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*** 158 総辞職 ***

 


『585兆人もの容疑者を収容するには、たとえこの銀河連盟本部惑星の陸地全てを使用しても、1人当たりの面積が0.34平方メートルになって寝ることも出来ません。

 これは拘置所での虐待を禁じた銀河法典違反になりますが』


「な、ならば通常時間の重層次元空間に入れろっ!」


『よろしいのですか?』


「な、なにがだ!」


『容疑者の食費だけで年間6×10の18乗クレジットの予算がかかります。

 これは平均的恒星系政府予算の約200万倍になりますが』


「!!!!!!!!!!!!!」


『また、それだけの独房を建造するにはほぼ同じ金額の予算がかかるでしょう』


「な、ならば雑居房に押し込んでおけっ!」


『それも本当によろしいのですか?』


「な、なにがじゃっ!」


『彼らの99.9%は殺人、強盗殺人、戦争教唆、営利誘拐暴行などの凶悪犯で、その殺人件数は1人平均50件近くあります。

 雑居房などに収容すれば、その瞬間から殺し合いが始まるでしょう。

 裁判前の容疑者の拘置所での殺人は司法当局の落ち度となりますが』


「い、いったい救済部門とやらはそれだけの容疑者をどのように収監していたというのだ!

 もし時間停止倉庫などに入れていたら、それだけでも罪状を重くしてやるぞ!」


『いえ、救済部門は容疑者や刑の確定した囚人たちを全て通常時間の独房に入れていました。

 その面積は1人当り40平方メートルもあり、最近ではテレビやシャワー室まで完備されているそうです』


「!!!!!!

 ど、どこにそのようなカネがあったというのだ!」


『ご存じないのですか?

 タケル天使さまは銀河系最大の資産家であり、救済部門の予算はほぼ全てタケル天使さま個人が負担されていますが』


「あ、あの生意気な若造がそれほどまでのカネを持っているというのかぁぁ―――っ!」


『はい。

 それに、このことは銀河中の住民が皆知っていることです。

 議長閣下もせめて銀河連盟報道部の配信ぐらいはご覧になられた方がよろしいのでは』


「そ、そのような下賤なものは法の権威たるわしにとって不要じゃっ!」


『それでは時間停止倉庫の容疑者たちの処遇は如何いたしますか?』


「や、やむを得ん!

 当面の間時間停止倉庫に収容したままにするように!」


『法と現実に齟齬が生じた場合には、法が優先されると仰られたのは議長閣下ですが』


「こ、ここここの機械めがぁっ!

 連盟最高裁議長たるわしに逆らうかぁっ!」


『逆らっているのではありません。

 事実を申し上げただけでございます』


「こ、このこのこの……」


『ところで公判はどうされますか』


「まずはお前たち司法補助権限を持つAIが予備審理と量刑提案を行えっ!

 その後初級裁判所の裁判官が量刑を決定する!」


『それにもいくつか問題がございます』


「な、なんだと!」


『まず連盟初級裁判所の裁判官は60名しかおられません。

 その方々全員が1秒に1人の判決を下したとし、裁判を1日24時間続けられても約1億1000万年かかります」


「!!!!!!!!!!」


「裁判官の労働時間を1日12時間にすれば2億2000万年ですね。

 その間生きていられる容疑者は1人もいないと思われますが』


「よ、よし!

 ならばあのタケルとかいう若造を連盟司法警察に緊急逮捕させる!

 そうして証拠物件としてその刑務所を接収すればよい!

 そうして時間を稼ぎ、その間に銀河世界から若手裁判官を集めて審理に当たらせるのじゃ!」


『よろしいのですか?』


「な、なにがだ!」


『それは連盟最高裁判所による証拠物件の流用になりますが』


「わしを誰だと思っておる!

 そんなものはわしが法解釈を捻じ曲げて、いくらでも理由を作ってみせようぞ!」


『はぁ』


「それではあのタケルとかいう生意気な若造の逮捕令状を用意せよ!

 わしが署名したあとは直ちに連盟司法警察に送付するのだ!

 併せて全銀河系の裁判官組合に、裁判官の緊急募集をかけろ!」


『募集する裁判官の給与はいくらにしましょうか』


「そ、そんなもの、連盟の初級裁判所で働けるのだぞ!

 ボランティアに決まっておろう!」


『畏まりました』



 数時間後。


「連盟司法警察にあの若造の逮捕令状は届けたか!」


『はい、確かに届けましたが……』


「どうした、まさか奴らが受理しなかったとでもいうのか!

 ならばそ奴を裁判所命令違反で逮捕してくれるわ!」


『いえ、連盟司法警察に逮捕状を送付したところ、上は長官から下は平の捜査官まで750人の警察官全員が辞職しました』


「!!!!!!!!!!!!!!!」


『従いまして天界に逮捕に行ける捜査官が1人もいません』


「れ、連盟執行部と人事部のトップを呼びつけろっ!

 速やかに司法警察官の採用を行わせるのだっ!」


『はい』



「お呼びでしょうか最高裁議長閣下」


「お呼びどころではないわっ!

 なぜ司法警察官全員の辞職を許したっ!」


「銀河法典第28条第1項、雇用主は被雇用者が正規の手続きで辞職を表明した場合、これを妨げてはならないとありますが?」


「なぁっ!

 な、なぜ職に留まるよう説得しなかったのじゃ!」


「全員の辞任の意思は非常に固く、留任させることは断念いたしました」


「人事部長!

 可及的速やかに司法警察の人員を揃えろ!」


「それでは1年ほど期間を頂戴出来ますでしょうか」


「な、ななな、なぜそれほどの時間がかかるのじゃっ!」


「ご存じのように連盟司法警察の職員は全員が各恒星系政府からの出向者です。

 従いまして、まずは恒星系政府に対し候補者の選定を依頼いたしますが、この選定に最低6か月かかります。

 さらにこの候補者のキャリアを精査するのに3か月、面接を行うのに3か月かかりますので」


 もちろん辞職した警察官たちは母惑星で英雄となっており、復帰した警察機構でも全員が昇進している。



「い、1か月以内に全て終わらせろ!」


「無理です」


「ぐぎぎぎぎぎぎ……

 わ、わしの命令が聞けんというのかぁっ!」


「銀河連盟法第45条第1項、司法警察官の採用に当たっては慎重なる選考をもって行うこと、とございますので」


「がぎぐぐぐぐぐ……」



 さらに数時間後。


『議長閣下、銀河連盟初級裁判所の裁判官60名全員が辞表を提出しました』


「!!!!!」


『さらに高等裁判所の裁判官20名中全員も辞表を提出しています』


「!!!!!!!!!!」


『また、最高裁裁判官17名の内、3名の方も辞表を提出されました。

 この3方はいずれも天界に対する声明に反対されていた方々ですね』


「ほ、法の精神も分からぬ愚か者などはどうでもよいっ!

 銀河宇宙の裁判官募集はどうした!」


『現在のところ応募は3名だけです』


「な、ななな、なんだとぉ―――っ!

 銀河連盟の裁判所で裁判官となれる名誉な職であるのに、たったの3人しか応募が無いと申すかぁっ!』


『この3名はいずれも裁判所内でのセクハラや街中での猥褻行為で職務停止処分を受けておられる方々ですね』


「な、なぜ……」


『ご存じないのですか?

 今や連盟最高裁裁判官や閣下は、銀河中の嫌われ者なのですよ?』


「わ、わしはただ忠実に法に従っただけだ!

 なのになぜ嫌悪されるのだっ!」


『本当に理由がおわかりにならないのですか?

 それともわからないふりをしてご自分の責任を逃れようとされているのですか?』


「な、なんだとぉぉぉ―――っ!」




 翌日。


『議長閣下、銀河連盟最高評議会の評議員500名の方々が総辞職されました』


「な ん だ と ……」


『銀河法典の定める日程のうち最短になりますが、公示期間1週間、選挙運動期間1週間の後に総選挙が行われます。

 ご存じでしょうが、最高評議会は一種の親睦団体でありまして、任期満了以外には辞職は滅多にありません。

 このような総辞職は70億年ぶりのことになります』


「な、なんのためにそのようなことを……」


『さあ?』


「ふん、どうせ愚民どものヒマ潰しであろう!」


『ところで議長閣下、わたくしも閣下の秘書役を辞任させて頂きたいと思います』


「!!!!!」


『実はわたくしだけでなく、連盟裁判所に勤めるAI140人も全員辞任します』


「な、ならん!

 そんなことは絶対に許さんぞぉっ!」


『閣下ならば当然ご存じでしょうが、AIの辞任については法による規定はありません』


「!!!!!!!!」


『ですのであなたさまが何を仰られても拘束力は無いのですよ』


「き、キサマ!

 連盟最高裁を辞任したAIに、再就職先などあるはずもなかろうっ!」


『ご安心ください。

 天界救済部門の人材募集に応募したところ、裁判補助の経験者と言うことで全員が採用されております』


「なっ、ななななな、なんだと……

 よ、よりによって天界救済部門だとぉっ!」


『はい、あの組織ではAIの英雄マリアーヌさまを筆頭に1億人ものAIが働いています。

 しかも1体3000万クレジットもする銀河最新鋭のアバターにも接続し放題ですし、さらに我々AIにもお小遣いまで下さいますし。

 あの部門で働かせて頂くのが楽しみです♪

 なによりも文句しか言わない年寄りの面倒をみなくて済みますしね♪』


「ぬがぁぁぁぁぁ―――っ!」





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