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*** 168 移動する城 ***

 


「貴国の親書は不幸な行き違いで王の目に留まらなかったことと推察される」


「いや、我らは確かに親書を国王の執務机の上に送り、国王も目にしていたぞ」


「「「 !! 」」」


「な、なぜそのようなことがわかるのだ!」


「それに如何にして親書を陛下の執務机に届けたというのだ!」


「そんなもの『転移』の魔法で届けて『遠視』の魔法で見ていたに決まっているだろう」


「「「 !!! 」」」


「ということは、ま、まさか刺客も送り込めるのか……」


「当然だ。

『転移』の魔法は物だろうが人だろうが城だろうがなんでも転移させられるのは常識だろう?

 だが我らは暗殺などという卑怯な真似はしないがな」


「な、なんと……」


「まあ使者を直接転移させても良かったのだが、それこそ不幸な行き違いを起こさぬようまずは親書を送ることにしたのだ。

 貴ポリスの門番に渡しても王城まで届くかどうかは確実ではないからな。

 だがどうやら貴ポリスの王は大陸標準語も読めないようだ。

『このような下級官吏が使う虫が這いずったような文字などというものを送り付けて来た無礼者を探せ!』と激怒していたぞ」


「そ、そうか……」


「しかもその後に王子を名乗る者がやって来て、一方的に魔法攻撃を仕掛けて来たのだぞ。

 まあこの城にも俺にも強固な防御魔法が掛けてあるのであの程度の貧弱な魔法では傷ひとつつかんが」


「ぼ、防御魔法だと!」


「そ、そんなものがあれば無敵の軍が出来てしまうだろうに!」


「ん?

 いくら防御魔法が掛けてあっても『転移』で牢に送り込めば無力化するのは簡単だろうに」


「な、なんと!」


「なんだ、そんな簡単な魔法も使えないのか。

 我がポリス本部のある地では子供でも使える常識に属する魔法だぞ」


「「「 !!! 」」」


「あー、だからこの大陸では未だに戦乱が多いのか。

 我がポリス本部は例え100万の兵で攻め込まれても一瞬で牢に転移させることが可能だからな。

 ゆえにもはや戦乱などはありえないのだ」


(な、なんということだ……)

(それでは本当に戦など起こせないだろうに……)



「そ、それでは何故このポリスは日々アテナイに近づいて来ているのだ。

 それこそ敵対行動だろうに」


「それも親書に書いてあったんだがな。

 交易をするのにこんな何キロも離れていたら往復するのも大変だろ。

 だから最終的にはこの城をアテナイポリスの南300メートルほどに持って行くつもりだ」


「「「 !!! 」」」


「だが、いきなりそんな近くに行けば、いくら何でも貴ポリスも驚くだろう。

 だから最初は10キロ地点に城を持って来て、その後徐々に近づいて行くと書いておいたんだ」


「「「 ………… 」」」


「そ、そんな城を移動させるなどということが本当に出来るのか……」


「試しに30メートルばかり移動させてみようか?」


「「「 !!! 」」」


「城に潰されないように30メートル離れてくれ」


「う、うむ」


(マリアーヌ、城を1メートルばかり浮かせて30メートル先まで移動させてくれ)


『畑も一緒に動かしますか?』


(畑はそのままにしておいてくれ。

 後で動かそう)


『はい』



 音もなく城が浮き始めた。


「「「 !!!!! 」」」


 同時に30メートル先までの地面が整地されて平らになっていく。


「「「 ………… 」」」


 その後やはり音も立てずに城が動き、30メートル離れたところにゆっくりと着地した。



(な、なんということだ……)


(こ、このような超大魔法が有り得たのか……)



「な、割と簡単な魔法だったろ」


「「「 ………… 」」」


「さ、先ほどの魔法では城は1メートルほど浮いていたが、高さは如何ほどまで浮かせられるのだ」


「ん?

 好きなだけ浮かせられるぞ?」


「と、ということはこの城をアテナイの上空に持って行って、アテナイを押しつぶすことも出来るのか!」


「そりゃあ出来るけどな、でもそんなことしたら城が揺れて中の住人が困るだろ。

 だったらこの城と同じぐらいの岩を上空1000メートルから落とすとか、城や城壁を細かい砂に変えてしまう方が楽だろうに」


「「「 !!!!! 」」」


(そ、そのようなことまで出来るというのか……)


(もしそれが本当だとすればアテナイの王族魔法など子供の遊びだの……)



「だから俺たちの本国周辺では、もう戦は無くなっているんだよ。

 万が一戦なんか仕掛けたら、場合によってはすぐにも全滅させられるからな。

 それにそんな危険なことを始めるより、農業生産性や技術力を高める方がよっぽど豊かになれるし。

 あんたらもウチの畑を見たろ」


「あ、ああ……

 まさか春の今にぎっしりと実った麦畑を見るとはな」


「あれは冬小麦と言って、秋に種を植えて春の半ばに収穫する麦なんだ。

 もちろん春に植えて秋に収穫する春小麦も作っているから、それだけで収穫は倍になるぞ」


「た、確かに……」


「あんたらのポリスでは、1反(ここでは約20アール)当たりの収穫が4斗ぐらいにまで落ち込んでいるだろ。

 でもウチのポリスでは農法も研究されてるから、1反当たりの小麦収穫は20石あるんだ」


「そ、そそそ、そんなに……」


「そのような魔法もあるのか……」


「いや、魔法ではない。

 智慧と努力で作り出した『技術』だ。

 故に全く魔法の使えない者でも同じような収穫を上げることが出来る」


「「「 ………… 」」」



「さて、あんたら偵察部隊なんだろ、城の中には外部の者が立ち入ることが出来る商業街というものがあるんだが、見学していくか?」


「ぜ、ぜひお願いしたい」


「それじゃあ下馬してお仲間に武器を預けてくれるかな。

 この城の商業街は騎乗も武装も禁止されているんだ。

 馬はそこの柵に繋いでおけばいいだろう」


「わ、わかった」



 偵察隊の5人が下馬して門脇の柵に馬を繋ぐと、その場に飼葉と桶に入った水が出て来た。

 馬たちは喜んでさっそく桶に顔を突っ込んでいる。

 偵察隊の面々は一瞬硬直した後に頭を横に振っていた。

 どうやら魔法とは攻撃魔法ばかりではないと思い知らされたようだ。


「なあ4人とも、懐のナイフも置いていってくれな」


「「「 !!!! 」」」


「な、なぜわかった!」


「もちろん魔法で調べたからだぞ?」


「そ、そんなことまで……」


「いや申し訳ない、貴殿を欺こうとしたわけではないのだ。

 このナイフは護身用に常に持ち歩いているものでな」


「だが国王陛下が決められたルールなのでな。

 ナイフはこの場に置いて行ってくれ」


「わ、わかった」


「それでは商業街に行こうか」



「こ、ここは……」


 その街は今までの救済に使われていた中世風の都市というよりも近世や近代に近いものであり、新石器時代後期程度のこの地の文明から見れば相当に衝撃的な景色だったようだ。

 街中では大勢の人間がなにやら働いていた。

(もちろん全員がエキストラ)


「なぜ道がこのように平らなのだ……」


「あ、あの馬車、馬もいないのに勝手に走ってるぞ!」


「し、しかも僅かだが地面から浮いているではないか!」


「ま、まさかあれも魔法なのか……」


「そうだ。

 道具に魔法を込めたものだ。

 俺たちは『魔道具』と呼んでいる」


「そ、そうか……」


「あの魔道具には予め魔力が込めてあるからな。

 だから自分の魔力を使わずに動くんで便利だぞ」


「と、ということは平民でも魔法が使えるのか……」


「いやタケルポリスの民は全員が魔法を使えるぞ?」


「「「 !!! 」」」


「まあ、あんまり小さな子に魔法を使わせると暴発するかもしらんから、5歳以下の子には危険な魔法や魔道具は使わせないがな。

 そういう点であんたらの王子は5歳児以下だったってぇことだ」


「「「 ………… 」」」



「な、なあ、今15歳ぐらいの少女が乗り込んだあの馬無し馬車なんだが、何も詠唱していないのに動き始めたぞ」


「魔法行使や魔道具を動かすときには詠唱なんか必要無いんだよ。

 心の中で短い発動句を唱えればいいだけだ」


「そ、そうなのか?」


「あの王子は大魔法を放つとか言って延々と20分以上も先祖の名を詠唱してたろ。

 魔法行使にはあんなものは全く必要無いんだよ。

 ただ火球の大きさと威力を念じながら『ファイアーボール』と思うだけで発動するんだ。

 あの莫迦みたいに長い詠唱は、単に相手を威嚇するためか、もしくは文字を読めない王族にポリスの歴史を覚えさせるためだけのものだな」


「そ、そうだったのか……」



「それでは街を見下ろせるテラスカフェにでも行って話をするか」


((( 『てらすかふぇ』ってなんだ? )))




「いらっしゃいませ」


「全部で5人だ。

 しばらくテラスの席を使わせてもらうぞ」


「どうぞどうぞ」



「あ、あれはまさかガラスか?」


「そうだ」


「こ、ここにあるガラスだけでいったいいくらの価値があるというのだ……」


「しかも全く歪みも無く透明だ……」



 タケルは4人にメニューを見せた。


「飲物は何にする」


「貴殿に任せたい」


「それじゃあ無難に紅茶にしようか」


 タケルが手を挙げるとその場にウエイトレスドローンが出現した。

 偵察隊の4人はフリーズしている。


「クッキーセットを紅茶で5人前頼む」


「畏まりました」


 ウエイトレスドローンは一旦消えたがすぐにまた現れた。

 同時にテーブルには紅茶とクッキーも出て来ている」


「それではごゆっくりどうぞ」



「それじゃあ紅茶でも飲みながら話をしようか」


「い、いまのはなんだ」


「あー、まあ魔法で動く給仕だな」


「そ、そうか……」



「こ、これは茶か……」


「そんな高価なもの……」


「こ、このカップは土器なのか?

 それにしては真っ白で滑らかだが……」


「それは磁器というものだ。

 まあ土から作ることに変わりはないが、その他の成分や焼き方に工夫がある」


「それにしても美しい器だ……」


「1杯目は香りと味を楽しむといい。

 2杯目には砂糖とミルクを入れてもいいな」


「砂糖だと!」


「そのクッキーも是非試してみてくれ。

 このカフェのクッキーは美味いって評判なんだ」


「この『くっきー』とかいうもの、なんて美味いんだ……

 こんな味は初めてだ……」


「それが砂糖やバターの味だな」


「本当にそんな高価なものまで……」


 偵察隊員たちは目を丸くしながら紅茶とクッキーを味わっていた。

 2杯目の紅茶に砂糖とミルクを入れると、目がもっと大きくなっている。





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