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*** 180 デモンストレーション ***

 


「あの……

 星とはなんでしょうか。

 それからタケル陛下が属する社会とは……」


「この大地を照らす太陽は丸いだろう。

 また夜には空に月も出ているし、光る点もある。

 あれら全てを星といい、この大地があるのもその星のうちの1つだ。

 そして、その星の中には高度に発達した文明を持つ星が約3000万あって、それらの星々が集まって銀河連盟と呼ばれる平和な『社会』を作っているんだよ」


「すみません、3000万とはどのような数字なのでしょうか……」


「このアテナイポリスの人口を知っているか?」


「誰もそんなことは知らないと思います。

 ですがかなりの人々がおります」


「このアテナイの人口は約30万だ」


「そんなにいましたか……」


「その100倍が3000万だ」


「「「 !!! 」」」


「それほどの数の星があるということだな。

 また、銀河連盟に属していない後進星は9000万もある。

 もちろんこの星もその中の1つだ」


「そ、そんなに……」


「そうしてだ、お前たちには信じがたいことかもしらんが、その3000万世界には戦も略奪も無いんだよ」


「そ、そんなことが有り得るのですか……」


「それに驚いているということは、お前たちが如何に戦を当たり前だと思っているかということだ。

 しかもこの星全体でも人口は僅かに4億5000万しかいないんだぞ。

 俺が属する銀河連盟3000万世界の惑星当り平均人口は80億もいるのにだ。

 億というのは1000万の10倍だ」


「そ、そんなにも……」


「だが、残念ながら9000万の後進星の中には戦乱に明け暮れている世界が2000万もある。

 そして、この星はその戦乱2000万世界の中でも戦乱で死ぬ者の割合が最も高い星なんだ。

 つまり最悪の星だ」


「「「 !!!!! 」」」


「よって銀河社会は俺にこの星の戦乱を止めるように命じたわけだな」


(まあ実際には俺は付託を受けて自分で動いてるが)



「と、ということは、タケル王陛下は星を渡って来られたと……」


「そうだ。

 先ほど皆を転移の魔法でここに連れて来ただろう。

 あの魔法の力が上がると星を渡ることも出来るようになる」


((( ………… )))



「それではなぜこの星がそんな最悪の星になっているのか。

 それには2つの理由がある。

 ひとつ目は農業能力の低さだな。

 俺のポリスでは1反当たりの麦の収穫は20石あるが、アテナイの石高は1反当たりわずか4斗にまで落ち込んでいるだろう。

 おかげで兵や民を養うために毎年略奪戦争をする必要に迫られているわけだ。

 もしくはかつて降伏させた他のポリスから麦を献上させているかだな。

 それにより他のポリスでも食料不足になって他のポリスに略奪に行く必要が出て来ている。


 もうひとつの理由は阿呆な王族や貴族の存在によるものだ。

 農業技術の知識も持たず学ぶ気も無い、ただただより多くの兵を擁して強国を維持したいという王族や貴族の無能や強欲や見栄に由来するものだな」


((( ………… )))


「アテナイでの麦価格は1斗銅貨100枚だそうだな。

 だがタケルポリスでは極めて農業技術が進んでいるために、1斗銅貨10枚で売られている」


「「「 !!!! 」」」


「ならば、タケルポリスが麦を売ってやれば、アテナイも略奪に行く必要は無くなるだろう。

 俺は最初そう思っていたんだ。

 その内麦を買うカネも無くなるだろうが、それまでには農業技術を教えてやって収穫量を何倍にもさせてやればいいと考えていた。

 だがアテナイは一方的にタケルポリスを攻撃して来た。

 だから俺は次の段階、すなわちアテナイの城壁を全て破壊してしまうことにした」


((( ………… )))


「城壁が無くなり、すぐ傍にタケルポリスという強国がいる。

 そうなればもう、アテナイも他所に略奪軍を派遣することは出来なくなるだろう。

 それで食料不足になるならタケルポリスで安い麦を買い、その間に農業を学べばいい。

 だがアテナイは一方的に我がポリスを襲撃して来た。

 そのような状況の中でなぜ俺が停戦に応じなければならないんだ?」


((( …………………… )))


「あ、あの、ご無礼ながらお聞かせください。

 タケル陛下は所属される『ぎんがれんめい』というものから、この星の戦を無くし戦で死ぬ者も無くすよう命じられて遥々星を渡ってお見えになったのですよね」


「そうだ」


「で、ですが、それでアテナイと戦って軍人や第2城壁内の民を殺すのは本末転倒なのではないですか」


「はは、俺は確かにアテナイの略奪軍13万を無力化し、第2城壁内の商会や官庁、貴族街を粉砕したがな、それでも1人も殺していないのに気づいていなかったのか?」


「え?」


「お前ら軍務省の被害状況把握能力も大したことはないな」


「ぐ……」


「お前たちも敵を殺さずに無力化するのがどれほど困難かはよく知っているだろう。

 10人の敵を殺すのには20人もいれば十分だろうが、10人の敵を殺さずに無力化するには50人以上の兵が要るだろうな。

 つまり非殺傷の無力化にはそれだけ隔絶した戦力差が必要だと言うことだ」


((( ………… )))


「壊滅させた略奪軍と遊撃軍併せて13万は、貴族王族も含めて全員生きているぞ。

 ただし、連中は、戦争教唆、殺人未遂という重罪を犯しているために、全員を牢に入れている。

 すぐに裁判というものでその罪の重さを明らかにし、その裁判所の判断によって牢に入っている期間が決まるが、王族や指揮官は罪が重すぎてもう一生牢からは出られないだろうな。

 だが安心しろ。

 牢では健康な生活と食事が保証されている。

 たぶん王族を含めてアテナイでの生活よりも遥かに快適だろう」


((( ………… )))


 タケルポリスでの食事の旨さを知っているムルコス大佐が微笑んでいる。



「もしアテナイの民を殺戮してもいいならこんな小さな国を亡ぼすのには5分もかからんぞ。

 マリアーヌ、第2中城門内貴族街の避難は終了しているか」


『はい、全員を王城北側の下級貴族街に避難させています』


「それではこれより諸君らに少々デモンストレーションを見て貰おうか」



『タケルポリス全職員に告げる、こちらはタケルだ。

 これよりアテナイ内部の無人区画に小規模且つ単発のメテオを落とす。

 各人衝撃に備えよ。

 直径1メートルメテオ単発、発動』



 しばらくは何も起きなかった。

 アテナイからの客人は皆手摺に掴まって貴族街を見下ろしている。



「はは、上だ上」


 上空に小さな火の玉が見えて来た。

 それは最初ゆっくりと落下しているようにも見えたが、近づくにつれてそれが恐るべき速度を持つものであることが分かるようになっている。

 その火球は後方に衝撃波を伴いながら上級貴族街に落下した。


 ずどどどどどどどどどど……


 アテナイ全体が盛大に揺れ、落下地点ではイジェクタが噴き上がった。

 貴族街には直径200メートルほどのクレーターが発生し、その底では溶融した岩石がオレンジ色に光っている。


 アテナイ城内では侍女や姫たちの大きな悲鳴も聞こえていた。

 いや、よく聞けば王や王子たちの甲高い悲鳴も聞こえる。


 アテナイからの交渉団は声も出せずに顔面蒼白になっていた。



「ということでだ、今の100倍ほどの魔法を100発も落とせば、アテナイの地は生命のいない更地になることだろう。

 これが俺とアテナイの戦力差だ」



 交渉団一行はふらふらとテーブルに戻り、タケルが微笑みながら一行を見渡した。


「だがまあ俺もお前たちの事情は理解している。

 あの傲慢な王太后が怒り狂って『直ちにタケルポリスと名乗る蛮族を滅ぼし、この騒音を止めさせろ。さもなければ王族と雖も平民兵に落として蛮族に突撃させるぞ』と吼えたんだよな」


((( そんなことまで知っているのか…… )))



「だから停戦の『協議』には応じてやろう。

 ただし1つ条件がある」


「お聞かせくださいませ……」


「随員はいくらいても構わんが、停戦交渉の相手はアテナイの王太后と現国王だ。

 それ以外の交渉相手は認めん。

 場所はアテナイ城の謁見の間で構わんが」


 ムルコス大佐が口を開いた。


「タケル殿、もしよろしければ貴殿の意図をお聞かせ願えませんでしょうか……」


「これはアテナイ支配層に対する最終試験になる。

 アテナイが選べる道は2つに1つだ。

 1つめは軍を解体し、全ての戦闘行動を永久に停止すること。

 さらにアテナイの政体も解体し、王族や貴族という名称は残しても構わんが、アテナイの統治権はタケルポリスに譲るものとする。

 もちろん、アテナイ内での暴力や暴力を匂わす脅迫も禁止する。

 つまり王族や貴族はもはや平民に命令を出すことは出来ないということだ。

 まあ実質的な平民落ちだな」


((( ………… )))


「だが、もしも俺を暗殺しようなどという敵対行動を取った場合、俺はアテナイの全ての城と城壁と貴族街を破壊するだろう。

 その上で住民が自分の意志でタケルポリスへの避難または移住を選択した場合はこれを受け入れる。

 その際には農業知識を与えると共に、農業生産が軌道に乗るまで食事を保証し、住居、衣服も支給する。

 もちろん、住民が自分の意志でタケルポリスに避難移住することを妨げた者がいた場合には、それを命じた王族や貴族も含めて全員を捕縛して牢に入れるだろう。


 ただし、その際に諸君には残念な知らせがある。

 それは、俺たちが所属する社会の法により、我がポリスは犯罪者を市民としては受け入れられないということだ。

 その犯罪の中には戦争行動や戦争幇助も含まれる。

 たぶん諸君は今までの職務の中で略奪戦争を支援して来たという罪で終身刑になり、一生牢から出られることはないだろう。

 だが先ほども言ったように牢の中でも食事は保証されるし、家族が面会に来た場合には一定の条件の中でこれも許される。

 また、もちろんタケルポリスに避難や移住することなく、アテナイの地で暮らすのならば、それは認められる。

 そのときには多少の農業支援も行うだろう」


((( ………… )))



「諸君らは王と王太后に今の話をする必要はない。

 ただ単に停戦協議は王と王太后を相手に行うこと、場所は王城謁見の間で構わないことを伝えてくれればそれでいい。

 後は俺が協議の場で対応することにする。

 ただ、諸君らの安全を担保するために、諸君らの安全が脅かされ、諸君らから直接休戦協議の可否について連絡が無い場合、休戦協議は破棄される。

 そのときは、アテナイの王族貴族が全滅するまでタケルポリスが攻撃を続けると付け加えてくれ。

 もちろん俺はその報告の様子を魔法で見ているし、諸君ら及び諸君らの家族に危害が加えられそうになった場合には安全地帯に転移させる」


「タケル殿、質問がございますがよろしいでしょうか」


「もちろんだ」


「仮に本官の家族がタケルポリスに移住し、本官がアテナイに残って暮らすとします。

 その際に我が家族はアテナイを訪れることが出来るのでしょうか」


「当然だ。

 我が国の法では市民は法を犯さない限り自由に行動出来る。

 さらに付け加えるならば、何者かが貴君の家族に害を為そうとした場合、その者は即座に拘束されて罪に問われるだろう。

 また、貴君もタケルポリスの商業街にならば入ることは許される」


 ムルコス大佐は微笑んだ。


「それだけお聞きすれば十分であります。

 たぶん最後の職務となるでしょうが、王と王太后への伝令、確かにお引き受けさせていただきましょう」


「それでは今より3時間の間、我らは攻撃を停止しよう。

 3時間が過ぎても貴君らより返答の念話が無い場合は攻撃を再開する」


「畏まりました」



 こうしてアテナイの交渉団は王城に帰還していったのである。





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