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*** 184 戦後処理 ***

 


 タケルポリスの一斉放送は続いていた。


『アテナイの皆さん、皆さんは大幅に拡大される農地で農業を行うことが出来るようになります。

 

 また、タケルポリスには税はありません。

 皆さんが育てた作物はすべて皆さんのものになります』


 旧第3城壁内の農民街では歓声が上がったが、第2城壁や大城壁内は沈痛な空気に包まれていた。

 税が無いということは、本当に自分たちの収入が無くなってしまったということなのである。


『また、これよりタケルポリスの法の内、最も重要な項目をご説明しますのでよく聞いてください。

 まず、タケルポリスではあらゆる暴力が禁止されています。

 もちろん暴力を匂わす命令によって他人を脅す行為も盗みも禁止です。

 これらの罪を犯そうとした者は、宙に10日間浮かべられたのち、裁判というものの結果牢に入れられることになります。

 よく覚えていてください』


「「「 ………… 」」」


『また、タケルポリスでは旧アテナイポリスの皆さんが希望されれば避難・移住を受け入れ、その際には日に3回の食事や衣服、住居が支給されます』


 まばらな歓声が上がった。


『ただし、いくつかの条件もあります。

 まず、殺人、強盗、窃盗、脅迫などの罪を犯したことがある方は、そのままタケルポリスで受け入れることは出来ません。

 もちろん兵に命じて略奪を行わせたり、略奪を行ったことも罪に含まれます。

 そうした犯罪者の方は裁判というものを受けていただいて、その罪に応じて牢に入っていただくことになりますが、その量刑がご不満の際にはアテナイの地に戻ることも出来ます。

 また、牢に於いても日に3度の食事は保証されていますのでご安心ください。


 これより旧アテナイ内には100か所ほどの『ほこら』というものを設置いたしますので、タケルポリスへの避難・移住をご希望の際はそのほこらに申し出てください。

 食料、住居、衣服支給の見返りとして、避難・移住された方々には、タケルポリス内の教場にて読み書き計算を学んでいただきます。

 その際には少額ですが給金も支給されます。

 その後試験に合格された方々は農業学校で本格的に農業を学ぶこともできますし、この農業学校を無事卒業されれば代官や村長として各街に配属されます。


 ただし、避難・移住を選択されたにもかかわらず、教場で真面目に授業を受けなかった場合、教場に来られなかった場合などは、タケルポリスとの契約を破棄したと見做されて旧アテナイの地に強制送還されますのでご承知おきください。


 また、罪状が重く、長期間の牢獄生活を申し渡されてアテナイに残る選択をされた方々でも、タケルポリスの商業街までなら入ることが許可されます。

 避難・移住を選択されたご家族とは、こちらで面会が可能になるでしょう。


 以上でご説明を終わりますが、なにかお分かりにならないことがあれば、最寄りの『ほこら』でお尋ねください。


 それでは皆さまがこれから健康的で文化的な生活を送れることを祈念しております……』




 アテナイ城と大城壁、貴族街の崩壊が始まった。

 謁見の間にいた王族、高位貴族家当主、近衛兵らは全員が宙に浮いたままこれを見されられている。


「ああ…… アテナイの城が……」

「わ、わしの邸が……」


「「「 !!!!! 」」」


 毒矢で体が痺れている王族も、声は出せないもののこの崩壊を目の当たりにしている。


 15分ほどで、大城壁と上位貴族街、アテナイ城、第2中城壁、第3小城壁がすべて砂と化し、その砂もどこかに消えて行っていた。

 ただし、大城壁と城の入り口など一部は記念碑として残されているようだ。



 宙に浮いていた王族貴族近衛兵は、その全員が天界裁判所に転移され、その場で量刑が言い渡されていった。

(王族も麻痺毒中和剤により動けるようになっている)


 だがしかし、王族と高位貴族家当主、第1近衛大隊のほとんどは、心神耗弱もしくは心神喪失により不起訴処分となったのである。

 彼らは全員が平民服を着せられ、個別にスクリーン上のAI裁判補助官と相対した。



 元国王の場合:


『あなたは戦争教唆と殺人教唆の疑いで逮捕されていましたが、精神鑑定の結果、心神喪失により不起訴処分となりました。

 そのためあなたはタケルポリスの心神喪失/心身耗弱者保護施設に移送されますが、これより衣服食事住居は保証されますのでご安心ください。

 この保護施設にて経過観察を行い、外部社会での生活可能と見做されれば旧アテナイの地に戻ることも出来ます』


「こ、この無礼者めっ!

 直ちに余を城に戻せっ!」


『もうアテナイの城はありませんよ?』


「な、なにっ……」


『それにあなたは殺人教唆、戦争教唆の疑いで逮捕された方であり、たとえ心神喪失で不起訴処分になったとしても、犯罪者であることに変わりはありません。

 よって最低でも1年間は保護施設に収容されて隔離されます』


「き、貴様! 不敬罪で打ち首にするぞっ!」


『あなたは既にタケルポリスのタケル王により平民に落とされていますので、もう誰も不敬罪に問うことは出来ません』


「な、なんだとこの無礼者めがぁっ!

 タケルポリスとはなんだ!

 タケル王とは誰だ!

 そのような者、余は知らんっ!

 余が知らんのだからそのような者がいるはずは無かろうっ!」


『いえ、確かに存在します。

 あなたは国王としてアテナイ全軍にタケルポリスへの総攻撃を命じ、その戦に大敗して略奪軍と遊撃軍全軍を失いました。

 その上停戦協議の場でタケル王陛下を暗殺しようとしたために、タケル王に捕縛されて平民落ちを命じられたのです』


「よ、余は知らんっ!

 余が知らん以上、そのようなことはその方のでっち上げた虚偽であるっ!」


(このひと……

 言い訳として忘れているフリをしてるんじゃあなくって、本当に忘れてるのね……

 それにしても、心神喪失で法的責任を問えないような人が戦争命令を出していたのか。

 よくこんな人物に国王が務まっていたものだわ……)



『それではあなたがアテナイ軍にタケルポリスへの総攻撃を命じ、その軍が大敗してアテナイ大城壁が崩された様子と、アテナイがタケルポリスに停戦を申し入れ、タケル陛下の暗殺が失敗に終わってその場の全員が捕らえられた様子、加えてアテナイ大城壁内のすべての建造物が破壊された様子をご覧いただきましょう』


 その場のスクリーンに一連の騒動のダイジェストが流され始めた。


「な、なんだこれは!

 なぜ絵が動いておるのじゃ!」


『これは映像というもので、実際の動きを記録した魔法の一種です』


「よ、余はそのような魔法は知らん!

 故にそのような魔法は存在しないのだ!」


『あなたが知らなくても存在するものはたくさんあるのですよ。

 現に今あなたは映像を見ているではないですか』


「!!!!

 こ、この無礼者めが!

 余のことは陛下と呼べっ!」


「あなたは今や平民ですからね。

 陛下などとは呼べません」


「な、なんだとぉぉぉ―――っ!」


『まあ30分ほどのダイジェストですので黙って見てください』


「ぐぎぎぎぎぎぎ……」



 30分後。


「ほ、本当にこのようなことがあったと申すか……」


(さすがに今見たものは覚えていられるのか)


『はい』


「よし!

 傘下のポリスより兵を集めてアテナイを再建し、蛮族のポリスなぞ必ずや滅ぼしてくれるわっ!」


『…………』


(まあ反論せずに言わせておきましょ)


「ときになぜ侍従共は余に食事を持って来ぬのだ!

 余に空腹を覚えさせるとは!

 食事担当侍従を鞭打ち刑にせよ!」


『もはや侍従もいないのです。

 夕食は18時からですのであと1時間ほどお待ちください』


「な、ななな、なんだとぉぉぉ―――っ!

 その方、打ち首に処すぞっ!」


『あなたは剣を振ったことがあるのですか?』


「な、なにっ……」


『この場所にはあなたしかいないので、もしわたしを打ち首にしたければ自分でしなければならないのですよ?』


「な、なななな……」



 そして夕食の時間になったが……


「待て! なぜ晩餐の卓にワインが無いのだ!」


『この保護施設は刑務所より待遇は良くなっていますが、それでも酒類が出るのは3日に1回です。

 明日までお待ちください」


「な、なんだと!

 王族の晩餐にワインを出さぬ気か!」


『あなたはもはや王族ではありませんよ?』


「よ、余は大アテナイの国王であるぞっ!」


(さっき見た映像をもう忘れてるのか……)



 だがまあタケルポリスの料理は旨かったらしく、元国王は貪るように食べていた。


「うむ、まずまずの食事であった。

 料理奴隷に褒美を取らせよ」


『はぁ』


「余は寝所に行くぞ。

 今日の伽は誰じゃ」


『ここは保護施設ですので、あなたの伽をする者はおりませんよ』


「な、ななな、なんじゃとぉぉぉ―――っ!

 そ、それではアテナイ一族の血を残すという王の勤めが果たせぬではないかぁぁぁっ!」


『あの、もうあなたの子は男女合わせて65人もいます。

 もう十分なのでは?』


「な、なにっ……

 そ、そんなにいるのか……」


(自分の子の人数も知らないのね……)


「ならば侍従を呼べ」


『ですからこの収容房にはあなたしかいません。

 もう侍従もいないのです』


「そ、それでは誰が余を夜着に着替えさせるのだ!」


『自分で着替えてくださいね』


「!!!」



 翌朝。


「こ、ここはどこだ……」


『ここはタケルポリスの心神喪失者保護施設です』


「な、なんじゃそれは!

 アテナイ城ではないのか!」


「アテナイは滅びましたし、アテナイ城も完全に破壊されました」


「な、なんじゃとぉぉぉ―――っ!

 よ、余はそのようなことは知らんぞっ!」


『…………』


(やれやれ、また1から説明するのか……

 でもこのひと、これだけいろんなことをすぐ忘れるなら、毎日退屈しなくてもいいかも……)





 元王太后陛下の場合:


 彼女は多少の記憶力は有しているらしく、当初は怒りと屈辱で常に怒鳴り散らす生活が続いていた。

 だがしかし、この施設にいるのが自分一人であるということ、アテナイが滅んだということを認識するにつれて徐々に大人しくなっていったのである。

 どうやら誰かにマウントを取らずともよい生活に馴染むのに時間がかかっていたようだ。

 さらにもはや大アテナイを率いる責務からも解放されたのだと知ると、彼女は憑き物が落ちたかのように大人しくなっていったのである。


 だが、静謐な生活を送れたのも僅か1か月ほどだった。

 マウントを取る相手がいないという現実は、急速に彼女の精神を蝕んでいったようだ。


 さらに1か月が経つ頃になると、もはや彼女は要介護Ⅲレベルまで急速に惚けが進み、すぐに介護ドローンの世話になるようになったのである……




 その日、タケルが帰宅して家族と食事をした後ソファで寛いでいると、セルジュくんとミサリアちゃんが並んで歩いてきた。

 2人の背中にはなにやらシーツのような布が乗せられている。


 2人はタケルの前でそのシーツをうんしょうんしょと広げていった。


(おー、もう指も少し使えるようになってきたのか……)


 そうして、シーツを広げ終わった2人はタケルの前にちょこんと座ったのである。


「あにょ、パパにおにぇがいがあるにょ」


「この布の上に寝てくだしゃい」


「あ、ああ」


 タケルはなんとなくイヤな予感がしたものの、頭の上に『?』マークを浮かべつつ横になった。


「その寝方じゃあにゃくって、お顔を下にして寝てくだしゃい」


「お、おう」


 まもなく2人がタケルの頭近くにやってくる気配がした。




 ぷに  ぷに




(なんだこの後ろ頭の柔らかい感触はぁっ!

 ああっ! に、肉球かぁぁぁ―――っ!)



 そのときまた「失礼します」と言って侍女がリビングのドアを開けた。

 そうして目をかっ広げた後に「失礼しました」と言って申し訳なさそうにドアを閉めたのである。

 何がそんなに申し訳なかったのだろうか……



「「 にゃはははは―――っ! 」」


 子供たちは笑いながら逃げていった。


「タケルや! 見たかっ!

 もう子供らが後ろ足で立ち上がって2足歩行しおったぞ!

 いやー、子供の成長とは早いものだの!

 今日は2人の初立ち記念日だな♪」


(……………………)


(生まれて初めて2足立ちして、最初にやったことがパパの頭を踏みつけることですかい……

 またみんなで俺の映像を見てたんだな……

 ま、まあ肉球の感触が可愛いかったから許す!)





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