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*** 182 マグネトロン発動 ***

 


 女官長は宰相府次官補代理の説明を黙って聞いていた。


「そうですか……

 蛮族の分際で王太后陛下への拝謁を望みますか」


「畏れながら、拝謁ではなく交渉であります」


「わかりました、王太后陛下のご意向を伺ってまいります」


「恐縮ですがお急ぎ願えませんでしょうか。

 あと2時間ほどで期限が来て、タケルポリスの攻撃が再開されます」


「…………」




「な、なんじゃと!

 蛮族の長が妾と直接交渉を望んでいるだとぉっ!」


「はい」


「下賤なる蛮族めが付け上がりおってぇっ!」


「ただ、あと2時間足らずで返答無き場合は、停戦交渉そのものを拒否されたと見做し、タケルポリスはあの大城壁を崩した大魔法を用いてこの王城も粉々にするとのことでした」


「!!!」


「そうなれば我がアテナイ一族は滅亡し、同時にアテナイポリスも滅びることになります」


「ぐぎぎぎぎぎぎぎ……」


「如何返答いたしましょうか……」


「ま、待てっ!

 確か協議の場はこの王城でもよいと申したな!」


「はい」


「ふはははは、さすがは蛮族よ。

 我が4000年の歴史による智慧にまでは頭が回らんと見える!

 近衛兵多数を謁見の間の武者隠しに潜ませ、また暗殺部隊も全て動員して隠し穴から毒吹き矢を放たせろ!

 それから謁見の際には上級貴族全員を呼べ。

 蛮族の長が謁見室まで来た段階で妾の合図をもって、貴族たちの面前で暗殺するのだ!

 さすれば妾の威光はますます高まろうぞっ!」


「畏まりました」


「そうだ! 暗殺部隊の吹き矢の毒は即死毒ではなく痺れ毒にせよと命じよ。

 あの毒は意識を保ったまま体だけが動かなくなる毒じゃ!

 動けぬ蛮族を妾自ら切り刻んでやろう!」


「ではそのように手配いたします。

 交渉は明日正午からでよろしいでしょうか」


「うむ、それでよい。

 近衛と暗殺部隊にはよく命じておけ!」


「畏まりました」




(なあマリアーヌ、やっぱりこうなったな)


『自業自得とはいえ、あまりにもお粗末な知的判断力ですね……』




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 アテナイポリスの近衛軍には3つの大隊がある。


 第1近衛大隊は主に国王と継承順位10位までの王子の警護に当たり、その構成員200名のほとんどは高位貴族家係累者の男子から成る。

 要は略奪軍や遊撃軍、守備軍に属さぬ兵種であり、いわば『死なない軍人』として、貴族家の4男から10男までの次期当主のスペアから構成されており、その採用基準はすべて縁故であった。

 当然のことながら彼らには向上心などというものは無く、鍛錬の時間もほとんど無い。


 これに対し第2近衛大隊は主に後宮警護を任務とし、必然的に女性が多い。

 ただし、その採用基準は最低限の礼儀作法以外は完全なる実力主義であって、その出自も低位貴族や平民出身の女子が多かった。

 なにしろその主要任務は後宮内での妃同士、未成年王族の暗殺阻止であるために鍛錬も重視されており、自分以外の同僚すら信頼せぬよう訓練されている。


 かつては第1近衛大隊と第2近衛大隊の模擬戦演習も行われていたことがあったが、第2近衛大隊の圧勝で終わることがほとんどであり、高位貴族家からの『下位貴族家や平民の子女が高位貴族家男子に勝つのは無礼である』という苦情により、現在では演習は行われていない。


 第3近衛大隊の任務はほとんど儀仗兵に等しく、その任務の多くはただ立っていることとドアを開けることであり、主に下位貴族家4男以下のうち、体格がいい者がその職に就いている。


 こうした区分のため、『家柄の第1大隊、実力の第2大隊、見栄えの第3大隊』と言われている。




 翌日。

 タケルポリスの王とアテナイ国王、王太后の停戦協議開催の時刻が迫ってきた。


 王城入り口周辺には第3大隊所属の近衛兵100名が威儀を正して並び、入り口から謁見の間までの廊下にも100名、謁見の間の扉横には8名の儀仗兵が立っていた。


 謁見の間は天井高が12メートルもあり、幅は30メートル、奥行きは40メートルある。

 その最奥にはきざはしを昇った上に3メートルの高段があり、正面中央の巨大な玉座には正装の王太后、そのすぐ後ろには女官長が立ち、さらにその斜め後方の一回り小さい玉座には国王が座っていた。

 その後方壁際には王太子から第10位までの王子が並んで立っている。

 ただ、ほとんどの王子にとって5分以上も立ち続けることはたいへんな苦痛であり、従僕に小さな椅子を持って来させて座っていた。



 高段下には第1近衛大隊と第3近衛大隊のうち特に体格が良い者120名が全身鎧姿で立っている。

 尚、第2近衛大隊の精鋭兵100名は、全員が武者隠しに身を隠していた。

 謁見の間両脇にはゴテゴテの貴族服を着た貴族家当主たち200名が並んでいる。

 その末席には宰相府、軍務省、略奪軍参謀本部の次官補代理たち3名も立っていた。



「近衛将軍!

 門前に蛮族の王が現れたとの連絡はあったか!」


「は、まだそのような連絡はございませぬ」


「ふん! いざとなったら怖気づいたか!」


 だが、その威勢のいい言葉とは裏腹に、国王陛下の額には玉の汗が浮かび、体は小刻みに揺れている。


「落ち着け王よ。

 この場こそ4000年の歴史を誇る我がアテナイが、新興の蛮族に格の違いを見せつけてやる場なのであるぞ」


「はっ、王太后さま……」




(ふーん、普通こういう謁見の間って入り口から階まで赤い絨毯とかあるのにな。

 あそうか、文明度が低くてまだ絨毯とか作れないのか。

 マリアーヌ、この部屋に『セミ・ゴッドキュア』はかかっているよな)


『はい』


(ここでマグネトロンを使うとしたら、出力はどれぐらいがいいかな?)


『合計20基のマグネトロンを配置していますので、それぞれ10万ワットで10秒か、20万ワットで5秒ですね』


(それじゃあ20万ワットで10秒にしてくれ)


『はい』


(武者隠しの兵と壁や天井の穴の奥に吹き矢暗殺兵は何人いる)


『兵は100名、暗殺者は30名です』


(随分大勢用意したもんだ。

 それじゃあ兵と暗殺者は全員武器ごと転移で収容してくれ。

 あ、痺れ毒を塗った矢は後で使うかもしらんから別にしておいてくれな)


『畏まりました』


(それじゃあニャイチロー、そろそろ行こうか。

 もちろん手加減しなくていいからな)


(はい!)




 謁見の間の入り口付近がスポットライトに照らされた。


 ワンダバダバダバダバダ

 ワンダバダバダバダバダ

 ワンダバダバダバワンダバダバワンダバダバダ


 その場に『サン〇ーバード』のテーマのイントロが流れるとともにタケルとニャイチローが現れる。

 と同時にスポットライトの明かりが広がり、薄暗かった謁見の間全体が強い光に満たされた。

 謁見の間の全員が驚愕にフリーズしている。


(な、なんだこの音と光は!)


 もちろん青銅器文明程度では光源は蠟燭か篝火しかない。

 楽器も原始的な打楽器か3音しかない笛だけである。



(扉が開いたところも近衛兵の姿も見えなかった……

 いったいどこからどうやって来たというのだ……)


 王族や貴族といえども、使える魔法は初歩的な生活魔法に毛が生えたもの程度であり、転移の魔法などはおとぎ話の中にしかない。


(こ、これが蛮族の王だというのか。

 まだ成人したての若造ではないか……)


(護衛も一人しか連れていないとは……

 しかもこんな子供を……)



 光量がやや落ち、音楽も少し小さくなると、タケルの後ろにニャイチローが追随して2人が歩き始めた。

 2人が10メートルほど進んだ辺りでようやく解凍した大柄な近衛兵が2人、槍を交差させて大きな声を出す。


「そ、そこで止まれっ!」

「その場で膝下し、王太后陛下と国王陛下に向かって低頭せよっ!」


 タケルは構わず進み、近衛兵に向かって近づいて行った。


「止まれと言っておるっ!」

「止まらぬと突き殺すぞっ!」


 近衛兵がタケルに槍を向けた。


 ニャイチローが前に出て、ほとんど瞬間移動ほどにも見える動きでまず右、次に左の近衛兵の腹を蹴り上げる。

 同時に念動魔法で2人を天井に向かって放り投げた。


 どがどがっ!


「「 !!!!! 」」


 どん!


「「 ぐあぁぁぁっ! 」」


 べちゃ。


 天井にぶつかった近衛兵はそのまま落下して床に落ち、ぴくぴくと痙攣している。


 再びフリーズした全員が見守る中、タケルとニャイチローは視線を王太后に向けたまま階に近づいていった。

 同時に天使威を抑えていた隠蔽魔法を解除する。

 国王の目玉が裏返った。

 王太后の額に玉の汗が浮かんでいる。



 階5メートル手前で止まったタケルが低い声を出した。


「おいクソババア、お前ぇ何か勘違いしてるようだな」


 咄嗟に王太后が震える手を上に上げた。

 だが何も起きない。

 焦った王太后は何度も手を上げたり下げたりしている。

 王太后の目が驚愕に見開かれた。


「無駄だ。

 武者隠しの近衛兵と暗殺穴の奥にいた暗殺兵たちは、既に全員を捕らえてタケルポリスの牢に転移させている」


 王太后の目に初めて恐怖の色が浮かんだ。


「お前らは敵意察知の魔法も使えないのか?

 武者隠しの中も暗殺穴の中も、俺への殺意を持った連中で溢れかえっていたぞ」


「「「 !!! 」」」


「ならばそいつらを『転移の魔法』で牢にぶち込んでおくのは当然だろうに。

 ったくそんな簡単な魔法も知らねぇとは先祖代々の王族魔法とやらは貧弱この上無ぇな」


「「「 ……あぅ…… 」」」



 タケルが腕を前に突き出し、人差し指を手前にちょいちょいと動かした。


 途端に念動魔法により王太后と国王が階を転がり落ちるように飛んで来て、タケルのすぐ前で土下座姿勢になり、額を床に圧しつけられている。

 王太后のティアラと国王の王冠が床に転がった。


 ぐしゃ  ぐしゃ


 タケルがティアラと王冠を踏み潰し、そのまま足を王太后の頭に乗せた。


「お前ぇらは敗戦国だろうによ。

 その敗戦国が勝利国の王である俺に膝下しろとは何考えてやがる!

 膝下低頭するのはオマエラの方だろうっ!」


 女官長が我に返り、金切り声で叫んだ。


「近衛兵っ!

 何をしておるっ!

 すぐにその慮外者を切り殺せえっ!」


 フリーズから解凍された近衛兵120名が抜剣し、タケルに向かって足を踏み出した。


 タケルが右手を上に上げる。


「マイクロ波発動」


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……


「「「 ぎゃぁぁぁぁぁ―――っ! 」」」


 近衛兵たちの剣と鎧から盛大に火花が散った。


「「「 ぐあぁぁぁ―――っ! 」」」


 王子たちや貴族たちの服の金モールや金ボタンも火花を発し、服に火が着き始めている。


「ひぃぃぃぃ―――っ!」


 女官長の小さなティアラからも火花が散り、髪の毛が燃え始めた。



 10秒後にマイクロ波が止むと、その場にはプスプスと煙を上げながらほぼ全員が倒れていた。

 鎧を脱ぎ捨て、鎧下に着いた火を消そうとして転げまわっている近衛兵も多い。

 立っていたのはあの平民の使者たち3人だけである。

 タケルから『一切の金属製品を身に着けるな』と指示されていた意味がようやくわかり、ムルコス大佐が微笑んでいる。



 タケルが指を鳴らすと後ろに1メートルほどの段と豪華な装飾の施された玉座が出てきた。

 タケルは重力魔法でゆっくりと浮き、玉座に座って足を組む。

 王と王太后はまだ魔法で床に圧しつけられた土下座姿勢のままである。

 その後ろに10人の王子たちが飛んで来て、やはり同じ土下座姿勢にされた。



 身に着けた金属類が少なく、比較的被害が軽微だった中位貴族が何人か謁見の間から逃げ出そうとした。


「な、なんだこれは!」


「な、なにか見えない壁があって出られん!」


「はは、それは魔法で作った結界だ。

 お前らはここからもう逃げられん」


「け、結界の魔法だと!」


「そ、そんなもの伝説の中にしか無いと思っていた……」


「ま、まったく詠唱もしていなかったのに……」


「ははは、魔法発動には本来詠唱など必要ない。

 詠唱するのは幼児が魔法を練習するときだけだ。

 つまりお前らの王族魔法は幼児並みだということだ」


「な、なんと……」





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