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*** 151 勅令 ***

 


「ときに宰相、かの城から挨拶状とやらが届いていたというのは真か」


「そ、それは……」


「侍従長」


「はっ、陛下」


「侍従たちを20人ほど宰相の執務室に送り込み、その挨拶状とやらを捜索させろ」


「ははっ」



 10分後。


「陛下、たぶんこちらがその挨拶状かと……」


「宰相よ、なぜこれを余に見せなかったのだ」


「そ、それは間違いなくたちの悪いいたずらかと思いまして……」


「しかもそなたはこの書状を隠蔽しようともしていたようだの」


「…………」


「近衛兵、こ奴を別室に軟禁せよ」


「はっ」



「国軍将軍」


「はっ」


「配下の斥候部隊3名を商人に偽装してかの城に派遣せよ。

 軍監として文官2名も付け、途中までは国軍1個分隊に護衛させるものとする。

 彼の城内部の様子を偵察させて来い。

 よいか、まずは敵対することなく、街や城の偵察を徹底させろ」


「はっ!」


「また、隣国ボツリヌスとの国境沿いに集結させている国軍のうち半数を密かに戻せ。

 侵攻計画は一時凍結する。

 あのように王城近くに脅威が出現した今、侵攻どころではなくなったわ。

 また、王都とあの城の中間地点に陣地を構築し、それ以外にも王都周辺6か所に陣地を構え、あの城よりの襲撃に備えよ」


「ははっ!」



(なあマリアーヌ、あの城の戦力は実質門番のアバター1人だって知ったらこいつら驚くだろうな)


(たった城ひとつと商業街だけで紛争をひとつ凍結させられたかもしれませんね)


(ボツリヌスとかいう隣国の情勢はどうなってる)


(衛兵隊が次々に襲撃して来ていますが、片端から捕えています。

 その動きが国軍にも波及しつつあるようで、国境沿いの侵攻陣地から一部の軍を呼び戻し始めているようですね)


(はは、偵察でも襲撃でもどっちに転んでも紛争凍結か)


(はい)


(万が一他国に侵攻を始めた奴らがいたら、戦闘開始直前に全軍を捕獲しておいてくれ)


(畏まりました)




「陛下、偵察隊が帰還しましたが、いかがされますか」


「ここへ呼べ、この場で報告させよ」


「はっ」



「……ということでございまして、かの商業街では多くの商品が大量に売られておりました」


「鉄製の武器が売られていたと申すか……」


「残念ながら金貨50枚(≒5000万円相当)と非常に高価であったため購入は出来ませんでしたが、店内には数百の鉄製武器が陳列されておりました」


「ふむう、ありったけのカネを集めて贖うか……」


「陛下、発言をお許しくださいますでしょうか」


「この場では自由に発言を許す」


「はっ、ありがとうございます。

 商業街には兵の姿は無かったとのこと。

 この上は国軍1個師団1000名にて攻め込み、鉄製武器をすべて鹵獲すべきかと」


「城内に鉄製武器を備えた兵5000がいたとしたらなんとする」


「!!! そ、それは……」


「よいか、敵軍の規模、軍備の詳細が分かるまで、軍事行動は厳禁とする。

 配下たちに勅命として徹底しておけ」


「はっ……」


「それで遠征病と貴族病の特効薬は入手したのか」


「はっ、これに」


「宰相補佐官よ、城内の特に重篤な者たちにこの薬を与え、薬効を確認せよ」


「はっ」


「それにしても4人分の特効薬がわずか銅貨4枚(≒400円相当)とは……

 国軍の両病罹患率は如何ほどか」


「はっ、兵の半数近くが両病のどちらかまたは両方に罹患しております」


「ということは、この特効薬を大量に得て兵に飲ませれば相当な戦力の嵩上げになるの」


「御意」


「ところで麦は1斗(≒15キロ)で銅貨5枚(≒500円相当)、塩が1キロ銅貨2枚(≒200円相当)と申したな」


「はっ」


「王都での麦と塩の価格はいくらか」


「はっ、麦は1斗銅貨50枚で、塩は1キロ銀貨1枚(≒1万円相当)でございます」


「麦は10倍、塩は50倍か……

 麦と塩は改めたのか」


「どちらも真っ白で極上の品でございました」


「そうか……

 それで、かの商業街では鉄製武器は高価だったものの、青銅製の剣や槍、革鎧は非常に安価だったと申したな」


「はっ、ただ少々気になることも……」


「申せ」


「すべての武器防具に国内各貴族家の紋章がついておりました」


「それらの武具は贖ったのか」


「はっ、これに」


「ふむう、確かにこれはニンジーン侯爵家の紋章であるの。

 こちらはダイコーン伯爵家か。

 ま、まさか……

 宰相補佐官!」


「はっ!」


「両家領地に勅使を派遣せよ!

 まさかとは思うが両家領都近くにタケル王国の城が無いか、また領兵が捕らえられていないか確認させよ!

 加えてタケル王国には当面の間一切の手出しを禁ずるとの勅命も伝えるように」


「ははっ!」


「さらに国内全貴族家の王都邸に対し、領地の軍の現勢力を報告するよう、また、領都近隣にタケル王国の城が出現しておらぬか調査せよとの勅令を出せ。

 さらに周辺各国に派遣しておる草に対し、各国でタケル王国の活動が見られるか否かも報告命令を出せ」


「ははっ!」




 5日後。


「陛下、ニンジーン侯爵家、ダイコーン伯爵家に派遣していた勅使が帰還致しました」


「宰相補佐官、近衛隊将軍、国軍将軍を呼べ。

 屋上庭園にて報告を聞く」


「はっ」



「まずニンジーン侯爵家の状況について報告せよ」


「はっ。

 陛下のお見込み通りニンジーン侯爵家領都から2キロほどの地にタケル王国の城がございました」


「やはりあったか……

 それで侯爵家は如何しておる」


「は、当初は何もしていないと言い張っておりましたが、侯爵家紋章のついた武具を見せ、領軍を全て招集して視察を行うと通告したところ、既に領軍3000のうち2000を失っていたことを自供いたしました」


「むう、やはりか。

 それでダイコーン伯爵家はどうであったか」


「は、確かに領都から2キロほどの場所にタケル王国の城がございましたが、驚くべきことにダイコーン伯爵殿はこれに気づいておられなかった模様です」


「さすがは無能で知られる現当主よの。

 先代は優秀な軍指揮官であったのにのう」


「それで伯爵家紋章付きの武具を見せ、王都近郊のタケル王国商業街で大量に売られていることを知らせると慌てて領軍を招集されていましたが、既に司令官を含む全軍が行方不明になっておりました」


「なんと……」


「陛下、両家は勅令で定められた軍の定員数を満たしておりませぬ。

 懲罰は如何致しましょうか」


「今は非常時ぞ。

 懲罰よりも定員数を回復するよう伝えよ。

 当座は奴隷兵で構わぬが、早急に訓練の上領兵隊に組み込むよう勅令を出せ」


「はっ」


「宰相補佐官」


「はっ」


「貴族病と遠征病の特効薬の薬効はどうだったか」


「は、特に症状が重篤な者5名に薬を与えたところ、3日で全員が完治いたしました」


「むう、やはり本物であったか……

 宰相補佐官よ、確か城内には物品購入部というものがあると聞いておるが、如何なる業務を行っておるのか」


「は、貴族家より上納された麦を王都の御用商人に売り、代価として得た貨幣にてワインや肉などの購入を行っている部署であります」


「その物品購入部より10名ほどを選抜し、城内にある貨幣を用い、タケル王国商業街にて物品購入を行わせろ。

 行き帰りの護衛には国軍1個小隊を充て、購入した品の輸送には輸送部隊を充てる。

 購入優先品目については追って知らせよう」


「はっ!」


「また、今秋の税上納には麦だけでなく貨幣も認めるとの通達を出せ。

 この機会に麦や塩、武器防具などの戦略物資を出来得る限り溜め込むのだ」


「「「 ははっ! 」」」



 数日後。


「陛下、周辺国に放っております草よりの連絡が届いております」


「今すぐこの場で報告せよ」


「はっ、周辺6カ国でもやはり王都近郊、上位貴族領周辺にタケル王国の城が出現しておりました」


「やはりな……」


「その周辺国の内5カ国では、王都警備隊がタケル王国を襲撃したために捕らえられ、その報復として国軍数個師団が城に攻め込みましたが、全滅した模様です。

 これら5カ国では国境沿いの砦から国軍を呼び戻しているとのことでした。

 残り1カ国につきましては、当初警備隊を50名ほど失ったものの、その後は見張り櫓を建てるのみで静観しているとのことでした」


 テトロ・ド・トキシン国王は膝を叩いて歓喜した。


「そうか!

 これは、特効薬や戦略物資を増やさず、兵のみを消耗しておる阿呆な隣国に対してあらゆる点で優位に立つ好機ぞ!

 収穫期が終わった後には続けて3つほど周辺国を滅ぼしてくれるわ!」



(あーあ、もう農村の奴隷はすべて保護するか収監しちゃったからなぁ。

 収穫期が終わるどころか収穫そのものがほとんど無いんだけど。

 納税出来ずに処刑されることを畏れた農場主たちもほとんど逃げちゃってるし。

 なあマリアーヌ、この奴隷保護と商業街の展開ってやっぱり効果的だよな)


(はい)


(それじゃあそろそろ城や商業街を子爵領や男爵領にも広げていこうか。

 それから他の大陸でも始めよう)


(畏まりました)





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