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*** 172 質疑応答 ***

 


 ニャイチローとオークたちが模擬剣を手にすると、その差は更に圧倒的になった。

 アテナイの軍人たちには両者の剣捌きは全く見えず、かろうじて歩法が朧げに見えるだけだったのだが、ここでもオークたちはあるいは剣を飛ばされ、あるいは打倒されてバタバタと倒れていくのである。

 コロシアム中央には100人ほどのオークたちが倒れていた。



 その場にタケルが現れて手を挙げると、辺りが白いエフェクトに包まれた。

 そうすると倒れたオークたちが首を振りながらむくむくと起き上がり始めたのである。


(ま、まさか回復の魔法か!)

(そんなもの伝説でしか聞いたことはないぞ!)



 コロシアム中央にニャジローが現れた。

 そのニャジローから50メートルほど離れた場所から100個ほどの岩が飛び出し、空中を飛び回り始めている。

 ニャジローはそれを1秒ほど見つめた後に、自身も飛び回りながらすっと手を挙げた。

(もちろんあの1秒間ですべてのターゲットにロックオンの魔法をかけていたのである)


 ずどどどどどどどどどど……


 ニャジローの前方空間から無数の火球が飛び出し、空中を飛び回る岩を粉砕していく。

 どうやら単なる火魔法ではなく、爆裂火魔法を使っているようだ。

 あの火球1つにでも耐えられる鎧などは存在しないだろう。


 軍人たちは完全に声を失っていた。

 なんという魔法の速射能力と威力であろうことか。

 自分たちが最強と思い込んで来た王族魔法は、1発の発動に20分以上の時間がかかる上に、単に相手に火をぶつけて燃やすだけである。


 この少年兵が空を飛びながら襲い掛かって来たら……

 重武装の兵1個大隊があっという間に全滅させられてしまうことだろう。



 最後はタケルとオーキーの模範試合であった。

 これも軍人たちには両者の動きは全く見えなかった。

 ただただ拳や脚が肉体を打つ音が聞こえて来るのみである。

 観客席の職員たちからは大歓声が沸き起こっていたが、完全に圧倒されたアテナイの軍人たちはただ口を開けて見ていることしか出来なかったのであった……




「王孫殿下はお強いのですね……」


「まあ部下たちに戦闘訓練を課すからには自分も戦えないとな」


「そ、そうですか……」


(あの畑や岩を当てて来る攻撃に対抗するのは無理としても、せめて接近戦ならばなんとかなるかと思っていたが……

 これでは王孫殿とあの少年兵2人だけで我が軍は全滅させられるかもしらん……)


 うん、それに気付けるだけキミも大したもんだよ。

 実際にはそれに加えて恐怖のAI娘軍団もいるしね♪

 あの8歳ぐらいに見えるアバターの女の子たちに蹂躙されたら、キミタチ泣いちゃうかもだよ。




 エキジビションに圧倒されていた軍人たちは、そのままホテルの会議室に案内された。


「さてアテナイ軍人諸君、これから我がタケルポリスの戦略を説明させて貰う。

 諸君もご存じの通りこのポリスは1日に1キロのペースで移動し、あと5日ほどでアテナイポリスの南方300メートルほどの位置に到着するだろう。

 その際に、ある示威行動が行われるためにアテナイの王族もほぼ全員がこのタケルポリスの存在に気づくことと思われる。

 例えその日のうちに忘れるとしても、示威行動は毎晩繰り返されるために、王族と雖も相当なプレッシャーを受ける事だろう」


 何本かの手が上がった。


「どうぞ」


「その示威行動とはどのようなものなのでしょうか」


「それはその時を楽しみにしていてくれ。

 もちろん誰も傷つかず危険も無い」


「…………」



「アテナイの王は既にタケルポリスを滅ぼせという勅命を発しているだろう。

 よって、第11王子や第12王子などの軍人王子も攻撃命令を発せざるを得なくなると思う。

 その際に諸君には依頼したいことがある。

 それは、王族命令に従順に従って我が軍を攻撃して貰いたいということである。

 けっしてサボタージュや反抗などは行わないでくれ」


「「「 ………… 」」」



「もちろん我々は諸君らの攻撃を叩きのめすだろう。

 その際、多少は痛い思いをするかもしれんが、我らは諸君やその部下たちを殺さないと約束しよう。

 そして、タケルポリス軍はそのままアテナイに侵攻し、外郭小城壁、第2中城壁、第1大城壁の全てを破壊する」


「「「 !!!! 」」」


「何を驚いているんだ?

 それが貴殿らが描いていた戦争抑止の方策だろうに」


((( ………… )))


((( やはりすべて見通されていたのか…… )))



「場合によっては貴族街も王城も更地にするかもしれん。

 そうしてアテナイを降伏させた後は、諸君らが希望すればタケルポリスへの避難や移住を受け入れる。

 タケルポリスに移住した場合には、まず教場にて読み書き計算を学習し、その後は新たな農法を学んでもらうことになる。

 その際には、日々3回の食事は保証され、僅かながら日当も支払われることになるだろう」


 微かなどよめきが上がった。



「ただ、その際にひとつ留意して欲しいことがある。

 我がタケルポリスでは万人が平等である。

 つまり王族も貴族も平民も軍人も奴隷ですらも平等に扱われるということだ。

 もはや王族と雖も暴力による脅迫で民を従わせることは出来ない。

 つまり、タケルポリスでは罰則を伴う命令は出来ないということだ」


 また手が上がった。


「どうぞ」


「そのような統治形態で果たしてポリス運営が成り立つものでしょうか。

 やはり統治者が命令してそれを民に従わせる強制力が必要なのではないでしょうか」


「貴君はこのタケルポリスの繁栄が理解出来ないのか?

 まさか王族貴族軍人が命令して民を強制的に従わせているアテナイポリスは、タケルポリスよりも発展しているとでも思うのか?」


「ぐ……」


「もし本当にそう思っているのなら、貴君は観察力や思考力が全く無いのだろうな」


「ぐぐぐぐ……」



「もちろん諸君らはそのままアテナイポリスに残ることも出来る。

 ただし、その場合でも既にアテナイはタケルポリスに降伏しているために、法はタケルポリスの法を導入する。

 すなわち、『他人への暴力は禁止』『暴力を匂わす脅迫で他人を従わせようという行為も禁止』『そうした暴力や脅迫を命じることも禁止』である。

 これに反した場合には転移の魔法によって牢に入れられることになるだろう」


「「「 ………… 」」」


「もちろん降伏後にはアテナイ軍も解体する。

 その後、農学を学んだものから順次アテナイ周辺の地の開墾を始めてもらおう。

 そして、その畑で十分な収穫が得られるまでは、やはり日々の食事と僅かながら給金を保証しよう」


 また手が上がった。


「その間に他のポリスが攻め込んで来たらどうなるのでしょうか」


「この星には5つの大陸に約1万のポリスがあるが、現在その全てのポリス近郊に我がタケルポリスの支城が移動しつつある」


「「「 !!!!!!!! 」」」


「よってどのポリスも他ポリスに略奪軍を送ることは不能になるはずだ。

 万が一それでも略奪軍を出すような阿呆なポリスがあったとしても、タケルポリス軍がこれを粉砕するだろう」


「「「 ………… 」」」


「俺の目的は、この星から戦を無くし、諸君らの食料生産を3年以内に倍増、10年以内に10倍増にすることだ。

 そのために各ポリスの王族貴族の地位を剥奪して平民に落とす一方で、諸君らも農民として努力して貰いたい。

 我がタケルポリスによって戦や暴力が根絶される以上、もはや軍人という職は不要になるのである。

 どうかこのことをご理解いただきたい」


「「「 …………………… 」」」



「それではこれより諸君には風呂に入って貰う。

 その後は宿舎に案内するのでいったん休息し、休息後にはこのホテルにて晩餐会を行うので是非参加してくれ。

 何か質問があれば頭の中で強く念じてくれれば俺の秘書が返事をする。

 それでは解散しよう」




「な、なんだこの『ふろ』というものは……」

「うおっ! これは湯が出ているのか!」


(体を濡らした後はそのタオルに石鹸をつけて体を洗ってくださいね。

 そちらのボトルに入っているのは頭を洗う石鹸です。

 石鹸が目に入らないように気をつけてください。

 体を洗い終わったら、あちらの湯船に浸かって寛いでください。

 オークさんたちはみなさんにお手本を見せてあげてください)


「ま、まさか湯の中に入るとは……」

「なんという贅沢なんだ」

「あ゛あ゛あ゛あ゛」

「湯に浸かるのがこれほど心地よいとは……」

「なあ、オークさんとやら、あんたらはいつもこの風呂に入っているのか?」

「もちろんだ。

 体を清潔に保てば病に罹らなくなるし、疲れも取れるからな」

「そ、そうか……」



 湯上りに冷たいビールを振舞われた軍人たちはさらに感激していた。


 そして……

 全員が個室に案内された後、今回の視察団中最高位の軍人である大佐がタケルに面談を申し入れて来たのである。


「面談に応じて下さいまして誠にありがとうございます城代殿」


「まあそう畏まらずに楽にしてくれ、ムルコス大佐」


「は、畏れ入ります。

 それで、申し訳ないのですが、本官はある懸念を抱いておりまして……」


「はは、今回視察に来た兵たちが貴族や王族に俺の戦略を密告するのではないかということかな」


「やはり察しておられましたか……」


「まああれだけの人数が居れば、自分の出世やカネのために密告する者は必ず出てくるだろうからな。

 特にあの示威行動の内容を聞いて来た者や統治者とその命令は必要なのではないかと聞いて来た者らは間違いなくすぐに密告に走るだろうな。

 ヒトは自分の目で見たことよりも、自分が信じたいものを信じるものだ。

 たぶんあいつらは、4000年もの歴史を持つ大陸北部最強のアテナイが敗北するなど有り得ないと未だに思っているのだろう」


「はい……」


「だがまあ安心してくれ。

 その程度のことで俺の行動が妨げられることはない。

 俺が敢えて全員の前で戦略を語ったのは、なるべく早く密告者を炙り出したかったからだ」


「なんと……」


「それで、参謀本部の営倉を少し空けておいてくれるか」


「畏まりました」


「そうだな、せっかくこうして来てくれたんだからもう少し詳しく説明しておこうか」


「ありがとうございます……」





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