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*** 179 タケルポリスの立場 ***

 


 国王執務室では。


「ひ、ひぃぃぃぃぃ―――っ!」


 国王陛下と10人の王子たちが床の上で頭を抱え、丸い体をさらに丸くしていた。


「な、何が起こっているのだ……」


 そのとき若い近衛兵が執務室に駆け込んで来た。


「も、申し上げます!

 タケルポリス軍の魔法攻撃により、第1大城壁が破られましたっ!」


「な、ななななな、なんだとぉ!

 い、いくらなんでもそのようなことが起きるはずはなかろうっ!

 近衛将軍っ! その方が確認して参れっ!」


「は、はっ!」




 大城壁上では:


「さてムルラスや、あの大筒が微かに向きを変え始めた。

 どうやらタケル城代殿は城門だけでなく、その左右の城壁も広範囲に崩されようとしているようだ。

 我らも少し後退した方がよかろう」


「あ、あの叔父上、叔父上はあのタケルポリスの城代と知己を得ているというのは本当ですか」


「ああそうだが?」


「あの、軍務省としてタケルポリスとの停戦交渉を開始したいのですが、ご仲介願えませんでしょうか……」


「停戦交渉だと?

 降伏の申し入れではないのか?」


「い、いえ、降伏についてはまだ王太后陛下と国王陛下のご了解を頂戴しておりませんので。

 ですので停戦ということに……

 ですが賠償としての金品は相応の物を用意させて頂きますので、タケルポリスには撤退をお願いしたいと考えています」


「ふむ、それは軍務省平民官僚の総意なのだな。

 貴族官僚には伝えたのか」


「貴族官僚は逃げてしまっていて誰もいません。

 そしてこの停戦交渉は軍務省だけでなく宰相府の平民官僚も含む総意です」


「それでは連絡を取ってみようか」


「お、お願いします!

 このままではアテナイは本当に滅んでしまいます!」


(それこそがタケル城代殿の本意なのだがな。

 それに、まさか皆これまでの戦闘で1人も死者が出ていないとは思っていまい)


「わかった、しばし待て」



『タケル城代閣下の秘書官殿、ムルコスでございます。

 タケル閣下に停戦交渉をご依頼したいと思いまして、ご連絡をお願い出来ませんでしょうか』


『お話は聞いていました。

 ただいまタケルさまに連絡を取りますのでその場で少々お待ちください』


 その声と同時に砲撃も一旦止んでいる。


「お、叔父上、今頭の中に聞こえてきた声は……」


「タケル城代閣下の秘書官殿の声だ。

 今タケル閣下に連絡を取って下さっている」


「そ、そんな魔法もあったのですね……」



『お待たせいたしました、タケルさまがお会いになります。

 この場に停戦交渉団の方々を集めてください』


「は、はいっ!」



 揺れも収まった大城壁上にまもなく停戦交渉団が集まった。

 軍司令部参謀本部からはムルコス次官補代理、軍務省からは次官補代理と副官としてムルラス課長代理、宰相府からはやはり次官補代理とその副官である。

 いずれも3大省での平民トップとその副官たちであった。


『秘書官殿、停戦交渉団のメンバーが集まりました』


『了解しました。

 ただいまより皆さまをタケルさまの下へ転移させます』


((( 転移だと? )))


 その場の景色が変わった。


「こ、ここはどこだ……」


「たぶん視察用円盤の上だな」


「視察用円盤とな……」


「その手摺から下を見てみられたら如何か」


「う、うむ……」


 4人は手摺に近づいて行ったが、そこでフリーズした。

 そこは当初魔法師部隊が布陣していた場所の上空100メートルほどだったのである。

 そこからは幅50メートルに渡って破壊された第3小城壁も良く見えた。

 遠方にはやはり破壊された第2中城壁と、幅200メートルに渡って平らにされてしまった貴族街や官庁街が見え、その先には遥か遠くに大穴の開いた第1大城壁も微かに見える。

 第1大城壁付近では、オーク隊が砲撃を再開した音も聞こえていた。

 さすがに次官補代理2人は立っていたものの、ムルラス課長代理と宰相府の副官は腰を抜かしている。



 その場にタケルが転移して来た。


「やあ、ムルコス大佐、遅くなって申し訳ない。

 それでこちらが停戦交渉団の皆さんかな」


「タケル城代殿、この度は停戦交渉を受け入れて下さって誠にありがとうございます。

 こちらは宰相府の代表、こちらが軍務省の代表です」


「有力省の平民トップが3人揃ったということか。

 皆さんようこそ、俺がタケルポリスの城代だ、と言いたいところなんだが、済まんなムルコス大佐、俺の地位は偽りだったんだよ」


「と仰られますと?」


「実は俺はタケル王国全体の王なんだ」


「「「 !!! 」」」


「なんと……

 ということは、タケル国王陛下は、国王であるにも関わらず先頭に立って我が軍と戦っておられたというのですな……」


「まあ部下を危険に晒すより俺が先頭に立った方が気が楽だからな。

 おかげで部下たちもついて来てくれるし」


((( 我がアテナイの王とはなんという違いだろうか…… )))



「立ち話もなんだからみんな座ってくれ」


 円盤の中央部に大きな丸テーブルと椅子が出て来ている。


「みんなは紅茶でいいかな」


 テーブルに美しく金銀で装飾されたティーセットが出て来た。

 ポットが浮き、6つのカップに紅茶を注いでいる。


「相変わらずお見事な魔法ですなタケル陛下」


((( こ、こんな魔法もありえるのか…… )))


「タケルと呼んでくれ」


「は」


「そこにある砂糖とミルクは勝手に使ってくれな」


 ムルコス大佐はカップに砂糖とミルクを入れて口をつけ、実に旨そうに茶を飲んでいる。

 他の4人もその真似をして紅茶を飲み、目を丸くしていた。



「それで停戦交渉ということだったな」


「はい」


「それではまずタケルポリスとしての立場を明確にしようか」


「は」


「俺たちは友好と交易を求めてこの地にやって来た。

 その旨はっきりと国王向けの親書に書いておいたがな。

 にもかかわらず、アテナイの国王はこれを『下賤なる下級官吏が使う文字などを記した紙を送り付けて来るとはなんという無礼者だ』と言って無視した。

 さらには第32王子を名乗る者が門前に現れて、門番をしていた俺の言動が気に入らないと言っていきなり魔法攻撃を仕掛けて来ようとした。

 まあ勝手に自爆して吹き飛んでいたが」


 ムルラスが手を挙げた。


「あの、質問よろしいでしょうか」


「どうぞ」


「なぜ親書を見た我が国の国王の反応をご存じなのでしょうか。

 そしてなぜ代表殿御自らが門番など為さっておられたのでしょうか」


 ムルコス大佐が微笑んでいる。


「親書を届けたのも国王の反応を見ていたのも魔法によるものだ」


「!!」


「また、初めて来訪する他国の使者に最初に接するのは門番だ。

 そうした責任ある重要な仕事なら、我が国で最も責任ある俺が為すのは当然だろ?」


「「「 !!! 」」」


((( ほ、本当にこんな国王もいるのか…… )))



「話を続けよう。

 第32王子が自爆したことを知ったアテナイの国王は、理不尽にも激怒して我がタケルポリスへの攻撃を命じた。

 にも拘わらず攻撃を命じた王も命じられた王族軍務大臣も王族国軍総司令官も、翌日にはそれを忘れてしまっていたがな。

 まったく恐るべき阿呆共だ」


((( ………… )))


「だがタケルポリスがアテナイの民との交易を求めて移動し、その宣伝活動の一環としてライトアップをしたところ、ようやく我がポリスの存在を思い出した国王と王族国軍総司令官は、一方的に我が国を攻撃するための布陣を敷いた。

 これに対し、俺は交渉団のつもりで部下15人と共にアテナイ軍と相対する位置についたが、その我々に対してアテナイ軍魔法師部隊は交渉も宣戦布告もすることなく、いきなり攻撃魔法の詠唱を始めた。

 俺はやむを得ず火魔法を相殺するために水魔法を放ったが、魔法師部隊が再度詠唱を始める気配があったために、その水魔法で魔法師隊を排除したのだ。

 また、同時にアテナイ遊撃軍3万が略奪のために勝手にアテナイポリスに侵入して来たために、俺はやむを得ずこの遊撃軍全軍も無力化した」


((( …………………… )))



「加えてアテナイ軍は重装歩兵軍と名乗る軍勢を我がポリスに向けて進発させたために、これ以上はタケルポリスを危険に晒すと判断した俺は、部下たちに反撃を命じたのだ。

 攻撃されない最良の方法は相手の軍を無力化することだからな。

 加えて、我が国と我が国が所属する社会では、奴隷制は固く禁じられている。

 それだけでなく、奴隷を発見した際には可能ならばその奴隷を全て解放することも求められている。

 よって、我がポリスは奴隷兵とその家族計4万を保護して食事を与えることにした。

 彼らに我がポリスで市民として暮らすかアテナイに戻るかを聞いたところ、全員がタケルポリス市民になることを選択したために、彼らには現在読み書き計算と効率的な農法を学ばせようとしているところだ。

 この農法を身につければ、誰でも1反の畑から年間10石の小麦を得られるだろう」


((( 10石も…… )))



「さらに俺は、極めて戦闘志向の強いアテナイ指導層をこのまま放置すればこの地に蔓延る略奪戦争を無くすことは出来ないと考え、このアテナイそのものも無力化することにした。

 なにしろ俺がこの星に派遣されたのは、俺の属する社会からこの星の戦乱を無くせという命を受けたからだからな」





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