*** 18 学習 ***
それでさ、最初にニャイチローが故郷惑星に里帰りしたんで、帰って来た時にどうだったかって聞いてみたんだよ。
「あにょ……
神界の転移装置を通って故郷惑星の転移ポートに降り立ったんですけど……
テレビカメラが100台ぐらいあって、出迎えの猫人が20万人ぐらいいましたにゃ……」
「!!!
お前そんな人気あるのか!」
「いえ、去年の里帰りの時には役人さんが数人と故郷の村の村長さんとママだけでしたにゃ……」
「なんで今年はそんなに人気が出たんだ?」
(このひと…… 自分が銀河でどれだけ尊崇されてるか知らにゃいんだな……)
「それはもちろんボクがタケルさまの直接サポート係に任命されてるからですにゃぁ……」
「!!!」
「ある程度は予想してましたけど、まさかあれほどまでとは……」
「そ、そうだったのか……」
「それから大統領府で歓迎昼餐会があったんですけど、大統領府までの沿道には200万人の人出が……」
「!!!!」
「そ、その昼餐会には近隣100光年以内の恒星系大統領閣下が7人も来てました……」
「!!!!!」
「もちろん全員が神界のおかげで自然災害から救済された恒星系の大統領方でした……」
「そ、そうか……」
「それで昼餐会では、母惑星の大統領閣下を含む8人の大統領さんたちから質問攻めでした……」
「な、なにを質問されたんだ?」
「もちろんみなさん『タケル閣下』の動向や日常を熱烈に気にされていました……」
「!!!
お、お前まさか俺がエリザベートさまのおっぱいビンタで死にかけたとか言わなかっただろうな!」
「そ、それは神界の最高機密事項に指定されていますので言ってません!」
(神界最高機密事項……
おっぱいビンタすげぇな……)
「それで、猫人系の大統領閣下たち3人にタケルさまに賜ったちゅ〇ると猫ま〇しぐらをおすそ分けしたんですが、他の5人の閣下にも懇願されてお渡しするはめに……」
「そ、そうか……」
「ボクの母惑星の大統領閣下に渡した分は、直ちに大統領宮殿の宝物庫に運ばれてその最深部に封印されましたですにゃ……」
「!!!」
(ま、まさかちゅ〇ると猫ま〇しぐらも宝物庫に入れられるとは思って無かったろうな……)
「昼餐会が終わると、7人の大統領閣下にかわるがわる手を握られて、タケル閣下にくれぐれも感謝の意をお伝えしてくれと、涙ながらに頼まれました……」
「そ、そうか……
た、確かに感謝は受け取ったぞ……」
「そのお言葉、必ずや7つの恒星系に……」
「お、おう……」
「それから僕の村の最寄りの都市に転移装置で転移し、そこからオープンエアカーに乗せられて200キロほど離れた村まで帰ったんですが……
村までの沿道には2000万人の人出が……」
「!!!!」
「そして村の入り口には、号泣するママと弟や妹たちが待っててくれたんですにゃ……」
「ママたちに久しぶりに会えてよかったな」
「でもいつもは300人程度の村に、近隣から集まって来た村人が20万人も……」
「!!!!!」
「そして、歓迎式典でもタケルさまについて質問攻めになったのですにゃ。
おかげでタケルさまに頂いたお土産は、ほとぼりが冷めてから村のみんなで食べてくれと言って村長に渡して来ましたんです……」
「ま、まあその方がよかっただろうな」
「そして、夜にはボクの前に綺麗な女の子たちが映し出されるお見合い用ホログラムプレートが2万枚積み重ねられて……
村長から、出来ればこの子たち全員と交尾して子を生ませてやって欲しいと……
しかもその子たちみんにゃ交尾が初めてだそうで……」
「!!!!!」
「中かには恒星系中で大人気のアイドルユニットの女の子たちまで……
ううっ……」
「そ、そうか……」
(ね、猫人族のアイドルユニット……
み、見てみたいな……)
「で、でも今はタケルさまのお手伝いをさせて頂くという超名誉な任務を賜っているにょで、丁重にご辞退申し上げますと村長にお願いしておきました……
ううううううっ……」
(そりゃあ残念だったよなぁ……)
「タケルさま、お願いですっ!
万が一、ボクがタケルさまとの組手でタケルさまをKOした映像が流出したりしたら……
ボクは2度と故郷に帰れにゃくにゃって!
い、いやそれどころか直径10万光年の銀河系全域に指名手配されてっ!」
「!!!!!!」
「で、ですからどうか流出などしないよう厳重な管理をっ!
う、う、うにゃぁぁぁ―――ん!」
「わ、わかった!
わかったから泣くなっ!」
(なんだ、それが怖くて泣いてたのか……)
ニャジローやニャサブローの里帰りも似たようなもんだったそうだわ。
そうか、あいつら地元を歩いてるだけで数千万人が寄ってくるような恒星系の英雄なんだな。
でも俺なんか地元の『極楽通り』を歩いてても、寄って来たのはDQNとヤー公だけなんだけど……
なんなんだよこの違いは!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ニャサブロー、今日から銀河宇宙の学校テキストで勉強するんだよな」
「はいですにゃ。
ただ、念にょため初等学校高学年の授業から始めますにゃ」
「それって地球だと10歳から12歳ぐらいの子達の教材って言うことか?」
「はいですにゃ」
「それさ、テキストを使ってお前が教えてくれるのか?」
「いいえ、銀河連盟大学が作成した通信教育アプリを使いますにゃ。
質問がある場合にはそのアプリ経由で連盟の学習専用AIにダイレクトに質問出来ますけど、ボクでも答えられると思いますにゃ」
「そうか、それじゃあ始めようか」
「はい」
ほほー、これが銀河標準語のテキストか。
まあ、言語なら俺の脳には銀河最新鋭の翻訳プロトコルが入ってるから問題ないな。
標準語は表音文字だから漢字とか覚える必要もないし。
それにしても、さすがは銀河標準語だけあって、ヘンなイディオムとか少なくて単語も覚えやすいわー。
ああそうか、これエスペラントに似てるんだ。
お、次は算数か。
はは、算数は流石に地球とあんまり変わらんか。
でも理科はけっこう内容が深いぞ。
素粒子物理学まで入ってるのか。
あー、社会科の歴史って銀河系や銀河連盟の歴史なんだな。
はは、最初はビッグバンから始まるのかよ。
でもって以前ニャサブローが教えてくれたように、銀河系がある程度出来上がると親宇宙から『天族』がやって来て、見込みのありそうな種族に知性を与えてくれたんだな。
ついでにテラフォーミングで『天地創造』までしてくれたわけだ。
それでE階梯の高い銀河人を雇って『天族の使徒』、略して天使を天界に連れて来て、これが今の神界の神の祖先になったんだな。
だとすると、当時の神を名乗った奴らってかなり図々しいよなぁ。
単なる天族の雇われ人だったくせに、天族がいなくなった途端に自ら神を僭称したんだもんなぁ。
それで自称神たちは銀河の災害世界や戦乱世界を助けようとして大失敗するのか。
おかげで神界に引き籠っちゃったわけだ。
はは、これが原理派の始まりか。
(やっぱりこの人すごいにゃ。
とんでもにゃい集中力で楽しそうにテキスト読み進んでるよ……)
「それではテキスト学習も合計500時間に達しましたにょで、簡単な確認テストをしてみたいと思いますにゃ」
「おう」
(はは、さすがにあれだけのテキストをほぼ丸暗記してたら、解答もすらすら書けるわ。
お、これは応用問題かな)
問題: 以下の地形、気象条件、立地条件、土壌、水脈条件を満たす土地に開拓村を作って農業を行うとする。
留意すべき点について述べよ。
(ははは、日本の初等教育では絶対にお目にかかれない問題だな。
でもテキストのあの部分とあの部分を参考にすれば……)
(すごいにゃあ。
テキスト1回読むだけで全ての内容を覚えてるって本当だったんだにゃ。
それが出来る人はいにゃいわけじゃあにゃいけど、そういう人ほど応用問題にはヨワイのに。
でもタケルさまは相当に深い考察まで加えてるにゃ……)
「8教科で10時間もにょテストお疲れさまでした。
明日はもう少し詳しいテストをしましょうかにゃ」
「おう」
(はは、久々にテストやってて面白いって思えたわ。
もう少し詳しいテストとやらも楽しみだ♪)
(はー、満点ですかにゃー。
これで銀河の一般初等学校の卒業資格は得られたということで、銀河大学付属中学の入試問題も試してみようかにゃ……)
(おー、本当にけっこう高度な問題になってるわー。
でも基本的にはテキストに書いてあったことから類推される事実が多いな。
なるほど、テキストを暗記するだけじゃあなくって、その意味も理解してないと解けない問題だっていうことか。
うーん、こういう知的好奇心が刺激されるテストっていいねぇ♪)
(す、すごい、これも満点にゃ……
銀河中の英才が集まる銀河連盟大学付属中学の入試問題にゃのに……)
「そ、それでは今日から中等部のテキストに移りますにゃ」
(ほほー、遂に素粒子論が出て来たかー。
あー、これ地球の科学者たちがまだ到達してない知見も山ほどあるじゃん!
お、量子力学に加えて量子色力学まであんのか!
それも地球の物理学の遥か先を行ってるわ。
しかも無茶苦茶わかりやすいし。
はは、このテキスト、地球の物理学者たちに見せたら腰抜かすな……
天文学も圧倒的に地球の遥か先を行ってるな。
まあ遠距離観測じゃあなくって、実際に間近まで行って観測出来るからだろうけど。
ほー、特に超新星爆発については相当に詳しいわ。
まあそうか、銀河では最悪の自然災害だもんな)
超新星爆発:
宇宙を構成する元素の内、90%を水素が占めているという。
この水素その他の物質がお互いの重力で集まって星を形成するが、質量が地球の属する太陽系太陽の約半分を超えると、中心部の超高温超高圧により水素核融合反応が惹起されて恒星となり、この核融合反応による輻射圧と重力が均衡することによって恒星は安定期に入る。
そして水素が核融合して出来たヘリウムもまた超高温超高圧化で核融合を起こし始め、その結果形成された炭素も同じく核融合反応を起こし始める。
次は酸素、その次は珪素などが核融合していき最終的に鉄に至るのだが、鉄は極めて安定した元素であるために、もはや核融合は起こせなくなる。
このとき、恒星の質量が十分に大きいと(太陽系太陽の約8倍以上)、恒星中心部に鉄が溜まって輻射圧が失われた段階で、恒星自身の重力による急激な収縮が起きるとされている。
この収縮速度は光速の5%から50%にも達するという。
この周辺部の物質が恒星中心で衝突する衝撃波により、恒星はそのほとんどの構成物質を吹き飛ばす大爆発を起こすと同時に、その質量を一部エネルギーに変えて超高エネルギーエックス線やガンマ線を放出するのである。
(でも、ビッグバンの時点からしばらくは、宇宙の元素は恒星内のs過程で作られる鉄までの26種類しか無かったからなぁ。
鉄より原子量の多い元素は全て超新星爆発の超高温超高圧の中のr過程で作られたもんだし。
銅だの銀だの金だのも全部超新星爆発のお蔭で出来たんだしな。
まあ、生命にとっては最悪の天体現象だけど、でもそれが無かったら文明の発展も無かったっていうことか……
お、地球の科学者の分類だと超新星爆発の種類は4種類だけど、実際には8種類もあるのか。
それに爆発に至る過程の量子力学的解析まで載ってるじゃないか。
ほう、重層次元探査機による深宇宙探査は、銀河系の周囲100億光年まで終わってるんだ。
すげぇな……
あ、『初期銀河史』は初等部の内容に加えて当時の資料が山ほど出て来るのか。
しっかし100億年もの間資料を残しておけたって、天族たちの技術ってほんっとすげぇなぁ……)