*** 153 王都商工会 ***
「いらっしゃいませ、入学希望ですか?」
「ああ、俺とこのガキの2人だ」
「それではそちらのマクナスさんにはまず服を支給させていただきます」
「!!!」
「あちらの部屋に入って着替えて来てください。
同時に体も綺麗になりますので驚かないでくださいね」
「なあ、なんであの受付の兄ちゃん俺の名前知ってたんだ……」
「だからこの街はすげぇって言ったろ」
「そ、それに、この服俺にぴったりなんだけど……」
「そんなことでいちいち驚いてたらこの街で暮らしていけねぇぞ」
「う、うん」
「それじゃあ朝メシでも喰おうか」
「な、なんだよこの粥!
なんでこんなに旨いんだよ!」
「はは、この街のメシはどれも抜群に旨ぇからな。
さて、喰い終わったら授業だ。
さっきも言ったが絶対に寝るなよ」
「う、うん……」
教室には10歳から30代後半ぐらいまでの男たちが10人ほどいた。
どうやら最初の授業はアニメの童話鑑賞らしい。
「俺の言ったことを守って寝ずに見ていたようだな」
「へへ、面白かったんでつい夢中で見ちまったよ。
それにしても絵が動くなんて不思議だよなぁ。
でもよ、よく分かんねえこともあったんだ」
「なにが分からなかったんだ?」
「あの動く絵の話なんだけどさ」
「あれは『あにめ』って言うそうだぞ」
「『あにめ』か……
あの中で兎だの狐だの狼だの猿だのがみんなで喰いもの集めてたろ。
だけどさ、あの中で一番強そうな熊とか狼がみんなと喰いもの分け合ってたじゃねぇか。
なんで他の奴らをぶん殴って独り占めしようとしねぇんだ?」
「この街でしばらく暮らしてたら、お前ぇにもそのうち理由がわかるようになるかもな」
「そうか……」
「午後の授業も真面目に受けてたようだな」
「へへ、これ見てくれよ、これ『まくなす』って書いてあるんだぜ。
俺、自分の名前を自分で書いたのって初めてだ♪」
「そうか……
そりゃあ良かったな……」
「それにしてもすっげぇ豪勢な晩メシだな!
商会長でもこんな旨いもん喰ってなかったろうぜ!」
「さて、喰い終わったか?」
「ああ、これ以上喰えねぇよ」
「それじゃあ受付に行って給金を貰おうか」
「給金?」
「あー、言ってなかったか、ここでは学校で真面目に授業を受けると給金を貰えるんだ」
「!!!」
「まあたったの大銅貨3枚(≒3000円)だけどな」
「お、俺奴隷商で働いてたときも給金なんか貰ったことねぇぞ。
年に一度新年の休みに大銅貨1枚貰えただけだぞ!」
「だから居眠りなんかしないでちゃんと授業を聞いてろって言ったろうが」
「う、うん……」
「さて、給金持って屋台村に行くか。
俺は『びーる』を飲むが、お前ぇはどうする?」
「『びーる』って旨いのか?」
「俺みたいに歳を喰うと旨いんだがな。
だがお前ぇはまだ飲まねぇ方がいいかもだ」
「なんでまだ飲まねぇ方がいいんだ?」
「男は22歳ぐれぇまで成長して背も伸びて行くんだけどよ。
酒を飲むとその成長が悪くなるんだと。
ついでに頭も悪くなるそうだし。
だからお前ぇはフルーツジュースにしといた方がいいかもだ」
「そ、そうか。
でもそのビール、一口だけ飲ませてくれよ」
「はは、一口だけだぞ」
「わっ!
なんだこのビールって!
こんなにニガいのかよ!」
「それならこっちの『ぐれーぷじゅーす』にしとけや」
「うっわー、この『ぐれーぷじゅーす』ってムチャクチャ旨いわ!
こんな旨いもんがこの世にあったんだなぁ。
しかもこれが銅貨1枚で、そっちの『びーる』は銅貨3枚かよ。
なら『ぐれーぷじゅーす』のほうが断然いいな♪」
「ははは……」
その後2人は風呂に入り、またマクナスくんはお貴族さまみたいだと大感激していた。
そうして2人は学校付属の宿泊施設の個室にそれぞれ泊まったのである。
翌朝。
「どうだ、よく眠れたか」
「ああ、なにしろ鍵があったからな。
なんかすっげぇ安心してぐっすり眠れたよ」
「そうか」
「なぁおっちゃん、この街に入るように勧めてくれてありがとうな。
こんなすげぇ街に住めるんだったら俺いくらでも頑張れるよ」
そして3日後。
「なあおっちゃん、字が読めるって面白いな。
俺、少しなら教室の絵本も読めるようになったぞ!」
「そうか、お前ぇはもう大丈夫そうだな。
それじゃあ俺は農場の仕事に移るわ」
「な!
なんだよなんだよ!
もうサヨナラかよ!」
「いや、実は学校の日当は大銅貨3枚だが、農場の仕事は1日大銅貨6枚だからな」
「!!!」
「しかも農場で1年頑張って働くと畑を1反と家を貰えるんだ。
その間はメシも喰わせてもらえるし。
しかも最初の3年間は税が無いし、その後も税はたったの1割なんだとよ」
「!!!!!」
「だが、これでもう会えなくなるわけじゃねぇぞ。
俺は毎晩あの屋台街でビール飲んでるからよ。
お前ぇはグレープジュース飲みに来いよ」
「そうか……
おっちゃんは3日も俺に付き合ってくれたんだな……」
「そうそう、学校でもう少し頑張って卒業資格を貰えると、今度は中等学校とか高等学校とかにも入学出来るんだとよ。
そこでは麦や野菜の作り方も教えて貰えるし、そうなりゃあお前ぇは村長さまだ。
給金は日に銀貨1枚だぞ」
「お、俺が村長だって……」
「それでお前ぇが俺が畑を貰った村の村長になったらよ、そんときゃあ俺にビール奢ってくれや」
「う、うん……
お、俺まじめに勉強して村長になって、おっちゃんにビール奢る……
ううっ……」
「はは、泣くな泣くな」
「だ、だってよ、俺他の人に親切にしてもらったのって生まれて初めてだったんだよ……」
「そうか、俺も他人に親切にしたのは初めてだからおあいこだな」
「は、はは……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「マリアーヌ、見事だよ。
このアブルっていうおっちゃんってAIのアバターなんだろ」
『さすがでございますタケルさま』
「そうか、若くて犯罪歴が無い子が来た場合は、ああやってアバターにサポートさせてるんだな。
あの教室にいた大人たちも全員アバターか」
『はい』
「実に素晴らしいアイデアだ。
お前の娘たちにも礼を言っておいてくれ」
『実は娘たちもヒューマノイドと深い交流が出来ているので喜んでおります』
「そうか……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
また或る日の定例幹部会にて。
「マリアーヌ、惑星アルファ第1大陸の状況は順調だな」
『はい、ですがまだまだ各国には戦力が残っていまして、秋の収穫期に税収がゼロだと知れた時の混乱がやや大きいかと懸念されます』
「それは最初に領兵を数十名捕獲した後に、警戒してそれ以上侵攻して来ない国がそれなりにいるっていうことだな」
『はい』
「それじゃあもう少し王都民を引き付けて各国を刺激してみようか。
そうだな、目玉商材は塩にしよう。
塩ならもう海水から『抽出』して1兆トンぐらい用意してるからな。
しかも炭酸マグネシウムやグルタミン酸を少量添付して、食塩じゃなく食卓塩にしてるし。
各商業街から王都の商工会に売り込みに行かせてくれ」
『はい』
「その一方で、活動を第2大陸から第4大陸まで広げていってくれ」
『畏まりました』
「こんにちは」
受付らしき分厚いカウンターの後ろには若い男が座っていた。
「誰だお前は、ここは王都商工会本部だぞ」
「わたくしはタケル王国商業街の者です。
今日はこの国の王都の皆さんに我が国の商品を買って頂きたいと思って来ました」
タケル王国から来たという男は、見事な仕立ての服を着ていた。
貴族服のような派手な装飾こそ無いものの、染めムラも糸のほつれも無い素晴らしい服である。
「タケル王国って……
あ、あの王都から2キロばかり行ったところにあるデカい城を建てた国か!」
「はい」
「そ、それで何を売りに来たんだ」
「我々は非常にたくさんの物を売っているのですが、今日はその中でも特に塩をお勧めさせて頂きたいと思いまして」
「塩だと。
この国では勅令で塩の販売は塩ギルドが独占しているんだぞ」
「はい、そのようですね。
ですが、その勅令は『販売』を貴国の塩ギルドに独占させて冥加金を払わせるというものです。
わたくし共はタケル王国の商人ですので、勅令には該当しません。
さらにあの勅令で規定されているのは『販売』だけであって、『購入』についての規定は無いはずですが」
「それは確かにその通りだが……
それでお前の所では塩をいくらで売るんだ。
言っておくがこの王都での塩の販売価格は1キロ当たり銀貨1枚(≒1万円相当)だぞ。
大銅貨9枚(≒9000円相当)程度ならわざわざお前のところで買ったりしないからな」
「はは、わたくし共の商業街では、塩1キロは銅貨2枚(≒200円相当)で売られておりますよ」
「な、なんだと!」
「因みにこの王都では麦も1斗(≒15キロ)で銅貨50枚(≒5000円相当)だそうですが、私共の街では1斗当たり銅貨5枚(≒500円相当)で売られております」
「!!!!!」
「もちろんこの価格は固定価格でありまして、一切の値引きは致しませんが」
「そ、そのようなことを言って、塩も麦も粗悪品だろう!」
「確かめてみられますか。
こちらが塩の1キロ袋、そしてこちらが麦の1升袋です。
こちらの器に出してお調べ下さい」
「な、なんで塩も麦もこんなに白いのだ……」
「はは、我が国では塩や麦の品質には自信を持っておりますので」




