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*** 140 アタマの悪い村人たち ***

 


「なあ、もっと聞いてもいいか」


『いくらでもどうぞ』


「あんたの国はなんでそんなにおいらたちに親切にしてくれるんだ」


『わたくしたちの主である神さまがそう望まれたからです』


「『かみさま』ってなんだ?」


『みなさんが誰にも脅されずに平和に暮らして行けることを望まれている方です』


「そうか、そんなひともいるんだな。

 ところでさ、ほこらさんはああやって村長たちを宙に吊るしているだろ。

 東王国の連中も同じように吊るして、ここに攻めて来ないように出来るんじゃないか」


(この子本当に賢いわ……)


『村長たちが吊るされたのは、あなた方やわたくしを叩いて従わせようとしたからです。

 東王国の兵たちも、もしあなた方に危害を加えようとしたら同じように吊るせます。

 ですが、わたくしたちはまだ暴力を振るおうとしていない者を吊るすことは許されていないんです。

 もしそんなことをすれば、勝手に人を攫う彼らと同じになってしまいますからね』


「なるほど」


『それに、何十万人もの兵がここと同じような村を何万か所も襲って来るでしょうから。

 全ての場所を同時に監視することは出来ません』


(もちろん出来るけど。

 でもせっかく時間に余裕があるんだから、今の内から避難させた方が安全よね。

 万が一のことがあって、タケルさまを悲しませるわけにはいかないもの)


「そんなにいるのか……」


『それに村ではなく皆さんが森の中で食料を探しているときに兵に出会ったら、その場で殺されてしまうかもしれませんよ。

 もしくは後をつけられて村が見つかり、村人全員が奴隷にされてしまうかもしれませんし』


「なるほど、ほこらさん、あんた頭いいな」


(あなたもね♪)



『さてみなさん、そうは言っても急に避難するのも躊躇われることでしょう』

 収穫期まではまだ間がありますので、それまで何人かの方々で我が国を見学に来られたら如何でしょうか』


「そこは遠いのか?」


『とても遠い場所にありますが、でも大丈夫です。

 このほこらの中に入って頂ければ、一瞬で連れて行って差し上げます』


「すげぇな、それじゃあおいらを連れてってくれよ。

 どんなところかおいらが見て来てみんなに教えてやるから」


「お、おい、そんなことしたら、騙されて奴隷にされるかもしれないぞ!」


「どうしてこいつの言ってることが嘘じゃないってわかるんだ!」


「東王国の奴らが攻めて来るっていうのも嘘かもしれないだろ!」


「はぁ、おっちゃんたち頭悪いなぁ」


「な、なんだと!」


「このほこらさんはああやって村長たちを宙に吊るせるんだぞ。

 俺たちを騙して奴隷にするんだったら、最初から黙って吊るして連れて行けばいいじゃないか。

 大人なんだからもう少し頭使えよ」


「な、なんだとこのガキゃぁっ!」


 男が少年を殴ろうとして拳を振り上げた。


『はいアウトぉー!』


「うわぁぁぁ―――っ!」


「ほら、ほんっと頭悪いよ。

 誰かを殴ろうとしたら吊るされるってほこらさんが言ったのもう忘れてるもんな。

 それじゃあほこらさん、おいらを連れてってくれよ」


 12歳ぐらいの女の子が手を挙げた。


「あたしも行くっ!」


「マアリ、お前も行くか」


「うん!

 最近あたしの胸が膨らんで来たんで村長や戦士たちがあたしのことイヤラシイ目で見るようになったんだ。

 このままだと姉ちゃんたちみたいに無理やり連れていかれて妾にされちゃうからね。

 あたし、どうせだったらムウリの子を生みたいもん♪」


「ま、マアリ、お前何言ってんだよっ!」


「えー、ムウリはわたしに子種くれないの?」


「そ、そんなことないけど……」


「「「 ひゅーひゅー♪ 」」」


 周りの子供たちが囃し立てている。

 中にはがっくりと肩を落としている男の子もいた。


(ふふ、この子やっぱりモテるのね)



「あたしも連れて行っておくれ!」


「メイリ姉ちゃん……」


「あたしも無理やり連れていかれて村長の妾にされたんだけどさ、あのジジイわたしの肌を撫で回すだけで、子種を出すどころかちんちんが立ちもしないんだ。

 おかげで連れていかれて1年も経つのにあたしまだ生娘なんだぜ」


 また村長が空中で喚きながらジタバタし始めている。


「あたしは子を生みたいんだ。

 あんなジジイの妾でいたら、一生子を生めないからね。

 それに戦士とか言っていつも威張ってるくせに、いざ敵が来たら逃げ廻ってばかりの腰抜け男たちもイヤだし」


 空中の戦士たちもジタバタし始めた。


「だからマアリ、ときどきでいいからわたしにもムウリの子種を分けておくれよ」


「うん、メイリ姉ちゃんだったらいいよ♪」


 ムウリくんが真っ赤になった。

 村の男たちも大勢ががっくりと肩を落としている。



 気を取り直したムウリくんが大きな声を出した。


「おーい、他に行きたい奴はいるかぁ」


「「「 はぁーい♪ 」」」


 15歳以下ぐらいの子供たちが20人ほど集まって来た。

 なぜかというかやはりというかほとんどが女の子である。


(そうか、このぐらいの文明だとまだ多夫多妻制や一夫多妻制なのね……)


 ムウリくんたち以外にも赤ん坊を連れたムウリくんの姉や村の若い女たちが加わって、一行は30人ほどになった。

 その全員がほこらに入って消えて行ったのである。


「ほ、ほんとうに消えちまったよ……」



 ムウリくんたちがいなくなって3日後、吊るされていた村人たちは地面に戻されたが、喚きながら祠を壊そうとするたびにまた宙に吊るされていた。

 自分に従わない者がいることが、よほどに大きなフラストレーションになっているらしい。

 こんな辺鄙な辺境の村でも、ヒト族のマウント欲求は健在だったのである……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 村のみんながタケル国に視察に行って20日目。


 ムウリくんと13歳から15歳までの子供たち5人がほこらから出て来た。


「やあみんな、久しぶり。

 約束通り帰って来たぞ。

 またすぐ戻るけど、それまでタケル国の様子を教えてやるよ」


「む、ムウリ、ど、どうしたんだその格好は!」


「ああ、タケル王国のひとからもらったんだ。

 8着もくれるっていうんだけど、着られる服は1着しか無いからな。

 5着だけもらったんだよ」


 ムウリくんの服装はデニムの上下、女の子たちの服装は色とりどりの上下やワンピースだった。

 もちろん村人たちの服は麦藁で編んだ筵で作った貫頭衣である。

 村人たちからみれば、ムウリくんたちの服装は貴族や王様が着ている服よりも遥かに立派に見えたのであった。

(もちろん彼らは貴族にも王様にも会ったことはないが)



 因みにタケルが連盟報道部配信を通じて古着の寄付を募ったところ、銀河宇宙はエラいことになっていた。

 10メートル×10メートル×20メートルの大型コンテナ10億個分もの古着が集まってしまったのである。

 また、可愛らしい服の中には、猫人族や犬人族用の服も多かったのだが、これらは皆おしりのところにしっぽを通す穴が開いている。

(特に犬人族用はしっぽが太いために穴も大きい)


 女の子たちは服とはそういうものだと思って着ていたため、大変目のやり場に困る格好になっていた。

(特に前屈みになると丸見えになるため、いつでもどこでも子作りが出来るように作られている服とカン違いしている娘もいる)


 また、男の子も女の子も下着を着る習慣が無かったが、タケル王国のひとたちに勧められて身に着けるようになった。

 だがしかし、最初は慣れていなかったためにトイレでパンツを降ろし忘れ、大惨事が相次いでいたそうだ。

 そのために服は5着ずつしかもらっていなかったが、下着だけは12着ずつ貰っていたのである。


 閑話休題。



 ムウリくんたちの変貌は服だけではなかった。

 体に汚れなどは一切なく、髪も艶々になって輝いている。

 そしてなによりも、毎日栄養豊富な美味しいものをたくさん食べているおかげで、ガリガリだった体に肉も付き始めていたのだ。



「ごるぁぁぁ―――っ!

 早くそ奴を掴まえろぉぉぉ―――っ!

 そ奴は村長たるワシの許しも無く勝手に村を出て行った大罪人ぞぉぉぉ―――っ!

 棒で百叩き、いや死ぬまでぶちのめしてくれるわぁぁぁ―――っ!」


「「「 へぃっ! 」」」


「あーあ」


『はいアウトぉー!』


「「「 うわぁぁぁ―――っ! 」」」


 村長と自称戦士たちがまた宙に浮いた。

 今度は遮音の魔法も確りかかっているらしく、ドス黒い顔になって怒り狂っている村長の声も聞こえない。



「あんたら本当に莫迦だよなぁ。

 誰かを殴ろうとしたら宙に吊るされるってもう忘れたのかよ。

 まあ莫迦は放っておいて、約束通りタケル国の様子を教えてやるぞ。

 タケル国はほんとにすげぇところだったよ。

 メシは喰い放題だし、家は大きくて雨漏りもしないし、寝台まであってすっげぇ柔らかいんだ。

 その上綺麗だし、毎日風呂に入れるんだぜ」


「ふ、風呂ってなんだ?」


「風呂ってのは石鹸っていうもので体を洗ってから湯に浸かって寛ぐところなんだ。

 とっても気持ちいいんだぜ」


「う、嘘をつくなっ!

 湯に浸かるなんて贅沢が出来るわけがねぇっ!」


「お前らそう言えって命令されたんだろ!」


「こいつら嘘をついて俺たちをその国に連れてって奴隷にするつもりだぞっ!」


 村の男たちは、本当に疑っているというよりも、女の子たちに囲まれて見違えるように綺麗な姿になったムウリくんに嫉妬しているだけなのだろう。



「なあおっさんたち、あんたら勘違いしてるよ」


「なに……」


「俺はあんたらにタケル王国に行くのを勧めに来たんじゃないんだよ。

 どっちかっていうとおっさんたちは来ないで欲しいんだ。

 だって同じ村出身だって知られたら恥ずかしいもんな」


「な、なんだと……」


「俺はタケル王国の様子を見に行ってみんなに知らせるって言ったろ。

 その約束を果たすために一旦帰って来ただけなんだぞ。

 タケル王国には来たい奴だけ来ればいいんだ。

 来るか来ないか決めるのは自分だからな」


「「「 ………… 」」」


「それじゃあみんな行こうか」


「「「 はぁーい♪ 」」」





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