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*** 160 旧神界の罪 ***

 


「また、銀河連盟の責任も大きいと思う。

 いくら恒星間航行技術が限られていたと言っても、これほどまでの過ちを旧神界に対して指摘しなかったのも怠慢だろう。

 マリアーヌ、念のため連盟から旧神界に対して指摘があったかどうか確認しておいてくれ」


『はい』


「まあ責任の所在は特に追求する必要も無いだろうがな。

 法的にも感情的にも、祖先の罪が子孫に及ぶという考え方はナンセンスだ。

 だが、一旦この事実を知ってしまったからには放置は許されない。

 まず何よりも優先されるのは、この事実を天界天地創造部門と知性付与部門に知らせて、不適切な恒星系での作業を止めさせることだ。

 ニャサブロー、マリアーヌ」


「はい!」 『はい』


「諮問委員会と連盟大学の論文は読んだが、やはり学者が書いた物だけあって専門用語が多くわかり辛い。

 お前たち2人で素人にも分かりやすいようなものにしてくれ。

 出来れば映像で説明したい」


「はい!」 『はい』


「次はやはり応急処置だ。

 小型人工太陽と赤外線照射装置の発注状況はどうなっている?」


『現在銀河宇宙により神域内に生産工場が建設されている状況です。

 小型人工太陽は既に確立されている技術ですし、赤外線のみを重層次元から照射するステルス技術もすぐに確立されるでしょう。

 この際に重層次元に置く熱源は魔石や天石ではなく核融合炉が使えますので、コストはかなり抑えられます。

 また、恒星活動が活発になった際に、惑星環境の不必要な温度上昇を避けるための太陽光遮断衛星の建設も間もなく始まる予定です。

 これは出来るだけ恒星近傍に置いて太陽黒点に偽装することになるでしょう』


「それなら応急措置は大丈夫そうだな」


『はい』


「次は基礎研究だ。

 まずはヒューマノイドの不必要な死を回避するために、恒星の最適な質量条件と温度条件を策定して欲しい。

 もちろん生命惑星の最適公転半径もな。

 それからやはり既存の恒星の温度そのものを上げて表面温度変動を小さくしたい。

 これについては、実際に恒星内部に水素資源を転移させる実験をしたいので、生命居住惑星から1000光年以上離れた実験用恒星をピックアップしておいてくれ」


「あにょ、核融合反応のエネルギー源になる水素を大量に送り込むと、恒星がノヴァ化してしまいませんかにゃ……」


「いや、それは無いだろう。

 超新星爆発は『爆発』と呼ばれているが、『爆発』とは本来燃焼物質が急激に燃えることによる体積の拡大と熱の拡散のことだからな。

 一方で単独恒星での超新星発生メカニズムは、核融合過程で出来た鉄がそれ以上核融合出来ないことによる燃焼の減少なわけだ。

 また、その鉄が重力収縮によって温度を上げて行き、10の10乗ケルビン以上の温度になると、鉄が光崩壊を起こしてヘリウムと中性子に分裂して一気に輻射圧が失われるよな。

 それで核融合の輻射圧と重力が均衡してた状態が失われることによって、恒星外縁の物質が中心核に向けて落下してくるわけだ。

 この時の重力加速度は非常に大きいから、外縁物質が中心核に届くころには優に光速の数%のオーダーになっていて、そうした大量かつ大質量の物体が恒星中心部で衝突するだろ。

 この時の運動エネルギーが熱と衝撃波に変わることで爆発類似の現象が起きているわけだな。


 要は超新星爆発はそのエネルギーこそ大きいものの、単に運動エネルギーが熱と衝撃波に転化されているだけのものなんだよ。

 だから水素という燃料を放り込んだだけではノヴァにはならないだろう。

 もっとも恒星の寿命を縮めることにはなるだろうが」


「に、にゃるほど、よくわかりましたですにゃ……」


「ただまあ、仮に恒星質量の3%にも相当する水素燃料を転移させて中心核温度を5%上昇させられても、それが表面温度にまで波及するには数百年から数千年はかかるだろうけどな。

 だが、天地創造部門のテラフォーミングには20万年近くかかっているんだから特に問題は無いだろう。


 ただし悩ましい問題もある。

 恒星の温度を上げるのに最も手っ取り早い方法は外部から質量を転移させることなんだろうけど、そうすると恒星の寿命そのものを縮めることにもなるよな。

 せっかく恒星温度を上げてその恒星系の惑星気候変動を減らしても、肝心な恒星の寿命が早く尽きちゃったら意味無いし。

 地球の太陽の寿命は約100億年だけど、普通の恒星は太陽との質量比の3乗に寿命が反比例するから、太陽質量の10倍の質量を持つ恒星の寿命なんか僅か1000万年になっちゃうからな」


「そにょ恒星質量にゃんですけど、ダークエネルギーを除けば、この宇宙の質量は通常物質1に対してダークマターは5倍以上もあります。

 もしもこの比率が恒星内部でもそにょままだとすると、ダークマターが恒星内部で担っている核融合反応抑制効果は非常に大きいはずにゃんです。

 そにょ恒星内のダークマターは、恒星物理学では中心部周辺に偏在しているという仮説があるそうにゃんです」


「そうか!

 ダークマターは重力でしか通常物質と相互作用しないから、核融合反応の輻射圧に影響を受けずにひたすら重力だけに影響を受けて中心部に集まって行くのか!」


「というよりも、中心部を取り巻くように偏在しているとの仮説ですにゃ。

 恒星中心核は温度も圧力も凄まじいですけど、一種のラグランジュポイントのように重力そにょもにょは小さいですにょで」


「ということは、核融合反応を阻害しているダークマターを転移装置で取り除きつつ水素を送り込んでやれば、恒星寿命をあまり縮めずに温度を上げられるかもしれないんだな」


「はい。

 ですが温度が上がるということは、それだけ核融合ための燃料が減るのが早くにゃるということですので、定期的に水素を補給してやる必要があるかもしれません」


「その定期的って言うのが数百万年なのか数十億年なのかで大分違って来るな。

 それならその実験もやってみようか。

 ついでに終末期恒星の中心部から鉄元素を抜き取ったらどうなるかの実験もしてみたいので、候補恒星の選別も頼む。

 また、この実験のために恒星コントロール実験部も作っておいてくれ。


「畏まりました」


「それになによりも、気候変動による不必要な死を減らすために、未認定世界の救済をさらに推進していこう」


「「「 はい! 」」」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




『タケルさま、恒星温度変化率と惑星気候、住民人口との関係についての映像が出来上がりました』


「おお、もう出来たか」


『元々データサンプルは揃っていましたので、後は専門用語をなるべく使わずに平易な言葉で解説するだけでしたので』


「そうか、ただ中身は天界にとって相当にショッキングな内容だからな。

 最初はエリザさまとジョセフィーヌに見て貰って感想を聞いてみるか……」



 ということで、子供たちが幼稚園に行ってる間に2人に俺の神域で映像を見て貰ったんだよ。

 そしたらさー、すぐに2人とも真剣な表情になって、そのうちに泣き始めちゃったんだ。

 エリザさまは涙ぼろぼろ零してるし、ジョセフィーヌなんかわんわん大泣きしてるし。



「タケルや……

 ということは、未認定世界のヒト族のE階梯があれほどまでに低くなってしまったのは、そもそも恒星温度変化の大きすぎる恒星系にヒト族惑星を配置した天界の責任だったということなのだな……」


「はい、どうやら恒星温度の変化率が小さいほど文明が安定して、ヒト族住民のE階梯も下がらないようです」


「また、ケットなどの猫人族世界でも、争いこそ無いものの、頻繁に氷期が訪れることによって、その度に住民が大量死していたのか……」


「多分ですが、100億年前に天族がいたころは、『表面温度が低く、その変化が大きな恒星の周囲には、テラフォーミングした惑星を配置しないこと』というルールがあったことと思います。

 ですがその後、旧神界は自ら神と名乗るために天族の情報を徹底的に破棄しました。

 きっとその時にそうしたルールも失われてしまったのでしょうね」


「我らの祖先の傲慢が、あの未認定世界の悲惨さを作り出してしまっていたというのか……」


「残念ながらその可能性が高いです。

 今認定世界に至っているヒューマノイド世界の恒星は、例外なく恒星表面温度が安定していますので」


「そ、そうか……」


「また、銀河連盟大学に残された記録によると、天族がまだこの子宇宙チャイルド・ユニバースにおわした頃は、100万年につき1000件近い認定世界が生まれていたそうです。

 ですが、直近の100万年ではわずかに8件の認定世界しか生まれていません。

 しかもその認定世界文明が農耕を始めてから認定世界に至るまでの平均期間も、100億年前は50万年ほどだったのが、現在では200万年にもなっています。

 つまり表面温度の安定した恒星系文明は既にほとんどが認定世界に至ったのに対し、他の文明は気候変動が大きすぎてその文明を発展させることが出来なかったのでしょうね。

 甚だしく表面温度が変動する恒星系では、延々と数億年も停滞している文明もありますので」


「なんということだ……」


「さらに旧神界が定めた『未認定世界との接触を禁ずる』というルールも『恒星間転移能力は神界が独占する』というルールも、この事実の発見を遅らせたのでしょう」


「う、うううぅぅぅっ……」





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