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*** 142 プロパガンダ教育のための童話 ***

 


 救済部門幹部会の席にて。


「マリアーヌ、惑星デラなんかの避難用の国で、幼児幼年教育に使う『お話シリーズ』は揃ったか」


『はい、銀河教育大学幼児幼年教育学部の協力で、銀河中から優良映像を集め終わっています。

 ほとんどがアニメーションでのお話ですね』


「そうか、それじゃあ幼稚園や幼年学校での教育はまずそうしたお話映像から始めさせてくれ。

 文字を教えるにしても、まずはお話から入った方がいいからな。

 それに15分から30分程度の話なら子供たちの集中力を養うためにもいいだろう。

 そのうちに幼年学校の話には現地の文字で字幕を付けてやれば、自然に文字を覚え始めるだろうからな」


『はい』


「あにょ、タケルさま、タケルさまの母国日本でも、たくさんのアニメーションの童話がありますよね、日本や外国の昔話とか。

 それらはお使いににゃらにゃいのでしょうか」


「あーあれな。

 お前たち、ああした話も読んでみたのか」


「映像で見た後に読んでもみました。

 にゃかにはけっこういいおはにゃしもあったと思うんですけど……」


「いや、地球の幼児児童向けの昔話って、元々すっげぇ残酷な話を相当に脚色しているもんなんだ」


「そうにゃんですか?」


「たとえばあの『3匹の子豚』だけどさ、原典だとあの藁の家と木の家を作って住んでた子豚の兄弟はオオカミに食べられちゃってたんだぞ」


「「「 !!! 」」」


「そんなものオーク族の子たちには見せたくないよな。

 犬人族の子と険悪な関係になるかもしれないし」


「は、はい……」


「『かちかちやま』だって、原典ではあの性悪狸は婆さんを殺して『婆汁』にして爺さんを騙して喰わせてたんだしな」


「「「 !!! 」」」


「そんなもん、どんなに脚色してても狸人族の子たちやヒト族の子たちには見せられないぞ」


「は、はい……」


「それからさ、日本の『桃太郎』ってあるだろ。

 あれって山の民と海の民の戦争を描いたものだったんだよ」


「「「 !!!!! 」」」


「つまりいつも海の民に襲撃されて略奪されてた山の民が、文字通り流れ者だった桃太郎の助太刀で海の民を殺戮して財宝を奪って来る話だったんだ」


「「「 ………… 」」」


「それに、第二次世界大戦前の日本の小学校教科書には必ず『桃太郎』の話が載ってたんだけどさ、あれは犬猿雉に象徴される周辺各国を属国にして、欧米各国の鬼を滅ぼして財宝を奪いに行くっていうプロパガンダ教育のためだったんだよ。

 当時の日本ってアメリカとイギリスを『鬼畜米英』って言ってたぐらいだからな。

 それに『海幸彦山幸彦』とか『因幡の白兎』とかも基本は神さまを礼賛する話だから、戦前の皇国教育によく使われてたんだ」


「「「 ……………… 」」」


「それからさ、特に昭和年代に流行ったアニメの昔話って、ヤタラに『貧しいながらも清く正しく生きて来た年寄りが、最後には神さまのお恵みでお宝を貰える』っていうモチーフが多いんだ。

 あれって、『給料が低くても真面目に働いていれば、老人になってからいいことがあるぞ』っていう、安価で文句を言わない工場労働者を大量生産するためのプロパガンダだったんだよ。

 要は、年とったら国っていう神さまがご褒美に年金をくれるから今は安い給料に文句を言わずに働けよ、っていう洗脳だな。

 おかげで企業は儲かっても従業員の給料を上げずに設備投資出来たから大きくなれたんだし」


「そ、そうだったんですにゃね……」


「しかも国民から集めた年金拠出金で、国は企業の株を買ってたからな。

 あれは国が企業の大株主になって、民間に対してマウントを取るための制度だしさ。

 なにしろ日本最大の機関投資家は国の年金基金だからな」


「「「 ……………………… 」」」


「ということで、地球や日本の童話って、問題有りすぎるんで俺は使いたくないんだわ」


「よくわかりましたですにゃ……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 秋も深まる頃、惑星デラ中央大陸4大国や属国内の貴族家では大混乱が広がっていた。


 ボロクソ子爵領では。


「な、なんだと!

 領内5つの村から農奴共が全員逃散していただと!

 村長はどうした!」


「村長一家もいなかったそうです」


「し、周辺の森は探したのか!」


「現在領兵たちを手配して捜索させていますが、今のところひとりも見つかっておりませぬ」


「そ、それで畑の麦は!」


「は、逃散はかなり以前だったらしく、芽を出しかけていた麦が全て枯れ果てていました」


「芽を出したということは畑の作付けは終わっていたということだろう!

 それが何故枯れておるのだ!」


「あの、今年は雨が少なかったために、井戸から水を汲んで撒いてやらねば麦は枯れますので」


「だから何故枯れるのだと下問しておるっ!」


「麦に限らず植物は水が無ければ枯れますよ?」


「!!

 あ、当たり前だ!

 そ、そのようなことは当然知っておるっ!」


「はぁ……」


(この阿呆当主はそんなことも知らなかったのか。

 もう家宰になって20年も経つのに、こ奴の阿呆さにはいつも驚かされるの……)


「そ、それで王家への上納麦は足りるのか!」


「いえ、全く足りませぬ」


「な、ななな、何故足りぬのだ!

 当家の蔵には大量の麦があったはずだ!」


「あの、その麦を商会に売ったカネで奥方さまとお嬢さまのドレスをお作りになられたのをお忘れですか?」


「そ、それではその商会を脅して麦を取り戻して来い!」


「よろしいのですか?

 その麦商会は伯爵家領都にある伯爵閣下縁者の経営する店ですが」


「!!!

 そ、それで王家への上納麦が足りぬと、ど、どうなるのだ……」


「そうですなぁ、良くて降爵、悪くて平民落ち、最悪打ち首ですな」


「!!!!!

 な、なぜお前はそのように落ち着いておるっ!

 当家存亡の危機だろうがっ!」


「わたくしはご当主さまから数えて6親等になります。

 平民落ちに備えて貯えも少々ございますので、ご当主さまが打ち首になられてご当家が絶えても特に問題はございませぬので」


「そ、そうだ!

 ならばその貯えを差し出せっ!」


「お断りします」


「な、なんだと……」


「あなたさまが王家に打ち首にされて代替わりすれば、わたくしはどうせ平民落ち。

 貴重な貯えを献上するわけにはいきませぬ。

 それにわたくしの貯えごときでは、王家に献上する麦の100分の1にもなりませんよ」


「な、ならば従士領兵に命じてその貯えも全て……」


「お忘れですか、従士領兵への今年の扶持麦はまだ下賜されておりませぬ。

 まあご当主さまの命令であのタケル王国に攻め込んで、兵の半数以上を失うという大失敗をしておりますので、幸いにも扶持麦に必要な量も半数以下になっておりますが」


「な、ななな、なんだと!

 あれは俺の失敗だと申すか!」


「他の誰の失敗だというのですか?」


「そ、それは兵の練度が足りなかったせいであって、兵の責任と……」


「練度の足りない兵を擁していたのは総司令官である閣下の責任。

 さらにその練度の足りない兵に攻撃を命じられた閣下の責任でもあります」


「!!!!」


「それにですね、従士ならば僅かな貯えはあっても、領兵には貯えなど無いでしょう。

 つまり従士領兵の貯えを全て合わせても、王家への上納にはまったく足りないのです。

 それにそのようなことを強要されれば反乱が起きますよ」


「な、ならばどうすればよいというのだ!」


「これはもう恥を忍んで寄り親のヒラーメ伯爵閣下に借り麦を申し入れるしかございませんな。

 なに、村の2つも担保として差し出せば閣下も無碍にはなさいますまい」


「し、仕方ない……

 そうするしかないか……」


「ですが、それも逃散した農奴共を捕えてからの話。

 村が無人のままでは来年も麦の収穫は見込めませぬので、ご当家は借り麦も返せませぬ。

 そのような家には伯爵閣下も貸し麦などなさいますまい」


「で、ではすぐに従士領兵たちに大捜索隊を組ませろ!

 王家への麦上納にはまだ1月の猶予がある!

 その期日までに何としてでも農奴共を捕縛して連れ戻すのだ!」


「よろしいのですか?」


「な、なにがだ!」


「従士領兵を1か月近い遠征に出せば、膨大な量の食料が必要になります。

 それで当家の蓄えはほぼゼロになりますが」


「し、仕方あるまい……」


「ですがいまひとつ問題が……」


「な、なんだ」


「農奴共が逃散したのは畑の様子から見て5か月近く前。

 ということは如何に農奴共の足でもかなり遠くまで逃げているでしょう。

 果たして1か月以内に捕えて連れ戻すことが出来るかどうか。

 それにもしも他の貴族家に捕らえられて農奴にされていれば、その貴族家と戦になりまするぞ」


「!!!

 な、ならばどうすればよいというのだぁっ!」


「こうなったら背に腹は代えられませぬ。

 ヒラーメ伯爵閣下と対立するカレーイ伯爵麾下の貴族家の持つ村を襲い、農奴共を連れ去るしかございませんな」


「!!!!!

 そ、そのようなことが露見すれば、カレーイ伯爵家と全面戦争になるぞ!」


「それでは潔く、王城に赴いて農奴に逃散されたために麦が上納不能とお伝えください。

 なに、その場で責任を取ってご自害でも為されば、ご家族は連座を免れることが出来るやもしれませぬ」


「そ、そのような自害などと……

 い、痛いではないかぁ―――っ!」


(誰だよこんな奴当主にしたのは……

 あーそうか、前当主も似たような阿呆だったか……)





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