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*** 169 近親交配の弊害 ***

 


「ところで今の王は第525代国王だそうだが、アテナイポリスの歴史は何年あるんだ?」


「おおよそ4000年前に成立したとされている」


「なんだ、ということは王の平均在位期間はたった7.6年しか無かったっていうことか」


(こ、こやつ、門番のくせにこのような複雑な計算を瞬時に……)


(あ、あとで本当に合っているか確かめよう……)



「なあ、なんで王族がそんなに早死にするのかって、あんたらわかってるのか。

 多分だが10歳まで生きられる王子王女は10人中5人もいないだろう。

 それにみんな体が小さくて、いくら教えても字も覚えられないだろうし」


「そ、それは公には王族という偉大な血筋に生まれ、魔法を行使出来る者の代償と言われている」


「それで巷ではなんと言われているんだ?」


「そ、それは……」


「それはな、異母妹なんかの近親者との婚姻を繰り返して来たからなんだよ。

 俺たちのようなヒューマノイドは近親交配を繰り返すと、必ず子孫に害が出て来るんだ。

 体が小さく虚弱体質になったり成長出来ずにすぐ死んだりするようなことだな」


「「「 !!! 」」」


(ギリシャ神話なんか近親婚のオンパレードだもんな。

 中には実の娘をヨメにした莫迦神までいるし。

 あれは神話というより、当時の支配層の行動だったんだろう)


「「「 ……… 」」」


「アテナイの王族の多くは下顎が前に突き出ているだろ。

 おかげで食事の時に碌に食物を噛めない奴も多いだろうし。

 あれなんかも典型的な近親交配の弊害なんだ」


((( そ、そうだったんだ…… )))


(はは、いちばん若い兵が羊皮紙と羽ペンを取り出してメモを取り始めたか。

 さすがに偵察兵は優秀だな。

 マリアーヌ、ボールペンとノートを出してくれ)


『はい』


「メモを取るならこれを使ってみろ」


「な、なんだこれは」


「植物から作った紙とボールペンというものだ。

 羊皮紙と羽ペンより遥かに書きやすいぞ。

 そのボールペンは中にインクが詰まっているから、いちいちインク壺に浸ける必要は無いからな」


「ほ、本当だ……

 なんて書きやすいんだ……」



「話を元に戻そう。

 自分の話で恐縮だが、俺はムシャラフ王朝の王子とミランダ王朝の王女との間に出来た子だ。

 つまり両王朝の王孫だ」


「「「 !!! 」」」


「お、王孫殿下が門番などをされていたというのですか!」


「ん?

 なんで王孫が門番してちゃいけないんだ?」


「そ、それは……」


「そのような下賤の仕事は末端兵に任せておけばよろしいのでは……」


「門番は城を訪れる人物と最初に接触する重要な仕事だろうに。

 それに俺はこの城を任された城代でもあるからな」


「「「 !!!!! 」」」


「重要な仕事を責任ある立場の者が為すのは当然なんじゃないか?」


((( こ、こんな王族もいるのか…… )))


「で、ですが些か危険ではないかと……」


「俺は自分に最高強度の防御魔法をかけている。

 だから剣で切りつけられてもなんともないし、あんな王子の貧弱な火魔法なんかじゃ熱いとも思わないだろう。

 どうやらアテナイポリスの王族や民はそんな初歩的な魔法も使えないようだな」


「「「 !!!!! 」」」



「ムシャラフ王朝の歴史は約8000万年あるし、今のムシャラフ王は第81万5320代国王だから、平均在位期間は100年近いことになる。

 ミランダ王朝も6000万年の歴史があってミランダ王は第60万1025代国王だから、やっぱり平均在位期間は100年近い。

 まあどちらの国も、王は200歳になると引退して100歳以下の王子に譲位しているんだが」


「あ、あの、すみません。

『はっせんまんねん』とは何年のことでしょうか……」


(そうか、このレベルの文明だと桁数の多い数字はニガ手なのか)


「800年の100倍が8万年だ、その1000倍が8000万年だな」


「そ、そんなに……」


「それに200歳で引退されて譲位されると仰られましたが、寿命は何年ほどなのでしょうか……」


「およそ300歳だ」


「「「 !!!!! 」」」


(はは、若いのが必死でメモってるわ)



「それでだ。

 両王朝とも、王子王女が婚姻する際には4親等以内の者との婚姻は許可されないんだよ。

 子供が虚弱体質になったりするから。

 異母妹との婚姻などもってのほかだ。

 俺などは両王朝の王子と王女の子だから、両親の縁戚関係は全く無いからな。

 そうして両親の血縁関係が薄いほど、生まれた子は頑健で長寿になるんだよ」


「で、ですがそれでは祖先から受け継ぐ魔法能力が徐々に薄まってしまうのでは」


「そ、それに、領地や財産を婚姻相手の一族に奪われてしまうのでは」


「それは間違いだ。

 魔法能力とは、遺伝によって受け継ぐものではない。

 本人の努力によって得るものだからな。

 王族魔法が強い魔法とされているのは、王族が王族であるために幼いころから毎日詠唱や魔法の発動を繰り返し練習させられて来たからだ。

 あんたらだって毎晩気絶寸前まで魔法を使っていたら、あっと言う間に王族の魔法能力なんか越えられるぞ」


「そ、そうだったのか……」


「それにだ、別に王家の財産なんかどうでもいいだろう。

 親や祖先からの相続に頼るんじゃあなくって、財産は自分で稼げばいいんだから。

 俺は自分で開発した魔法でこんな城なんか何百万でも作れるほどの財産を得ているぞ。

 王族財産の分配は断っているしな」


「な、なんと……」



「あんたらアテナイの民の平均寿命は何年だ」


「恥ずかしながら、誰もそのようなことは調べたことが無いのでわかりませぬ……」


「俺たちが調査したところによると平均寿命は38年ほどだな。

 俺の母国ムシャラフやミランダでは寿命は300歳、アテナイポリスは38歳。

 俺もあんたらもヒト族なんだから見かけ上そう大きな違いは無いだろう。

 この寿命の違いは何だと思う」


「「「 ………… 」」」


「もちろんいろいろな理由があるんだけどな。

 例えば寿命を延ばす魔法や技術とか。

 だが大きな理由はムシャラフとミランダには病気や戦で死ぬ者がいないということなんだ」


「あの、その2つの国には病気も戦もないのですか」


「そうだ」


「で、でも周辺国が攻めて来たりは……」


「ムシャラフもミランダも惑星上に国は1つしか無い。

 つまり攻めて来る国などはどこにも無いんだ」


「すみません、『わくせい』とはなんでしょうか……」


「昼に大地を照らす太陽は丸いだろ。

 夜空にかかる月も丸いし。

 だから今俺たちがいるこの星も丸くて太陽の周りを廻っているんだよ。

 あの夜空に輝いている星は全て太陽で、その周りを廻っている星も無数にあるんだ。

 そのような星を惑星という」


「そうか、大地が丸いからアテナイから離れるほど城壁の下部は見えなくなっていたのか……」


「大地が丸かったりしたら、端にいる者が落ちてしまうのではないですか?」


「落ちない理由は今度ゆっくり説明しよう」


「は、はい」


「そうした太陽や惑星が集まって銀河系という集団を作っている。

 そうした星の集団の中で俺たちのようなヒューマノイドが暮らしている星は1億2000万もあるんだ。

 ああ、1億って言うのは100万の100倍だ」


((( そんなにあるのか…… )))



「惑星ムシャラフにも惑星ミランダにも国は1つしか無い。

 しかも王族はいるが統治は民が選んだ文官が行っているからな。

 従って反乱を起こして王族になったとしても、惑星を支配することは出来ないんだ。

 まあ、王族がお飾りで、実際の統治は文民が行っているという点ではアテナイも似ているか」


((( ………… )))


「俺の家はあの夜空の星の一つにあって、家族もそこに住んでいる」


「と、ということは王孫殿下は星を渡って来られたと……」


「そういう魔法もあるんだ。

 実際にはその星を渡る魔法によって、俺は毎日自宅に帰って家族とメシを喰っている。

 もちろん病気も戦も無い実に平和な世界だ」


((( ……………… )))



「この惑星ダタレルには5つの大陸があって、ここアテナイがあるのは第1大陸だ。

 そうして、この惑星には全部で1万近いポリスがあって、秋の収穫期から冬の間にはその全てのポリス間で食物の略奪のための戦争が5万件近くも行われている。

 おかげで人口の5%が毎年死んでいるだろう。

 それも奴隷兵と平民兵中心に、直接戦で死なずとも戦の傷が原因で死ぬとかだ」


「すみません、『ごぱーせんと』というのはどういう意味でしょうか……」


「100人中5人の割合だということだ。

 アテナイポリスには30万の人口があるが、毎年1万5000人も死んでいるんだよ。

 1年では100人中5人しか死んでいないが、これを14年も繰り返すと100人中半数が死んでいることになる。

 おかげで病気でも戦でも死なずに寿命まで生きられる者の割合が100人につき1人以下なんだ。

 これはさっき言った1億2000万世界でも最悪の割合なんだぞ」


「「「 !!! 」」」


「俺は俺の属する組織に命じられて、この惑星から戦を無くすために派遣されたんだ」


((( ……………… )))



「それでだ。

 もしもあんたらが俺の立場だったとして、大勢の部下と巨額の資金と膨大な食料と強力な魔法能力を持っていたら、この惑星から戦を無くすにはどうしたらいいと思う?

 俺の立場になって真剣に考えてみてくれ」


((( ………………………… )))


「け、見当もつきませぬ……」


「まあ一番手っ取り早いのは、俺が全てのポリスを滅ぼして統一国家を造ることだな。

 そんなことは1日もあれば出来るし」


「「「 !!!!! 」」」


(はは、メモを取ってる奴の手が震えてるよ)



「だが、戦を無くすために兵を殺していたのでは本末転倒だ。

 だから俺は兵を殺さぬ手段でこの星から戦を無くさねばならない。

 次に簡単な方法は全てのポリスの王族貴族と略奪軍と遊撃軍を転移の魔法で全員牢に入れてしまうことだろう」


((( ………………………… )))


「ただ、残念ながら俺の属する組織では、まだ戦を始めていない者、つまり誰かを攻撃しようとしていない者を捕縛することは認められていないんだ。

 俺たちや他の国を攻撃しようとした場合には捕縛しても構わんのだが。

 それに、いくらそんなことをしていても、王族や上位貴族は略奪軍が敗北すればまた新たに略奪軍を組織するだろう。

 そんなことをしていたら、いつまで経っても戦は終わらないよな」


「は、はい……」


「ところで、1億2000万もの星がある中でこの星が最も戦の多い星になっている理由は何だと思う?」


「そ、それは……」

「見当もつきませぬ……」





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