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*** 145 デレデレ ***

 


「さてホスゲン、俺が属する社会についてだったな」


「あ、ああ……」


「夜空に光るたくさんの光は見たことあるよな」


「ある……」


「あれは全て太陽なんだよ」


「太陽とは昼間に大地を照らすあの明るいもののことか」


「そうだ、まああれが大地を照らしているから昼間なんだけどな」


「そうか……」


「そしてあの太陽の周りでは光っていない岩石と水と少しの土で出来た星が回っている。

 この大地もそうした星のひとつだ」


「なぜ回っているのだ」


「それを話し出すと長くなるからな。

 詳しくはほこらに聞くかタケル王国の『学校』で学んでくれ」


「それは王都の貴族学校と同じものか」


「まあ似たようなもんだ。

 もっとも教えている内容は遥かに有益でまともなものだがな」


「…………」


「そして、その星の中には1億年とか100億年の歴史を持った星もあるんだよ」


「『いちおくねん』とはなんだ」


「東王国が出来てから200年だな」


「うむ」


「その歴史200年の5倍が1000年だ。

 そして1000年の1万倍が1000万年でその10倍が1億年だ」


「そのように長い歴史を持つ『ほし』もあるのか……」


「その中には、俺たちのように会話が出来て社会を形成しているヒューマノイドがいる星も1億2000万ほどある」


「そんなにか……」


「そしてその中で争いが無く、十分に発達した文明を持つ世界が3000万あるんだ。

 この3000万の世界が『連盟』という共同体を作って平和に暮らしており、この共同体こそが俺の属する社会になる。

 因みに星の平均人口は約80億人だ」


「そんなに……」


「この星にはこの中央大陸だけでなく、東大陸と西大陸という大地もあるが、それらに住む人々を全て合わせても4000万人しかいない。

 この違いは何に起因すると思う?」


「…………」


「それは、農業技術が劣っていることもあるが、お前たち武人という名の盗賊共のせいだ」


「「「 !!! 」」」


「お前たちはただ人を殺し、殺すと脅して奴隷にし、ただただ搾取するだけで何も生み出していない。

 俺の国では1反当たり20石もの麦が取れただろう。

 なのにお前たちの畑では5斗しか取れない。

 その量を増やす努力もしていない。

 農産物を喰って生きているくせに、その農産物を作る行為を下賤なものとして蔑んでいる。

 つまり、王族貴族という盗賊と変わりない連中のせいで、文明も進歩しないで人口も増えないのだ」


 また1人が立ち上がって吼えた。


「な、なんだと!

 我ら貴族とその祖先を愚弄するか!」


「だったら貴族と盗賊とで何が違うか言ってみろ」


「それは我らが貴族であって……」


「お前アタマ悪いな。

 その貴族と盗賊の違いはなんだって聞いてんだよ」


「それは貴族とは王家から功績を認められて貴族として列せられた一族であって……」


「それならその王は誰が王だって決めたんだよ!」


「そ、それは……」


「あのなぁ、だったら聞くが、最初の中央王国を作った始祖王の祖先は何者だったんだ」


「…………」


「その辺りの沼からでも湧いて来たんか!」


「い、いや……」


「もちろん農民だったんだろうが!」


「「「 !!!! 」」」


「それが欲を出して隣村の村長を殺してその村や村人を自分の配下にしたんだよ。

 それでまた隣の村を襲って大勢殺し、その村の土地や村人は俺の物だって言い出したんだろ。

 それで自分の支配領域が大きくなると、自分は王だって自分で言い出したワケだ。

 盗賊の親玉が子分に自分を頭と呼べと言うのとおんなじだろうが。

 ついでに自分に従って大勢民を殺した奴にお前を貴族にしてやるって言ったわけだな。

 そんな連中は盗賊と全く変わらないだろうが。

 違いは自分を頭と呼べと言うか、王と呼べと言うかの違いだけだろう!」


「「「 あぅ 」」」


「そうやってお前らがヤタラに殺すもんだから、この星にはヒトがたったの4000万しかいねぇだろ。

 直接殺さなくとも年に麦を2斗しか分けてやってねぇから、農民がバタバタ死んで行ってるだろうが!

 麦を作ってるのは農民なのにだ!

 だったらお前らみてぇな盗賊共を滅ぼせば、みんな飢えずに人口も増えていくだろうが!」


「「「 ぐぅ…… 」」」


「将来俺の国の歴史書には、『タケル王は、戦と盗みしか能が無く、不遜にも東王国と名乗る蛮族を滅ぼして、その地の民を救った』と書かれるだろう」


「「「 !!!!! 」」」


「わ、我らは滅ぼされた蛮族だと言うのか……」


「他に誰がいるんだよ。

 これでようやく滅ぼされる側の気持ちがわかったろう」


「「「 ……ぐぅ…… 」」」



「貴殿の属する『しゃかい』とやらでは、戦は無いのか……」


「3000万の先進世界には無い。

 もちろん奴隷もいない」


「殺人は」


「ごく稀にあるが、それはほとんど狂人によるものだ。

 そしてお前たちでも狂人は牢に押し込めて隔離するだろう。

 だから俺は『連盟』の意思により、お前たちを牢に隔離するために派遣されたんだよ。

 俺たちの社会から見れば、ヒトを殺して財を奪う奴なんか全員狂人だからな」


「ということは、貴殿のタケル王国というのは、夜空にある星のひとつなのか」


「そうだ。

 まあ本当は王国ではなく単なる組織だが。

 だから俺は王ではない」


(実は俺は2つの恒星系の王孫でもあるけど。

 まあ今それを言うとややこしくなるから言わんけど)


「貴殿らは星を渡って来たのか……」


「そうだ」


「その星には貴殿の家族はいるのか」


「妻2人と子が2人いる」


「家族と離れてこのような遠くまで任務のために派遣されて来たと言うのだな」


「さっきこの部屋に突然現れたように、俺は瞬時に移動出来るんでな。

 実は毎日俺の星に帰って家族と食事を取っている」


「なんと……

 それではあの商業街にいた者たちも星を渡って来たのか」


「そうだ」


「貴殿の麾下の兵は何人いたのだ」


「あの街にいた者たちは、これからこうした平定作業を他の後進世界にも広げていくための見習い要員だ。

 実際の兵は待機中だった者を除けば俺を入れて8人だな」

(内訳:タケル、オーキー、オクデラ、オクヤマ、マリアーヌ、マリアーヌの娘3人)


「「「 !!!!!! 」」」


「我らはわずか8人の兵に滅ぼされたのか……」


「3000万の先進世界とこの星のような蛮族だらけの後進世界ではそれだけ隔絶した差があるということだ」


「そうか……

 それでこれからも後進世界の平定を続けていくのか」


「そうだ。

 後進世界9000万の内暴力世界は2000万もあるが、そのうち800万は既に平定した。

 だが、まだあと1200万もあるからな。

 さらに努力が必要だ」


「「「 …………………… 」」」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 タケルが帰るとホスゲンら元貴族たちはしばらく沈黙していた。

(吊るされていた元男爵も床に降ろされている)



「それでは皆、これからは各人で身の振り方を考えていこうではないか」


「どのようにすればよいものか……」


「なに、簡単だ。

 この地に残り、自ら畑で作物を育てて生きていくか、タケル王国に降って牢に入るかだな。

 我らが『さいばん』とやらを受ければ間違いなく死ぬまで牢に入れられるだろうからの」


「我らの一族は…… 兵たちは……」


「親戚連中はそれぞれが自分で考えればよい。

 またわたしの妻や子らについては、わたしはタケル王国に行くよう勧めようと思っている」


「「「 !!! 」」」


「子らはまだ幼いので罪は犯しておらんだろう。

 そうそう、ほこら殿」


『はい』


「いまここで尋ねても我らの入牢期間は教えて頂けるのかの」


『個別に尋ねていただければ個別に頭の中にお返事させて頂きます』


「そうか、それでは皆、念のため聞いてみようではないか」



 しばらくするとその場のほとんどの者ががっくりと肩を落としている。


「さて、わたしは奴隷を所有していた罪だけで終身刑、つまり死ぬまで牢から出られないそうだが、皆もそうだったか?」


 8人が肯定の返事をする中で、リリシーノ・ズボランだけが手を挙げた。


「閣下、わたくしは何故か無罪と……」


「そうか!

 そなたはまだ子爵位を襲名しておらなんだな!

 ということは、奴隷を所有したこともなく、また砦の司令官としての職務でも攻撃命令を出したことは無かったのか!」


「は、はい。

 父より砦司令官を命じられた際に、哨戒と報告に徹せよと固く言われておりましたので」


「そうか!

 それは良かったの!」


「…………」


「それではリリシーノよ、そなたに折り入って頼みがあるのだ」


「なんなりとお申し付けください」


「はは、我らはもはや貴族でもないし寄親寄子の関係でもない。

 故に命ではなく頼みと申しておる」


「どのようなご依頼でしょうか……」


「幸いにも我が妻と子らも無罪だそうなのでな、そなたが我が妻と子らをタケル王国に連れていってはもらえないだろうか。

 わたしはこの地で農業を始め、なんとか生き延びてみようと思うのだ」


「「「 !!! 」」」


「妻らもわたしがいないと心細いだろうが、見知ったそなたがいれば安心であろう」


「か、閣下!

 このような若者1人で果たして奥方さまやご子息さま方をお守り出来るかどうか!」


「ははは、ほこら殿、もしもタケル王国内に於いてリリシ―ノや我が妻子を襲撃しようとする者がいたらどうなるかの」


『もちろんすぐに宙に吊るした後に牢に入れることになります。

 また、タケル王国内だけでなく、この地でも行き帰りの道中でも』


「ということだ皆の者。

 皆の従士や領兵にもこのことは伝えるとよい。

 いまだ戦場を経験しておらぬ若い従士や領兵に頼んでみたらどうだ?」


「「「 ………… 」」」


「それからほこら殿、わたしがタケル王国内に入ることは出来ないだろうが、我が妻子はここを訪れることは出来るのか?」


『もちろん出来ます。

 我が国の民は奴隷ではありませんので行動の自由は保障されています。

 また、あなたもあの商業街までならば入ってくることは許可されます』


「「「 !!!! 」」」


「そうか!

 ならば、わたしが生きてさえいれば定期的に会って成長を見守ることも出来るのだな!」


『はい』


「リリシーノよ。

 ということで面倒をかけて誠に申し訳ないが、連れていってやってはもらえんだろうか。

 また出来れば近所に住まわせてやっても欲しいのだ。

 さすれば妻子も安心するだろう。

 我が妻も拙いながら何かの職に就いて給金を得ることも出来るだろうし、そもそもタケル王国は民に食料を保証しているので、そなたに養ってもらう必要も無いだろう」


「畏まりました。

 及ばずながら全力を尽くします」


「それからの、もしもそなたさえよければ……

 本当にそなたさえよければの話なのだが……

 いつか我が娘を娶ってやってもらえんだろうか……」


「!!!!」


「なに、娘は今はまだ7歳だが、あと7年もすれば子も生めるようになるだろう。

 わたしもそれまでなんとか生き延びて、孫の顔を見てみたいのでな」


「か、かかか、畏まりました……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




『タケルや』


「あ、エリザさま」


『先ほどそなたが『妻2人』と言ったのを聞いての、ジョセフィーヌが照れに照れてテレテレになって、更にデレデレになっておる』


「!!!」


『凄まじい勢いでフェロモンも噴き出しておるので、先ほど我らの神殿を遮蔽フィールドで隔離したところだ』


「!!!!!」


『今日は早く帰って来てジョセの相手をしてやってくれんかの……』


「は、はいっ!」



 その夜、ジョセフィーヌだけの相手をしたにもかかわらず、タケルのキンタマのレベルはまた3も上がったそうである……





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