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*** 177 停戦交渉 ***

 


「タケルさま、大通り沿いのヒューマノイド避難終了しました」


「自走40ミリ機関砲、30門用意。

 2列縦隊で配置につけ。

 目標は大通り左右の建物群。

 建物破壊後、AI隊は順次瓦礫撤去を始めよ」


『はい』

『『『 はい! 』』』


 その場に20トンの鋼鉄板に乗った機関砲が現れた。

 タケルはその先頭の砲に乗り込んでガンナーを務める。

 後の29門の砲にはオーク隊が乗り込んで行ったが、そのうちの1門にはAIのアバターが乗り込んでいた。

 AI娘たちがタケルとオーキーに実射に参加させて欲しいと懇願した故である。

 そのアバターには10万人のAIが接続されており、その発射感覚も記録されるため、休暇中のAI娘たちがあとで皆体験出来ることになっていた。



「機関砲部隊、目標大通り沿いの建物群!

 発砲しつつ前進開始っ!」


「「「 おおおおお―――っ! 」」」

「はぁーい♪」


 ずどどどどどどどどどどどどどどどどど……

 どがんどがんどがんどがんどがーん……


「きゃぁぁぁ―――っ♪」


 自走砲の隊列が大通りの左右にある建物を粉砕しながら前進を始めた。

 第2城壁に近い建物は主に商会本部であり、第1城壁に近づくにつれて下級貴族邸、各省庁本部、上級貴族邸と移っていく。



「た、建物が粉砕されていく……」


「な、なんという威力の魔法だ……」


「こ、このままでは、わ、わしの邸まで……

 ええい、その方らっ!

 直ちにあの蛮族共を停止させて、い、いや全滅させて来いっ!」


「小将軍閣下、あなたさま配下の部隊はどこにいるのですか?」


「し、知るかそんなもの!」


「ふむ、やはりあなたさまは敵前指揮放棄で死刑ですな」


「!!!!!」


「どうせ死刑になる方の命令など誰も聞きませんよ?」


「あうぅぅぅぅぅ―――っ!」




 タケルポリスを視察したあの参謀本部次官補代理であるムルコス大佐も第1城壁上にいた。


(ははは、さすがはタケル城代殿だ。

 あの略奪軍を壊滅させた上に、こうも易々と城門を突破して来るとは。

 それにしても、城門にせよ城壁にせよ建物にせよ、あのお方様ならば転移の魔法で全て排除出来るものを……

 ああそうか、こうして破壊をまき散らすことでアテナイ支配層の心を折っているのだな。

 略奪軍を全滅させられ、自慢の城門も城壁も粉々にされれば、王族貴族のプライドも粉々になるであろうの……)




 そのころ後宮では。


「なんという喧しさじゃ!

 まだ蛮族共は殲滅出来んのか!

 ええい女官長っ!」


「はい!」


「王宮に出向き、国王に我が命を伝えよ!

 身の程知らずにもこのアテナイに刃向かった蛮族共を滅ぼし、この騒音を止めろと!

 さもなくば国王交代の上、平民兵に落として敵に突撃させるとな!」


「畏まりました!」


 もちろん彼女にとって最も重要なのは自分の権威と安寧であり、我が子に対する愛情などは微塵も持っていなかった。



 また、この女官長は王太后陛下の長女であり、現国王の姉でもある。

 つまりこのアテナイポリスの第2位権力者でもあった。


 女官長は国王執務室に出向いた。

 扉の周囲を固めている近衛兵は、女官長の顔を見て直ちに扉を開けている。

 因みにこの女官長は、生まれてこの方自分の手で扉を開けたことは一度も無い。



 部屋の中には王太子以下第10王子までが蒼白な顔をして座っていた。


「国王はどこですか」


 女官長は敬称もつけずに国王を呼んだ。

 王子たちに代わって近衛兵が応える。


「ただいま私室にいらっしゃいます」


「王太后さまからのご命令を伝えます。

 ここに連れて来なさい」



 国王は先ほどまで王宮屋上におり、第2城門が破壊されるのを目の当たりにしていた。

 さらに破壊された城門をくぐって巨大な筒が現れるのも見ていたのである。

 そうして半ば泣きながら私室に戻り、巨大なベッドの上で耳に指を突っ込んで丸くなっていたのであった。


「陛下、女官長殿がおみえです。

 王太后陛下のご命令をお伝えくださるそうですので至急執務室にお戻りください」


「ひぃっ!」



 間もなく近衛兵に両脇を抱えられた国王陛下が執務室に入って来た。

 両足が少し床から浮いている。


 女官長は国王をひと睨みし、座ったまま声を出した。


「国王に王太后陛下からのご命令を伝えます。

『身の程知らずにもこのアテナイポリスに侵攻して来た蛮族を直ちに滅ぼし、この騒音を止めさせよ! さもなければ、国王を交代させ……』」


「よ、喜んでっ!」


 王太后陛下のご命令伝達を途中で遮られた女官長は国王を睨みつけた。


「ひっ」


「『国王を交代させた上で平民兵に落とし、蛮族に向かって突撃させる』と仰せです」


「ひぃぃぃ―――っ!」


「以上、確かにお伝えしましたよ」



 女官長が退出すると国王は王太子に向かって吼えた。

 もちろん国王は目上の者にはあくまでも従順であり、目下に対しては限りなく高圧的だった。


「た、直ちに蛮族を滅ぼしてあの騒音を止めさせろ!

 さもなければお前も平民兵に落として蛮族に突撃させるぞ!」


「ひぃっ!

 さ、宰相っ!

 な、なんとかしろっ!

 さもなければお前も平民兵に落として蛮族に突撃させるぞ!」


「ひぃっ!

 宰相府次官っ!

 な、なんとかしろっ!

 さもなければお前も平民兵に落として蛮族に突撃させるぞ!」


「ひぃっ!

 宰相府次官補っ!

 な、なんとかしろっ!

 さもなければお前も平民兵に落として蛮族に突撃させるぞ!」


「ひぃっ!

 宰相府次官補代理っ!

 な、なんとかしろっ!

 さもなければお前も蛮族に突撃させるぞ!」



『なんとかしろ!』

 それは無能な為政者や経営者の常套句。



 宰相府次官補代理は周囲を見渡した。

 その場には自分より下位の者は1人もいない。

 というよりも彼自身が平民の文官トップであった。

 この場には単に宰相府次官の随行員として控えているに過ぎなかったのである。

(文字を読んだり手紙を書いたりする必要が出来た時のため)


「直ちに宰相府に戻り、軍務省とも協議の上前向きな対策を立てたいと思惟いたします」


 そうして、宰相府次官補代理は部屋から退出していったのである。



 次官補代理は宰相府に戻ると、直ちに王城内宰相府に平民の部下たちを集められた。

 軍務省にも使いを送り、平民事務官たちにも集合を要請している。

 集合を待つ間にもタケルポリス軍が街を破壊している音は大きく聞こえて来ていた。


「早速だが、王太后さまから勅命が下った。

 直ちにあのタケルポリス軍を殲滅し、この騒音を止めさせろというものだ。

 さもなければ上位王族を全員平民兵に落としてタケルポリス軍に突撃させるそうだ」


「無理ですよ次官補代理殿。

 我がアテナイ略奪軍を全滅させたあのタケルポリス軍をどうやって滅ぼすっていうんですか」


 彼らは実力派実務官僚だけあって、美辞麗句を弄ぶことなくあくまで実務的だった。 


「だいたいあの強固な第2城門を数分で破壊した連中ですよ。

 軍も壊滅した今対抗する手段なんかありませんよ」


 多くの官僚が頷いている。



 軍務省の若手官僚が手を挙げた。


「あのー、よろしいでしょうか」


「なんだムルラス課長代理」


「王太后さまからのご命令は、タケルポリス軍を滅ぼせというものと、この騒音を止めさせろというものなのですよね。

 それはひょっとしたら騒音を止めるためにタケルポリス軍を滅ぼせと仰っているのではないでしょうか。

 それならば、もちろんタケルポリス軍を滅ぼすのは無理でも、騒音を止めさせる、つまり攻撃を中止させることは可能ではないですか?」


「……続けろ……」


「要は停戦交渉をすればいいんですよ。

 いくらタケルポリス軍と雖もあの第1大城壁を抜くのは大変でしょう。

 ですから手こずっている間に停戦交渉団を派遣するんです」



 第1大城壁城門:

 それは代々の国王の内偏執狂の王が魔改造を繰り返して出来上がった大城門である。

『城壁や城の最大の弱点は城門である』と聞いた多くの国王が、大量の黒樫と青銅を集め、次々と城門扉を厚くしていったのであった。

 第1大城壁そのものの厚さは10メートル、高さは12メートルあるが、元々の城門扉そのものの厚さは3メートルである。

 それが王命による補強工事を繰り返して来た結果、現在では厚さが12メートルにもなっていた。

 つまり壁よりも厚い門扉になってしまっていたのである。

 莫迦の極み、阿呆の象徴のような城門であった……



 もちろんそうなればもはや門扉は開けることも出来ない。

 仕方なく城門の出入りには1メートル×2メートルほどの小さな通用口が使われていた。

 噂によれば、王族のうちの何人かは、その膨らみきった肥満体のために城壁外に出ることが出来なくなっているそうである。

 まるで井伏鱒二の山椒魚のような王族であった……。




 軍務省次官補代理は若手官僚に問いかけた。


「だがタケルポリスが停戦交渉など受け入れるか?」


「それはやってみなければわからないでしょう。

 最初に攻撃を仕掛けたのは王族大隊長閣下であり、アテナイポリス略奪軍魔法師部隊ですが、タケルポリス側もあのような巨大な城を近隣に持って来たという負い目があるはずです」


「ふむ。

 それで停戦条件は?」


「参謀本部の知人に聞いたところによりますと、彼らはまず国王陛下に書簡を送って来たそうなのです。

 その書簡の内容を知る知人によれば、交易のために友好を求めると書いてあったそうです。

 それがアテナイからの先制攻撃によって戦端が開かれてしまったのですから、交渉の内容によっては停戦に応じてくれる可能性があると思われます」


「向こうが戦利品を求めて来たらどうする」


「払えるだけ払ってやりましょうか」


「どこからそのようなカネを調達するのだ」


「我が軍務省には半期に一度略奪軍や守備軍の兵に支払う給金があります。

 ですがもはや彼らは壊滅してしまっていますので給金を払う必要もありません。

 それで足りなければ王宮府にも宰相府にも機密費を出させましょう。

 陛下が平民軍人に落とされるかもしれないということであれば、王宮府も出さざるを得ないでしょうから」


「ただ、それではタケルポリス軍を殲滅せよという命令は果たしたことにはならんな」


「結果的にこの戦闘行為を止めさせれば、あとは『殲滅は出来なかったものの撃退した』と報告すればいいのではないでしょうか」


「なるほど。

 殲滅か撃退か停戦かを区別出来る王族はひとりもおらんか……

 王族は自分で考える頭は持たず、全ては我ら平民官僚の報告を鵜呑みにするしか能が無いからの」


「はい」


「それでその停戦交渉には誰が行くか……」


「あの、言い出したのはわたしですのでわたしが行きます。

 でも上手くいったら昇格と昇給をお願いしますね」


「ははは、わたしの権限で出来る限りのことはしよう」


「ありがとうございます。

 その際に、参謀本部大佐を務める伯父にタケルポリス軍との仲介を依頼してもよろしいでしょうか」


「それはあのムルコス大佐殿か」


「はい」


「聞けばかの大佐殿は部下を率いてタケルポリスに出向かれたそうだな。

 そこでタケルポリスの城代の知己を得たとか」


「はい、その際にわたしも大佐殿の妹である母も、大佐殿からタケルポリスの土産を頂戴しました。

 見たことも無いほどの素晴らしい品々でした」


「そうか、あの御仁ならば仲介を受けてくれるかもしらんな。

 わかった許可しよう」


「ありがとうございます」





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