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*** 171 斥候隊報告会 ***

 


 100メートル四方の大きさを持つプランターが100個、宙に浮き始めた。

 高度100メートルほどまで上昇すると、一列になって城の周囲をゆっくり飛び始めている。


 尚、先頭にはセルジュくんとミサリアちゃんの巨大なホログラムが出現していた。

 もちろん最近近寄ってくれなくなった子供たちのご機嫌を取ろうとするパパの涙ぐましい努力である……


 救済部門職員たちの歓声がさらに大きくなった。

 大勢の職員がプランターの後ろについて同じように飛び始めている。


 そのうちに100個のプランターが上下に動きながら飛び始めた。

 それはまるで巨大な龍がうねりながら飛んでいるようにも見えたのである。

 もちろん職員たちもそれに合わせて上下し、大歓声を上げながら飛んでいた。



 タケルが偵察隊員たちを見やると、全員の目と口がかっ広げられている。


(こ、ここまで正確な動きの下で飛ばせるのか……)

(あの畑が数枚あれば、我がポリス全軍を全滅させるのも容易いだろう……)

(これでは王城の国王執務室や上級貴族会議の場にこの畑を突撃させることも可能ではないか)

(あのように大勢の配下たちも見事に飛んでいる……)

(飛行魔法などとはおとぎ話の中にしかないものと思っていた……)



 100枚の畑は城を1周するとまた見事に100ヘクタールの1枚の畑になり、城の隣に着地した。

 またもや職員たちの大歓声と大きな拍手が沸き起こっている。




 顔面蒼白になっていた偵察隊員も、しばらく経ってようやく口が利けるようになったようだ。



「ほ、本日は城内を見学させてくださいまして、真にありがとうございました……」


「これより総司令部に帰隊して報告を行いたいと思います……」


「お疲れさん。

 そうそう、もしも俺に何か伝えたいことがあったら、頭の中で強くそう念じてくれ。

 俺の秘書が返事をするだろう」


「重ね重ねありがとうございます……」



 彼らが城外に出ると、そこでは武器を預かっていた若手将校が腰を抜かして座り込んでいた。

 まあ、何の予告も無しにあの飛行畑の行列を見たならば仕方の無いことだろう……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 偵察隊がアテナイポリスに帰還したのは日も傾き始めた頃だった。


「ムルコス大佐殿、あの巨大な城の内部に入り、城代殿に案内してもらって話をすることも出来ました」


「よくやった、それでは簡単な報告をしてくれ。

 今日はもう暗くなるので、幕僚全員を集めての詳細な報告は明日朝から受けよう」


 彼らは灯り用の蝋燭やランプは持っていたが、いずれも貴重品であり、特に戦時でもない今は節約を旨としていた。


「畏まりました」




「ということで、タケルポリスは非常に友好的でした。

 ところで、これらはかの城内にある商業街で買い求めたものなのですが……」


「これはなんだ?」


「こちらは隊への土産です。

 これは『ぼーるぺん』と『のおと』という筆記用具です」


「うむう、なんと書きやすいものであることか……」


「また、こちらは遠征病と貴族病の特効薬だということでした」


「そのようなものまで売っていたのか……」


「あの、実はこちらの品は家族のために買い求めたものでして……」


「これは服と装飾品か。

 こちらは喰いものか」


「はい、『くっきー』という非常に美味な菓子です。

 この袋の分は幕僚のみなさんとお召し上がりください。

 それであの……

 こちらの家族への土産は持ち帰ってもよろしいでしょうか」


「構わん。

 家族に持ち帰ってやれ」


「ありがとうございます」


「それでこちらは隊に寄贈すると言うのか」


「はい」


「これらは如何ほどしたのか」


「それが、全て非常に安く、全部で銀貨2枚ほどでした」


「この特効薬は?」


「それは4人分の特効薬でして銅貨8枚でした」


「そんなに安いのか……」


「人の命に係わる薬品は極めて安く売る方針だそうです」


「そうか……」


「また、小麦は1斗銅貨10枚、塩は1キロ銅貨4枚で売られております」


「むう、購入に上限はあるのか?」


「いえ、麦も塩もその他の商品も山のような在庫があるので、購入上限は無いそうです」


「隊の予算で少し備蓄を増やしておくか……」


 大佐は従卒を呼び、銀貨2枚を持って来るように言った。


「この調査証拠品の代金は隊の予算から出すこととしよう」


「ありがとうございます」



 その日帰宅した調査隊員たちは、家族に大喜びされた。

 特にシュシュや綺麗なTシャツをもらった奥さんは涙ぐんで喜んでいる。

 おかげでまだ若い彼らは、普段に数倍する熱烈な子作りサービスを受けることが出来たのであった。

 翌朝奥さんは顔を赤らめながら軍服の1番ボタンを嵌め、キスマークを隠してくれたそうだ……




 タケルが天界の自宅に帰ると、広大なリビングでは子供たちが「にゃはははー!」と大喜びしながら飛んでいた。

 もちろん見事なリズムの上下動を繰り返し、上下に生じるGの変化も楽しんでいる。


「パパも一緒に飛ぶにゃ!」


「ママもジョセママも!」


 こうしてタケル一家は5人で上下動を繰り返しながらリビングを飛び回ることになったのである。

(ジョセフィーヌの飛び方は最初かなりぎこちなかったが、子供たちに指導されてすぐに上手になった)

 もう子供たちは大喜びである。


(よかった、また一緒に遊んでくれるようになったか……)



 そのとき「失礼します」と言いながら侍女がリビングのドアを開けた。

 そうして、目を一瞬大きく見開いた後は、「失礼しました」と言ってドアを閉めてしまったのである……

 あの申し訳なさそうな表情はしばらく忘れられないだろう。

 なにが申し訳なかったのかよくわからないが。



 その夜、適度な運動をして軽く興奮していた奥さんたちの子作りは熱烈だった。

 タケルのキンタマのレベルはまた3も上がっていたそうだ……




 翌日の保育園のお散歩の時間。

 300人ほどの幼児たちが「きゃはははー♪」と笑い、上下動しながら一直線に飛んでいた。

 まるで幼児龍である。

 天界保育園周辺の住民は、またも腰を抜かすことになったそうだ……


 子供たちはそのうち宙返りや背面飛行やインメルマンターンまで覚え、鉢巻をつけての集団空中戦も楽しんでいるそうだ。

(鉢巻を取られると負け。

 もちろん強固な防御魔法もかけているために、たとえ正面衝突しても怪我はしない)


 3か月後のお遊戯会ではブルーインパルス並みの演技が見られるかもしれない……



 最高天使閣下を初めとする天界上層部は、こうした幼児たちの魔法能力を見て感銘を受けていた。

 あと20年もすれば高度魔法能力継承候補者が大量に現れていることだろう。

 その次世代を担う魔法能力者たちのリーダーがあのタケルとエリザベートの子供たちとは。

 魔法能力とはやはり遺伝なのか、それとも家庭環境なのだろうか……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 斥候隊が帰隊した翌朝から報告会が始まった。

 参謀本部の会議室にはアテナイ軍の佐官級指揮官とその副官たちが100人ほども集結している。

 その全員が優秀な平民軍人であり、アテナイ軍を実質的に支えている人材であった。


 斥候隊長は部下が書いたメモを見ながら淡々と報告を続けている。

 もちろんその報告内容は詳細に渡った見事なものであり、報告会は時折の質問や休息を挟んでその日の夕刻まで続いた。



 報告が終わるとその場は深い沈黙に包まれ、ややあって、その場の最高位者である参謀次官補代理であるムルコス大佐が口を開いた。


「それで、そのタケルポリスの目的は、この大地から戦を無くすことだというのだな……

 しかもその際に一兵も殺めることなく」


「はい」


((( そうなればもう部下を死なせずに済むようになるのか…… )))


 誰もがそう考えていたが、まだ口には出さなかった。


「それでだ、仮に我がアテナイ軍が全力でタケルポリスに戦を仕掛けたとして、勝てる見込みはあると思うか。

 諸君ら個人の印象でよい」


「絶対に不可能だと思われます」


「あの城代殿のような能力の兵が5人もおり、我が兵を殺害してもよいのであれば、我が軍を簡単に全滅させられることと思います」


「やはりそうか……」


「だが、逆にある程度の攻撃を行って、報復として全ての城壁を破壊してもらった方が良いのかもしらん……

 あの第1大城壁で守られている限り、王族は攻撃命令を出し続けるだろうからの」


「彼のポリスで物品を贖い、それを賠償の貢物と偽って王族に献上して戦を防ぐという案については如何致しましょうか」


「いや、それでは今のアテナイの城壁は残り、王族貴族の支配体制も変わらんし戦も無くならん。

 それになにより、どれだけ兵を失っても、欲に目が眩んだ王族は攻撃命令を出し続けるだろう」


「最善の方法は、一部の王族指揮官に率いられた軍に軽度な攻撃をさせ、報復として城壁を破壊してもらうということだな」


「確か『念話の魔法』で、城代殿と連絡が取れると言っていたの。

 ならば、こちらの意図も予め伝えておけるか……」


「その前に、我らも一度タケルポリスの視察に出向いたら如何でしょうか」


「うむ、そうした方が良かろうの。

 偵察隊長、その旨城代殿に申し入れてみてくれ」


「はっ!」



 タケルはもちろんこの申し出を快諾した。

 それどころか十分な視察と会談を行うために、1泊2日の視察を提案したのである。


 翌日、100名の平民軍幹部と副官たち、5名の元偵察隊員たちは、多くの荷車と輸送兵を伴って出発した。

(全員が懐に銅貨や銀貨の詰まった革袋を携えている。

 輸送兵たちは城門外で野営することになっていた)



 一行はまず大型の円盤に乗って飛び回り、空中から城や畑を視察した。

 もちろん畑ダンスも見せて貰っている。


 その後は10人ほどの救済部門職員の引率の下、商業街の視察、城の最上部にある展望フロア見学、フードコートでの昼食会などが行われた。

(買い物は土産が荷物にならないよう、翌日の最後に行われることになっている)


 軍人たちは、どこに行っても何を見ても目を丸くして驚いていた。

 だが、彼らを最も驚かせたのはコロシアムに移動しての職員たちの鍛錬見学だったのだ。


 まずはオーク族同士の模擬戦が行われたが、鍛え上げられた(とされている)軍人にも彼らの動きがまったく捉えられないのである。

 見たことも無いような大男たちが手足を動かしているのは分かるのだが、ドゴンドゴンと凄まじい音が聞こえて来るだけで、どこをどう殴っているのかはまったくわからなかった。


 その後、オークたち10人の前にニャイチローが登場した。

 誰がどう見てもオークたちはニャイチローより背が50センチ以上高く、また体重は3倍近いだろう。

 そのオークたちが小柄な少年にボコボコにされていくのである。

 10人のオークたちが床に倒れると次の10人が登場するが、その大男たちもみるみる打倒されていく。


(徒手格闘では体の大きい方が絶対に有利だと思っていたが……)

(こ、このようなこともありうるのか……)

(だが武装戦闘ならば……)





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