表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/248

*** 150 トキシン王国 ***

 


 また別の街では。


「侯爵閣下のお邸より高い建物を建てた咎で詮議する!

 街の責任者を出せっ!」


「なぁ、なんで詮議するのにそんなにたくさんの荷車を持って来たんだ?」


「な、なにっ!」


「あーそうか、お前ら盗っ人だな。

 そうやって領兵を騙って街の物資を盗み出すつもりか」


「な、なななな……」


「粥ぐらいなら喰わせてやるからさ。

 そんなみっともないことしてないで大人しくしてろや」


「も、もう許せんっ!

 者共こ奴を成敗せぇぃっ!」


「「「 応っ! 」」」


「はいアウトー」


 また領兵が20人ほど消えた。




『このようにどの街でも似たようなことが起きております』


「なるほどな、農民も街民もE階梯が低くて治安は悪いが、最悪なのは貴族家配下の兵たちのようだな」


『はい』


「ならばこの作業は続けていこうか。

 同時に貴族連中の戦力を削ぐことにもなるし。

 それがひと段落したら各国の王都近郊にも街を造ろう。

 そんなところに突然城が出来れば、各国とも侵略どころではなくなって軍をウチの城の周囲に集めるだろうから、紛争の減少にも繋がるだろうな。

 その際にはタケル王国の俺の名前で、これから近くに街や城を造るぞって挨拶状を出しておいてくれ」


『挨拶状の宛名は誰宛てにしましょうか』


「そうだな、国王と宰相の連名にして宰相の執務室に転移で届けておくか」


『畏まりました……』




 トキシン王国の王城にて。


 トキシン王国第8代国王テトロは、3階建ての城の屋上に庭園を造らせ、天気の良い日にはそこで茶を喫するのを日課としていた。

 だが或る日、国王陛下が屋上庭園に上がると、2キロほど離れた場所に見たことも無いほど巨大な城が建てられていたのである。

 その城を囲む城壁も左右に果てしなく続いていた。


「な、なんだあの城は!

 なんであのような物がわしの王城近くに建てられているのだ!

 それも昨日まではあのような物は影も形もなかったではないか!

 ええい! 宰相を呼べっ!」


「はっ!」



「宰相!

 なぜあのような巨大な城がこのように近くに建てられておるのだ!」


「は、全くもって不明でございます‥‥…」


(昨日わたしの執務室に挨拶状とやらが置いてあったが……

 タチの悪い冗談だと思って無視していたが、まさか本当に……

 金銀の箔押しまである見事な紙だったので取っておいたが、焼き捨てておけばよかった……)


「近衛兵、衛兵隊に命じて何事か至急調べさせて参れっ!」


「はっ」



「そ、それでは陛下、わたくしは執務に戻ってもよろしいでしょうか……」


「ならん!

 あの城以上に重要な執務などあるはずもなかろう!

 お前はこの場に近衛将軍と国軍将軍を呼び出し、余の前で対策を立てるのだ!」


「は……」


 近衛将軍も国軍将軍もこの屋上庭園に呼ばれるのは初めてであり、かなり緊張している様子だった。

 だが、それも彼方に聳える巨大な城を見るまでの話である。

 2人は茫然と城を眺めた後、あのように巨大な城が造られるまでなぜ気づかなかったのか追及されたときに、なんと言い訳をしようか必死に考えていた。




 衛兵隊30人ほどがタケル王国の城の門前に到着したようだ。


「そこな門番!

 この城の責任者を連れて来い!」


「誰だいあんたら」


「な、なんだとぉっ!」


「誰だかわからん奴を城代閣下に会わせるわけにはいかんなぁ」


「わ、我らはトキシン王国衛兵隊の者だっ!」


「あんたらが本当にその衛兵隊だってどうしてわかるんだ?」


「な、ななな、なんだと!

 門番風情がなんという無礼な口を利くのだっ!

 成敗するぞっ!」


「なあ、あんたが俺に剣を向けたら、それはトキシン王国がウチの国に戦争を仕掛けたっていうことになるぞ。

 あんたみたいな下っ端が勝手にそんなことしていいんか?」


「も、もう許せんっ!

 わしの剣のサビにしてくれるわっ!」


 衛兵隊長が剣を抜いて門番に切りかかった。


「はいアウトー」


 衛兵隊長が消えた。


「なっ!

 た、隊長殿をどこへやった!」


「ん?

 殺人未遂の現行犯で逮捕したぞ。

 今ごろはウチの国の留置場の中だな」


「隊長殿を返せっ!」


「あんた俺の話聞いてたのか?

 ここはタケル王国の城だぞ。

 あんたらの国では城を襲って来た盗賊を捕えた後に、そいつの子分が親分を返せって言って来たら返すのか?」


「な、なんだとぉっ!」


(副隊長殿、この城を調べて来いというのは国王陛下直々の御命令ですぞ)


(わ、わかっておるわ!)



「そもそもこの城は誰が建てたのだ!」


「タケル王国のタケル王陛下だ」


「なぜわがトキシン王国の領土内にこのようなものを建てたのだ!

 それこそ戦争行為だろう!」


「なぁ、ここがトキシン王国の領土だって誰が決めたんだ?」


「そ、そのようなこと、我が王城の周辺の地であるからには当然我が国の領土であろう!」


「なんだ、自分たちの城に近いから勝手に自分の領土だって言い張ってるだけか」


「な!」


「だったら、この城はウチの国の物だから、お前が今立ってる場所もウチの国の領土だな」


「ななな……」


「だいたいお前たちだって、昔勝手にこの地に城を建てて『ここはウチの国の領土だ!』って言い出したんだろ。

 だったらウチの国が今ここに城を建てて『ここはウチの国の領土だぞ』って言って何が悪いんだ?」


「な、なんだとぉ!」


「そりゃああんたらの王都みたいに城壁で囲ってあって、その中に国の民が住んでたらそこがあんたらの国だって言うのはわかるけどさ。

 でもこの城がある地には誰も住んでなかったし壁で囲まれてもいなかったぞ。

 だから俺たちも城を造って俺たちの国にすることにしたんだけどな」


「ええい!

 お前のような下賤者では話にならん!

 城代とやらを出せ!」


「だったら城代閣下宛てに面会依頼状を持って来いよ。

 それが礼儀ってもんだろう」


「な、なに……」


「なんだったら紙とペンも貸してやるから今ここで書いてもいいぞ?」


「……あぅ……」


「なんだあんた衛兵隊副隊長のくせに字も書けないのかよ」


「な、ななな、なんだとぉっ!」


「だいたいだな、ウチの国王陛下はあんたらの国王と宰相宛てに挨拶状を出しているぞ。

 この地に城を建てますので今後はよろしくって。

 それも宰相の執務室に直接届けてだ」


「!!!」


「なのにトキシン王国じゃあ国王の返書も持たせずに、あんたらみたいな無礼な下っ端をよこしただけかよ。

 早く帰って国王に返書ぐらい書けって言ってやれや。

 ついでにそれが礼儀だって教えてやってな」


「も、もう許せんっ!

 者共こ奴を成敗して、門前に首を晒すぞっ!」


「「「 おおおぅっ! 」」」


「はいアウト―」


 30人ほどの衛兵たちが消えた。

 だが、やや離れたところに3名ほどの衛兵服を着ていない者たちもいたのである。



「あんたらはどうする?

 早く帰って宰相や国王に報告した方がいいんじゃないか?」


「そうするとしようか。

 だが後悔するなよ。

 これは我がトキシン王国に対する明白な敵対行為ぞ」


「いや俺は単に殺人未遂犯を捕まえただけだし、最初に敵対したのはそっちだぞ?

 俺は平和裏に話をしてただけだったし」


「ぬ……」


「今度寄越す奴はもう少しまともな奴を寄越せってトキシンとかいう奴に言っておけや。

 それからこの門を入ってすぐのところは商業街になってるからな。

 けっこういろんなものを売ってるから、買い物に来るなら歓迎するぞ。

 ただし、この門から先は武装も騎乗も禁止だ。

 武器は門外に残した部下に預けてもらうことになるからな」


「「「 ………… 」」」




「陛下、調査隊見届けの役人が帰城いたしました」


「よ、よし、わたしの執務室で話を聞こう」


「お前はここに居ろと命じたであろう! 

 それともなにか疚しいことでもあるのか!」


「そ、そのようなことは……」


「見届け役人をこの場へ連れて来い。

 全員の前で報告させる」


「はっ」




「国王陛下、宰相閣下、将軍閣下方、あの城の調査結果は以上の通りでございます」


 国軍の将軍が吼えた。


「衛兵隊30名もが捕縛されたというのかっ!

 それもたったひとりの門番に!」


「はい」


「だが、一夜にしてあれほどの城を建てるほどの者共だ。

 手も触れずに衛兵30名を捕縛する秘法も持っているのかもしらん。

 その秘法が手に入れば、隣国など簡単に滅ぼせような……」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ