*** 147 住民E階梯銀河最低 ***
「話を元に戻すが、それでも逃げる奴隷は多いんじゃないか」
『奴隷になると額に小さな入れ墨を入れられます。
この入れ墨を持った者が行動許可証を持たずに出歩いているとすぐに捕まって罰せられます。
ですので例え脱走しても故郷には帰れませんし、森には盗賊がうようよいますので逃散は極めて困難です』
「ということは、この惑星アルファではデラみたいに食事を与えると言って奴隷を集めようとしても、全員がすぐに同意するとは限らないかもしれないんだな」
『むしろ周辺地域の蛮族と呼ばれていた民に近いかもしれません。
どうせ食事を与えられてもまた奴隷にされるのだろうと言って、移住には応じないかもしれませんね』
「奴隷たちは元々どこにいたんだ」
『60%は敗戦国から連れて来られた人たちです。
35%は奴隷狩りで攫われて来た人たちか村長や貴族に売られた孤児で、残りは奴隷同士の子孫です』
「酷いな。
それがこの星が救済必要度SSランクに指定された理由か」
『実はそれだけでしたらSランクでした。
この惑星アルファでは、それに加えてヒト族未認定世界でも住民E階梯が最低レベルです。
もし仮に詳細鑑定で罪状を決定出来たとしたら、収監者は8歳以上のほぼ全員になるでしょう。
そして、その内の70%が終身刑で、25%が禁固15年以上の刑になるはずです』
「そこまで酷いのか」
『例えばラノベによくある『行商人』という職業は、この惑星アルファには存在しません。
そんなことを始めれば、すぐに行商先の村人に襲われて商品もおカネも奪われ、挙句に奴隷商に売られてしまうからです』
「うっわー」
『同じ理由でかなり大きな街でも宿屋というものがありません。
そんなところに泊まったら、確実に夜中に殺されて財もおカネも奪われるからでしょう。
しかも盗賊は人口の15%を占めるほど多いですし』
「街道を移動する奴もいないのに盗賊なんかいるのか」
『盗賊たちは臨時に大人数の集団を形成して、村や町を襲って略奪を行い、同時に捕獲した村人を奴隷商に渡して金銭や食糧に換えます。
または、納税期に貴族領兵が最寄りの王家直轄領に輸送する麦を狙いますので、毎年納税期には各地で激しい戦闘が繰り広げられているようです』
「そうか、ということはやっぱり盗賊や貴族への餌になる商業街を作って、襲撃者を片っ端から収監していくのがよさそうだな。
それで残った子供たちにまともな教育を施して、将来は健全な民になってもらおうか」
『それがよろしいかと』
「ところで奴隷商とか奴隷狩りやってる連中は、もうそれだけで現行犯逮捕要件を満たしてるんだろ」
『はい。
奴隷所持も売買も重罪ですし、奴隷狩りも営利誘拐という重罪ですので』
「それじゃあ、奴隷保護用の街とそれに隣接する餌用の商業街を作ってから、まず惑星全域の奴隷を転移で保護し、同時に奴隷商と奴隷狩りの連中を全員逮捕しようか。
手間はかかるが、保護した奴隷にはメシを喰わせて休養させたあと、タケル王国に移住するか元の場所に帰るかを選択してもらおう。
奴隷になる前に犯罪歴があれば、牢に入るか元の場所に戻るかも選択させよう」
『畏まりました。
それでそうしたタケル王国の街はいくつ作りましょうか』
「マリアーヌの目から見ていくつぐらいがいいと思う」
『街道に沿った交通量が極めて少ないですので、最初は第1大陸の主要街近くに3000か所ほど造り、最終的には4つの大陸で30万か所は必要になるかと思います』
「それじゃあAI娘たちもたいへんだな。
何人ぐらい投入するか」
『30人ほど連れていきましょう』
「はは、それでもたった30人で済むのか。
相変わらず大した能力だ」
『痛み入ります』
「街道の交通量が少ないなら、設置する街は現地住民の街から近い方がいいかな」
『はい。
もしくは遠くからでもよく見えるように大きな塔や建物があってもいいでしょうね。
領主の城や邸より遥かに大きな」
「ははは、それで奴らのプライドを刺激するわけだ。
それなら各国の王都近郊にはより大きな城でも造るか」
『畏まりました』
「最初は各貴族の領都近郊に街を造って貴族連中の兵力を削ぐかな。
それがひと段落してから王都近郊に街を造ろう」
『はい。
それでは、各街の門番や保護奴隷の世話のためにアバター部隊1000万の出動をご許可頂けませんでしょうか』
「もちろん許可する。
そうだよな、AI娘たちって10万人で1体のアバターを共有出来るけど、逆に1人で10万体のアバターを動かすことも出来るんだよな」
『はい』
「そうそう、盗賊退治も必要だな。
オーク部隊に荷車でも曳いてもらって囮になってもらおう。
荷車を500台用意しておいてくれ。
それからまた救済部門の戦闘要員250も連れていこうか」
『畏まりました』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
3次元時間3日後、救済部門幹部会にて。
『タケルさま、第1大陸3000か所のタケル王国街の設置が終わりました』
「早いな!」
『基本の建物は既に重層次元に用意してありますし、後は転移させて道路を造るだけですので。
いくつかの小さな街は街ごと転移させていますし』
「防犯対策は大丈夫か」
『まだ門は開けていないのですが、既に3000の街にて壁を乗り越える不法侵入が1万2000件ほど発生し、9万人を現行犯逮捕しています』
「もうそんなに集まって来たのか。
はは、集客力は抜群だな」
『受け入れ準備も整いましたので、奴隷の保護と奴隷商の逮捕を始めてよろしいでしょうか』
「もちろんだ、始めてくれ」
『はい』
その日その時、第1大陸3000の主要街にある奴隷商館8000から、奴隷商会会頭とその幹部従業員たちが姿を消した。
同時に商館内にいた奴隷30万人もまた、各所のタケル王国街に保護されたのである。
「なあマリアーヌ、奴隷や奴隷商が消失して各街で騒ぎになっていないか?」
『騒動はまったくありません』
「なんでだ?」
『街民にとって、他人とは殺して財を奪えるか殺されて財を奪われるかという対象のみであって、安否を気遣うような発想は持っていませんので』
「奴隷商にも家族はいるんじゃないのか」
『この星で婚姻関係を結ぶのは王族や上級貴族だけになります。
それ以下の下級貴族は、ほとんどが奴隷か攫って来た女性に子を生ませる略奪婚でして、どうやら、子の血筋は男親からしか影響されないと考えられているようですね。
そう考えた方が都合がいいからでしょうけど。
街民では、やはり子孫を残すのは奴隷相手になるようです。
したがって、家族という概念がほとんどありません』
「うーん、聞きしに勝る酷さだ……」
『ただし、間もなく半年に一度の奴隷取引税を領主に納める時期ですので、奴隷商の失踪には領主が慌てるかもしれません』
「なるほど、それじゃあ奴隷の保護を続けてくれ」
『畏まりました……』
保護された奴隷たちは何よりもまず食事を支給された。
その後は『クリーン』の魔法を浴びて服も支給され、暖かい寝床でぐっすりと寝たのである。
翌朝、朝食後。
『タケルさま、第1大陸3000の奴隷保護施設全てで暴動が発生いたしました』
「あー、やっぱそうなったか。
死にかけた猛獣に餌をやったら、元気になった途端に襲って来たっていうカンジだな。
だから農場でも奴隷商でもほとんど食事を与えずにいて弱らせてたのか。
それで世話役のアバターたちは無事か?」
『予想されていたことですので、クラス10の遮蔽フィールドを展開していましたために全員無事です』
「それはよかった。
それで暴動の目的は?」
『ほとんどが食糧庫を襲って略奪しようとしたものと思われます。
また、その際に暴力行為の現行犯で逮捕した者たちを詳細鑑定で調べましたところ、その100%に殺人、強盗傷害、傷害致死、営利誘拐、強制猥褻などの重犯罪歴があり、90%は終身刑判決、残りも禁固15年以上の判決となっています』
「ほんとに酷ぇな。
さすが銀河最悪治安の惑星だ。
それで暴動に参加していなかった連中は?」
『直接暴動に参加せず逮捕されなかった者たちも、すぐにその場のリーダーの座、もしくは女性たちを巡って殺し合いを始めましたので逮捕しています。
この2次グループの余罪判決では70%が終身刑で、禁固刑の平均年数は14年です』
「その後の経過は?」
『次は女性たちがやはりリーダーの座を巡って薪などを武器に殺し合いを始めましたので、これも収監しています。
結果、残されたのは12歳以下程度の子供たちばかりになったのですが、今度は体の大きな子が年下の子たちを殴って配下にしようとし始めたためにこれも収監しました』
「マジ酷いな。
まるで2:6:2の法則を地で行ってるようだな」
『はい』
「それで残った子供たちは何人いるんだ」
『3000の町全体でわずかに800人です』
「30万人の奴隷を保護して、残ったのは800人だけか。
その中の最年少と最年長は?」
『最年少は生後3か月の乳児ですね。
どうやら収監された母親が乳を与えていたようです。
また最年長は6歳女児でした』
「乳児や幼児は保育園や幼稚園に入れて世話をしてやってくれ。
そこでも問題を起こすようなら隔離幼稚園に入れてくれ」
『畏まりました』
「なあマリアーヌ、これからの教育で暴力性向を矯正出来そうな子供って、何歳以下ぐらいだと思う?」
『そうですね、3歳以下ならばほぼ100%矯正可能だと思われますが、歳が上がるにつれて矯正可能性は減少して行き、12歳を超えると3%以下になると思います』
「ということは、この惑星アルファの処遇は人口の99%を収監して残った子供たちの今後に期待するしかないということか」
『どうやらそのようです』
「そうか……
それじゃあ次は農場にいる奴隷たちの保護も始めようか。
まあ結果は似たようなものだろうけど」
『はい……』




