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*** 163 銀河最悪紛争世界 ***

 


 未認定世界の救済などという事業は、ここ100億年近くの間銀河宇宙では誰も試みたことが無かった。

 だが、タケル率いる天界救済部門が大成功の裡にこれを果たし始めたのである。


 さらにその経験は救済部門の諮問会議により徹底的に分析され、いくつかのパターンに分類されてノウハウが蓄積されていった。


 たとえばあの猫人の惑星ケットでは、当初生態系に悪影響を与えることを懸念してわずか3基の小型人工太陽の配備しか行われていなかったが、これを6基、12基と増やしても特に問題は見られなかったことから、現在では3基の大型人工太陽が配備されるようになっている。


 もちろん人工太陽であるが故に停止も移動も容易であり、惑星平均気温の上昇や氷期の終了に際しては撤収又は停止が行われることになっていた。



 こうした人工太陽投入、初期食料援助、シェルター供与によって、同様に氷期を迎えた非ヒト族系未認定世界の救済は進み始めた。

 惑星ケンネルのような犬人族系世界では、これにボスとの戦闘という手間も加わるが、言ってみれば単にそれだけの話である。

 むしろ強者には無条件で従うという種族特性により、その後の農業や生活の指導は捗るほどであった。



 こうして、タケルが救済の道筋を立てた後の非ヒト族世界には、AIほこら部隊、救済部門の補助・補給要員、オーク族による対犬人族用戦闘要員たちが多くのチームを組んで銀河宇宙に拡散して行ったのである。

 銀河認定世界からの食料購入や設備搬入も加速しつつあり、3次元時間で後50年もすれば、ヒト族以外の未認定世界7000万のうち、トリアージ上位の世界から要救済世界全てに行き渡ることと見込まれていた。


 また、ヒト族系暴虐世界に於いても、大量破壊兵器保有などの理由により緊急紛争停止措置が必要とされた世界800万は既に鎮圧され、強制的に平和が齎されている。

 さらに惑星デラやアルファのような青銅器時代から中世にかけての暴虐世界に於いても、同様にタケルがノウハウを蓄積しつつあるために、これも『デラ型』や『アルファ型』とされる世界への対処が始まった。

 特にAIたちはこうしたノウハウの全員共有が容易であるために、各世界に続々と派遣され始めたのである。


 今後もさまざまなパターンのヒト族暴虐世界に於いて、タケルが試行錯誤しながら強制平和措置を模索し、それを救済部門全体に敷衍していくことになるだろう……




【銀河系第312象限、H01442恒星系第4惑星、識別名ダタレル】

(種族:ヒト族 魔法能力有(微弱) 科学技術文明度1.3 社会成熟度マイナス14.3

 住民平均E階梯マイナス8.3 紛争、飢餓危機、自然死率1%未満:銀河最悪紛争世界)


 概要:

 大小5つの大陸が存在。

 このうち最も広い中央大陸と地峡で繋がった東大陸では8万5000年ほど前から農業が始まっているとみられる。


 国の形態はポリスと呼ばれる都市国家制で、人口1万から30万程度の都市が1万か所近くも存在する。

 そのポリスのうち大手ポリスでは、日干し煉瓦などで造られた大城壁の内部領域で王族や上級貴族が暮らし、その外郭である中城壁の内部では下級貴族や上級軍人が暮らしていた。

 農民は中城壁からそのさらに外郭にある小城壁の間で農耕を営んでいる。


 ただし、毎年秋の収穫期後には国家ぐるみの武装強盗が頻発しており、防衛軍が略奪軍に敗れた場合にはその国家は困窮し、近隣の大国に援助を求めてその傘下に入る。

(内部の大城壁を攻略するのは困難であるため、王や高位貴族が討たれることは滅多に無い模様)


 こうして300ほどの大小さまざまな国家グループが出来上がっていったらしい。

 このように収穫期から冬の間に略奪のための戦争が頻発し、その発生件数は惑星全体で10万件近いものとみられ、そのためにこの時期には毎年人口が5%も減少している模様。

 その結果、住民の死因に占める紛争死の割合が90%を超えている(銀河最高水準)。


 どうやら、過去の氷期に見られた行動が氷期終了後にも慣習として存続しているとみられ、 特に王族などの支配層は大城壁の内部で安全なために、財を求めて略奪軍の行動を督励していた。

 平均的なポリスでは、大城壁内部で暮らせるのは王位継承順位10位までの王族とその配偶者たち、高位貴族と侍従侍女たちのみであり、11位以下の王族や下位貴族は大城壁の外側区画に住み、略奪軍にて功績を上げることで地位の向上を狙っている。




「マリアーヌ、このポリス内での実際の暮らしを見せてもらえるか」


『はい。

 それでは第一大陸北部最大勢力アテナイ・ポリスの様子を御覧ください』



 ふーん、農民たちは第2城壁沿いに固まって暮らしているわけだ。

 農地はやっぱり第2城壁と外郭小城壁の間にあるのか。

 その外郭城壁上には矢狭間や投石用の石が大量に置いてあるんだな。

 多分敵が攻めて来たら城壁に上がって撃退しようとするんだろう。

 あー、投石機(カタパルト)も置いてあるし、物見櫓もたくさんあるわ。

 さすがに何千年も撃退戦やってるだけあって、用意は万端なのか。


 その外郭城壁の外側には堀まであって、さらに逆茂木や馬防柵もあるんか。

 こりゃ略奪軍も苦労しそうだな。

 だからあんなに戦死者が多いんだ。



「マリアーヌ、このポリスの人口は?」


『およそ30万少々ですね』


「そのうち略奪軍と防衛軍の割合はどうなってる?」


『略奪軍はおよそ10万、防衛軍はポリス民が総出で参加しますので、乳幼児以外の全員12万、その他に傘下のポリスに援軍として派遣される遊撃軍が約3万います』


「文字通り総力戦が行われてるわけだ」


『実際にはこのアテナイ周辺の30のポリスが属国となっているために、ここアテナイにまで攻め込んで来る国はほとんどありません。

 もしここまで攻め込むような国があれば、遊撃軍の将は全員平民か農民に落とされますので彼らも必死ですね。

 逆に遊撃軍や略奪軍が敵ポリスから食料を持ち帰れば、その功績で指揮官はより上位の貴族などに任じられるために真剣に戦っているようです』


「そんなんじゃあ農業生産性を上げる努力とか全くやってないんだろうな」


『はい。

 このアテナイでも作物の95%は保存の効く小麦なのですが、連作障害により彼らの言う1反(≒20アール)当たりの収穫量は5斗以下にまで落ち込んでいます』



(註:原始社会の耕地面積はそもそも1石(≒150キロ)の麦が採れる面積を基準としているため、原始農法下では20アールほどになることが多い。

 ただし、これはあくまで開墾して数年の畑の場合であり、その後は連作障害によって収穫量は漸減していっている)



「やはりそうか……

 しかも国が城壁や堀で囲まれていて農地の拡大が困難なために、略奪戦を仕掛けることで人口を抑制しているんだな」


『はい』


「それでますます城壁に依存するようになって、農地拡大も出来ないんだ」


『そのようです』


「ということは、為政者が阿呆なせいで戦乱が絶えないっていうことか。

 しかも功績を挙げた僅かな者を下級貴族にしてやることで平民の射幸心を煽っているわけだ」


『仰る通りと思われます』


「中城壁から大城壁までの街の暮らしはどうなってる」


『その地域には主に略奪軍や遊撃軍の将兵が家族と共に住んでいます。

 その階級も徹底して出自と論功行賞の組み合わせとなっており、皆秋の収穫期から冬の間の戦争で地位を上げようと必死ですね』


「ん? なんか中城壁の門内にけっこうなスペースがあって、物干し台みたいなもんがたくさんあるな」


『あれは麦干し場ですね。

 秋に収穫された小麦は穂についたままあの作業スペースに持ち込まれ、乾燥させたあとはあの場所で脱穀が行われているようです』


「あー、なるほど。

 麦穂が実るとすぐに刈り入れが始まるけど、もたもたしてると敵の略奪軍に奪われる可能性があるから刈り取られた麦はすべてそのまま中城壁内部に持ち込まれているのか。

 だけどこのレベルの文明だったら麦の品種改良とか全くやってないよな」


『その兆候は見られませんね』


「だとしたら古代の原種麦の場合、実った麦の穂はすぐに風なんかで飛散して行くから収穫量は更に減ってるわけだ。

 麦はもともとそうやってタンポポみたいに種を風で飛ばして増えようとする植物だから。

 あの実が飛散しなくなる品種改良って、地球でも19世紀になってからだし」


『仰る通りだと思います。

 慌てて麦の穂ごと第2城壁内に運搬するために、ただでさえ少ない収穫がさらに10%近くも失われています。

 防衛軍が略奪軍と戦っている間にこの飛散した麦の実を集めるのは、奴隷の女性や子供の仕事になっているようです』


「ジャン=フランソワ・ミレーの『落ち穂拾い』の世界か。

 夏の終わりぐらいから外郭城壁に入り込んで占拠し、実った麦を刈り取って持ち帰ろうとする略奪軍はいないのかな」


『その略奪軍を挟み撃ちにするために遊撃軍がいる模様ですので、その戦略を採用するポリスはほとんどいなくなりました』


「そうか。

 ところでその奴隷の女性や子供はどこで暮らしているんだ」


『最外郭城壁内に奴隷収容所があります。

 普段は家族で暮らしていますが、戦時には奴隷兵が反乱を起こさないよう人質収容所にしている模様です』


「後で解放するときのために、奴隷の家族たちをマッチングしてロックオンしておいてくれ」


『はい』


「大城壁内の王族や高位貴族は何をやっているんだ」


『まずは映像を御覧頂けますでしょうか』



「うっわー、この装飾過多でビラビラな服を着てる奴がみんな王族や高位貴族か。

 でも服の色は黒か黄ばんだ白しか無いようだけど。

 それにこいつらほとんど8割近くが下顎前突症じゃないかよ。

 まるで地球のハプスブルク家だな。

 これじゃあ碌に咀嚼も出来ずに細かく切った料理を丸呑みしてるだけだろうに。

 しかもみんな体が小さいし、なんか目つきもオカシイわ」


『彼らはその婚姻によってアテナイの地を他の一族に奪われないよう、徹底的な配偶者管理をしている模様です。

 王位継承順位10位以内に入るためには、両親、祖父母、曾祖父母といった祖先10代に遡るまで家名が『アテナイ』であることが求められます。

 このために、3親等以内の婚姻どころか異母姉妹との婚姻も当然のように行われているようですね』


「あー、ますますギリシャ神話かハプスブルク家みたいだ……

 やつらはそれが遺伝子の劣化を助長して寿命や運動能力や知力の低下を齎すことに気づいていないのか……」


『どうやら過去には気づいていた者もいたようですが、アテナイ一族の支配を継続するために沈黙させられたようです。

 そもそもポリスの支配層に戦闘能力や統治能力は期待されていませんので』


「『君臨すれども統治出来ず』か……」


『はい……』


「ということは優秀な家臣団がいるのか」


『王位継承順位11位から30位程度までのアテナイ一族が各省庁の大臣を占め、次官や次官補は高位貴族が占めているようです。

 高位貴族も同様に遺伝上の問題を抱えていますので、実質的な統治はアテナイ一族や高位貴族出身者でない傍流の次官補、次官補代理やその平民補佐官が執り行っている模様ですね』


「王侯貴族上層部はお飾りだっていうことだな……」


『はい。

 そのためかどうか、劣等感の代償行為としてかなり高圧的な専制統治を行っているようです』


「はは、能力の無いやつほど威張りたがるっていうことか。

 旧神界と同じだわ」


『…………』





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