからのようですね』


「夜郎自大野郎たちか。

 それにしても、その王族共はタケルポリスの威容を見てなかったのか?」


『テーバイポリスもその長く停滞した歴史の中で城壁の建設には力を注いで来ました。

 おかげで王宮や公爵邸を囲む第1城壁の高さは20メートル近く、王城よりも高くなっているためにタケルポリスの姿は誰も見ていなかった模様です』


「あー、城や邸は内部に空間を作らなきゃなんないから建築技術が必要だけど、城壁はただ砂岩や日干し煉瓦を積み重ねていけばいいだけだろうからな。

 だから王城より高い城壁とか出来上がっちゃったのか。

 ついでに城壁上に登るのは下賤な行為だとでも思ってるんだろうな」


『はい』


「それにしても、もうタケルポリスはテーバイまで300メートルの位置に接近してライトアップもしてるだろうし花火も打ち上げてるだろうに、それでも驚かなかったのか?」


『どうやら攻撃と略奪を命じた軍が、魔法攻撃で夜襲をかけているものと勘違いしていた模様です』


「阿呆な支配層だなぁ」


『それで今後は停戦から降伏条件協議という政治的な動きになりますので、タケルさまに御判断をいただくとともに、場合によっては御出座願うこともあり得るかと考え、報告させて頂いております』


「わかった。

 こうした経験を積んでいけば、そのうちAIのアバターたちにも任せていけるようになるだろうが、まだ少し経験というかサンプルが不足しているよな。

 それじゃあここからは俺が担当しよう」


『ありがとうございます』


「それで一時停戦の期間は?」


『一時停戦を申し入れて来たのは軍上層部でして、これより統治者である本国の王族に降伏を前提とした本格講和交渉の開始を進言すると言うので6時間の猶予を与えました』


「ということは今テーバイの連中は必死で対応策を考えているところか」


『王城内に国王と王族、主要公爵家の当主が集まり、まずは軍総司令部からのブリーフィングを受けているところです。

 その後対応策の協議を始めるのでしょう』


「ということは、あれほど大規模な戦闘を行っていたのに、王族や上位貴族は誰一人参戦どころか観戦すらしていなかったっていうことだな」


『どうやらすべての政はテーバイポリスが仕切る一方で、軍事行動はその臣下である譜代ポリス連合が担当していた模様ですので』


「政軍分離といえば聞こえはいいが、どうせまともな政治も行ってはいないんだろうなぁ」


『テーバイ城内では上層部の緊急会合が続いております。

 まずはその様子をご覧いただけますでしょうか』


「おう」




 テーバイポリス王城大会議室には、国王と王弟5人、王子5人に加えて上位公爵家120家の当主が揃っており、その面前には譜代ポリス連合軍総司令官とその幕僚たちが蒼白な顔で立っていた。


「な、なんだと!

 譜代ポリス連合軍400万が全滅しただと!

 譜代ポリス総司令官、ど、どういうことだっ!

 せ、説明せよっ!」


「は、突然テーバイ本国近郊に出現し、無礼にも貢物も差し出さずに対等な交易と友好を求めてきたタケルポリスとやらを誅せよとのご命令を果たすため、我ら譜代ポリス142より精鋭兵400万を集めました。

 そのうち100万の兵を敵正面門前に配置して牽制する一方で、300万を敵ポリス内略奪部隊として全方位より突入させました」


「そ、それだけの兵がいて敗北したと申すか!」


「は……

 略奪部隊はほぼ全員が敵ポリス内侵入を果たし、敵畑を囲む塹壕にも突撃したのですが、そのすべてが消え失せていったのです……」


「な、なぜそのようなことが……」


「配置した観測兵の報告によりますと、その広く深い塹壕内では剣戟と吶喊の音は聞こえたものの、その全てが魔法による偽の音声だった模様です。

 そして兵は明るい地上から暗い塹壕内に入って一時的に目が眩んでいる際に、次々と消えて行ったとのことでした……」


「き、消えただと……」


「あの伝説の転移魔法が使用されたのかもしれませぬ……

 ということは、あの巨大な城が突如現れたのも転移魔法によるものだったと思われます」


「「「 !!! 」」」



「その後、観測兵からの進言により略奪軍指揮官たちは塹壕内突撃を中止し、敵ポリス内より撤退して軍を立て直そうとしたのですが、侵入する時には高さ3メートルほどしかなかった周囲の金属柵が、突如20メートルほどにも伸びていったのです……」


「「「 !!!!! 」」」


「そ、それも魔法か……」


「あのような魔法は寡聞にして知りませぬ。

 ですが敵ポリス外にいた司令官たちの面前で、柵はみるみる伸びていったのです。

 そして……

 これも司令官たちが見守る前で、柵と塹壕の間に残り100万ほどもいた兵たちが、万人単位で消失していき、僅か10分ほどで全兵力を失ったとのことでした……」


「そ、その兵たちはどこへいったというのだ!」


「不明です」


「ぐぅっ!」


((( ………… )))



「敵ポリス門前には当初5名ほどの観測兵とみられる者たちが布陣しておりました。

 そこに略奪軍全員消失の報告が総司令部に齎されたため、総司令部は敵正面に配置した譜代ポリス連合軍に全軍突撃を命じました。

 先制攻撃を受け持つ魔法師部隊3万は300発の大火球を形成して敵ポリスに向け発射したのですが、それもすべて敵の遥か手前で消失してしまったのです」


((( なんと…… )))


「次鋒は騎馬隊でありました。

 そのとき敵ポリス前に突如300名ほどの非武装兵が現れたのです」


「たったの300名か!」

「しかも非武装か!」

「それでどうなったのだ!」


 やんごとなきテーバイポリスの王族や上級公爵家当主閣下は、戦場などという下賤な場はご覧になられることは無いらしい。



「それが……

 まず騎馬隊1万の馬と武器や鎧のみならず、衣服までもが消失し、騎馬兵たちは突撃の勢いそのままに地面に激突して戦闘不能になりました。

 その後騎馬兵たちも消失しておりまする……」


「「「 !!!!! 」」」


「次に重装歩兵部隊30万が前進を開始したのですが、これに対し敵歩兵300が馬よりも速い異常な速度で突っ込んで来たのです。

 そして、敵歩兵と重装歩兵が接触するたびに、重装歩兵が10メートルほども宙に打ち上げられていきました……」


「「「 !!!!!!! 」」」


「敵歩兵部隊はそのまま速度を落とさず、我が軍の重装歩兵を蹂躙していったのです……

 戦場には重傷を負った重装歩兵たちが大勢倒れて呻いておりました。

 しかも我々の面前でその武器防具衣服が消え失せていき、当の歩兵たちも次々に消え失せていったのです……」


「た、単に消失させられるだけでなく、直接戦闘で完膚なきまでに敗北したと申すか……」


「それも非武装の相手に……」


「て、敵の損害は!」


「判明している限りではゼロです」


「「「 !!!!! 」」」


「負傷して後送される兵もおりませんでした。

 その後総司令部は敵正面に配置した投石部隊5万と、側面に回り込ませていた弓兵隊5万に一斉射撃を命じましたが、敵兵は一切怯むことなく、また傷つきもせずに前進を続けたのです。

 観測兵の報告によれば、すべての投石や矢は、まるで敵兵を囲むように現れた空間に触れるたびに跳ね返されて地面に落ちていたそうでした……」


「「「 !!!!!!!! 」」」


「ま、まさか伝説の結界魔法かっ!」


「そうとしか考えられませぬ……

 その石や矢もすぐに戦場から消えて行きました……」


「け、軽装歩兵部隊はどうした!」


「はっ、念のため10万を第4城壁門前に守備兵として配し、残りの30万に突撃を命じたものの、重装歩兵部隊と同じく接敵した途端に上空に打ち出され、ものの10分ほどで全兵士が行動不能に陥りました。

 中には敵兵に槍や剣を当てた兵もいたのですが、その全てが結界らしきもので弾かれて敵兵は無傷でございます」


「な、なんだと……」


「全体を覆う結界だけでなく、個々の兵を守る結界まであったというのか!」


「はい。

 その後、第4城壁を守る兵10万も敵兵に蹂躙された後に次々と消えて行きました。

 しかる後に敵兵は第4城門より100メートルほど離れた地点に魔法発動体とみられる大筒を3基配し、その筒より大魔法が放たれたのです」


「どのような魔法だったのだ!」


「見えませんでした……」


「な、なに……」


「その大筒から長さ30メートル近い巨大な炎が見えた途端に、第4城門が轟音と共に砕け散ったのであります。

 ですのでおそらくは爆裂火魔法が使用されたものと思われます」


「た、たった3発の火魔法であの城門が崩れ去ったと申すのか!」


「はい……

 その後敵軍は大筒の向きを変え、城門周辺の城壁をも破壊し始めました。

 現在では第4城壁は長さ100メートルほどに渡って跡形もなく崩されております」


「な、なんと……」


「その後敵軍は第4城壁跡地を通り、途中の防衛施設をことごとく消失させながら、第3城壁手前100メートルほどに布陣いたしました。

 その上でいつの間にか6門に増えた大筒をもって第3城壁を攻撃し、わずか3分ほどでこれを粉砕してしまったのです。

 このままでは第2城壁も第1城壁すら崩されてしまうことでしょう。

 それで致し方なく、我ら譜代ポリス連合軍総司令部は一時停戦交渉開始の使者を派遣したのであります。

 その結果、敵軍は6時間の時間猶予を指定して参りました。

 6時間以内に正式な停戦交渉開始の場と日時の指定を求められております」



 王太子が吠えた。


「な、なんだと!

 テーバイ本国王城の了承も無く勝手にそのような交渉を為したと申すか!

 貴様らそれが死刑に値する越権行為だと承知しておるのかぁっ!」


 自軍の大敗北という事実を受け入れられないために、代償行動として配下を罰しようとしたのだろう。

 典型的な小心者の反応である。

 現代日本に当て嵌めてみれば、自社工場が爆発炎上中だという報告を受けた経営者が、何も対策を講じることなくまずは工場長の処分を叫び出すようなものだった。



「当然であります」


「な、なにっ……」


「如何に第2城門と第1城門までが破壊の危機に晒されていたとはいえ、我らが勝手に一時停戦交渉を始めたことは事実であります。

 それだけではなく我らテーバイグループ400万もの軍勢を失ったことも。

 ですので我ら総司令部一同、死刑に処されることは覚悟の上でこうしてご報告に参っておりまする……

 ただし、一時停戦の期限までにはあと5時間もございませぬ。

 我らを処刑されると同時に新たな停戦交渉団を速やかに派遣されますようご進言申し上げます」


「な、なんだと……」


「もしも当初より6時間以内に正式停戦交渉開始の連絡が無ければ、かのポリスは攻撃を再開するとのことでした。

 その場合には1時間もしないうちに第2、第1城門も破壊されるのみならず、この王城や上級貴族街もまた瓦礫と化し、皆様のお命も……」


「「「 !!!!! 」」」





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