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*** 149 荷車持参調査隊 ***

 


 その日の夕刻の幹部会にて。


「オーキー、オーク戦士たちは待ち望んでいた戦闘任務を終えてどんな様子だった」


「それが……

 敵があまりにも弱かったのでがっかりしていました」


「そうか……」


「なにしろ盗賊も村人も領兵も街人も、数を頼んで武器を持っているだけで獲物は逃げていくと思っているようなのです」


「まあ古代の戦いって作戦も何も無いから、ほとんど数が多い方が勝ってたっていうしな」


「それで最初の内は何人かの相手をしてやっていたのですが、3人ほど倒すと残りが全て逃げ出して行くのですよ。

 それを追いかけて重層次元倉庫に転移させるのが実に面倒だったそうです。

 ですから襲ってきた段階で集団になっているうちに転移させるようになって、効率が上がりました。

 ですが、戦士全員が不完全燃焼で項垂れておりまする」


「まあさ、銀河最強の奴でもレベルは58しかないからな。

 そんな奴らだったら1000人はいっぺんに相手にしないと張り合いが無いんじゃないか。

 要はいつもやってる仲間同士の組手とか、オーキーやニャイチローとの対戦の方がよっぽどやりがいがあると思うぞ」


「それもそうですな。

 荷車隊隊長のオクタビアヌスによく言っておきましょう」


「な、なあ……

 なんかそいつの名前だけ毛色が違ってないか?」


「実は日本名で『オク』が付く名が無くなってしまいましたので、地球名もつけ始めておりまする」


「他にはどんな名前の奴がいるんだ?」


「そうですな、オクトーバー、オークション、オークランドなどがおりますな」


(アスレチックスが怒ったりしないよな…‥)


「そうそう、語感が気に入ったと言ってオクトパスという名をつけた者がいたのですが……」


「!!!」


「その後地球での意味を知って落ち込んでおりました」


「べ、別に名前変えてもいいんじゃないか……」


「いえ、最近では開き直って、組手の際に変化魔法で手足を8本にして戦っておりまして、なかなかの強者になって来ておりまする」


「そ、そうか……」


(吸盤とかもつけてるのかな……)


「だが物足りないからといって腐ったりせずに、任務だと思って明日からも続けてくれな。

 なにしろお前たちは今日1日で40万人も捕獲したんだから。

 これからは襲撃犯は徐々に減っていくだろうが引き続き頼むよ」


「それはもちろんでございます。

 お役に立てる任務を疎かにする者など1人もおりませぬのでご安心ください」


「ありがとうな……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「なあマリアーヌ、商業街作ってから3日ばかり経つがどんな具合だ?」


『商業街の様子をダイジェスト映像にまとめましたがご覧になられますか』


「是非見せてくれ」



 武装した兵らしき者たち20人ほどが商業街の門に近づいて来た。

 先頭の兵だけは騎乗して剣を佩き、残りは槍を持った徒士である。


 先頭の兵が門前の衛兵に大声を出した。

(因みに門番はもちろんAIの男性型アバターである)



「この街はどの貴族家に属する街であるか!」


「この街はタケル王国に属する街だ。

 タケル王国には貴族はいないので、ここは直接国に属する街になる」


「タケル王国だと!

 我がアホダラ王国のポンカス伯爵家の地にこのようなものを勝手に造りおって!」


「いや、ここには誰も住んでいなかったぞ?

 ここがアホダラ王国ポンカス伯爵家の地であるという証拠はどこにあるんだ?」


「き、キサマ、ポンカス伯爵家領兵分隊長のわしに向かって無礼な口を利くか!

 不敬罪で処罰するぞっ!」


「あんたらの国では不敬罪は貴族相手に成立するはずだが、あんたは貴族なのか?」


「な、なに!」


「貴族でもないあんたが不敬罪を口にすると、あんたらの国だと地位詐称で捕縛されるんじゃないか?」


「こ、この無礼者めぇっ!

 衛兵風情ならば領兵分隊長であるわしに対して敬意を払えと言っているのだ!」


「いやあんた俺の話聞いてたのか?

 ここはタケル王国の街で、俺はタケル王国の民だから例えあんたがポンカス伯爵本人でも敬意は払わんぞ?」


「こ、こここ、この無礼者めがぁぁぁ―――っ!」


 分隊長が剣を抜いて切りかかって来た。

 額が青筋だらけになっている。


「はいアウトぉー」


 分隊長が馬ごと消えた。


「なっ!

 き、キサマ分隊長殿をどこへやった!」


「殺人未遂の現行犯で逮捕した。

 今頃はタケル王国の留置場にいるだろう」


「分隊長殿を解放せよっ!」


「だから今逮捕したって言ったろ。

 解放するのは刑期が終わってからだな。

 だがまあ余罪がたくさんありそうだから、死ぬまで解放されないかもしらんな」


「な、なんだとぉっ!

 ええい皆の者!

 こ奴を痛めつけろ!

 分隊長殿の居場所を吐かせるのだっ!」


「「「 おう! 」」」


 衛兵たちが槍を構えた。


「はいアウトぉー」


 衛兵たちが全員消え、門番は何事も無かったかのようにまた門前に立っていた……



(なぁマリアーヌ、このアバターの門番って、けっこう強気だな……)


(タケルさまが門番任務に就いておられた際の言動を参考にして、皆で勉強しました)


(そ、そそそ、そうか……)




 また別の街では……


 20人ほどの兵が門に近づいて来た。

 ご丁寧に後方の兵が3台ほど荷車を曳いている。


(はは、因縁をつけて恐喝する気か……)



「開門! 開門せよっ!」


「なあ、あんた門が既に開いてるの見えないのか?」


「な、なんだと!

 貴様チョンボ伯爵領兵隊に対して無礼な口を利くかっ!」


「いや俺は普通に喋ってるだけだぞ」


「だからチョンボ伯爵閣下の領兵隊に対して敬意を払えと言っておるのだ!」


「ここはタケル王国が造った街で、俺はタケル王国に属する者だからな。

 その俺がなんであんたらに敬意を払わなきゃなんないんだ?」


「こ、こここ、ここな無礼者めっ!

 成敗してくれるぞっ!」


「なああんた、それ本気で言ってるのか?

 アホダラ王国チョンボ伯爵の兵がタケル王国の兵を攻撃するっていうことは、アホダラ王国がタケル王国に戦争を仕掛けるっていうことだぞ。

 あんたみたいな下っ端がそんなこと決めていいのか?」


「も、もう許さんっ!

 皆の者、こ奴を成敗せよっ!」


「「「 おう! 」」」


「はいアウト―」


 兵たちが全員消えた。


「なっ、へ、兵をどこにやった!」


「人に向けて槍を構えたからな、殺人未遂の現行犯で捕縛した」


「なっ!」


「今ごろはタケル王国の留置場だろう」


「へ、兵を返せっ!」


「いや、裁きの場で無罪になったら解放するが、現行犯だからなぁ。

 余罪が無くても1年は牢の中だろう。

 余罪が多ければ一生出て来られんが」


「な、なんだとぉぉぉ―――っ!」


「因みにな、あんたにも分かりやすいように言うとだ。

 彼らは殺人未遂だが、あんたは殺人教唆の現行犯なんだよ。

 だからあんたも留置場行きだな」


「な、なに……」


 隊長も消えた。



「おーい、そこの荷車曳いてるひとたちー。

 あんたらはどうする?

 襲い掛かって来るなら逮捕するけど、あんたらはまだなにもしていないからな。

 そのまま帰るんなら帰ってもいいぞぉ」


「い、いったん撤退して領兵隊長殿に報告するぞ!」


「「 お、おう…… 」」


「ついでに領主にも言っておいてくれ。

 この門を入ってすぐの場所には商業街があってたくさんの品物が売られているんだ。

 今度来るときは中に入って買い物してもいいぞぉ。

 ただし、商業街では武器の携帯や騎乗は許されていないから、馬や武器は門外に待たせた兵に預けるんだぞー」


「そ、それは住民も武器を持っていないということなのか」


「もちろんだ。

 だからあんたらも安心して買い物が出来るだろう」




「チョンボ領兵長殿、という次第で、あの突然出来た街の調査に向かったところ、ブタマン小隊長殿以下17名の兵が消えてしまったのです!

 門番によれば全員が罪に問われて牢に入れられたとのことで……」


「なんだとぉっ!

 直ちに領兵隊全員を集めろっ!

 兵を取り返しに行くぞっ!」


「また、門を入ってすぐの場所には商業街があって、そこでは武器の携帯が許されていないそうでして、住民も武器を持っていないそうです」


「ならば略奪もし放題だな!」



「あの、伯爵閣下へのご報告はどうしましょうか……」


「ち、父上への報告は兵を取り返して戦利品を奪った後だっ!」


「はっ」



 こうしてチョンボ伯爵領の領兵たちも全員が捕らえられてしまったのである。

 まあ臆病者で知られる領兵長だけは邸に籠っていて無事だったが。

 それでも部下たちが誰一人帰還しないために、心労のあまり精神に異常を来しつつあるそうだ……





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