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*** 165 王族の大魔法 ***

 


 威力偵察部隊はタケルポリスに1キロほどまでに近づいていった。


(な、なんだあの巨大な城は……

 どう見ても我がアテナイ城の10倍、いやそれ以上の大きさがあるぞ……)


「ま、待て!

 こ、ここで一旦小休止とする!

 偵察小隊を編成してあの城の周囲を調査せよ!」


「はっ」


 どうやら敵のあまりの大きさに王族大隊長はビビったらしい。



 2時間後。


「王族大隊長殿! 

 偵察隊が帰還致しました!」


「この場にて報告させよ」



「あの、城の裏側には広大な農地が広がっておりました……

 それもぎっしりと麦が育った……」


「莫迦を申すな。

 今はまだ春先であるぞ。

 麦が育っているわけはあるまい」


「そ、それが本当に麦が育っておりまして……

 あの大きさでしたらそろそろ実をつけ始めるころかと」


「なんだと……

 ま、待て。

 なぜその方ら城壁内に麦畑があることがわかったのだ!

 城壁に昇ったわけではあるまい!」


「そ、それが、畑を囲っているのは城壁ではなく柵だったのであります……

 それも木や竹で造られたものではなく、どうも金属製の柵でありました……」


「き、金属だと!

 それは青銅か!」


「いえ、黒色に近い色でしたので、青銅ではないようです」


「黒色とな。

 ま、まさか……

 だ、だが、そのような柵では上に兵も弓兵隊も投石部隊も置けないではないか!」


「はい」


「その方らは柵まで接近して確認したと言うのか!」


「はい」


「敵兵はいなかったのか!」


(こいつ怒鳴らないと喋れないのか?

 なんか体の小さな王族ほど声がデカいんだよな。

 いくら声を大きくしても、背は高くならないのにな……)


「柵の外にも内側にも全くおりませんでした」


「な、なんという不用心な城だ!

 それでは攻め込むのも容易であろう!」


「しかも柵の高さも3メートルほどしかございませんでした。

 柵の内側30メートルほど先には塹壕のようなものも見られましたが、あの程度の柵や塹壕ならば攻城用の梯子を架ければ乗り越えるのは容易であると思われます」


「兵の姿が無かったというのは真だな!」


「は、兵どころか農民の姿も見えませんでした」


「うむう、よし、余もその畑を検分する!

 その方らは余の周囲を固めよ!」


「ははっ」




「こ、これは……

 まだ春だというのに本当に麦が育っておる……

 それもぎっしりと大量に見渡す限り。

 その畑を守るのにこのような素通しの柵しか無いとは……

 これでは攻め込んで麦を奪って下さいと言っているようなものではないか……」


 いや、他人の畑を見てそう思うこと自体、キミタチが盗賊や蛮族である証拠だからね。

 そこでどうして『春でも麦が育っている秘法を教えてもらおう』という発想にならんのかねぇ。

 そんな発想も持てないほどに為政者のアタマが悪いから、何万年も中世初期のままなんだよ。



「それにしても哨戒兵はおろか畑の世話をする農民すらいないのか……」



 と、そのとき畑の中から無数の棒が伸びて来た。

 おおよそ20メートルおきにグリッド状に出現したのである。

 250名のアテナイポリス威力偵察隊は全員が硬直した。


 しゅんしゅんしゅんしゅん……


 その棒は10メートルほどにも伸び、次いで先端から霧状の水が噴き出し始めた。

(もちろんスプリンクラーである)

 王族大隊長閣下は咄嗟に逃げようとされたが、周囲は護衛に固められており逃亡は不能だった。

 そのため馬上で腰を抜かされている。


 折からの南風に吹かれてその水霧は偵察隊にも届いていた。



「なんと……

 これは水ではないか。

 そうか!

 このようにすれば水撒きに人手は要らないのか!

 それにしても、このような魔法があったとは……」


「し、小隊長、そ、それは真か」


「はっ。

 井戸や川から水を汲み、それを畑に撒くのはたいへんな重労働であります。

 ですので、この魔法が使える者がいれば、1人当たりの耕作地は倍、いや3倍に出来るかもしれませぬ」


「このような大魔法を使えるのは王族であろう!

 王族が農民のような仕事をしていると申すか!」


 腰を抜かされている王子殿下は、それを悟られまいとことさらに尊大な発言をしている。


「いえ……

 もしや農民にもこのような魔法が使える者がいるのやもしれませぬ」


「な、なんだと!」


 自分が使えない魔法を使える農民がいるかもしれない。

 このことは期せずして王子殿下のプライドを大いに傷つけていた。

 この王子は自分の家名がアテナイであることと、他人より多少強い魔法が使えることしか自尊心を満たせるものが無かったのである。


「な、ならばその方ら、その農民を攫って来いっ!

 我がポリスの奴隷にしてやろうぞ!」


「お待ちくださいませ王族大隊長閣下」


「なんだ男爵中隊長」


「あれほどの巨大な城でございます。

 もし内部に兵が1万ほどもおれば我らは全滅です」


「!!!」


「その際にはもちろん殿下のお命も……」


「な、ななな、なんだと……」



 やっぱりそんなこともわからんほどアタマ悪いんだね。

 見えないからといっていないとは限らないんだよぉ。



「ですので我らは偵察に徹し、この城の兵力を探るのが先決かと」


「ぬぐぐぐ……」


「先ほど見えました門前には門番が1名おりました。

 その者に命じて城代を呼びつけ、尋問されたら如何でしょうか」


 もちろん彼らは大陸北部最大のポリスの王族が命じれば、如何なる者であろうとひれ伏すと固く信じていた。


「よ、よし、その方の進言採用してやろう」


「はっ、有難き幸せ」



 一行は王族大隊長を中心にしてぞろぞろと門に向かって行った。



(はは、ようやくやって来たか……

 それにしてもあの中央で踏ん反り返ってる王子、下顎前突症が酷ぇな。

 あれじゃあ碌に咀嚼も出来ずに流動食しか喰えんだろうに。

 まるでパプスブルク家の第3代神聖ローマ帝国皇帝カール5世並みだわ。

 体も異様に小さいしな……)



 門番に扮したタケルまで30メートルほどに近づいたところで小隊長が声を張り上げた。


「そこな門番! この城はどこのポリスのものか!」


「なあ、あんた字も読めんのか?」


「な、なに!」


「その門の上にでっかくポリスの名前が書いてあるだろうによ」


「な、なんだと!

 貴様門番の分際で無礼な口を利くか!」


「字も読めねぇ蛮族の分際でエラそうなこと言ってんじゃねぇぞ」


「なななな……」


「だいたいお前ら誰なんだよ。

 人にものを尋ねるときには自分の名前ぐらい名乗れと幼年学校で習わなかったか?」


「も、もう許せんっ!

 無礼打ちにしてくれるわ!」


「控えよ」


「だ、男爵中隊長閣下……」


「そこな門番、我らはアテナイポリス防衛隊の者だ。

 至急この場に城代を連れて参れ。

 このような場所に城を築いた目的を詮議する」


「その前にあんたら国王の返書は持って来てるのか」


「返書だと……」


「このタケルポリスからは、3日も前にあんたらの国王に直接挨拶状を届けてるだろうがよ。

 その返書すら持たないで来たのか?

 ったく無礼なのはお前らの方だろうに」


(な、なんだと……

 そのようなことは全く聞いておらんぞ。

 王族大隊長殿も知らぬようだし……)


「ったく連絡の悪い国だな。

 とっとと帰ってどう対応したらいいのか国王に確認したらどぉだぁ?」


「ぐ……」


(それにしてもこの男、これだけの兵を前にしても全く動じておらん。

 仮に城内に1万の兵がいたとしても、真っ先に殺されるのは自分だろうに……)



「お前のような雑兵では話にならん!

 者共、城内に入るぞ!」


「「「 はっ 」」」


「あー、駄目だ駄目だ。

 この城内では騎乗も武装も禁止だ。

 馬と武器をこの場に置いていけ」


 それまで開いていた門が大きく音を立てて閉じた。


「き、貴様アテナイポリス守備隊を愚弄するか!」


「お前、俺が武装したまま馬に乗ってアテナイの城内に入るのを認めるっていうんか」


「き、貴様北部最大のアテナイポリスと新興のポリスが同格だとでも申すかっ!」


「あんな泥を固めて造ったような城しかない貧弱ポリスがエラそーにすんなや」


「な、なんだとぉぉぉ―――っ!」



「どけ!」


 王族大隊長が前に出て来た。


「余はアテナイポリス第32王子スペルマ・フォン・アテナイである!

 下賤の者控えよっ!」


(ははは、これでこの下賤者も畏れ入るであろう。

 なにしろ俺は北部最大の支配ポリスアテナイの王子なのだからの!)


(くっ、この素人王子、まさか自分の身分を明かすとは……

 人質にされたらどうするつもりだ!

 これだからボンボンは……)



「俺はタケルポリス門番のムシャである。

 下賤の王子は控えよ!」


「なぁっ!」


「それにしてもお前ぇ第32王子かよ。

 ってぇこたぁ王女も入れれば王の子は60人以上はいるんか。

 お前ぇんとこの王って朝から晩まで女房たちとヤリまくることしか能が無ぇんじゃねぇか?」


「な、ななな、何だとぉ―――っ!

 控えよと申しておるだろうがっ!」


「ヤだね」


「な、なななな……

 き、貴様王族の命が聞けんと申すかぁっ!」


「なぁ、なんで王族の命令なら従わなきゃなんねぇんだ?」


「そ、そのようなこと!

 下賤の者が王族の命に従うのは当然であろうっ!」


「お前ぇもアタマ悪いなぁ。

 だからなんで当然なんだと聞いているんだろうに。

 しかも俺はアテナイの民じゃあなくって、別のポリスの民だろうがよ。

 その俺がなんでお前ぇみたいな莫迦の命令なんか聞かなきゃなんねぇんだよ」


「も、もう許せんっ!

 貴様は余の大魔法で焼き殺してやるわっ!

 者共、余の詠唱中は周囲を固めよっ!」


「「「 ははっ! 」」」


(おお! 久々に王族の大魔法が見られるか)

(この門番、終わったな)

(王族は魔法だけは得意だからな)

(もっとも詠唱を覚えられる頭を持った王族は半分もいないそうだがな)



『我が名はアテナイポリス第525代王スぺペン・フォン・アテナイの第32子スペルマ・フォン・アテナイなり!

 我がポリスはそもアテナイ紀元1年に始祖王スポポン・フォン・アテナイ陛下により建国され、第2代スポパン・フォン・アテナイ陛下、第3代スペパン・フォン・アテナイ陛下、第4代……』



(なんだこの詠唱?

 まず祖先自慢から入るのか?

 まさかそれで相手をビビらせようとでも思ってるのか?

 あー、なんか日本の戦前の皇国教育みたいだな。

 歴代天皇の名前を暗唱させるっていう。

 そうか、こいつら字ぃ読めねぇからこうやって口伝で歴史を伝えてるのか。

 まあ、どんな阿呆でもおんなじ文章3000回も朗読したら歌を覚えるように暗唱出来るようになるからな。

 それにしてもしょーもねぇ奴らだ……」



『第35代スッポン・フォン・アテナイ陛下、第36代スッパン・フォン・アテナイ陛下、第37代……』



(なあマリアーヌ、こいつ等の周りに円筒形の遮蔽フィールド出しておいてくれるか。

 その中に『セミ・ゴッドキュア』もかけて)


(はい)


(それでこいつがファイヤーボールかなんか発動しそうになったら、フィールド内に酸素と可燃ガスを1000リットルばかり転移させてくれ。

 そうだな、無臭LPガスでいいか。

 こいつらがコゲたら武器も衣服も全て転移させて、馬も頂いて農耕馬にしよう)


(畏まりました)





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